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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
天使と悪魔と
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箸休め 眠り王子と語りましょう

ヤハウェとローグ連合国との戦いの後。

事後処理や私兵達の配置換え、戦死した兵の遺族達への見舞金、傭兵達の清算、諸々の作業での時間がいくらあっても足りない。


こんな忙しい最中に限って、帝都からの納税官がヤハウェにきたりして、代表をはじめとする上層部の苛立ちはピークに達していた。

義援金を送るではなく、逆にせびりにくるとは何事かと、あれこれ理由をつけて丁重に帰っていただくことにした。

袖の下を多少渡したのは癪だが、いい物の食べ過ぎで早死にしちまえと、呪詛の念を送る。



ムツキ達はあいもかわらずな状況だ。

戦いの後、ヤハウェをとんずらしてもよかったのだが、マクベスの件が気掛かりだったし、私兵達の表情があれから暗い。

なんとなく居着いてししまって、そのまま数週間と経とうとしていた。


「コモレビ、暇ね…」


「あーそうだね」


「今日は曇天ね、雨にならないといいけど」


「そうだね」


他愛もない会話をする二人。

どうもムツキは、昨日の事を思い出して照れているようで、顔がやや赤い。

コモレビも気丈に振る舞ってはいるが、ムツキよりもより症状は深刻だった。

返事が全部短文で、感情の起伏が乏しいようだ。


「……」

「そういえばシズネは?最近姿を見せない時があるけど?また眠り王子のとこかしら?」


「あぁ、毎日欠かさず様子を見にいってる。同年代の友達ができたのが嬉しいんだろう。大目にみてあげよう」


「背伸びしてみたり、おませな女の子だったりするけど、遊びたい盛りだからね」


少女は決まった時間に姿を隠す。

眠り続ける王子の看病と、本人は見栄っ張りな嘘をつくが、実際は目覚めた時にいの一番に話したいのがみえみえだった。



眠り続けてもう一カ月だ。

食事をとっていないのに、肌艶はよく、脈もきちんと動いている。植物の様な光合成だろうか?


最初は黙って彼の顔を飽きるまで観察する。

眼の下に小さなホクロがあったり、マツゲが女性みたいに長い。

時折話す寝言を聞いて、意外に声が高いんだなぁと新たな発見がある。


「君は何処の生まれなのかな?どんな事が好きで、どんな事が嫌いかな?」


「家族とは仲良くしてた?友達は何人くらいいるの?出来れば私とも仲良くしてほしいな」


「私ばっかり質問しても答えにくいよね」


少女の問い掛けに、寝息だけが返ってくる。

ひとしきり話終えると、シズネは小脇に抱えていた小説を読み始める。


眠り王子のベッドの側には、シズネおすすめの冒険小説だったり、推理物・歴史物などが積み上げられている。

彼女は訪れるたびに置いていくので、今は小さな山の様に積み上げられている。


太陽が眩しいくらいだったのが、いつの間にか日は傾き、肌寒い風が吹いている。


「…もうこんな時間か」


どうにも読書すると夢中になるらしく、今日読んでいた悲恋物の小説に栞を挟み、椅子から立ち上がって軽く伸びをする。


王子の布団をかけ直し、今日のおすすめ本を置いてからお暇しようとした時だった。


「…て、ま、…」

「?」


「…待って、こんなに本があったら読みきれないよ。どれか一番面白い?」


「私的には伝記小説もいいと思うから、これなんてどうだろう?過去の傑物達に想いを馳せるのも楽しいと思うんだ!」

「それよりも!?」


「…それよりも?」


「貴方の名前はなんていうの?」


「僕はゼン。君の名前は?」


「私はシズネ!よろしくゼン、今日から私と同じ怪人仲間よ!何でも聞いてね!」


「うん、こちらこそシズネ!」


柔らかく握られた握手。

お互いの事が僅かながらに知れて嬉しいのか、晴れやかな笑顔だ。

それから数時間話しこみ、帰りが遅いとコモレビにどやされ、ムツキが甘やかしたりとか、しなかったりとか。


少年の止まっていた時間がゆっくりと動く。

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