怪人と踊りましょう
なり損ない達が郊外で一斉に空き家に放火し、深夜だというのに、街中が煌々と照らし出され、夕暮れ時の様に明るくなる。
山火事だとか、他国が攻めてきただとか、盗賊供が押し寄せてきただとか、情報が錯綜し住民達が軽い恐慌状態になっている。
延焼が徐々に広がり、街中にまではまだ火の手は遠いが、このままでは時間の問題だろう。
ゴートレニアの火消し隊と、軍隊が四方八方に散らばって、己の職務を遂行しようとしているのを黙って見つめるムツキとシズネ。
なり損ない達には引き続き郊外に潜伏させ、この騒ぎに乗じて逃げ出す者を片っ端から捉えろと厳命している。拘束が無理なら殺害せよとも。
建物が焼ける音と人が焦げる匂いがする。
パチパチと、焚火に薪をくべる様に。
私は怪人になってから苦手なモノができた、肉と名のつく物は嫌悪するようになり、食べても吐瀉して戻してしまう。
身体が過剰に拒絶反応を示す。
教会での事や、今まで復讐という名目で自分が手にかけた人々がフラッシュバックする。
あの日の光景、あの日殺した誰かが、陥ち窪んだ暗い目で私をじっと見つめてくる。その髑髏の数は日に日に増えている気もする。
私は怪人としてやの力を手に入れたが、同時に弱くなったのかもしれない…。
これは私への罰なんだろうか?
「…シズネ、やれる?」
「はい先生、いつでもいけます!」
「目標は5人、居場所もバラバラだし二手に分かれましょう。シズネは東の2人組、私は西の3人を仕留めてくるから。質問は?」
「確認なんですが私が担当する東の目標は、大通り沿いの宿屋、屋上に風見鶏がいる二階の部屋で間違いないですか?」
「えぇ、そこで問題ないわ。ベランダからでも玄関からでもご自由に、ね」
「他には?」
「集合場所はどうしましょうか?」
「仕事が終わったら宿屋まで撤収、目標を処理出来なくても夜明け前までには戻るように」
「他にはある?」
「…先生一つお願いがあります」
「……?」
「…そのですね、頭を撫でて下さい!」
「危なくなったら逃げるのよ」
「はいっ、では先生後ほど!」
突拍子もないことを言ってしまった。
先生の役に立つと先程誓っておきながら、私が先生に縋ってしまっいる。けど、先生の残り香が私を安心させてくれる。私は私だ…!
周辺が騒がしい。
舞踏会で深酒し、同僚と大通り沿いの宿屋に宿泊していたのだが、この騒ぎはタイミングができすぎている。まるで逃げ出せと言わんばかりの、何者かの意思を感じる。
これはゴートレニアの不正規部隊、ないしは秘密警察あたりが出張ってきている。
俺達みたいな奴等を刈り取る為に、これは撒き餌だ。この瞬間逃げ出す輩がいるなら、自分の正体を自白しているのと一緒だ。
つまり色んな国がこの国で無茶しすぎて、とうとう逆鱗に触れてしまったんだろう。
「おい、起きろ!想定外の案件だ!」
「…なんだよ?小便か?」
「違う!ゴートレニアの不正規部隊が動いてる、まだ未確定だが、急げ!」
寝惚け眼を擦る同僚に舌打ちしつつ、手荷物は捨て、この国での職も捨てて雲隠れするしかない。
事態は切迫している。
深夜だというのに廊下から何者かの足音がする。
迷いのない足取りで近づいてくる、事態を遅蒔きながら把握した同僚が短剣を握り、自分も扉へ刃物を向けて警戒する。
コンコンコン。
コンコンコンコンコンコン。
規則正しく扉をノックする音がする。
こんな深夜の来訪者だ、碌な奴ではない。
やがて音が止んだと思ったら、こんどは扉の鍵穴が炙られている匂いがする。
方法は不明だがゆっくりと錠前が破壊され、閂がわりにした箒が焼き切れている。
その扉から現れたのは少女だった。
黒い外套を羽織り、あどけない笑顔をみせる。
「…今晩は叔父様方、用件はおわかりかな?」
「さぁてね?なんのことやら」
「貴方達がおいたしたから、その躾役に私が呼ばれたの。理解してくれた?」
すぐさま身を翻し、ベランダへと走り出す情報要員の二人組。窓枠を蹴破り、大通り沿いへ逃げる素振りを見せた途端に、少女の指先から爆炎が迸り、火山の噴火の様な熱量が二人を襲う。
『…あーあ、こりゃあ無理だ…』
焔が身体を薙ぎ、爆炎が部屋を燃焼し、膨れ上がった熱が大通りへと拡散し、隣の建造物ごと揺らす。熱いだとか痛いとか感じる暇もなく、二人がいた場所に黒い染みだけ残して、焼け爛れた部屋を後にする少女、
近くに泊まっていた客達は、騒ぎの張本人である少女を咎める事が出来なかった。
彼女の凶行がこちらにくる事を恐れて…。




