鎮魂歌を唄いましょう
「積荷は五番倉庫にっ!後続がくる、道を開けろ!早くっ!そこ道あけてくれっ!」
「傷の軽い者は左、重い者は右だ!」
「慎重に降ろせ、傷に響く!」
「こいつはダメだ、傷が深い。なにより出血が酷いな、鎮痛剤を渡しなさい。私達じゃあもう手におえないな、牧師様をここに…」
「次の者を!」
「あぁぁ、痛い、痛い…」
「今日の便はまた手酷くやられてるな…」
ヤハウェに到着するとすぐに、積荷の荷降ろしと負傷者達とで正門前がごった返していた。
ユメミ草の他に交易品が山積みされ、他部門の職員や組合員、下男達が汗水流している。
血塗れの荷馬車や、警備担当の者達が血と汗にまみれて薄汚れている。他の隊商達からも多数の死傷者が出ているようで、戦場帰りの様相だ。
馬車だけが生き残り、積荷は無惨に荒らされて、物言わぬ死体だけが帰ってくることもざらだ。
そんな光景は何度も見ているベテラン達ですら、遣る瀬無い気持ちに支配される。
ヤハウェの医師や看護師が総出で看病しているが、容赦のない取捨選択を迫られ、こちらも予断を許さない状況だ。命を救う為に、他の誰かの命を見殺す。
遺体の数も増えており、続々と広場に並べられては名前と遺留品が添えられている。
新人やベテランの区別なく、彼らはもう動きたくても動けない。死は等しく平等に訪れ、理不尽に終わりがやってくる。
誰しもが夢を抱えてこの仕事を選び、その夢の半ばで冷たい土の中へと埋葬される。
家族や親類縁者が来ればいい方で、最期を看取る者のいない無縁仏達は纏めて火葬にされるそうだ。
燃える遺体から上がる火花は、無言の彼らの訴えの様であった。
夢の終着点にしては、あまりにも残酷だ。
「…コモレビさん、彼らはちゃんと天国に行けるでしょうか?それとも地獄でしょうか?」
「真っ当な人間なら天国だろう」
「けど君は優しいなシズネ、見ず知らずの人達の為に涙を流すなんて…、きっと君の祈りは彼らにも届いたはずさ。だから泣かないで見送ろう」
「そう、…だといいんですが」
「今を精一杯生きる…」
「どれだけ生きれるかなんて神様にしかわからないし、俺達はそれを知る術を持たない。後悔だけはしないようにしたいな」
「はい、肝に銘じておきます」
私達は何処からきて、何処へいくのか?
漠然とした考えを抱くと、涙が瞳から溢れて止まらない。私も一歩間違えれば燃やされる側にいたかもしれない、絶対なんてないのだから。
頭をポンポンと撫でられ、コモレビさんは私が落ち着くまで手を握り、黙祷してくれた。
ムツキ先生も近くで花を買い占めて献花している。死生観の違う先生にしては驚きだが、誰しも死者を慈しむものなのかもしれない。
「…先生、彼らを私達の仲間にはできませんか?少しでも可能性はありますか?」
「難しいわシズネ、魂の離れた肉体はただの脱け殻だわ。個としての定義である魂がなければ、起き上がった者は別の存在。この世界の異物にしかならないわ」
「わかるわね?」
「…はい、先生」
期待に満ちた瞳のシズネを、真っ向から否定するムツキ。彼女にもできないことはある。
誰かの為に祈る。
それが彼らへの鎮魂だろう。
…………
代表のフェルデナントは沈痛な面持ちだ。
「皆、何か打開策はないか?」
執務室に居並ぶ各部署の責任者達や、ヤハウェの有力者達を集めて意見を求めている。
ジリジリと儲けが擦り減らされ、このままではじり貧だ。帝都への上納金も徐々に吊り上げられ、頭の痛い額に膨れ上がっていた。
奴等はこちらの懐事情などお構いなく、叩けば湯水の様に金銭が湧くと考える節がある。
浪費家の王弟に、追随することにしか頭のない側近連中、更には特権階級に固執する貴族共。
交易隊をぶつ切りにしようが、交易路を変えて隊商の規模を変えようが、どこかの隊が必ず襲撃される。知恵比べもそろそろ限界だ。
「やはり内通者がいるとみて間違いないかと?」
「いやいやそれは早計だ、いっそ金喰い虫の帝国に見切りをつけ、第三国に保護を求めては?」
「昔から帝国とべったりのヤハウェが、今更離れられんでしょうさ。癪ですが、帝国の国軍に助勢を請い一気呵成に!」
「それでまた無理難題を吹っかけられる気かな?あの香水臭い馬鹿妃が、また離宮を欲しがるぞ。自殺ならよそでしてくれや」
「他に意見はあるかな?」
代表の一言で、紛糾していた執務室には静寂が訪れた。顔を見回しても、自身なさげに顔を伏せていくばかりだ。
どうしたものか…。
一縷の望みをかけて、警備部門の代表に視線を送ると、ニヤリと微笑んでいる。
髪を短く刈り上げた筋肉質な青年だ。
「ほっほっ、マクベス自信があるのかな?」
「えぇ旦那、うちの新参が街道に面白いものを飾っていてね。それを大規模にやってみないかい?試してみる価値はあるだろう」
ムツキがやけっぱちで行なった磔を、警備部門全体で行う方針が決定され、相次ぐ襲撃者を誘き寄せる撒き餌として利用されることとなる。
交易路も一つに絞り、警備部門全軍でその護衛を務めることとなった。
ヤハウェは決戦する意思を固めた。
後は伸るか反るかの丁半博打だ…。




