行方をくらませましょう
「みてみて、これは誇張表現が過ぎるわよね」
ヤハウェを抜け出して数日。
行く先々の街の広場の掲示板、外壁には人相書きが出回っており、その中には僕らのものが何枚かあった。
いずれの人相書きも賞金首として扱われ、帝国に害ある者達と同列にされている。
罪状は国家叛逆罪、叛乱扇動罪及び都市破壊活動などなど、文章にするとなかなかだ。
主犯格のコモレビは山賊の様な髭ダルマ。
ムツキは素朴な女性に悪魔の角を生やしている。
シズネにいたっては、女性の髪をつけた火を噴くゴブリンの様な人相書きになっている。
ゼンの人相書きだけは無かったが。
「コモレビはもっとハンサムよ!」
「いやいや、なんで得意気なのさムツキ」
「私なんてあんまりですよ、子供の落書きみたいな陳腐さです。懸賞金もなかなかですが」
「私の角も山羊の角みたいに悪魔らしくしてもらわないと、悪魔っぽさが薄まってしまうわ」
「人相書きにつっこんでも仕方ないさ」
わいわいと雑談しているが、他人が見たらどこかで戦闘したのは一目瞭然で、服装は乱れておりなり損ない達の装備が特に酷い有様だ。
返り血だらけで鎧のあちこちが変色している。どす黒い斑点模様がまだらに付着し、剣や槍にいたっては血と油でなまくら同然だ。
これじゃあ斬るより叩くだけしかできない。
どこかで装備をまるまる新調する必要がある。
なにより少し臭う。
小川で互いの身体を洗わせてはいるが、匂いが染み付いてようでなかなか難航している。
身体を擦るというか、溺れているというか…。
「また数が減ったわね…」
「百名弱といったところかしらねシズネ?折角ヤハウェで色々とこさえたのに」
「そうですね先生、金策もそうですがなり損ない達の拡充も急務かと思います」
「僕らの服装もなんとかしないと、連戦続きで予備の服もシワだらけだし」
街と街の間、街道沿いの林の中で話しこむ一行。
このまま帝国領内を進んでいけば、必ず賞金稼ぎなどにかちあう可能性が跳ね上がるはずだ。
情勢が落ち着くまでは、隣国へ逃れてほとぼりが冷めるのを待つ必要がある。
ヤハウェで購入した帝国領内の地図と、大陸のおおまかな地図を広げて睨めっこする。
「今はヤハウェを抜けたこのシドレの外れ辺りかな?ここからだとローグ連合国も近いけど?」
「いやそれは迂闊だしダメだ。ローグ連合は選択肢から外すべきだ」
「むー…」
自分の案が即座に否定され、ぶーたれるムツキ。
コモレビをジト目で凝視するが、シズネが控え目に手を挙げて意見を述べてくる。
「ではこのゴートレニア国はどうでしょう?」
「中立の立場で連合にも帝国にも属していないと、シドレの住民から話を聞きました」
「ゴートレニアは農業と林業が盛んで、中継貿易で繁栄してきた国であり、それ故に周辺国と余計な諍いを無くす為、中立になった経緯があるとかないとか、受け売りですが」
「中立国ですかー、いいですね!」
シズネが指差した場所は、山羊と角笛の刻印がされた国旗が地図上にマークされている。
中継貿易の要ならば、人の往来が多いだろうし、隠れ蓑にするのはもってこいだろう。
「よしじゃあ異論がないならこのゴートレニア国を目指す。わかっていると思うが争い事は厳禁だ、喧嘩する訳じゃないからね」
「……」
「そこまで短絡的な阿呆じゃないからね、私」
コモレビは兎も角として、シズネやゼンにまで無言の訴えの様な視線をもらい、いたたまれない空気に我慢できなくなったムツキが弁解する。
後で仕返ししてやる。特にコモレビ。
新たな旅の目的地を決めると、今日はもう陽が落ちるということで野営する事になった。
出発は明日ということになり、天幕を二つ用意して、男性陣と女性陣に別れて寝床に入った。
なり損ない達が寝ずの番をしており、時折彼等があげる呻き声以外は静かな夜だった。
「先生」
「先生、起きてますか?」
「寝れないの、シズネ?」
「…なんだか目が覚めてしまって、先生の夢とかお聞きしてもいいでしょうか?」
「夢かぁ…」
「私達の存在を世界に認めさせたいな、他と違うってだけで爪弾きにされるなんて理不尽だし」
「もちろん怪人達も増やしたい、シズネの友達も増やさなきゃだから頑張らないと、ね」
「私も微力ながら先生の夢のお手伝いをしたいです!あと先生、一つだけお願い事してもいいですか?」
「んー?何、何なんでも言って」
「あぅ…」
上目遣いでムツキをみつめるシズネ。
可愛い姿に、ほっぺをぷにぷにして遊ぶムツキにされるがままになっている。
「今日だけ、先生と一緒に寝てもいいですか?」
「うんうん愛い奴め!構わないよ」
返事を聞くや否や、シズネはするりとムツキの毛布の中へ潜り込み、手を握ってきた。
しかも恋人繋ぎだ、シズネ恐ろしい子…。
「先生の肌、ひんやりして冷たい」
「シズネはポカポカしてる、温かいね」
お互いに肌を寄せ合い、体温を確かめあってるようだ。シズネはにやけ顔のまま微睡みの中へ身を委ねていった。今はただ、この場所にいたいから…。
少しでも先生の側にいたいから。
それだけが少女の望みだ。




