喜劇を始めましょう
『我が物顔で国土を奪い、故郷を奪い、住処を奪い、我々から奪い続ける事しかしない簒奪者供め。過去も今も、未来もお前達は変われないし、変わらない。それが人の本質』
『卑しく浅ましく、他人の全てを欲しがる豚供は、この世界に溢れている』
『これは間引き』
『生態系のバランスをとる間引きだ』
王の言葉が脳内で響く気がする。
少し酔ったので風に当たりたいと、目標である某国の情報要員にしなだれかかるウナウル。
時刻は深夜、舞踏会も閉会し各々が帰宅していく最中、本来の仕事を開始する。
「私酔ってしまいました…。何処か休める所にいきませんか?お優しい方?」
「…うむ、どこにいこうか麗しい人よ」
うぶそうな男性がデレデレしている。
けど色香でまやかして、暗殺するなんて下の下だ。そんな芝居や演技力は私にない。
僅かな隙さえつくれば、あとはこちらのもの。
腕を男性の腰にまわし、首筋のあたりを甘噛みするとみせかけて、蛇の毒を流すウナウル。
「…がっ!?」
「貴方様がいくのは地獄」
「私も暫くしたらそちらにいくかもしれませんし、いかないかもしれません…」
数分感ピクピク痙攣した礼服姿の男性を、動かなくなるまで眺めるウナウル。
ホトホルも近場で短刀を握りしめて事を為した様で、濃い血の匂いをさせている。
我が君は戦いを望んでいる。
偶発的なものではなく、突発的で発作の様な戦争を、それは近隣国でもいいし、大国同士でもいい、頃合いを見計らっている。
仲良しこよしの日和った世界ではなく、混沌に満ちた明日もわからない世の中を御所望だ。
魔王かなにかだと自分の主人を揶揄し、ウナウル達はムツキ達のバックアップへまわる。
ムツキとシズネは闇夜を駆ける。
ウナウルからの仕事の依頼は、他国の関係者に化けて第三国の関係者、或いはその家族を殺傷する事。要は騒ぎを起こせとの事だ。
その際に必ず目撃者を見逃す事も条件にある。
変な依頼だとは思う。
住宅街を屋根伝いに走るムツキとシズネ。
舞踏会の衣装は脱ぎ去り、黒い革の軽装に、黒い頭巾と外套を着用している。
「この依頼どう思います先生?」
「私はどうも腑に落ちません、これじゃあ他国間の不和を助長するだけじゃありませんか?」
「政治の話なんて関係ないわ。平穏な日常に耐えられない愚かものがいて、私達は乱痴気騒ぎに呼ばれた愉快な道化。それでいいじゃない?」
「先生や私が危険にはなりませんか?」
「私達は既に追われる側の存在だから、窮地に陥ったらまた流れればいいのよ。その時は新しいお仲間さんがいればいいけどね」
「…私には先生の考えはわかりませんが、生まれ変わったあの日から、支えになると決めています!先生の敵は私の敵です!」
「ありがとうシズネ…」
「なり損ない達の首尾は?」
「先生のご指示通りです、郊外に散らばっています!もう間もなくかと…」
にっこり微笑みを浮かべるムツキにシズネ。
暗殺者ならば、本来無用な騒ぎなど起こさず邸内に侵入し、目標の首を掻っ切り音もなく姿を消すのが定石なのだが、彼女達は真逆の事をしている。なり損ない達を一斉に郊外の空き家に向かわせ、分散して火つけを行う。
そして辺りの混乱に乗じて、目標の首を頂戴するというのが今回の筋書きだ。
お粗末な台本だが、今回の依頼内容がそういうものだから仕方がない。
火の手が四方八方から上がり、深夜だというのに辺りは徐々に騒しくなる。
二人の笑みがより一層深まる。
辺りが騒しくなるのを肌で感じるコモレビ達。
コモレビは宿屋から物憂げに市内の様子を眺め、タイチョーは壁に寄りかかり、ゼンは舞踏会での食事のダメージから回復せずに寝込んでいる。
「…これでよかったのかな?僕達はいったいどこに向かっているのかな?」
彼の問いに答えてくれる者はいない。
ただ風の音が聞こえるだけだった。




