仕事に邁進しましょう
遠くで独特な爆発音が鳴り響く。
それも郊外ではなく街中で。
住民達を不安にさせ、家財や住居もそのままに、着の身着のまま避難している。
「兵隊さん助けて!この世の終わりよ!」
「どこが攻めてきたんだ?」
「お腹減った…」
「皆さん落ち着いて!現在我が国に入り込んだ不穏分子の、掃討作戦中です!」
「秩序だった避難を重ねてお願い致します!」
軍の避難誘導により、多少落ち着きは取り戻し始めてはいるが、なにがきっかけでパニックを再発するかわからない。
軍人達は努めて冷静に職務を遂行しているが、騒ぎを起こしている連中の目星はだいたいついている。統一亜人党の秘密警察供だろう。
王の命令に忠実だが、拡大解釈する。
彼らは国の利益や理想に反する輩には容赦がない。亜人達こそが選ばれた民だと信奉し、警察という権力を振り翳しては非合法な事を平気で行う愚連隊だ。そこに人も亜人も関係ない。
軍の指揮系統とは別で、王直轄というのがまたタチが悪い。連中の大抵の無茶は揉み消され、都合のいい事実が後から捏造されるなんて日常茶飯事だ。今回もその類だろう。
国内だけでなく、大陸全土にその活動を広げる過激派でもあり、政情不安を煽る厄介な奴らだ。
「はぁー、正義の味方が血塗れ殺人鬼供のお手伝いなんて泣けてこないか?なぁ?」
「やめとけよ、党の奴等に聞かれたら俺達はいかれた連中の玩具になっちまう。国の為、王の為と言いながら、嬉々としてな」
「俺はまだこの仕事に未練があるから黙秘させてもらう、さらばだ戦友よ!」
「勝手に殺さんでくれないか?」
今回の一連のボヤ騒ぎから、さっきの爆発騒ぎまで、不幸な誰かが知りすぎた為だろう。
この国では理想論者と知りたがり、あと知らなさすぎ供は長生き出来ない。
皆党の奴等の獲物に成り果てる。
退廃思想やら、敗北主義者やら、国家転覆思想やらとあれこれ理由をつけては逮捕される。
そして大概戻ってはこない。
獄中死なのか、拷問死なのか、はたまたもっと別のなにかかも知れないが、不幸が起きる。
だからあまり考えない。
あれは隣山の山火事くらいの認識でいいのだ、奴らと俺達は違うのだから。
『…酒飲みたいな、度数の高い悪酔いする様なやつで。酔っ払ってぐっすり寝たい.』
ムツキはニヤニヤしている。
シズネが盛大な花火をぶち上げ、街全体を恐怖の坩堝に叩きこんでくれたからだ。
恐怖は正常な判断能力を奪い、理性を失う力がある。そして恐怖は伝染し、他者へ移りゆきその者の思考能力すらも奪いさる。
今は正にそんな感じ…。
怪人化の勧誘が捗る事間違いないが、今はそれが目的ではないのでぐっと堪える。
目標の三人の居場所を見取り図で確認し、本人達の資料を見比べて事を起こしていく。
外見や家族構成、趣味嗜好など、どうやって調べたんだかという疑問にはいったん蓋をする。
三人供所属する国は同じだ。
年齢はまちまちだが別々の場所で宿泊しているのだから、様子を見にきたとか適当に言い訳して扉を開けさせ、三人の誰かになればいい。
後は警戒心のない目標の背中を刺し穿ち、次へむかうという簡単な作業の繰り返し。
緊張感もまるでない、おままごとの様だ。
けど念には念を、役者を演じなければ。
最年少の若者に化けて、手近な目標へと向かう。
コンコンコン。
「こんな夜更けに誰だ?」
「リチャードさん、夜分遅くにすいません。僕ですアルフレッドです!」
少し声色が高いかな?
もっと低くするべきかなと思案していると、扉の鍵が開き中年の男性が私を中へと疑いなく招き入れる。
しめしめと顔が緩むのを強引にひき締める。
「アルフレッドか、あまり無茶するな!ゴートレニアの秘密警察がうようよしているんだぞ?俺達も迂闊な事を避けないとリーダーにどよされる」
「すいません本国からの緊急の指示です。先程連絡要員から口頭伝達を受けました!」
「…!?国はなんと?」
「『状況は極めて悪し、各々の所在が洗い出されている可能性が大なり。ゴートレニアから即時の離脱を開始せよ。同時に現地資産は廃棄せよ』以上です」
「了解したリーダーには私から報告しよう。アルフレッドは暫く此処にいろ」
「それは困ります。リチャードさんには待っている人がいますし。お子様の名前は決めていますか?」
「何故お前がその事を知っている?」
彼には自分のプライベートの事を教えていない。
仕事の話しかしていないのに、変だ。
訝しみ、警戒感を強めているとアルフレッドと名乗る者は自分の目の前で身体を変化させていく。
顔が変化し、筋肉が収縮して髪は伸び、背丈が子供並に縮む。こんな事はありえない。怪奇でしかない。
「…お前は何者だ?」
「私?」
「私は貴方と、貴方の若奥様のナターシャさんの子供だよ?性別まではわからないけど」
「悪い冗談はよせ、妻はまだ子供を産んでいない。それに本物のアルフレッドはどうした?」
「あら残念?年の差婚と聞きましたので、お盛んなお二人ならと勘繰りました。アルフレッド君ですが、彼は先に旅立ちました。次は君の番…」
「貴方の所属と、国の内情を教えて下さいませ。そしたらナターシャさんとそのご親戚の方々の命は保証しましょう。如何でしょう?」
「よせっ!彼女は関係ないだろ!巻き込むな!」
「さぁ?それは約束できかねます…、貴方が小鳥の様に聞かれた質問に応じるなら考えましょう」
嫌なほどの沈黙。
ムツキの言葉ははったりだが、リチャードの心理には深く作用するだろう。
情報を頂くついでに、悪戯心がうまれただけ。
「…喋ったら約束は守るな?」
「それは貴方次第ですね?」
重々しく口から紡がれた彼の言葉には、色々と面白い情報がたくさん聞けた。ウナウル達への土産話にもなるなだろうと満足する。
だが肝心な部分ははぐらかされ、彼なりの信念の様なモノを感じとった。
彼が床に横たわる中で、リチャードに成り代わったムツキは残りの目標へと向かう。




