身辺整理をしましょう
傭兵団達とムツキ達の戦いは終息し、隣山の山火事もなんとか延焼せずに鎮火した。
ガーフィール家のお屋敷の者と、近隣の村々の住人が総出で対応し、なんとか事無きを得た。
しかし疑問点がある。
この辺にはこんなに大勢の人間はいない。
だが実際に身元不明者の死体が多数でており、誰が誰だかまるで検討もつかない。
ガーフィール家の者は、現場にいた食客であるコモレビに理由を聞く為に、屋敷の執務室へ本人をよんだ。
ムツキと見知らぬ少女、黒い鎧の者も一緒に。
【本当に大丈夫かムツキ?一芝居うつのは賛成だが、上手くいくかい?】
【ふっふっふ、このムツキさんに任せたまえ!劇場の女優の様に、役になりきるさ】
【ムツキ先生、…私は何をすれば?】
【シズネは静かにしていてね】
【はいわかりました!】
ガーフィール家の屋敷の執務室へ向かう道中、ひそひそ声で話す三人、なり損ない達は数こそ減ったものの、タイチョーに監督を任せて屋敷の前に待機してもらっている。
気丈に振る舞っているが、シズネの傷は癒えておらず、身体が常に熱っぽい。
ムツキが気休めで包帯を巻いてみたが、効果はいまいちだった。包帯そのものが熱をもち、チリチリと微小な火の粉が舞っている。
ムツキとコモレビは、昨夜の件で多少ぎこちないが、あまり表向きには蒸し返さない姿勢だ。
やがて執務室までくると、中にはガーフィール家当主と、執事、衛兵が数名いる程度で、内密な話をする体裁を整えている。
当主が軽く咳払いすると、衛兵達が執務室前の扉を閉め、執事が恭しく一礼して退出する。
「昨日はいったい何があったんですか若様?あまり目立つ様な真似は控えてほしいと、口を酸っぱく申したはずですが?」
「王弟派を喜ばせる真似だけはしないでいただきたい、貴方は皇太子派の希望の星なんです。もっとご自愛して下さいませ。なにかあったら私供の苦労が一瞬で徒労に終わってしまうんですぞ?」
「申し訳ない、ガーフィールさん…」
「軽率であった事は謝罪しよう、だが理由が無い訳ではないんた。私達にも意地があった」
「お伺いしても、よろしいですかな?」
いつも穏やかな表情の当主が、今日はいつにもまして剣呑な表情だ。眉間に皺がよりっぱなしだ。
コモレビの表情から厄介事の気配を感じとった当主は、さらに追及する構えだ。
「ムツキも何故あの場にいたんです?それにそこの少女と、屋敷前の一団は何ですか?若様の私兵達とは違うのでしょう?」
当主の目がムツキへ動くと、彼女は動揺など微塵もみせず、当主の目を見つめながらに昨夜の状況を語りだした。もちろん嘘と真実を織り交ぜながら。
「まず私共は、元々は皇太子様の一族に代々仕える影にございます。戦況の悪化にともない、尊き血筋の若様の身辺警護せよとのお達しを受け、こうして馳せ参じた次第です」
「…なんとっ!?皇太子殿下はご無事か?」
「わかりません…、影の手練れがお側を御守りしておりますが、ご無事かどうかまでは。昨夜の襲撃も王弟派が送り込んだ傭兵達で、遠縁にあたる若様を狙ってのことかと愚考します」
当主が思っていた以上に、事は深刻だった。
秘匿すべき若の所在がばれ、襲撃を受けたとなれば、我々の立場も危うい。居場所がばれているのなら、我々が隠し立てしていた事も筒抜けだ。
なにか策はないか…。
当主とムツキのやりとりを、シズネはただただ感動し目がキラキラしている。
コモレビは気味の悪い何かをみせられてるようで、ムツキ本人を凝視している。よくもまぁペラペラと、ある事ない事を言う彼女は詐欺師かなにかだ。
「今後はどうするのかムツキ?ここに仕えにきたのも偶然ではあるまい?」
「恩人であるご当主様を騙す様な真似をしたのはご容赦くださいませ。幸い、屋敷前と此処にいる我ら影は健在ですので、若様と所縁のある者の所へ流れていきます。当主様はただ私共の事は、知らぬ存ぜぬを通して下さい。躊躇いは捨てて下さい!」
「しかしだな、私にできる事はないか?これでは私が見捨てたようではないか!旅の路銀や、宿屋のツテはあるのかムツキ?何かさそて欲しい!」
「では、馬車一台と馬を三頭ほど都合して頂ければ有り難く存じます。あとは適当な武具や携帯食を」
「わかった!手配しよう。本来なら我々が決起すべきなのに、安穏と時を過ごしてしまった。若様もどうか心健やかに…!我等はいつも側におります!」
「ガーフィールさん頭を上げてくれ、厄介事が終わったら夕飯でも食べにくるさ」
「わかりました、お待ちしております!」
「若を頼む、ムツキ…」
「はい当主様、この身にかえても」
一行は執務室を退席し、屋敷の前に用意された馬車に乗って、その場を後にした。
馬以外にも日用品や、食糧、若干の嗜好品や娯楽代わりの古い本が積まれていた。
「なかなかの役者じゃないかムツキ?」
「役者に転職でもしようかな?」
自分達の行く先はわからない。
何処へ向かうかもわからぬままに、なり損ないを引き連れて旅に出る一行。




