うたた寝しましょう
「よーし抵抗するなよ?」
「我々も鬼畜ではない、積荷の半分で手を打とうじゃないか。君達も命は惜しいだろ?」
「身包み置いて来た道を戻りなさい、私達の邪魔をしないのならば命だけは助けます」
「…うん?」
「聴こえた?怪我はしたくないでしょ?」
「面白い冗談だ嬢ちゃん、軽く遊んでやりな」
「へっへっへ」
「変な正義感は身を滅ぼすぜ…」
何度目かわからない台詞に辟易するシズネ。
別に演劇の練習とかではない。
街道を進み、舗装されていない道を進む一行。
ゴートレニア国を目指す旅の途上、帝国領内を離れるにつれてこういった輩が増えた。
国境線沿いの空白地帯を根城にするケチな輩だろう。国の役人でも市民でもない。
旅人達から法外な通行料を吹っかける山賊達だ。
時々賞金稼ぎ風の奴もいたが、同業者だろう。
みせしめで一人を軽く焼却すると、蜘蛛の子を散らすかの如く四散し、何処かへ逃走した。
「「ば、化け物ーー!!」」
「まったく自分の命が大事なら、他人に迷惑をかけないでほしいな」
「やれやれだな」
「んー、そうね」
なんとも情けない捨て台詞を聞きながら、コモレビも剣の柄から手を離す。
ムツキは我関せずな様子で、荷馬車の中に自分のスペースをつくり自堕落な様子だ。
ゼンも段々と慣れてきたのか、もごもごと携帯食をゆっくりと食べている。
ゴートレニア国がいくら隣国だからといっても、移動距離にすると数日はかかる。
各々が暇潰しに読書をしたり剣を磨いたり、惰眠をむさぼったりと、色々しているがそれも限界のようであった。
ムツキはダラダラするのも飽き自作の歌など唄う始末で、コモレビが渋い顔をしている。
常日頃からムツキの熱心な信奉者であるシズネも、これには苦笑いをしている。
「怪人〜♩怪人〜♪」
「僕らは悪逆非道ー、情けを持たない怪人〜♫」
「僕らは怪人〜、理屈の外にいる怪人〜♬」
「血も涙も枯れ果てた怪人〜」
「ふんふん、ふ〜ん」
「「……」」
ゼンだけは、ムツキに合わせて合いの手を入れたり合唱したりしている。
歌詞にはこれといった意味もないのだろう。
ひとしきり唄い終わると真顔でコモレビに顔を向け、暇暇暇と口パクで訴えている。
「えーと」
「…このままの調子なら、あと半日くらいでゴートレニア国には到着しますよ先生!」
「うぃー、シズネありがとう」
「本当ですか?馬車の旅は楽しいですが、そろそろお尻がむずむずしていたんです!」
「ゼン、別に私に敬語は要らないよ。同年代なんだしもっと気軽に話しかけてよ」
「はい、わかりました!」
「ほらまた敬語ー、癖なんだね」
きゃいきゃいと騒がしいゼンとシズネを余所に、剣の研ぎと磨きも終わり、規則正しい馬車の揺れに瞼を閉じて微睡むコモレビ。
黒白張りのタイルの上。
赤い月が天井を染め上げる見慣れぬ景色の中、自分は椅子に座っている。
何者かと会話している自分がいる。
話している相手の顔は自分と同じ顔にも見える、サーカス団のピエロの様なカラフルな衣装だ。
『力が欲しい…、誰にも屈しない力が…』
『おやおや、またその話コモレビ?』
『力の定義は何?』
『誰もが笑えて、誰もが幸福になれる力だ!』
『薄ら寒い理想ね…、吐きそうだわ』
『誰もが笑えるなんて無理よ、この世界は誰かを踏み台にして繁栄を享受しているんだもん。今も昔も、これからだってそう』
『誰かが幸福になる為に、誰かが泣いているの。これは世界の仕組みなのさ!』
『絶対数を減らすことは出来るはずだ!』
『仮にじゃあ君が強靭な肉体に、鋼の様な筋肉を手に入れたとして、その代償に自分のもつ######を全て差し出すとしてもそんな力を渇望する?』
『この世の全てが自分を認めず、自分を排除しようとする時、君は君でいられる?』
『…それは』
『即答出来ないならその程度なのさコモレビ、結局は皆@@@@大事なんだよ?だからこの話はこれまでなのさ』
肝心なところがよく聞こえない。
椅子の周りをくるくると回る道化は、なにか諭す様な事を言っているが、道化の顔が段々と霞がかかってこれも判別できない。
声も高かったり、低かったり。
機械的な人口音声の様にも聞こえる。
『じゃあねコモレビ、●●●●●の答えがわかったらまた逢えるといいね』
パチンと指を鳴らす道化。
夢は唐突に終わり、目を覚ましたコモレビは馬車が停止している事に一拍遅れて気づいた。
あれは何の夢だったのか?
いまいち要領の得ない夢に疑問符を浮かべながら、寝惚け眼をこする。
変な夢だった…。
「ゼン、皆は何処にいったかわかるかい?」
「あ、コモレビさん!」
「今はゴートレニア国近くの街で小休止中です、ムツキさん達は街へ日用品と食糧の買い出しに、僕はコモレビさんがいたのでお留守番してました!」
「そっか、すまないゼン。君も街に買い出しに行きたかっただろう?お詫びに身体でも一緒に動かすかい?剣の素振りでもしようか!」
「剣ですか?僕はからっきしで」
「何事も経験さ、タイチョー君もどうだい?」
「あぅぅ…」
緩慢な動作だが剣を掲げて了承するタイチョー。
ゼンも見様見真似で剣を振ってみるが、なかなか楽しい。時間を忘れて降り続けている。
模擬戦などもしてみたり、型を勉強したりと奥深い世界だなと感動するゼン。
コモレビとタイチョーも、アドレナリンが大量に分泌されているのか二人の模擬戦は本番さながらだ。
剣術の型を重視するコモレビと、型に囚われない我流剣術のタイチョー。
お互いが実力伯仲で、数合数十合とうちあう。
ムツキ達が帰るまで、汗苦しい空間が形成されているのを本人達はわからずにいた。




