亜人と戯れましょう
本戦1日目は結局シズネにまで試合が消化されずに終了し、他の試合を観覧しながらにゼンの側で昼ご飯を食べ、夕飯を闘技場近くの食堂で食べて終わった。
ただの観光の様な一日だったが、自分達の知らない街というのはやはり新鮮だ。
眼に映る景色全てが新しく、行き交う人々を人間観察するのも楽しい。なによりどの宿に泊まるかで胸が弾む気分だが…、あいにく闘技大会中は軒並み予約で一杯で満室状態。
繁忙期と言われても納得出来ない、だがこればかりはどうしようもないと、荷馬車の中で毛布に包まる面々。
その荷馬車の周りをぐるりとなり損ない達が警備して、寝込みを襲われる事はない。
ないのだが…、なんだか虚しい…。
哀しみや哀愁さえ漂う荷馬車の中。
「ふかふかベッド、あったかベッド…」
「私の願いは淡い恋心の様に、儚く消えた…」
「…ムツキさん」
「これイモリの黒焼きですが、食べます?」
ゼンがどうしていいか判らずオロオロする。
露骨に落ち込むムツキを、なんとか励ますコモレビとシズネだが、彼女の心には響く様子はなかった。余程楽しみにしていた様子だ。
まぁ、旅の醍醐味は宿屋に泊まる事でもある。
とりあえず半死半生なムツキを放置し、シズネにエールを送っておく。
「明日はシズネが一番手だ!」
「焦らず、気負わず、自然体で頑張っておいで。そうしたら結果は自ずと付いてくる。シズネ、君なら出来る!自信を持って!」
「…ふふっ」
「何か変だったかい?」
「ごめんなさい、なんだかコモレビさんの言い草が可笑しくって。私は怪人なんですよ?そこいらのやわな少女と一緒にしないで下さい!」
「どうにも、シズネには敵わないな…。お世辞や煽てるのは僕は苦手なんだ」
「明日は勝ってみせます」
「そして勝ち進んでもし私と勝負する時は本気で戦いましょうコモレビさん!勿論、手加減なしですよ?約束出来ます?」
「あぁ、最善を尽くすよ!」
「手心を加えるのもだめですよ?」
夜風に当たりながら、夜更かしする二人。
ムツキが項垂れながらいつの間にか寝息を立て、タイチョーも直立不動の姿勢のまま、荷馬車の近くで立ち寝している。器用なもんだ。
毛布にくるまっての会話が続く。
大会2日目。
昼前にシズネが選手控室から呼ばれ、リングまで来て欲しいとの連絡を受ける。
軽く伸びをしてから背筋をぴんと伸ばして歩く姿は、なかなか堂に入っている。
「さぁ、やってまいりました!」
「本戦第二十戦目、東組39番翼人族より初出場のバーナビー選手!その屈強な身体と背中から生えた羽根のコンビネーションは、相手をどう捉えるのか?乞うご期待です!」
「対するは東組40番、予選会の下馬評を覆したダークホース!こちらも初出場のシズ・サン選手!ただの少女と侮るなかれ、彼女の実力は未知数!その小さな身体と瞳には何を宿すのかーっ!」
「では、両者尋常に勝負…」
「始めっっ!」
司会のウナウルの軽快な選手紹介が終わり、場内のボルテージは最高潮だ。
対戦者は荒鷲頭の翼を持つ亜人だ、開始の合図と共に大空にふわりと浮かび、こちらを見下ろす。
シズネも荒鷲頭のバーナビーに対し構えるが、凄まじい速度で滑空する彼を追い切れず生傷を増やしていく。シズネの繰り出した拳が空を切る。
「ちょこまかと…!」
「そこではない!ここだ少女よ!」
シズネが姿を捉えその場所を攻撃しても、彼はもうそこにはいない。
こちらの死角から次々に攻撃を繰り出してくる。
上顎に側頭部、みぞおちに臓腑の辺りと、見えない傷が累積されるが、耐えられない痛みではない。それに避けれないなら、点ではなく面で攻撃してやると息巻くシズネ。
ヤハウェで正門を破壊した技を思い出しながら、両手を拳銃の様に構えて、バーナビーの方角へ射角を合わせていく。
