非日常へ飛び込みましょう
ウナウルを先頭に、ムツキ達は国王主催の舞踏会会場へと足を運ぶ。
途中途中、警備のゴートレニア兵に身体検査されているのに、ウナウルとホトホル、他数人の亜人の従者達は顔パスなのを恨めしく凝視する。
「あんた達だけずるくない?」
「私達は関係者ですので、それに万が一の事もありますので、念の為ですよー念の為」
「やっぱり納得いかないわ…」
白亜の宮殿の一角で、各国の要人やら駐在大使に武官などが集い、貴族達の社交場が形成されている。庶民の暮らしとは大違いだ。
ここは一種の異界だ。
別世界と言っても過言ではない。
その場にいる人々が身に付けている装飾品や服装一つで、家が建つ値段なんだとか。
警備が厳重なのも納得だ。
また、会食に出されている料理も豪華絢爛だ。
龍の飾り切りや、虎の飴細工、所狭しと並んだ大皿料理に、新鮮な果物に水産物。
贅の限りを尽くした感のあるラインナップに、自然にシズネとゼンの目が泳いでいる…。
「…ゼン、これみんな料理なの?」
「自由に飲み食いしていいんだって、シズネちゃん…。この人達って普段こんななの?」
「さぁ、わからないわ」
「そ、そうだよね」
どれから食べようか?
どこから攻める?右か左か?
最初は香辛料系から?定番料理みたいなのから?
意外と考えるより即行動のゼンが、タイチョーと連れだって近くの大皿料理に挑戦している。
「ちょ、ちょっとゼン!待って!」
「シズネちゃん!僕が全皿平らげて、何が美味しかったか感想を言うから!」
「うぅっ!」
人混みを掻き分け、一心不乱に料理へがっつく二人、凄まじい勢いは最初だけで、徐々にそのペースは落ちていき、遂には机に突っ伏す。
そして案の定というかなんというか…。
数時間で様々な料理をちゃんぽんした事で、ゼンとタイチョーは耐え難い腹痛に見舞われ、御手洗いへ行ったりきたりし、会場の隅でうずくまって吐瀉している。要は自爆だ。
コモレビとムツキは、ウナウル組と広い会場内を散策中で、シズネは急に独りきりになった。
「んもぉ、女の子を独りにするなんて不用心ね。私が仕方ないから面倒みるわ、感謝しなさいよこのちびっ子ちゃん!」
「…えっー、別に大丈夫だよ」
だが、そんな心配は杞憂だった。
別に頼んだ訳でもないのに、自分に化粧をしてくれた毛むくじゃらのオネエ亜人が、先程からぴったりとシズネの横に張り付いている。
シズネとお近づきになりたい若い亜人の少年達を、その凶悪な顔で威圧して追い払う。
だけどなんだか安心感がある、信頼感とは別の感情か何かだろうか?
「宜しく、化粧の上手いお兄さん!」
「ちょっと!私はお姉さんよ、訂正なさいちびっ子!今の言葉はナンセンスだわ!」
「…えー」
案外身近にいたこの世の理不尽の塊に、どうするべきか途方にくれるシズネだった。
コモレビとムツキが並んで歩く。
腕を絡めて歩く姿は、恋人同士に見えなくもなく周囲からの羨望の眼差しを集めるが、単純に困り顔の彼の様子が見たいという、ムツキの悪戯心からの行動が大きい。
「あのさぁムツキ、歩きづらいんだけど…」
「ん〜、私は別にそんな風に感じないけど?」
「うりうり、何が困るのか言ってみな?」
「……っ!?」
眉を顰め意地悪く笑うムツキは、いつも以上に艶っぽく、それが余計にコモレビの心拍数を急上昇させる原因になっている。
腕に彼女の胸やら体温が伝わり、意識しないようにすればするほど、感覚が敏感になる。
まさに悪循環だが、側からみたらこれみよがしにイチャつくバカップルそのものだ。
独り身の男性諸氏からの突き刺さる視線もなんのその、彼女からの悪戯は尚も続く。
そんな二人を微笑ましく覗きながら、ホトホルとウナウルはステップを踏みながら、ダンスしている。優雅な曲調が密談を包みながら。
「羨ましいのかって?そうね、腐れ縁のトリ頭とはあそこまでロマンチックにはなれないかな。だからこのダンスも仕事よ」
「それで構わないさ、蜘蛛と蠍はもう仕事に入ってるそうだ。俺達も動くか?」
「他所は他所、私達は私達のペースがあるの。だから焦っても仕方ないの」
「そうか…、あとあのスカウト組は使えそうかい?囮でもやってもらうか?」
「あんたねぇ、わざわざ彼女の不興を買ってどうするのよ、私はあの子達を気に入ってるから、そういう事はしないの!いい?」
「…むっ、言葉足らずで済まない」
「図体ばっかりでかいんだから…」
「もう一曲付き合いなさい!」
舞踏会の夜が更けていく。




