閑話 内緒話しましょう
蛇ノ目のウナウル。
彼女は今大会の武闘大会の司会進行者として、ゴートレニア王より大会の采配を任されているが、同時にめぼしい大会出場者を観察し、ゴートレニア国の為に働いてくれる逸材を探す裏の仕事があるのは公然の秘密だ。
勿論、勧誘するにあたって内偵調査や出自、帝国や連合の息がかかってないかも確認する。
まぁ、言っちゃ悪いが外れくじだ。
せっかく苦心して王に推挙しても、王のお眼鏡にかなわなければそこで御破算。
かといって、出鱈目に推挙しても今度はこちらの身が危うくなる。
そんな都合のいい奴なんていません、まる。
なんて報告しようなら、私の首と胴体がサヨナラするだけだから口が裂けても言わない。
前任者はヘマして王の逆鱗に触れ、その前前任者も謎の失踪を遂げている。
暗殺者が同じ同業者に抹殺されるなんて、笑い話にもなりはしない。
こんな事なら上役から長期の依頼でも受けて、トンズラかましとけばよかったかな?
王城の赤絨毯の上を歩きながら、武闘大会の経過観察の報告を、我が君に行う途上。
今まで練習してきた台詞を一生懸命反復し、頭に刷り込んできたが、喉が乾く。
玉座の間には、圧倒的な存在感を放つ我が君とその取り巻きが脇を固める。
あいつら苦手なんだよ、無駄に高圧的で、他種族を見下す様な眼をしているし…。
「我が君、蛇の目ウナウルまかり越しました!」
「御苦労、意見を聞こうか?」
「はっ」
「僭越ながら…、今大会出場者は誠に粒揃いの勇士がひしめいております!直ぐの推挙とのご要望でしたが、今暫くのご猶予をいただきたく」
「蛇よ、あまり王を待たせるでない。貴様と違い、ご多忙の身でありながらわざわざ時間を割いてくださったのだ。無礼とは思わんか?」
「私は我が君の意見を聞いている!腰巾着は黙ってお茶汲みでもしてろっ!」
「…遺言はそれだけか?」
「はん、お前は遺書の準備は済んだの?」
ウナウルの青髪の頭髪は毛先が逆立ち、瞳は蛇の目となり低いうなり声を上げ威嚇する。
対する侮辱された王の従者は、血管が浮き出るほど激怒し、腕が倍に膨張している。
「よいよい、相変わらず血の気が多いなウナウルよ。これ、貴様も私の従者なら分別をつけよ!同胞同士で争うでないわ」
「争うならば人相手だけにせよ…」
「はっ、申し訳ありませぬ!」
「以後気をつけます我が君!」
堂々たる体躯の亜人が、右手で両者を諌めるも、
ふてぶてしい態度で互いに目で威嚇し合ったままだ。どうしたもんか…。
犬猿の仲を通り越した何かだ。
水と油の様にお互いが反発し合い、個性を否定し過ぎる傾向がある。
「話が逸れたなウナウルよ、続きを」
「はい、私が気になる選手を何名か列挙した物がここにあります!ご確認いただきたく」
「ほほう?仕事が早いな、自分が暗殺したいリストではないのだろうな?ウナウル」
「滅相もございません、私の標的は王の怨敵と定めし者だけですよ?貴方様の都合のよい道具であれば、私はそれで構いません…」
「寂しい事を申すな…、私はお前の働きには感謝しておる。今晩中には目を通しておく、大会の司会進行を引き続き頼む」
「はい、お任せを我が君!」
それだけ言うと、踵を返して玉座の間を後にするウナウル。
柱の影から王の従者達からの挑発的な視線を浴びたが、あまり関わりたくはない。
彼等からしたら、暗殺術という一芸だけの色物で重宝されている彼女の存在が許せないのだろう。
そうしたねじ曲がった正義が暴走し、歴代の推挙者達を闇へ葬り、知らぬ存ぜぬを決め込む。
自分達より秀でた存在は認めないとう意思表示なんだろうが、それが彼等のエゴだ。
王も彼等の行いを放置し、むしろそれくらいの逆境を跳ね返せない半端者は要らぬという事なんだろう。まったく性格が悪い。
どうしようもなく悪い。
もがき苦しむ私を嗤っているのだろう。
ここは下界の常識が通じない。
王の一言で黒は白になり、白は黒になる。
私は王の蛇。
籠の中で曲芸を仕込まれ、上手くできなければ次の蛇が用意され、私はお払い箱だ。
上手くやらないと…。
帰り道、背後から粘つく様な視線を複数感じるが、付近に尾行者はいない。
あの高慢ちきな従者達の誰かの視線。
「本当、貧乏くじだわこの仕事」




