すったもんだしましょう
正門周辺はパニック寸前の騒ぎだ。
内側を固く閉ざされ、見張りの私兵達が高台に集まり、集結している市民や商人達に矢をつがえて狙いを定めている。
まだ死傷者こそお互い出してはいないが、市民達の苛立ちと私兵達の傍若無人振りが際立つ。
いつも警備しているのは誰のおかげだ?
と言わんばかりの私兵達の横柄さが、ますます鼻につく。帝国軍はどこも感じなんだろう。
護るべき臣民達を蔑ろにし、自分達の利権だけに固執する醜い者達。
規律と節度を尊んだかつての栄光の軍隊は、もはや見る影もなく、形骸化している。
私兵の指揮官が乱暴に市民達のすがりつく手を払いのけている。
「出せよこの木偶の坊!お前らの頭は飾りなのか?これじゃあ生活にならない!」
「門を開けろっ!何故できない!」
「えぇい寄るな寄るな!」
「街に戻れ!」
「代表からは何人たりともこの街から出すなとのお達しだ!大人しくしていろ、斬り捨てるぞ」
「代表の犬っころ供が偉そうに…」
「お前達は俺達に何をしてくれた?ただ搾取されるだけなのはもう、うんざりなんだよ!」
「代表を出せ!縛り首にしてやる!」
「ま、待ってくれ俺は商人だ!この街の人間ではないんだ!だから出してくれ!」
「叛逆罪で全員逮捕するぞっ!戻れ!」
末期症状だ…。
何もしなくても数日中には、ローグ連合国はヤハウェを占拠できるんじゃないだろうか?
一時期は帝国の国崩しの拠点にと考えていたが、これはダメだ。
民達に見放された街なんて、砂上の楼閣と一緒だ。屋台骨はぐらつき崩れかけている。
必死に基礎工事して骨組みを強化しても、肝心の土台そのものが機能しなくなっている。
この亀裂は修復不可能だろう…。
なら綺麗さっぱり平らにするのが親切かな?
「コモレビ、荷台の男物の服貸してくれる?」
「あぁ…構わないが、何に使うんだ?」
「ちょっとね、野暮用よ野暮用」
「ちょっとは加減してくれよ?僕らはもう自分達で存在をアピールするべきじゃない」
ニヤニヤと満面な笑みを浮かべるムツキに、碌でもない事を考えていると予感するコモレビ。
あれは病気かなにかだ。
騒ぎを起こさずにはいられないという。
男装姿のムツキに不覚にもときめいたコモレビに、耳元でいい子にしててね旦那様、と呟かれてますます照れ顔になっている。
数十分後。
路地裏に消えたムツキが見知らぬ男性の姿で戻ると、今度は代表フェルナンドの姿で正門方向へとゆっくり歩み寄る。
そして激しく言い争う両陣営が、代表の姿を確認して静まるのを見計らい、ムツキは言葉を紡ぎだす。私兵達を焚きつける言葉を。
「無用な騒ぎを起こす者は我がヤハウェの民に非ず。敵の間諜であるのは明白だ、何をためらう?何を恐れる?目の前の輩は全て敵だ」
「お前達の責務を果たせ!」
「お前達はヤハウェの守護者なのだろう?ならば忠義を見せてみろ!働けお前達!」
大音声で粛清しろとの下知を得た私兵達。
正門の守備隊が武器を抜き放ち、弓矢が射られたのを皮切りに、都市側の市民達も武装してあっという間に鉄火場と成り果てた。
おそらく都市側の代表にも化けて、都市側の人間を扇動したのだろう。
あまりにも速い対応にそう想像したコモレビ。
混乱に乗じてトンズラするという古典的な策だが、こうなっては仕方ない。
悦に浸り、騒乱の場と化した正門を、両手を広げて慈しむ様に眺めるムツキを引きずる。
「あぁ…」
「やっぱり人って、素敵だわ!」
「まったく…」
「シズネ、乱戦になる。近場の奴等だけ相手して後は駆け抜ける、いいな?」
「わかりました!先生を頼みます!」
「善処しよう…。あとゼンを誰か抱え上げてくれ、腰をぬかしているみたいだ!」
「ほら立って、男の子でしょ?」
シズネが立つ様に促すが、彼の身体はピクリともしない。初めての戦場に恐怖している。
「……」
口をパクパクさせるゼン。
その襟首をヒョイと掴み、やや雑に運ぶなり損ないの一人。
なり損ない達は、盾を斜めに掲げて乱戦の中を怒涛の勢いで突き進んでいく。
肉が飛び、弓矢が弾け、誰かの悲鳴が響く。
削げ落ちた誰かの肉を踏み、胴体がサヨナラしている遺体を直視してしまったゼンが静かに気絶している。
彼は優しい性格なんだろうと考えながら、出会い頭の一閃で私兵の頭を斬りとばす。
なり損ない達は被害度外視で乱戦を掻き分け、出口へ出口へと向かい、シズネが火炎放射器の様に直線上の敵を物理的に薙ぎ払う。
口元を歪め、その光景を楽しむシズネ。
「「あぁぁあぁああぁぁっっ!!!」
まとわりつく焔を消そうと悶絶し、助けを求めた者にも延焼してこの世の地獄となっている。
真っ黒な私兵だか、市民だかの死体が散乱し、つんと鼻につく匂いが辺り一面に広がる。
最近彼女も、人殺しに対して抵抗感がなくなっている。いや、あれは順応だろうか。
普段温厚な少女と、今の残忍な少女。
どちらが本当の姿なのだろう?
ゼンもあんな風になるのかと、優しい少年のままであってほしいと淡い願いをしているコモレビ。
そうこうしているうちに、惚けから回復したムツキが先頭へと踊り出ては、惨殺劇を率先して行っていた。
武器の類を持たず、素手で鎧の兵士や武装した市民達を圧倒している。
積み木細工の部品の様に、バラバラに人体が弾け飛び、内臓や骨が散らばる。
彼女は自分に付着した返り血を丁寧に舐めとると、隣にいた私兵の心臓を無造作に貫いた。
味方じゃなかったらと思うとぞっとする。
「…ぶへっ」
「をまへ、はだんだん、だよ?」
「さぁね誰なんでしょう?私も知らないわ」
血のあぶくを吐く私兵の問いに答えるムツキ。
自問自答する彼女の日々はまだ終わらない。