一点ではなく横への拡散。
上空を飛び回り旋回するのなら、その場所ごと根こそぎ攻撃する。
【横へ、横へ!】
【次なんて考えるなっ!一撃に賭けるんだ】
威力を加減し、少女の願いを叶えるかの如く、指先からは火焔の爆発が連鎖的に広がり、真っ赤な大輪の花を空に咲かす。
上空の酸素は一気に燃焼し、バーナビーの羽根を物理的に捥ぐ事に成功し、錐揉み状態で墜落する彼の上に跨り、指先を額に突き付ける。
「まだ…、やりますか?」
「いや、止めておこう。君の能力を見誤った私の負けだよ、発火能力とは珍しい」
両手を挙げて降参の意思を示すバーナビー。
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がり、会場全体が揺れている様に錯覚した。
それに、なんだか恥ずかしく感じる。
大衆の視線に晒されているのがむず痒い…。
バーナビーが担架で運ばれていくのを見送り、片手を上げて歓声に応えるも、足早にリングの上から退場するシズネがそこにはいた。
本戦は続く。
この日は短時間で決着がつく試合が続き、控室でくつろぐムツキにもスタンバイの連絡が届く。
「じゃ、いってくるよ!」
「先生、ファイトです!」
短いながらも暖かい声援を受け、ムツキは頰を綻ばせるが、直ぐに真面目な顔に戻り通用口へ向かう。
リング上に待つ亜人の巨漢を見上げると、ニヤリと挑戦的な笑顔を向けてくる。
身の丈5メートルはありそうな巨人が、腕や肩をポキポキと鳴らして臨戦態勢だ。
「さぁさぁ、本戦1試合第三十三試合目!東組65番、巨人族より戦士ウゴ選手。昨年は惜しくも怪我で出場を見送りましたが、今年は万全な様子だ!その豪腕でまた相手を病室のベッドへ送ってしまうのか?」
「対するは今年の新星東組66番、ムツ・サン選手!しなやかな肢体から、どの様な技を繰り出してくるのか!乞うご期待であります!」
「では…、両者!始めっ!」
始めの合図と同時に巨漢のウゴが突貫を開始し、振り上げだ拳がリングに亀裂を入れたが、ムツキはするりと身を翻し様子見をしている様だ。
蹴りに払い、振り下ろしや振り上げ、雑な技でも当たればどれも必殺級の技となるウゴ。
体格差も、腕力も、筋力の総量でもウゴが圧倒しているので、観客達の関心は華奢なムツキがどこまで粘れるかの一点だけであった。
だからウゴが早々にリング脇に彼女を追い詰め、派手な土煙を上げた事で、試合が終了したと錯覚したが、実際にはそうではなかった。
「ぐ、うぬぬ、ぬぬっ!」
「可愛い手ね、巨人のお兄さん?」
ムツキは巨人と正面から組み合い、拳と拳を絡ませて拮抗状態を形成していた。
脂汗を滲ませ、必死な形相のウゴに対し、ムツキは戦いにそぐわない笑顔を振りまく。
たまらずに拳をひっこめ防御の姿勢になるも、迫ってくるムツキに得体の知れないモノを感じた。
彼女の瞳は捕食者の様な獰猛な輝きを放ち、絶対的なポテンシャルを持つウゴへと肉薄する。
拳を伝ってウゴの顔へと迫り、彼の頰へ強烈な痛打を浴びせ、怯んだところに更に追い打ち、追い打ち、追い打ちとえげつない行動を繰り返す。
ぐらりと姿勢を崩し、一旦距離をおこうとするウゴだが、彼女の姿を見失なう。
その一瞬が命取りだった、背後から手をペチペチ叩き優しく彼へ降伏を促すムツキ。
ウゴは首筋に鋭利な刃物でも突きつけられたかの様な、圧迫感を感じ彼女への敵意が削がれていく。
だめだ、これには敵わない…
「おでの負けだ…」
「賢明な判断よお兄さん、またね!」
今大会は番狂わせが続く。
優勝者が誰になるか誰にもわからない。
その訳の分からない原因を探る為、観客も熱狂し、日々の鬱憤ばらしに声援を送っていた。




