覚悟を示しましょう
傭兵達となり損ない達の戦いは熾烈さを増している。なり損ない一人に対し、必ず傭兵達は数人ずつで対応し、連携を断ち切り個別に討ち取ってその数を減らしつつあった。
半数以上は倒しただろうか…。
馬鹿騒ぎをしていた仲間の弔い合戦だ、どんなに戦況が悪かろうと諦めきれない想いがある。
単なる仲間とか戦友、悪友と表現してもいいかもしれないが、上下の関係より横の繋がりが強い傭兵達にとってそれは特別な絆だった。
それが何かはわからないが、彼らが剣を手放すことはなかった。
戦場は彼らの日常で、彼らの存在証明の場所だから、彼らは諦めきれないのだろう。
死ぬ時は戦場だ。
惨めに生き残ったら仲間に笑われる。
怪我が悪化して、ベッドの上でくたばるなんて笑い話にもなりゃあしない。
たとえそれで死ぬ事になっても…。
あの焔の魔女と、影の魔女に一泡吹かせる。
どんなに人外だろうが、人と似ているのなら傷を与える事だってできるはずだ…。
シズネは傭兵達のしぶとさに歯噛みしていた。
既に大多数の傭兵達は倒れ伏し、残っている者も少なくなっているのに、少女の眼前には不敵な笑みを浮かべている者達が確かに存在する。
【なり損ない達の残りの数は?ムツキ先生はご無事なのか?こいつらはあと何人いるのか?】
「よぉ嬢ちゃんや…」
「あんまりおっちゃんをなめるなよ?戦いの最中に考え事なんて相手に失礼だと思わんかね?」
「…はっ、偉そうにほざくな。あんたらは等しく塵芥に成り果てて、田んぼの肥料にでもなったほうがいいのよ。不愉快だわ!」
シズネの前に立つ、頰に傷のある軽薄そうな男が不意に語りかけてくる。
周りには炭化した傭兵達が無数に転がっているのに、彼からは怯えるような感情がみえない。
強大な敵にも怯まない、負けん気の強さというか意思の様な力強さを感じる。
「まぁ聞きな嬢ちゃんや、あんたその焔上手く扱えきれていないんだろう?身の丈以上の力は、自分に跳ね返ってくるもんさ」
「そんなもんに頼るな、あんたが人でいたいなら今すぐそんなまやかしの力捨てな…」
「ご忠告どうも…」
「よく喋る悪党ね。最期に一つ聞くわ?ハテノ村を襲ったのはあんた達か?」
身体から黒煙混じりの焔をあげているシズネ、確かにこの傭兵の言う通り身体が異様にに熱い。
熱のこもった鍋の様な沸騰状態で、意識が朦朧としているのは事実だが、今はそんな事どうだっていいことだ…。あいつらは敵。
私達の村を、家族を奪った敵だ。
僅かな金に目が眩んだ、人の皮を被った害獣。
「誰が何処を襲ったかなんて誰も覚えちゃいねーよ。あんたの村と同じ様な光景は、いくつもあったからな。戦の世の常だ…」
「結局、…この世なんてそんなもんさ。食うか食われるかだろ?」
「そう、じゃあ懺悔しながら」
「燃えてなくなれっ!」
黒煙混じりの焔が軽薄そうな傭兵を、撫でる様に包み込んでいくが、直ぐには焼死しなかった。
それどころかシズネの首筋に歯を突き立て、ニヤッと嗤いながら崩れさった。
「…ぐっ!こいつ、よくもっ!」
炭化した傭兵の身体を蹴りつけ振り払ったが、久々に感じた死の恐怖に冷汗がでる。傭兵の真っ黒な死体と視線が絡む…。シズネの中で忘れかけていた記憶がじわじわと蘇る。
あの蒸し焼きにされた教会の中の事を…
傭兵達の死体が、かつての村人達の死体とだぶってみえる。私はどうしてしまったんだろう?
忌まわしいあいつらと同じ事を私がしたの?
