悪知恵を絞りましょう
ゴートレニア城地下。
ここではその王と側近達が密談を交わしており、各国の近況報告を兼ねた定例会を開催している。
「我が君ローグとベルヘルミナ、両国供に宣戦布告し、戦争状態へと突入しました」
「お互い総力戦の構えをみせており、支配地域から続々と徴兵と派兵を繰り返しています。自国内で政変や内乱が起きない限りは、今暫くは現在の状況は続いていくと愚考いたします…」
「結構結構、我等が宿敵達が勝手に同士討ちし、勝手に数を減らしてくれている。実に喜ばしい事ではないか。そうは思わないかウナウル?」
「末端の私には、我が君の深慮遠望はのぞけません。ただ手足となって泥臭く働くだけです、両国の王族の関係者を殺傷できたのは、神の思し召しかもしれませんが」
「面白い言い回しだな、自分達で仕掛けた事を神の思し召しとはな。他の周囲の国々はどうだ?追従する姿勢をみせているか?」
「静観を貫いています、横槍を入れて無用な火の粉が舞うのを嫌っているのでしょう。借りてきた猫の様なおとなしさです」
「次は何をいたしましょうか?」
「御用伺いの分際で、それしきのこと自分で考えて判断せよ!何の為に普段から貴様は暗殺の技を磨いておるのか?」
「あぁ嘆かわしい、嘆かわしい」
「下賎な者め…」
【安い挑発で、私の方から仕掛けるのを待っている。乱心した下郎を切り捨てる理由が欲しいのだろうが、今はどうでもいい…】
【さっさと帰って煙草吸いたい…】
かしづくウナウルに、壇上から上機嫌に報告を聞くゴートレニア国王と、いつもの王の従者達がこちらを粘つく視線で見下ろしている。
だが今回は、同僚のホトホルと百足老、蜘蛛足と蠍の尾もいる。
前回よりも大分気持ちは楽だ。
「あまり虐めて下さいますな、彼女は彼女なりの誠意をみせてるだけです。従者の方々にはどうか広い心で受け止めてほしいですな」
「…う、うむ左様か」
百足老のさりげないフォローに、従者達が押し黙り、ウナウルも目の前のたんこぶ供への溜飲が下がる気持ちで一杯だ。
そんな三文芝居を楽しんでいたゴートレニア王が、思い出した様に話を本筋へと戻す。
「開戦し数ヶ月も経てば、両国供に落とし所を探すだろう。賠償金か領土の割譲か、人質の交換もあるかもしれない。だができる事なら、彼等には講和する空気を起こさない様な闘争を望んでおる。何か妙案はあるか?」
そんなにポンポン策は閃かない。
いたら軍の参謀にでもなっているだろう。
一同が視線を逸らし、考えあぐねては、呟く様にぽつぽつと意見をしゃべっていく。
「では、両国内の破壊活動は?」
「却下だ、相手側の神経を逆撫でするだけだし、犯人探しでボロがでるやもしれぬ…」
「他には?」
「要人の家族の誘拐?」
「それも駄目だろうな、戦争中にそんな愚を犯せば、第三国の可能性を疑うだろう」
「他は?」
「「………」」
「では今宵は解散とする、また別日に皆で知恵を絞るとしよう。各自軽挙妄動は慎む様に、それから行動する時は一報せよ」
「…以上だ」
バラバラに解散し、定例会は閉会した。
顔なじみ達とも挨拶をし、ウナウルは唯一可能性がありそうなムツキ達の宿へ足を運んだ。
「やーどうもこんばんは!」
「ムツキちゃんにおちびちゃん達、野郎達ご機嫌いかがかな?少し相談があるんだけど…」
昨日の今日で出会ったばかりなのに、またウナウルがこの宿の部屋へ馴染んでいる。ホトホルもいつの間にか部屋の隅の壁に寄りかかり、タイチョーと身振り手振りで会話してる様だ。
「また厄介事?」
「そうだね、難問だよ。ローグとベルヘルミナが開戦したのは知っているでしょ?この戦争を出来るだけ長引かせろとの命令を受けてね、貴方達に知恵を借りにきた訳さ。可能性のありそうなね」
「ん〜、長期化させる方法ね…」
意味深な笑顔のウナウルに、悩んでる素振りだけみせるムツキ。彼女達の中では既に一つの案が浮かんではいる。ただ実行する算段が浮かばない。
『無作為な兵士の怪人化』という案が。
「下手な芝居はやめてくれ」
「ヤハウェの刑務所で実行した事を、更に大規模に行う訳かムツキ?僕達だけじゃ手が足りない」
「なり損ない達じゃたしかに役不足だわ、けど優しいウナウルちゃんが行動部隊を束で貸してくれるよ。それくらいの気概はみせてほしいかな?」
「わかった善処しよう。そちらも怪人化させる手段を模索してくれると助かるわ」
「また戦う事になるんですかムツキさん?」
「ゼン、これは必要悪よ。世の中聖人ばかりでなく血に塗れた悪人も必要なの、だから何も心配はいらないわ。ただ私達は行動あるのみ」
コモレビとゼンも薄々勘付き、色々と質問しているが、シズネだけはただ黙ってウナウルを睨んでいる。少女の眼には、先生を危険に晒す害悪でしかなく、完全には信頼しきっていない。
万が一こちらに牙を剥くなら、その時は私が先生の盾になる。国とか立場とか、知った事か。
「…そんな情熱的な瞳を向けないでよシズネちゃん、昂ぶって濡れちゃうじゃない」
「私はお前を監視している。私にとって先生は命の恩人で恩師なの、もし私達を裏切る真似したら覚悟してね…。私は本気だから!」
「おっかないなぁ、それに女の子がそんな顔したらモテないよ?綺麗な顔してるのに」
「茶化さないで!貴方も似た様なものよ、顔は笑顔なのに目が鋭すぎる。本心はどこにあるの?」
「…今はまだ内緒。そのうちね」
「………」
ウナウルはのらりくらりの態度で、シズネの詰問を切り抜けて沈黙したままの少女と対峙する。
彼女の心中はわからぬままに。
時間だけがゆっくりと進む。




