仕事の話を聞きましょう
公園という憩いの場所で、友人や夫婦・家族がランチを食べている最中、不釣り合いな集団が公園の隅にいる。談笑するでも、何か遊んでいるのでもなく、ただじっと虚空を見つめる。
なり損ない達は、タイチョーとゼンの付き添いで武闘大会の会場に入ろうとしたものの、入口であえなく捕まり、チケットを入手する手段もないので、日中はぼんやりと佇むしか仕事がない。
足に根っこでも生えた様にピクリとも動かないので、ゴートレニアの住民は新手の大道芸かと勘繰り、ちびっ子達のいい玩具となっている。
頭や肩に葉っぱや花が載せられ、鳥達が止まり木がわりになり損ない達を使用している。
指示出しする者がいなければ、彼らは自分からは動かず、人畜無害な存在へと成り果てる。
既に武闘大会が終了して数日経過しているのに。彼等の上役達は、なり損ない達を忘れてしまっていて、各々の事に夢中になっている。
これが人なら、ストライキや職務放棄でも起こすところだが、彼等にはそれもない。
待て言われたから待つ。
それ以外命令もないから、頑なに待つ。
結果、天日干しして数日間放置された洗濯物の様な扱いを受けるなり損ない達。
肝心のなり損ない達の主人たるムツキは、今無気力の極致に到達していた。燃え尽き症候群といってもいいかもしれない。
いつも彼女の後ろを歩くシズネは、どういう訳か武闘大会の対戦相手であるムスペルと仲良くなり、ゴートレニアの観光中だ。
コモレビとタイチョー、ゼンの三人組は武闘大会の優勝者にサインを貰いにいき、筋トレの方法や、そのやり方のご教授を受けている。
ムツキ一人蚊帳の外で、ぶーたれて宿屋に籠城していたが訪問する者もゼロだ。
今日も誰も帰ってこないと悲観していると、コンコンと軽いノックが扉から聞こえる。
「…はい?どちら様?」
「不躾な訪問申し訳ないですー、私ゴートレニア王の名代として参ったウナウルです!ムツ・サンにお願いしたい事がありまして」
「お願いですか?どんな内容です?」
「いえね、簡単な仕事を手伝ってもらえたら嬉しいです!貴方方が仕事を求めているのも知っていますし、単純に逢ってみたかったという打算もあったんですよ!いかがですか?」
「ヤハウェの魔女ムツキさん?」
ドアを開け、親しげに話しかけてくるウナウルに対し、ムツキの警戒心は下がっていくが、彼女の爆弾発言に肝を冷やす。
同時にひりついた緊張感もうまれる。
「私達の事知っているのね?」
「えぇ、裏の世界の界隈は狭いですから!」
「ヤハウェの魔女の呼名の他には…、他人の姿を盗む悪魔、人外を産み出す母とかがメジャーですかね?大会に出場した人達が、貴方直属の部下なんでしょうか?腕試しとかですか?」
「答える義理はないわね…」
「私達の事、厄介者扱いして国外退去でも命じにきたのかな?私達と戦うの?」
「まさか、そんなメリットのないことしませんよ!人族至上主義のベルへルミナも、他種族の融和を掲げるローグも大嫌いですし、反吐がでます。我々やムツキさんの様な亜人こそが、世界の中心でないといけません!まったく間違ってます!」
悦に浸りなにやら語り始めたウナウルは、ムツキの視線に気づいて咳払いすると、簡単に仕事の内容を話してくれた。
掻い摘んだ内容だが…。
「おほん…」
「仕事の内容は暗殺です。ゴートレニア王にとって益ある者と害なす者を選別し、誅します」
「この国は表面上は中立国ですから、色々な国の諜報機関、食い詰め者に犯罪者達には居心地がいいみたいで、時折風紀を正しているんです」
「勿論、ムツキさん達にも事情はあると思いますし強制はしませんが、きっと楽しいですよ?」
「随分と物騒な風紀の取り締まりね?ウナウルさん達のやり方拝見したいわ。けど仲間達と話し合いたいし、即答は出来ない…」
「返事はいつまでかしら?」
「んー特に期限を決める気はなかったのですが…、そうですね明日の夕刻、またきますよムツキさん」
「ではではー」
井戸端会議並の気軽さで、話し終えたウナウルは片目でウィンクすると、ムツキの前から姿を消した。
彼女のいた場所からは仄かな血の匂いがする。
随分ときな臭い仕事内容だ。
暗殺稼業なんて真っ当な職種じゃない、王に害ある者とは、気にくわない奴も同義だと思う。
つまり王の気紛れで人殺しを請け負うウナウル達も、大概だろうが彼には逆らえないんだろう。
私は退屈だからいいけど、皆はどうだろう?
「皆ー、法に触れる仕事に興味ある?」
「私は先生がやれと言うのなら…」
「またなんか突拍子もないことを…」
「うっ?」
「ムツキさん、危ない事はやめましょうよ」
宿の一室に集ったメンバーに向け、開口一番に提案するムツキだったが、反応はまちまちだ。
どうしたもんか?




