↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/42

38 爆音

 書類を整理しながら、運命の糸に想いを馳せていたティーガーのところへ、ティーガーの秘書次官が慌てて駈け込んで来た。


「閣下! 至急、お知らせしたい件がございます!」

「うむ、聞こう」

「騎士団の建物内から、火薬と発火装置のようなものが見つかりました!」


 そこへ、別の秘書官もやって来て言った。


「閣下! 緊急報告です! 火薬が発見されました!」


 ティーガーに異変を知らせに来た秘書官たちは、それぞれ別の場所に、火薬と線香や火縄で作られた発火装置が仕掛けられていたことを次々と告げた。


「なんだと?!」


 今日は、王立騎士団の建物内に王妃も来ているのだ。

 それに、城下や近郊から、騎士を目指す少女たちも集まっている。

 しかも、ティーガーの客人で古い友人でもあるマリ―アが、別件でやって来ていた。


 ティーガーは、見つかったと言う火薬についての報告に拳を握り締めていた。


(なんなの? ナターリエ様を狙ったの?)


 見学会への王妃の登場は、機密情報であり、王立騎士団内でも知っていたのはティーガーと、そして案内役のサーラ隊長、他も、信頼できる王妃の側近だけのはずだ。


 とにかく、情報の整理だ。

 まだどこからも、爆発や火の手が上がったと言う報告は上がっていない。

 見つかった火薬類は、普段出入りがほとんどない狭い道具庫や、配管スペースなどの場所に置かれていたが、爆発物への訓練を積んだ騎士たちが、急ぎ対応にあたっている。

 発火装置の仕組みからして、置かれてからそう時間は経過していない。

 今日、このときを狙って、仕組まれたものだ。


 騎士団内だけでなく、王宮も含めた捜索をティーガーは指示したが、今のところ、ティーガーが今居る王立騎士団本部の中央棟からしか火薬類は見つかっていない。

 火薬を仕掛けるなど、大掛かりにやれば目立つはずだ。

 少人数かあるいは単独犯による企てであると、ティーガーは読んだ。

 だとすれば、仕掛けられた数は限られているはず。


(単に王立騎士団が標的なら、まだいいんだけど……)


 王妃と少女たちは、今、女子階と呼ばれる南棟の四階に居る。


「南棟の調べはまだ終わっていないのか?!」


 ティーガーには珍しく、焦った様に報告を催促した。

 ともかく、サーラ隊長の元へも伝令を送った。

 けれど、危険がどこにあるか分からない状態では、へたに動かない方が得策だ。

 それに今のところ、南棟からは何も見つかっていない。

 いや。正確には、南棟の一階から三階までなら、すぐさま検められた。

 だが、四階はどうなのだ?


「閣下、女子階には爆発物対策班が入ることができず、確認が……遅れております!」


 王立騎士団で爆発物対策を担っているのは、全員が男性騎士だった。

 女子階には、決まりで、女性しか入れないことになっているのだ。

 女騎士が指示されて慌てて確認に行ったようだが、詳しい者ではない可能性が高い。


「そんな! 今、そんなこと言ってる場合じゃないのよ!!!」


 ティーガーが叫んだ。

 そのとき。


 何かが落ちるような重い音が、外の空気を揺らした。


 ◇◇◇


「王……妃……殿、下、お怪我は……」

「サーラ騎士! 貴方の方がっ……わたくしは大丈夫!」


 王立騎士団本部南棟の四階、通称女子階の談話室で爆音が響いた。

 サーラは、すぐ横にいたナターリエ王妃の背後にある暖炉から、焦げるような異臭を察知したため、とっさにナターリエを庇った。

 サーラは……動けない。

 手も足も動かせないようだ。火傷も酷い。


 先程まで、夢と歓喜に満ちていた談話室は、目を輝かせていたはずの少女たちと、大怪我を負ったサーラ、そして、どうやら足を挫いたナターリエと、他には女騎士二人と、メイドが二人。

