哀愁漂う者達を励ましましょう
大会本戦が続く3日目。
本戦第1試合が軒並み終了しつつあり、間も無く本戦2試合目が滞りなく進行しようとしているが、ゼンのいる観客席からもわかるくらい、気落ちする二人組がいる。
タイチョーとコモレビだ。
まず大会を楽しみにしていたコモレビだが、散々待たされた挙句の対戦者が大会辞退の為の不戦勝。棚ぼた的な勝利を素直に喜べない。
また本戦2試合目で、自分の出番まで待たされてしまうという現実の不条理に抗っている。
もう一方のタイチョーは対戦者の亜人と激闘を演じ、亜人の選手がリング上に倒れ伏したのをいいことに、勝利を確信し拳を振り上げてリング外に降り、練り歩いてしまった為の失格。
要は自爆だった。
散々講義するも、審判のウナウルは笑顔を崩さずに大会規定ですのでを繰り返すばかり、挙句駄々っ子状態のタイチョーは黒服に脇を固められて、強制的に退場を余儀なくされた。
「僕の人生、こんなんばっかりだ…」
「うぅっ…」
哀愁漂う二人の背中を、ムツキとシズネを生暖かく見守りながら思う。
男って面倒くさいなぁと、同時に何か熱狂する時と冷める時のオンオフが激しいと。
何故かホクホク顔のムツキと、可哀想な者達を見る憐憫な眼差しのシズネ。
「いいシズネ?」
「これから長い人生を歩んでいく訳だけど、駄目な大人達に振り回されちゃいけないよ?」
「はい…、まぁ同情は致しますけどね。先生もからかい過ぎないで下さいね?コモレビさん達もベストを尽くしたんですから」
「ふふふ」
「笑って誤魔化さないで下さいね、先生」
シズネとムツキが本戦2回戦目を堅実に勝ち、本戦3回戦へと駒を進める中、いよいよコモレビの出番が近づいてくる。
コモレビは緊張感からか表情が強張り、眉間に皺を寄せて、これから戦場にでも旅立つのかというぐらい凄まじい形相になっている。
何度も服を確認し、型の練習や構えの動作などを行い、選手控室をうろちょろしている。
「コモレビさん、顔怖いですよ?」
「え、そうかな?」
「そうですよ、緊張で身体が筋張ってます!過度な緊張はいけません、平常心、平常心!」
「うん、ありがとう…」
多少シズネとの会話で和んだが、やはりまだ顔の表情筋が硬い。
やがてリング上へとコモレビが呼ばれ、対戦者への相対する事となる。
対戦者は爬虫類顔の亜人、種族名はわからないが、リングの脇で座禅を組み瞑想中である。
周りの音を遮断し、自分の世界を形成しているのだろう。静かな闘志で漲っている。
司会のウナウルが、コモレビの到着を確認すると、彼女は自分の仕事を開始した。
彼女のキンキン声が鳴り響く。
「本戦2試合目も後半折り返し、入場するのは西組唯一の不戦勝、幸運男のコモ・サン選手!私はてっきり一服盛ったのかと勘繰りましたが、杞憂だった様です!力をみせろ頭巾マン!」
「対するは同じく西組、旅の武芸者サンドロへ選手!世界を渡り、行く先々戦いを求めるバトルジャンキー!彼に平穏な日常は要らない、求めるは最強の二文字だけだっ!」
自分に対しての痛烈な物言いに、ウナウルをジトリと見るコモレビだが、彼女はニコニコしているだけで変化はない。
対戦者のサンドロへは、瞑想を解きゆっくりとコモレビに構えをとる。
互いの視線が交錯し相手の顔を見据えた時、ウナウルが戦いの宣言を発する。
「いざ尋常に、勝負始め!」
互いに最初は動かず、摺り足で相手の出方を窺うも、焦れたサンドロへが近接戦を繰り出す。
右に左に、揺ら揺ら振り子の様に動くサンドロへに、コモレビは対応しきれていない。
どう返すか?どう受けるか?
余計な事に思考が外れ、彼の猛攻を凌ぐ算段がまるで浮かばない。
こちらの攻撃も、サンドロへに当たってはいるが、彼への分厚い鱗に阻まれているみたいだ。
【どうすればいい?どうすれば?】
やぶれかぶれ気味に、明後日の方向へ放ったコモレビの一発が、ちょうどサンドロへの顎にクリーンヒットして彼の脳を激しく揺らし、彼の身体をよろめかせた。激しい脳震盪が彼を襲う。
何度か立とうと試みるが視界が暗転し、平衡感覚も麻痺している。やがてがくりと床に倒れ伏し、そのまま起き上がらなかった。
「サンドロへ、ダウン!」
「勝者、ラッキーボーイ頭巾マン!」
ウナウルの煽りが続く。
だが、コモレビの幸運も長くは続かなかった。
シズネとムツキが順調に本戦4回戦目へと進み、自分も負けられないと力む中、彼の3回戦目の対戦者は昨年度準々決勝を経験した猛者中の猛者。
竜人の武闘家が静かに佇むリング上は、静かな緊張感に満ちた別世界だった。
朗らかな笑顔の似合う妙齢な男性。
自分の技がどこまで通用するのか?
挑戦者の気持ちで彼へ一矢報いる。試合開始の合図と共に、周りの騒音が急に静かになる。
それどころか、自分の身体が宙に浮いている。
「…なっ!?」
「若いのぉ、猛々しい気性嫌いではないがの…」
尋常でない彼の投げ技の速さに戦慄し、空中で態勢を立て直そうとするが地面に激突し、コモレビはふらつく足でなんとか立ち上がるも、勝敗は既に決まった様なものだった。
これは彼の意地そのもの…。
「気合いと根性ではどうにもならん…、退き際を弁えぬと命に関わるぞ?まぁいい経験じゃろ…」
しかし実力差は如何ともし難く、次の瞬間にはリング外へと吹っ飛んでいた。
コモレビが意識を取り戻した時は、試合会場ではなく医務室の寝台の上だった。
両隣にはムツキとシズネ、ゼンにタイチョーまで顔を覗き込み気を揉んでいる状態だ。
「…コモレビ、大丈夫?」
「コモレビさん!痛みますか?」
「…うっ」
「これ、屋台の叔母さんにもらった薬です!」
皆いっぺんに喋るから反応に困るな…。
「シズネ、ごめん約束破って、…さ」
「気にしないで下さい、今はご自身の怪我だけ心配して下さい!暫くは安静にして!」
「ははっ…、母さんみたいだなシズネ」
「…コモレビさんの馬鹿」
肩の怪我の部分を軽く抓るシズネ。
痛がるコモレビに、舌を出して悪態をついている。
僕の対戦者の名前、誰だったかな?
のほほんとした空気が病室を包む。




