隊商を警護しましょう
ヤハウェにはそれぞれ異なる部門がある。
生産部門・商業部門・輸送部門・警備部門と役割の違う部門がそれぞれ存在し、今回ムツキ達が代表に紹介されたのが、荒事専門の部署である警備部門であった。配属先はこちらでは選べない。
この警備部門は、日雇いから短期・長期契約者、出稼ぎ労働者など、実に多様な働き方の人材が揃っている。他の部門に比べても給料は高いが、その代償に危険が伴う仕事であった。
ヤハウェの城外・城内配属であったらまだ希望はあるのだが、ユメミ草の生産地警備か隊商の警護担当になると最悪であった。
四六時中構えていなければならず、死の危険が常についてまわる。襲撃者達は昼夜問わず現れ、商品と自分達の命を奪い去り、後には何も残らない。
この部門の人材はよく入れ替わる。
欠員が出れば補充され、またその繰り返し。
一週間もたたずに、数日で殉死もざらだった…。
うまい話には裏がある。
破格の日給には危険手当も含まれており、月給ではないのはこういった事情が加味されているからだ。
今回担当するのがその隊商の警護部隊。
ユメミ草の生産地とヤハウェの往復を担当するのが主な任務だが、一緒の班の警護部隊は明らかに新人だらけで誰がみても囮の捨て駒だった。
本命は別の隊商達だろう。
生き残ればいいな程度の扱い。
「…先生、これはやはり」
「試されてるって事よ、雛鳥達と一緒に泥にまみれてもがけって事かな?」
「楽な仕事なんてなかなかないな、まぁ頑張ろうかムツキ。頼りにしてるよ」
「えぇ、頼りにされたわコモレビ!」
「私は物凄く不満です!あの代表に!」
ムツキ達の和気藹々とした雰囲気に、新人の警護部隊のメンバーも和んでいる。
そんな空気とは裏腹に、他の班の警護部隊は、ムツキ達が最初の任務で、生き残るか全滅するかで悪趣味な賭けに興じている。
「往路は生きて、復路で全滅に銀貨5枚!」
「街をでて直ぐに襲撃されるに銀貨10枚!」
「街を出て直ぐなら俺たちも危ないだろ?だからそこそこ頑張って隊商だけ生かして帰るに銀貨8枚ぶっこむぞ!なけなしの金だ!」
代表であるフェルデナントに、鳴り物入りで採用されたムツキ達新参が気にくわないのだろう。
過激な発言を繰り返す古参連中。
彼らには、代表と一緒にこの街をでかくしたという共通意識があるのか、必要以上に敵視している。
そんな視線に憤慨する一人の少女。
最近の彼女はとにかく過激だ。
「…先生への侮辱許せない、あいつら燃やしていいよね?屑はよく燃えるのよ…」
「こらこらシズネ!最近沸点が低いな、もう少し我慢を覚えてくれ。あんな雑音気にするな」
目から殺意を滲ませるシズネを、コモレビがなんとか宥めるも、あまりいい気分はしない。
ムツキは隊商の商人と地図を広げて、目的地の場所や危険な場所、休憩ポイントなどの軽いレクチャーを受けていた。事前の最終確認だろう。
「いつも往路は安全なんですが、復路の襲撃が圧倒的に多いです。多少日数がかかっても廻り道してヤハウェを目指した方が無難かと…」
「じゃあ廻り道しましょう。回避できるならリスクは低くしたいし。あとは襲撃者達の目星とかは検討はついてるの?」
「いえ、それなんですがムツキさん…」
「食い詰め者達だったり、第三国の外部の者達だったり、はたまた同業者だったりとまちまちなんですよ。ユメミ草は金になりますから」
「…関わる者の理性を失くす花、か」
「ムツキさん何か言いましたか?」
「いえ、つまらない独り言よ…」
ユメミ草の生産地へはヤハウェから数日かかり、日暮れ前に開けた場所に野営するのが隊商のセオリーで、守り易く攻めづらい場所が好まれる。
道中、隊商の左右になり損ない達を二十名ずつそれぞれ配置し、その内側に新人達を配置、タイチョーとシズネを先頭に、最後尾にはコモレビとムツキが配置についた。周囲を警戒する。
だが目立った混乱はなく、ユメミ草の現物を受け取った帰り道も順調で、残り半日ほどでヤハウェに到着する、まさにそんなときだった。
ピッーー、ピッーーー。
聞き慣れない笛の音と同時に、つるべ打ちに矢がいかけられ、それに呼応する形で応戦するシズネの火焔が後ろからも確認できた。
「…ぎゃあー!」
「敵だ!敵襲だっー!」
第1波の攻撃で複数の商人と新人の警護部隊から死傷者がででいた。不用意に喚き散らしているせいで、あれじゃあいい的だ。
次々に矢が殺到して、頭数がみるみる減る。
手際がよすぎる。
「なり損ない十名は戦闘待機、残りは前のシズネ達の援護にいきなさいっ!」
「「…あぅーー」」
緩慢な動きだが、のっそりと動くなり損ない。
襲撃者達は腕がいいのか、更に弓箭を浴びせてきて、こちらの対応を乱しに乱し、闇雲に突進した新人達が多数射殺された。
出会って数日の奴らだったが、儚いものだ。
つい昨日同じ釜の飯を食べていたのに、もう目の前で冷たく横たわっている。
コモレビが怒気を孕んだ指示をだす。
「死にたくないなら盾の中に入れ!次がくる、勝手な行動はするな!」
「…へ、へい了解です」
「シズネは大事ないかーっ?」
「不思議と、元気っ!!」
コモレビの大声の呼びかけに、負けじと大声で返すシズネ。火焔があがるたびに襲撃者達の悲鳴が林にこだましている。
居場所がわからないから、手当たり次第にシズネは炎をばら撒き、襲撃者達を燻り出している。
襲撃者達も、頑強に抵抗するムツキ達に、応援を呼ばれると思ったのかゆっくりと後退していく。
付近を見回し、討ち取った襲撃者の数とこちらがやられた数を数えると、転がっている数はこちらのほうが多かった。
初戦はこちらの敗北だろう…。
だが、奴等の神経を逆撫でにしたいムツキは、彼らに向けてメッセージを残す事にした。
シズネが焼いた焼死体を磔にし、首から下には看板を吊るして、通りの見晴らしのいい場所に晒しておくことにした。
誰でも見れる様に。
「…ムツキ、やっぱり君は性格が破滅的に捻じ曲がっているな。どこか屈折してる」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
看板には皮肉を込めつつ、襲撃者の血でこう書いてあったという。
『ユメミ草は貴方達を幸福にします』
物言わぬ骸の腕には一輪の白い花を添えて…。