私もこいつらと同類、同じ害獣なのかな?
頭がクラクラする、世界がまわる…。
「…っい!おいっ!」
【誰かが呼ぶ声が聞こえる】
【懐かしい声、私を呼ぶ声?】
「おいっシズネ!大丈夫か?」
【あぁなんだコモレビさんか…】
【やっぱり兄さんに、雰囲気似てるな…】
薄っすらと見えたコモレビを確認して安心したのか、シズネは意識を手放した。
彼女の身体は驚くほど冷たい、焔に自分の熱を全て奪われたかの如く冷え切っている。
コモレビは自分の上着でシズネを包み、生き残りのなり損ない達と合流する。
ムツキと相対する頭目風の男。
彼の仲間が全滅したというのに、別に命乞いをする訳でもなく、一騎討ちを申し込んできた。
彼の瞳からは諦めがない。
そのまま一蹴してもよかったが、ムツキは彼の誘いに乗ることにした。
全身満身創痍にもかかわらず、決闘用の剣を投げてよこすご老体。
彼の末期の頼みを無下にはしたくなかった。
「感謝する、これを使われよ」
「さぁ、いつでもどうぞ?」
裂帛の気合いの入った斬撃をあえて受け、肩から胴にかけて切り裂かれ、返す刃で内臓を抉られる。
凄まじい斬撃。
だが長くは続かない、徐々に力はなくなり、弱々しい刃が向けられるが、なおも粘るご老体。
剣なんてからっきしのムツキだが、ご老体の胸をゆっくり射し貫き、この決闘を終わらせた。
どうにも死に場所を求めていた風に感じた。
彼の願いは叶ったのか?
それは誰にもわからない。
「…私もいつか答えが見つかるかな?」
いつしか日は昇り太陽の光が辺りを照らす頃、周囲はなり損ないと傭兵達の死骸で埋め尽くされていた。
死臭が辺りにたちこめ、生者の寄り付かない死の都のような様相だ。
逃げ出した者もいたかもしれないが、ほとんど傭兵団連中は壊滅といっていい被害だろう。
なり損ない達に囲まれる様に守られているシズネとコモレビに、ムツキがゆっくりと歩み寄る。
「お疲れ様コモレビ、シズネもありがとう…」
「あぁ、お疲れ様」
危なげなくもあの乱戦を生き残ったコモレビを労い、疲れ果てて横になっているシズネを愛しげに撫でているムツキ。
小さな寝息に心が安らぐ。
今の私の居場所はここなんだ。
「…なぁムツキ」
「ん?なんだいコモレビ君?」
「ここまでやる必要はあったかい?彼らとの戦いは、途中から一方的な展開だった…。これではまるであの王弟のやり口と一緒だ!」
「…コモレビ君、主義主張の食い違う両者が理解し合うには、これしかないのさ。つまり理想の押し付け、生存競争なの…」
「弱い動物は強い動物に淘汰される、それと一緒。とても自然な事じゃない?」
「しかしだ、これは…」
そこまで言うと、我慢の限界となったムツキがコモレビの胸ぐらを掴み、更に続ける。
冷たい眼差しのまま。
「コモレビ…」
「君の進み道はまさにこれだろう?死者の血が河となり、髑髏の山の玉座に座る。その山の頂には王弟の一族の首を並べてね、今更自分が正常なんて思うなよ。そんな感覚は捨てなさい」
「自分の考えに染まらない者達は、皆こんな風にすればいい!なんで悩むの?」
「君には期待してるんだよ?」
「……」
それっきり黙りこんだコモレビ。
やれやれ、甘ちゃん坊やには刺激が強過ぎたかな。それにこれだけの騒ぎを起こしたんだ、これ以上はガーフィール家にも迷惑をかける。
新しい居場所を見つけないと…。
なり損ないの補充に新しい怪人の創造。
やる事が山積みだと、嘆息しながら今後の展望を思案するムツキは愉しげだった。