 室内は、爆発した暖炉の辺りが抉れ、火が上がっている。

 少女たちは恐怖で固まっている。


「落ち着いて! 助けがすぐに来るはずだから」


 ナターリエは、サーラの代わりに、その場を指揮した。


 サーラの他にもう一人、動けない者がいた。

 メイドとして、先ほどまで給仕していた小柄な女性だ。

 運悪く、爆風で飛んで来た破片に当たったようだ。

 怪我は頭部に負っている。

 その赤銅色の髪が血で染まっている。


「キャロル! 返事をして!」


 キャロルと呼ばれたその怪我人に声を掛けたのは、マリ―アだ。

 見学会のクライマックス、王妃が登場した談話室の給仕をしていたメイドは、キャロルを騙るジーナとマリ―アだったのだ。


 ジーナが閉じていた目を開けた。

 マリ―アも結っていた髪が解けている。

 その髪の中に、鮮やかな赤が、ジーナには見えた気がした。


(やっぱり……赤い髪……)


 ジーナは自分の予想が当たっていたことに微笑んだ。

 爆発騒ぎを起こして、同時にマリ―アも闇に葬るつもりだったのだ。

 王妃までもがこの場にやって来たのは偶然だ。

 そして、王妃を巻き込めればもちろん望ましいが、そんなことは、もうどうでも良かった。

 ジーナにとって、ジーナを哀れむマリ―アを消し去ることより他に、重要なことは無かった。

 しかし、自分が怪我をする予定も無かったのだ。

 意識が遠のきそうになりながら、ジーナは思う。


(マリ―アも、王妃も、ゼントランの未来も、この際、私も……燃えて無くなれば良いのよ……)


 談話室から廊下に続く扉付近は、床が崩れそうになっていた。

 そちら側の火の勢いもあっという間に増している。

 女騎士が懸命に消化しようとしているが、芳しくない。

 少女たちも震えていて立ち上がれもしない。

 素早い避難は難しそうだ。

 そんな中、マリ―アが、カツラの取れたジーナに声を掛ける。


「髪、キャロルの髪、見えちゃったわね」

「マリ―アさん……も……やっぱり……髪が……赤いのね」

「そうね。そうね。キャロルと同じね」

「マリ―アさん……わたし、本当は……ジーナと言う……名前なの。

 それから、わたしの……髪は赤くないわ。くすんでいるから……あら?」


 その時、鮮血に染まった自分の髪が、ジーナの目に入った。


「赤……赤い! 赤の髪……私……死ぬ前に……ようやく……赤い髪に……なった、のね……良かった……」


 ジーナの瞳から思わず安堵の涙が零れた。


 ジーナは、本当は…………本当は、赤い髪になりたかったのだ。

 能力を示さなくても、ありのままで誰かに必要とされる、そんな自分になりたかった。


「あら? ええと、ジーナ。ジーナは、もっと赤い髪になりたかったの? こんなに綺麗な茜色の髪をしてるのに?」


 ジーナの髪はいつも赤銅色だとか錆色だと言われていた。

 そして、言われる度に口の中に鉄臭い味が広がるような気がした。

 髪の色を褒められたことなど一度も無い。

 綺麗だと言われたことなど一度も無い。


「きれい?」

「そうよ。ジーナ。あなたの茜色、とても綺麗な色だわ。そして、私達って、親戚か何かなのかしら?」


 その場の緊迫感に似合わない言葉を放って首を傾げるマリ―アに、こう言う人だったと、ジーナは苦笑する。


「マリ―ア、さん……それ、正解……だと思う。だから、ここで……一緒に、死にましょう」

「そこの者たち、希望を捨てるでない。必ず……逃げ出せ……るっ」


 ジーナの言葉が聞こえたのか、ナターリエがマリ―アとジーナに声を掛けた。


(言ってはみたが……)


 ナターリエは腕をさすった。

 ナターリエはこの場面を切り抜けようと考えを巡らす。

 皆を元気付けなくてはいけない。

 けれど、動けない少女たち、塞がれた逃げ道、広がる炎、大怪我で動けない負傷者。

 それにどうやら、ナターリエは腕も負傷しているようだ。

 事態は……深刻だ。


「そうね! 王妃様の言う通り! 必ず、ここを脱出するのよ! 私、どうしても……どうしても! 娘に言ってやりたいの! 心配したじゃないって、言ってやりたいの! 馬鹿っ! て言いたいの!」


 マリ―アが叫びながら拳を挙げて言ったので、ジーナはびっくりしてしまった。

 マリ―アはいつも、おっとりとして優しい雰囲気の女性なのだ。


「そうだ! 脱出するのだ! 陛下に打ち明けないまま死ぬわけにはいかない!!」


 一瞬、ナターリエの沈みかけた心が、マリ―アの言葉で浮上した。

 そして、何故か今、思い出した。

 ナターリエが隠していることをステファンに言わないままでは済まされないことをだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。