宴の終わりを感じましょう
呆気にとられたまま暫くリング外でぼんやりしていると、司会のウナウルが救護班を指揮し、私を急いで担架に乗せるようにせかしていた。
怪我で身体を動かせないと判断されたらしい。
あれだけの拳打を受け、平然と立ち上がって悪目立ちするのも嫌だから、担架に揺られて医務室の寝台で惰眠を貪る事にした。
要は不貞寝だ。
貴重な寝台の一角を占拠し、固いながらもしっかりとしたスプリング感に身体を預ける。
けど…。
片手間で優勝できると高を括っていた過去の自分が此処にいたら、小一時間説教してやりたい。それから散々殴ってやる。
なんだあれ?
ただの優男風な奴かと思ったら、とんでもない人外だった。私の分身体達を打ち砕きながら、私を追い続ける姿は狩人そのものだ。
次やったら勝てるかな?
あーやだやだ、なんか寒気がする…。
【……うーん、まぁいいかとりあえず寝よう】
【……】
なんだか隣の寝台が騒々しい。
武闘大会に出場した彼氏を見舞う彼女でもきたのか、妙に騒がしい気がする。
これでは寝るに寝れない。
一言文句言ってやると、寝台のカーテンを開けかけた時、それは聞き覚えのある人物だった。
「はーいコモ・サン、包帯変えますので両手を上に挙げてくださいね!」
「それくらい、自分でできますよ!」
「ダメですよ!」
「一応貴方は重症で、骨にはヒビも入っているんですから大人しくして下さい!」
「…はい」
犬耳の若い亜人の看護師さんと、コモレビがイチャコラしている。私が必死こいて戦っている間に、なんて不純な奴だ、けしからん。
カーテンの隙間から視線だけを送り、コモレビには今日小さな不幸が起きます様にと願掛けをし、普段祈らない神へと祈りを捧げた。
「…あのさムツキ?用があるなら何か話してくれると助かるかな、居心地が悪いし」
「ベツニナンデモナイワ、ナンデモ」
「試合は時の運だよムツキ。勝負の世界だから勝ち負けが存在し、絶対なんてありえない。だからこそ面白いんだけどね」
「コモレビは楽しかった?」
「あぁ、自分の日頃の成果を発揮できる場所に参加できたのは、名誉な事さ!」
「ふーん、そんなものなの?」
「そんなものさ…」
「へー」
不安気なムツキを、諭す様に宥めるコモレビ。
この経験はきっと役に立つ。
それはいつかはわからないが、今はこの何もする事の無い時間を有意義に使いたい。
日頃やらない技の研鑽とか、武術書を読み漁るのもいいかもしれない。
対戦相手に教えを請うのも面白いかも。
キラキラした瞳のコモレビは、怪我が完治するまでの間どう過ごすかで、妄想を膨らませている。
私は何しよう?
いままでが刹那的な毎日で、目的意識なんてなかったから、計画を立てる事と無縁だった。
あーでもない、こーでもないと首を捻り。
念仏の様な呻き声を上げる事数分…。
現状を保留にして散歩する事に決めたムツキ。
【あっ、シズネの看病しにいかないと…】
タイチョーとゼンは、そのまま試合模様を間近でみたいと観覧席にへばりついている。
ムツキに勝利した鉄人フランベルや、シズネの対戦相手のムスペルが順調に勝ち進み、リング上で繰り広げられる熱き決闘に胸を弾ませる。
しかし圧倒的な強者達が、次の試合では嘘の様に敗れ去ったりと波乱続きの様相だ。
今年の優勝者は誰になるのか?
一瞬一瞬に 魂をぶつける様な、ひりつく様な波動が会場内を満たしいいるかの様な高揚感。
武闘大会がゴートレニアの風物詩と言われるのも、なんとなく納得してしまう。
ただゼンはふと気付く、自分には何も特別な力などない事に。僕は皆の足手まといなのかな?
【僕は僕なりに皆の役に立ちたいのに、このままじゃタダ飯食らいの穀潰しだ】
【シズネちゃんは、怪人という特別な存在に僕がなれたというけど、あまり実感がない】
【むしろ僕は、運良く生き残っただけの一般人な気がしてならない…。コモレビさんは焦るなとか、自分のペースで精進すればいいと言ってくれるけど…】
【僕は、これからどうしたら…】
そんな気持ちを察してか、ゼンの肩をポンポンと叩くタイチョーと付き添いのなり損ない達。
「…うぅ、うううう?」
「そんな事ないですよ、タイチョーさん」
「ううぅ、あーあ」
「優しいですよね?なんだか照れます」
他人からは支離滅裂な会話だが、当人同士はなんとなくで意思疎通ができている。
ある種の暗号の様な会話術が展開されてゆく。
会場内の歓声が、ゼンの焦燥感を搔き消してくれる。彼らの大会観戦はまだまだ続く。
大会の優勝者が決定するまで。




