予選会に出場しましょう
予選会会場に足を運ぶ一行。
円形の闘技場は広く、30人が中に入ってもまだまだ余裕がある。
選考基準は簡単で、最後までリングの中に残った者が武闘会本戦へと進めるというものだ。
単純明快なルール。
怪我や万が一の事態に備えて救護班が闘技場の隅に控えている。
毎年やり過ぎる馬鹿者達が溢れているので、武闘会から死人がでる事態を避ける目的もあるようだ。そのために、試合を仕切る審判も実力者があてがわれている。
一番手にはシズネが選ばれ、選考からあぶれた他の参加者達は、闘技場の端から観覧している。
当然野次を飛ばす者や、歓声を上げる者などもいれば、自分の出番まで瞑想する者、居眠りする者など目的はバラバラだ。
「シズネッー、頑張れよ!」
「コモレビさん、ありがとう!」
笑顔を浮かべて手を振っている。
シズネに気負う様子はなく、他の参加者をじっと観察している。
今回は人族が多いようで、場末のチンピラ風の輩が徒党を組んでいる様子だ。
実戦ばかりしていたシズネにとっては、いい息抜きになるだろうと考え込むコモレビを他所に、試合開始を告げるドラが豪快に鳴り響く。
「先ずはそこのチビからだ!」
「袋にしちまえ!」
「帰って人形ごっこでもしてなっ!」
あーこいつら最低だ。
最初に自分達より圧倒的な弱者である、最年少の少女を狙うなんて…。
まぁシズネにとっては命懸けの戦場ばかり渡り歩いた為、彼らの動きは緩慢過ぎた。
相手が殴ってきた勢いで巴投げをし、次のチンピラにはすれ違いざまにみぞおちをかまし、最後の奴には足払いをして体制を崩した。
元々チンピラや傭兵という存在事態、自分にとって悪でしかないシズネにとって、気分を害するだけの存在に容赦するつもりはなかった。
「ふぅ…」
「さぁ、次は誰ですか?おチビさんにやられて、貴方達は悔しくないんですか?」
人差し指でちょいちょいと誘うシズネ。
「「て、てめーっ!」」
シズネの挑発に、簡単に逆上し総掛かりで攻めてきたチンピラ達だったが、一人一人丁寧に組み伏せて、場外に飛ばされていく。
顔や腹、急所ばかりを狙っている。
ありゃあ静かに怒ってるな、笑顔のままなのが余計に凄味が増している。
これには審判役の亜人も驚き、試合終了の宣言をするのに数秒間フリーズしていた。
「先生、ムツキ先生やりました!」
「おかえりシズネ、次は私かな」
とことこと駆け寄るシズネは、ムツキに甘えており、彼女もまた少女の働きを労っている。
続く選考会ではムツキがリング上に呼ばれ、亜人達の輪の中に加わっていく。
早く戦いたくて仕方がないのだろう、身体が小刻みに震えている。
亜人達も彼女に対して侮りはないのだろう、最初から警戒する相手として認識し、戦士としての礼をとる者までいる。
隣の亜人の息づかい。
筋肉が収縮する音、汗の匂いが微かに香る。
ドラのけたたましい音と共に、左右にいた亜人を自身の影でつくった触手で投げ飛ばし、姿勢を低くして正面の対戦者に踊りかかる。
「…ぬっ、やはり機敏な!」
「あんたもね、痩せっぽち!」
ひょろ長い狼頭の亜人が、ムツキの初撃を躱し、回避した反動で回し蹴りを放つも、難なくムツキは対応して、お互いに距離をとる。
そうしている間にも参加者達は目減りし、狼男とムツキの他に数人といった形だ。
ただ二人のあまりにも激しい徒手空拳の激しさに、審判に降参を宣言し、残りは彼だけとなる。おそらくは名のある武芸者だろう、体捌きも構えも洗練されていて隙がない。
そこでムツキは突飛な行動にでる。
自身の影で自分の偽物を創り、前後から狼男を挟み込み、一瞬の虚を突くことに成功。
後は影を鞭の様にしならせて、強引に彼を場外へと落としてしまった。
「……なんと、奇怪なもんだな」
「痩せっぽち、あんたもなかなかだったわ」
「世界は広いな…、完敗だよ」
「またやりましょう」
スポーツマンシップに則り、お互い晴れやかな笑顔で握手をし、健闘を讃えている。
いいな、やはり模擬戦はいいもんだ。
勝手に感動するコモレビとタイチョー。
続くタイチョーの試合は地味なものだった。
派手さはないが、淡々と亜人や人族を関節技で絞め落とし失神させる作業を繰り返している。
身体を密着し、逃げ道を塞いで着実に。
摺り足差し脚で迫るタイチョーに、対戦者達も粘ってはみるが、痛がる素振りも見せずに迫る木彫り仮面は恐怖でしかなかった。
「……うっ!」
「タイチョー、ナイスファイト!」
試合後の彼は親指を上げて嬉しさを表現し、コモレビへとバトンタッチしていく。
コモレビもまた剣術の稽古の続きをするかの如く、予選会の場を乱取り稽古の様に楽しんでいた。対戦者達をあっちに投げ、こっちに投げ、投げ技の反復練習の様に色々と試している。
途中から一本背負いに熱が入り、組み合った者を片っ端に投げに投げ、リング上が砂埃で酷い有様となるが、本人は楽しそうだ。
「コモレビさん、やっぱり稽古馬鹿ですね?」
「あれが自然なのよ、あんまり邪険にしないであげてシズネ。彼の可愛いところよ」
「わー、惚気ですか先生…」
砂と汗塗れになったコモレビをまじまじ見つめるムツキと、彼が笑顔なのがやっぱり不思議に思うシズネがそこにはいた。




