閑話 仲良くなるきっかけをつくりましょう
私の声には毒がある。
日常の何気ない会話でも暗示がかかり、相手を深い眠りに誘う。
他人からみたら私が悪戯でもしている様に見えるらしいが、そんな気はさらさらないのに…。
私達の種族は声に魔が宿るのだそうだ。
個体差もあるが、私の母は声だけで相手の心を錯乱させるし、叔母は心の均衡を崩すんだそうだ。
おっかないというか、おぞましいというか。
勿論種族全員という訳ではないが、私はこの呪われた力の制御ができていない。
力に魅入られた者は、力を従える義務がある。
だからあんたは武闘大会に出場しなさいと、お遣いでも頼まれる様に族長から命令された。
私は争い事が苦手だ。
幼い頃から争い事を回避する事に苦心し、軟弱者と散々馬鹿にされたけど、性に合わない。
「いい機会じゃないか、私達セイレーンの武勇を他の種族に魅せてやりなっ!」
「…えぇ」
「私達は強靭な牙も、強固な鱗も、頑丈な体毛も持たないわ。有るのはこの口と言葉で相手を魅了する事だけ、わかるでしょムスペル?」
「…はい」
「貴方が頑張れば、私達の種族の立場も地位も上がるわ!往来の多い場所では口を開けるな、口を布で覆えなんてあんまりよ!」
「…努力します」
年齢の近い若者や、近隣の皆からの熱いエールを一身に受けるムスペル。
私は平穏な日常さえあればいいのだけれど、皆はそれを許してはくれない。
どこの国へいっても爪弾きにされ、亜人達の国であるゴートレニアにたどり着いたのに、昔受けた仕打ちが我慢ならないらしい。
世代交代を繰り返しても、その怨みの念だけが残り私達へと降りかかる。
昔は昔、今は今と割り切る者もいるが、絶対的な少数で変わり者のレッテルが貼られる。
嫌々ながらも大会に出場し、なんとなく途中まで頑張れば許してくれると思ったが、状況はそれを許してはくれない。
初戦、2回戦、3回戦と相手に勝利し、応援団からの声援がキラキラして眩しい。
どこまで続ければいいのか?
対戦相手は私よりかも遥かに屈強で、身長も体重も比べものにならないくらい大きい。
勝てたのが不思議なくらいだ…。
けど続く4回戦目の相手の選手は、私と同じくらいの普通の少女だ。
外見だけではなんの亜人かも分からず、巧みに炎を操り私へ猛攻を仕掛けてくる。
彼女の瞳は真剣そのもので、こんな半端な気持ちじゃ相手に失礼だ。
だから力を全力で使い、彼女を圧倒した。
狡い力だとか、卑怯者とか関係ない。
これはセイレーンとしての個性だ。
辛くも勝利したが、際どいものだった。
頑なに距離を取ろうとしたのは、私の力を理解していたからだろうか?
シズ・サン選手の事を脳裏に浮かべたまま、第5戦目は惨敗した。完封負けだった…。
けどそんなことよりも彼女だ。
彼女の健康状態は?
ちゃんと眠りから覚めたのか?
同族の応援団達から叱咤激励されてる時も、彼女は医務室の彼女の事が気掛かりだった。
「…あ、あの!林檎食べますか?」
「…え?」
「食べますか?」
「いただきます…」
ムスペルのコミュニケーション能力は稚拙であり、突如距離を詰められてもあたふたするシズネと、林檎を突き出す少女だけが医務室にいる奇妙な時間が過ぎていた。




