口論しましょう
ウナウルは一仕事終え、ホトホルと二人でムツキ達のいる宿屋で向かっていた。
例の仕事の話の返事を聞きに。
同僚のホトホルは、人と同じ仕事はしたくないと散々にごねたが、引き摺られ様に連行される。
こいつは昔からそうだ、余計な手間をかけさせるが仕事の腕だけら相当にいい。
頭の痛い話だ。
「〇〇〇〇〇〇〇〇っ!」
「いいからいくよ!駄々っ子ホトホル!」
彼のこだわりはめんどくさい…。
人族と同じ場所にいるのも、同じ空気を吸う事も耐え難い苦痛なのだそうだ。
金になるのなら仕事と割り切ってやるべきだ、多少苦痛だが依頼人に愛想を振りまいてもいい。
だが、私達亜人を取り巻く環境は確かに歪であり、世界の真実の一つだ。
人族と肌が違う、瞳の色が違う、外見が違う、牙や爪も違う、文化が違う、価値観が違う。
何もかもが違う、違う事だらけだ。
偏見もあり、優劣をつけたがる世界。
ゴートレニア国建国当時はより陰惨で、差別の激しい世界だったそうだ。
安住の地を求めて世界に拒絶され、化物や亜人達が団結し、周辺国から土地を掠め取る独立戦争を仕掛けた経緯がある。
その指導者たるアンネリーゼ様の掲げた単純明快な思想に付き従う者達が共鳴した。
『誰もが安寧を享受する世界の創造』
この言葉はゴートレニアの国是であり、今その理想や魂は脈々と受け継がれている。
建国当時の時代に比べたら、今は幾分とマシだと人生の先輩方は常々言っていたが、私は以前とあまり変わらない気がしてならない。
亜人と人族、つかず離れずな関係。
近くて遠い隣人。
勿論この国の事は好きだし、流れ者達や亜人の人々にとっては天国の様な場所だ。
だからこそ私の、私達の仕事は誰かの役に立っているのかな?本当に必要な事なのか?
建国者であるアンネリーゼ様の血筋をひく、我が君の考えが余計にわからない。
闇討ち・暗殺の毎日、毎日、毎日…。
仕事仲間達が日々入れ替わったりと。
私達の仕事は、世の中を悪戯に引っ掻き回しているだけじゃないかと疑ってしまう。
「▼▼▼▼▼▼?▼▼▼▼▼!」
「…あぁ、ごめん何?」
「哀しい顔をしている?いつも通りよ」
ムツキ達の部屋をノックする手が、無意識に僅かに震えている。これは私の弱さかな?
また拒絶されないか?
また穢れた奴等とか、不浄な者とか言われたりして罵声を浴びせられるんじゃないか?
ふるふると頭を振り、余計な思考を捨てて、彼女達の部屋からの反応を待つ。
コンコンコン…。
ウナウル達が部屋を尋ねてくる数時間前。
ムツキ達は紛糾ひていた。
この仕事を受けると繰り返し主張するムツキと、不透明な仕事は危ないと拒絶するコモレビ。
中立の立場を表明するタイチョーとゼン。
ムツキの言い分も、コモレビの意見も尊重したいシズネが、口をへの字にして頭を悩ませている。かれこれ数時間話し合いが続く。
無論部屋の空気は最悪だ。
苛立ちが募り、爆発しそうな危うさだ。
「いい加減折れてよ、コモレビ?」
「暗殺稼業と言っても、ヤハウェの時とあまり変わらない事じゃない?私達以外の誰かがこの世界から爪弾きにされても、この世界は変わらないし、予定調和の中よ!」
「いいやムツキ!」
「誰かの犠牲を肯定する世界なんて間違ってる!ヤハウェと今とじゃまるで状況も違うし、僕達ならもっと安全な仕事を探せる!」
「はぁ…」
「以前も気になったけど、その妙な正義感は捨ててほしいかな。私達はもう真っ黒なんだから、今更慈善事業なんて似合わない。そうよね?」
「ムツキみくびらないでくれ!僕は偽善者でもいい、皆の意見も尊重するつもりだが、この仕事の依頼だけは受けたくない!」
「あっそじゃあコモレビはお留守番してて、私は自由に動くからそれでいい?」
「……」
「君はさ都合が悪いと直ぐに口を噤むけど、それって悪癖よ、自覚ある?」
「考え直せムツキ、今ならまだ…」
「い・や・よ」
きっかけはいつもの先生の提案から。
なし崩し的に、いつもなら了承してくれるコモレビさんが今日はしぶとい。
私達の身の安全を確保する考えもわかるが、話は平行線のままに、結論に到達しない。
話し合いは口論になり、今にも喧嘩別れしそうな雲行きの怪しさが滲み出ている。
「…どうしてもかムツキ?」
「結局それコモレビ?短絡的だわ、暴力で相手を屈伏させるなんて」
「勿論僕だって嫌いさ、大嫌いだ!だがこのままじゃ平行線な気がしてね、違うかい?」
「貴方には教育が必要だわ、とびっきりの荒療治がね。私は好きよ暴力、自分の意見を相手に押し通す最短の方法だもの」
「まったく、反吐がでる!」
「いい加減なれなよ、コモレビ?」
コモレビは愛剣に手をかけ、ムツキは自身の影から触手をくねらせて威嚇している。
一触触発な状態だ。
限界まで風船を膨らませた様な緊張感。
「あっ…、あのっ!」
「じゃあ、僕とタイチョーとコモレビさんは別の仕事を、ムツキさんとシズネちゃんが今回の仕事を受諾するという方向でどうですか?」
「まぁそういうことなら、…ね」
「わかった」
お互いが睨み合ったままだが、不承不承でもなんとか危機を回避したゼンに、シズネが惜しみない賞賛の眼差しでゼンをみつめる。
ウナウル達がきたのはちょうどそんな時だ。




