乱痴気騒ぎをしましょう
陽が落ち辺りが夕闇に染まる頃、傭兵団達は徒党を組み、総勢数百人規模となって傭兵狩り達のいる小屋を取り囲む。
鎧の擦れ合う音で気配が察知されないように、身を屈めて這うように、ゆっくりと。
匍匐前進なんて久々だ。
これみよがしに松明の火を掲げているのは先鋒兼囮で、本命はその逆側に配置し、左右を各傭兵団の精鋭達が固める。
いくつか網を張り、襲撃されるのを待ってから、
『黒い外套の二人組』を徹底的に尾行し、根城を探す。多大なな犠牲を払いつつも、その成果が現れたのはつい先日のことだ。
場所を下見したら、随分と辺鄙な場所であった。
周りには集落もなく、店もなく、ガーフィール家の屋敷からも離れた小屋。
何が起きても誰も知らない、おあつらえ向きだと確信したが同時に嫌な気配も感じる。
これみよがしにご馳走が用意され、そのご馳走の前に処刑人でも立ってる様な違和感。
触れざる場所なのかもしれない。
「親父、総攻めで嬲り殺しにしやすか?」
「あっちの手勢はこっちより少ない…」
「待ちな、後続が到着するまで待機だ。鼻の下がひくひくしやがる、こういう時は迂闊に動くのは得策じゃない…」
「…いつもの勘ですかい?」
「まぁ、そんなところさ。それに妙なお友達がいやがる、奴らの仲間か揃いの黒鎧供が気になる。飛び道具で仕留めたいな…」
「わかりやした、弩の装填をさせときやす…」
「…おいっ!」
「?」
「…なんでしょうか?」
「帰ったら高い酒を浴びる程飲むぞ。奢ってやるからちゃんと戻れよ、部下達に伝えろ」
「親父も律儀だねぇ…。独り身の晩酌の相手がむさい男衆とは、いやはや…伝えときやす!」
「うるせぇよ、さっさといきな…。その軽口はいつまでも治らないなお前さんは」
「これが性格なんでね。破産しないように親父も気をつけてくだせぇ」
「じゃあ、いきやすぜ」
頰に深い切り傷のある副長が、にかっと凶悪な笑顔を親父に送っている。
傭兵団立ち上げ当時からの古株だが、昔とあまり変わらない態度で接してくる。
手を面倒くさそうに振る親父。
傭兵団の親父と呼ばれた者の勘。
いくつもの戦場を渡り歩いた末にたどり着いた境地というか、第六感的なものだ。
そして同時に修羅場と鉄火場を乗り越えた経験と知識が、この場所の危険性を訴えていた。
小屋以外に遮蔽物もなく、周囲は身を隠す場所もない。開けた場所での乱戦は得意とするフィールドだが、それはむこうも同じか…。
つまり双方一旦戦端を開けば、容易にはこの戦場からは抜け出せなくなる。
【追い込んだつもりが誘いこまれたか…?まったく底意地の悪い陰湿な奴だぜ…】
額から伝う汗を乱暴に拭い、配下に号令をかける。松明の火が一斉に動きだした。
静けさだけが支配する中、暗がりから火矢が無数にコモレビの小屋へ殺到する。
連中は巨大な篝火がわりにでもするのだろう、なり損ない達の盾の中で矢の雨をかわしつつ、シズネは指示を出している。
暗がりの中だと言うのに随分と狙いが正確だし、あちらの総数がよくわからない。
「盾を隙間なく配置して密集しろ!コモレビさんはもっと円の中に、ムツキ先生ご無事ですか?」
「あ、…あぁ、すまない」
「ええ、大丈夫。私はとりあえず傭兵達と遊んできて場を乱すから、シズネはここで踏ん張っていてね。…できる?」
「任せて下さい先生!」
勇ましく返事してくる少女に笑顔を向けながら、小屋の周りを見渡す。
どこもかしこも魂の色が変質し、どぶに塗れた様な色彩を放っている。
【綺麗ネ、トテモ綺麗…。欲ニ塗レ、欲ニ溺レ、最期ニハ何ヲミセテクレルノカナ?】
松明の集団をシズネ達に任せて、自分は茂みの中に潜む別動隊の群れへと突貫していく。
戦術も戦略もなにもかも無視した、出鱈目な戦い方だが手近な傭兵を鎧ごと刺し貫く。
武器もないのにどうやってと、刺された本人も疑問に思いながら絶命した。
ムツキ自身突進した際に何本も身体には矢が刺さり、胸や首、手足にも当たっているのだが、それを無造作に引抜いて地面に捨てている。
「てめぇは何だ?何が目的だ?」
「私はムツキ、魂の収集家よ。人の欲望を刺激し、人の欲望を発芽させるのが私の最近の楽しみなの。ねえ、貴方の欲は何?」
「ねえ、教えてよ…」
「欲?魂?意味わかんねぇ事を、ごたごたぬかすな!化け物野郎めっ!」
ムツキの胸に長剣を刺し、散々に刺突するも、まるで手応えもなく、それどころか逆に抱きつかれて身体の自由が奪われた傭兵。
血は出ているし、骨が砕ける音もするのに…!
なんで平然と動けるのか?
「私は何に見えるかなぁ?私は何者かな?」
「…寄るなっ!寄るな!よるなぁぁっ!」
黒い人影の様な見た目となって、傭兵の身体をとりこむムツキ。断末魔をあげた傭兵の身体は消失し、骨すら残らなかった。
同様な事を繰り返していくうちに、傭兵達は後退り、いつしか潰走してゆく。
小屋の周りは悲鳴で埋め尽くされた。
ムツキが別動隊を相手にしていた頃。
「前進開始!楽曲用意!」
松明の集団と対峙しているシズネが、円形防御を解き、盾を構えたなり損ない達と戦列歩兵の様に前進をはじめていた。
奇妙に明るい太鼓のマーチと共に、鬨の声や怒号を上げるでもなく、ただゆっくりと緩慢に傭兵達へと近づいてくる。
矢が刺さりすぎて動けなくなった者を置き去りに、そして距離が縮まった頃、シズネの鋭い声でなり損ない達は走りだす。
長槍を繰り出し、刺した傭兵を空中に掲げて先端についた白旗を鮮血に染めている。
傭兵達も必死な抵抗をみせ、なり損ないの数を減らしてはいるが、それ以上に犠牲者がでている。
「…この旗がみえる?」
「この旗は貴方達の血を吸いたがっています。もっともっとと欲しがります、だから貴方達の穢れた血を有効活用してあげる!」
「真っ赤な真っ赤な御旗、綺麗ね…」
両手を広げたシズネと、後ろに並んだなり損ない達がまるで悪鬼の群れの様にも見えた。
数倍以上で攻め、取り囲んでいたはずの傭兵達の戦列が徐々に崩されていっている。
長い夜はまだ終わらない…。




