おめかししましょう
「やーやーどーも〜」
「貴方のウナウルちゃんが、舞踏会に着ていく服装を見繕ってきたよ!男性陣はタキシード、女性陣はイブニングドレスだね」
「…えーと、はい」
「うぅ?」
「どんな色があるの?」
「僕はあんまり行きたくないな…」
ポカンとするムツキ達一同を置き去りに、ウナウルは上機嫌に持ってきた衣装を部屋の中へ広げ、誰を着せ替え人形にするか獲物を探している。
その眼差しはどこか熱っぽい。
「さぁ!お召替え、お召替え!舞踏会とは社交界の戦場さ、そんな芋っぽい格好はダメダメ。まずは形から整えないと!」
いつもの気の抜けた挨拶をするウナウル。
招待状持参でやってきた彼女は、淡いスミレ色のカクテルドレスを身に纏い、髪もまとめ上げ、いつも以上にに華やかな雰囲気だ。
横にいる同僚のホトホルも、タキシードを身に纏い、蝶ネクタイをつけているが窮屈そうだ。
なにやらフゴフゴ言っている。
数人の亜人の従者達の手にかかり、タイチョーとコモレビはタキシード姿となり、ゼンはどこかの貴族の御子息風な出で立ちだ。
「いいじゃないかゼン!普段からそういう格好すれば、なにかと箔がつくかもな!」
「やめて下さいよコモレビさん、普段こんな服着慣れないから、余計に緊張します!」
「うー、うっ!」
「ははっ、一丁前な事言いやがる!何事も経験さゼン、いずれそういう服を着る機会が増えるかもしれない。いい機会だよ」
「…そうですかね?」
男性陣は和気藹々と楽しげだ。
女性陣と比べ化粧や髪を結い上げたり、ドレスの下にコルセットを装着する手間がなく、髪をセットするくらいだ。
ホトホルも混じってきゃっきゃっしてる。
そんな様子を、遠い目をさせながらシズネは羨ましそうに眺めている。
真紅のイブニングドレスの下に、コルセットを限界まで締め上げられ、呼吸が苦しい。
青い顔をしていると、亜人の従者達が更なる追い討ちをシズネに浴びせる。
男性なのに妙な言葉使いで…
「なによぉ、このちびっ子!ウナウル姐さんの頼みで綺麗にしてあげてるのに、そんなしなびた顔されると萎えちゃうわ」
「……ん?」
「いい?綺麗になるには時には我慢も必要なの、貴方はまだ蕾、いずれ大輪の花になるんだからこれくらい我慢なさい…。わかった?」
「さぁ魔法をかけてあげる」
「…んん?」
凄いありがたい言葉を言っているのに、内容が頭に入らない。鏡の前で妙な手捌きで私に化粧をしてくれているのが、毛むくじゃらの筋骨隆々なたくましい男性だったからだ。
あーじゃない、こーじゃない、大胆に。
色々と意味深な台詞を吐きながら、少女に紅をさし終えた彼は満足気に息を吐く。
「どーよちびっ子、これが化粧よ」
「まぁまぁかなおじさん!」
「…ほんと性格おブス」
憎まれ口を叩きながらも、鏡にいる自分の顔に見惚れるシズネ。それを横から小突く筋肉オネエの亜人さん。微笑ましい空間ができていた。
一方ムツキを担当していたウナウルは、別の意味で驚いていた。白黒のゴシックドレスを身に纏い、髪を盛り上げる様に結い上げ、髪飾りに薄く化粧をほどこしただけで、妓楼の花魁の様な圧倒的な存在感を放っていた。
どこぞの貴族様へ玉の輿できる、そんな気にさせるオーラがある気がする。
「…ムツキ、社交界のテッペン目指せるね」
「私はそんなのには興味ないかな」
「欲がないなぁムツキ、その気になれば誰でも篭絡出来そうな魅力があるのに、本人に全くやる気がないんだもん。本当勿体ないなー」
「ふふふ、私には別の野望があるの。だから今は寄り道しないって決めてるだけ」
悪戯っぽく笑うムツキに、全身全霊で着付けにメイクを行うウナウル。
彼女達を遠巻きに眺める、男性陣の不埒な視線に気付くのは、もう少し先の話。




