箸休め 帝国の中枢を覗きましょう
帝都ベルへ
ベルへルミナ帝国首都。
東西南北に二重に城壁と城門を構え、更にその外側に水堀を構えた城塞都市だ。
帝都内部へは吊り橋がないと入れず、内門と外門が連動しており、夜間は警備上閉じたままである。灰色の鳥籠の様な印象を受ける。
都市全体をすっぽりと城壁で囲み、中央に城が鎮座している。
帝都周辺の中央圏だけは、全土から税を吸い上げた恩恵を享受している。
行き交う人々や市場にも活気があり、物も人も溢れていた。ここでは買えない物はないと、商人達が口を揃えて言う。
地方の特産品も、外国の珍しい果物、絹織物など金に糸目をつけなければだが。
帝都ベルへは、城には支配者階級たる王弟の縁者達と貴族が、特権階級には地方の豪族や役人。
上流階級に商人や職人。その他一般の民が下流階級と階級毎に住み分けがなされており、この等級制度は並大抵の事では覆らず、帝国の理不尽の象徴ともなっていた。
唯一の例外として、国軍に属する軍人とその家族達はこの制度の外にあった。
忠誠を誓っていた並居る諸侯達が継承戦争の際離叛し、帝国国軍だけが王弟支持を表明。
以来王弟は国軍贔屓となり、国家予算の三割を軍事費に注ぎ込むなどの厚遇策を実施している。
また日頃の感謝と敬意を表す為に、年に四回程帝都へ主だった将官と、戦功めざましい士官、また今年本配属となった新人を招いた晩餐会をたびたび開き、労を労っていた。
帝都周辺には今、その晩餐会に招待された将官達が一堂に会していた。
「やぁ、ケイティ!まだくたばってなかったか?身長は去年より伸びたんじゃないか?」
「相変わらず五月蝿い奴ねレイノルド、あんたこそやかましさに磨きがかかったんじゃない?」
両者共に憎まれ口をたたき、ニヤッと微笑み合うと固い握手を交わして再開を喜んでいる。
「久しぶり、元気そうね。息子さんは元気?」
「あぁケイティ、おかげさまでな。君が息子に会うたんびに甘やかすおかげで、俺に懐かなくてしまったんだよ」
「だって可愛いから仕方ないでしょ!あんな丸くてころころして、天使な笑顔を振りまいてくれるなんて、罪な坊やだわ本当」
「子供が好きなら君も理想の人を見つければいいのに?お眼鏡に適う方は出てきた?」
「当分はいいかな…」
「それに私の旦那さんは戦場だから、この国が本当に平和になったら考えてみるわ」
「じゃあまた晩餐会でレイノルド!」
「食い過ぎるなよ〜ケイティ」
「バーカ」
舌を出しながらも笑顔のケイティ。
冗談めかした会話も、彼女は快く応じてくれるのでついつい長話してしまう。
ケイティは自分達の上役に挨拶した後、部下達の元に戻るやいなや仕事顔になっている。
相変わらず真面目だなぁ。
そうこうしているうちに、自分達の上役たるホフマン元帥がゆっくり近付いてくる。
「レイノルド」
「はっ!ご無沙汰しておりますホフマン元帥!」
「王弟陛下にくれぐれも無礼がないように、それと王弟婦人が御懐妊という噂もある。いつも以上に警戒を厳となせ」
「よいな?」
うへー何度目の御懐妊だよ。
いや何人目と訂正した方がいいだろう、王弟さんは在位してからこれで20名以上お世継ぎが誕生しているだろう。最初こそは祝辞などが届いたが、こうも頻繁だとまたか程度となってしまう。
正室に側室、妾に愛人、側仕え等等、将来の帝国の禍根がまた一人御生れになるそうだ。
メデタイ、メデタイ。
宰相殿の髪がまた減るな…。
「わかりました!部下達と徹底いたします!」
言いたいことだけ言うと、ホフマン元帥はレイノルドから離れていく。
どうもあの堅物親父が苦手な自分がいる。
ハメを外しすぎるなと、わざわざ自分に釘を刺しにきたようなもんだ。
傍らには元帥の懐刀、ターナー卿が寄り添って世間話をしている。同期だからか、元帥も顔が緩んでいる様にもみえる。
帝都の晩餐会が厳かに開かれる。
白い儀礼服を着こなし、式典用の赤マントを羽織り玉座の間にはこの国のトップが着席していた。
ホフマン元帥達も白い儀礼服を着用し、最敬礼で王弟陛下の前にいた。
ダニエル・ベルへルミナ。
現在の帝国のトップであり、直系の血筋である皇太子から帝位を簒奪した罪人である。
「ホフマンよ、忠信大義である。今宵は存分に飲みくらい明日への英気を養ってくれ」
「はっ、有り難く頂戴します」
「うむ」
「ケイティよ、久しいな。昨年の内乱鎮圧誠に有難う、貴君こそ帝国の宝だ」
「はっ、勿体無き御言葉感謝します!」
ケイティはこの俗物が嫌いだ。
言葉に気持ちが乗らない。
無節操に女性を侍らせ、政治にも無頓着、内政は宰相や大臣任せ、結果今日の腐敗を招いた。
晩餐会の無駄に豪華な食事を餓えた民に配給すれば、そもそも反乱など起きなかっただろう。
私達のご機嫌とりで、こんな晩餐会を開く意義が果たしてあるのだろうか?
ケイティの表情は険しいままだった。
『不動』
ホフマン元帥。
帝都防衛隊、親衛隊や近衛隊、国軍中央軍集団を統率する第1軍司令官。
先代皇帝からこの地位に在位し、歴代の元帥の中でも最長の長さとなっている。
会戦を得意とし、定石や搦め手を用いた戦法で数々の勝利をもぎ取った実力者。
『無星』
ターナー将軍。
帝国国軍内地担当を統率する第2軍司令官。
ホフマン元帥の同期として、長年懐刀として活躍する影の実力者。
また城塞や砦を陥とすのが巧みで、城壁崩しの別名で呼ばれることもある。
ホフマン元帥とターナー将軍共に、異能の力を持たない無能力者だが、経験豊富な古強者だ。
『圧壊』
ケイティ・ベル将軍
赤毛を肩まで伸ばした小柄な女性。
帝国国軍外縁部を担当する第3軍。
元は軍人ではなく商人の娘であったが、異能の力に目覚めてからは軍へ転身。
主に帝国国内の内乱や、国外の脅威に対抗する軍団である。圧壊とは彼女の目覚めた異能を指し、帝国に叛旗を掲げた者達を悉く、彼女の異能で肉塊へ変えたことから由来する。
帝国こそが世界を変えると信奉する。
狂信ベルとも呼ばれる。
『瞬歩』
レイノルド・ギブソン将軍
栗色の短髪に、やや細身の青年。
帝国国軍辺境部担当の第4軍を担当する。
荒くれ者達の多い第4軍を、腕っぷしだけで統率する豪快な性格で、戦略や戦術を思案するのは不得手であるのだが、彼の異能がその弱点をカバーしている。
空間に干渉する異能で、個人や集団を任意な場所へ転送する事ができ、陣形を無視した多様な突撃で武功を積み上げた実績がある。
一部では無策のレイノルドと揶揄される。




