表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

11 二人かと思えば

 さて、マリスとシレーヌの侍女が、しばらく甘いお菓子は食べられなくなったというのに、シレーヌとリリアーヌの二人姉妹の父、エゼルセフ公爵は食欲もすこぶる旺盛らしい。


 今、エゼルセフ公爵邸の食堂では、公爵とその娘たちが、一緒に晩餐を取っているところだ。


「マリス、この貝は公爵家の領地で採れたのだ。王都では中々手に入らないものでね。マリスに食べてもらえると嬉しいよ」


 自身もその貝を頬張りながら、ニコニコ顔で公爵は言う。

 そんな人でしたっけ? というぐらい、好々爺の顔をしている。

 それも仕方が無いだろう。

 長く懸案事項だったことが解決するだけでなく、望外の幸運に恵まれそうなのだ。

 公爵は上上上機嫌だ。



(リリアーヌは、王太子の側近に嫁ぐのだ!)


 願っても無い良縁だ。

 次代の王の近くに侍ることが確実な、王家の信頼も厚い侯爵令息にリリアーヌは嫁ぐのだ。


 リリアーヌには婿を取るつもりだったので、公爵家から出てしまうことには寂しさを感じるが、何も王太子妃になるわけでは無い。

 会いたいときには会えるのだ。

 第一、リリアーヌが望んでいる、という事実の方が重要だ。


 リリアーヌとその令息は、揃いの眼鏡で公爵の前に現れた。

 いつの間にと思ったが、二人で頬を染め合って大変仲の良さそうな様子だった。

 こっそり、二人が手を繋いでいるのも、公爵は見逃さなかった。

 高位貴族同士の婚姻としては珍しいほどに、二人が幸せな家庭を築く未来が見える。



(シレーヌは、公爵家に残ってくれる!)


 こちらも願っても無いことだ。

 シレーヌが王太子妃になれば大変名誉なことには違いないが、大切な娘シレーヌと、めったに会えなくなってしまうところだったのだ。

 父娘という関係性も無くなって、公爵はシレーヌの臣下として、遠くから仕えるだけの存在になるはずだった。

 しかも、セオドア王太子の妃と言う立場は、命の危険性と隣合わせなのだ。

 高位貴族としての役目を果たすためだと、そんな死地に赴くような覚悟で娘は輿入れするはずだったのに、シレーヌはこれからも公爵家に、父の側に留まってくれると言うのだ。


 しかも、婿でも構わないとシレーヌに求婚してきたのは大変優秀な青年だった。

 爵位持ちで血筋も問題無いが、そんなこと以上に、国王や騎士団団長の信頼も勝ち得ていると言うではないか。

 事情があって地領は持っていないが、公爵家にいっぱいあるので問題ない。

 煩わしく何か言ってくるような親族がいないと言うことの方に、より価値がある。

 親族は、いるにはいるが、口を出せるような立場を失っているのだ。

 青年の血縁者が罪を犯したことでそうなっているが、まさにその事件で、青年は王から直々に褒賞を得るという功績を挙げている。

 様々考慮しても、エゼルセフ公爵家の将来にとっては間違いなく良縁だ。

 何よりこの件も、シレーヌが心から望んでいる、という事実の方が重要だ。



(そしてマリスを我が家の養女にして、マリスを王太子妃にするのだ!)


 マリスを公爵家の長女に据えるのだ。

 王太子自ら王に願い出て、専任騎士なる役職を創設したらしいが、王太子の魂胆は見え見えだ。

 シレーヌもリリアーヌも、間違いないと言っている。

 マリスは、王太子に怪我を負わせた不届き者だと思われていたが、その王太子から望まれているのだ。

 ガタガタ言ってくる貴族家の口は、我が公爵家で塞いでやろう。

 そしてマリスが、シレーヌと公爵家を救ってくれたことに報いるのだ。

 もちろん、公爵家から王太子妃を出すと言う従前からの望みも叶えられる。


 今現在、客間にマリスを滞在させているが、このまま公爵家にいてもらう為に、令嬢マリスの部屋も誂えているところだ。

 そうだ。この歳になって、娘が一人増えるのだ。……増えるのだ!


 あとは、王太子の専任騎士という立場から、いつ公爵令嬢という立ち位置に持ってくるかだ。

 近頃は、シレーヌが見立てたドレスをマリスは着用して、皆で夕食を共にしている。

 マリスは「練習」と言っているが、王太子妃になるための「練習」だな。


 何よりマリスなら、王太子妃になっても、王妃になっても、暗殺者を返り討ちにしてくれるだろう。

 それどころか、王太子の身まで守ってくれる。

 現王妃も武芸の誉れが高い方で気が合うことだろう。

 王妃が気に入れば、王が文句を言うことも無い。

 ある意味、マリスはこの世で一番の、王太子妃適任者だ。


 しかも、こうやって一緒に食事をしていても、マリスの所作は悪くないのだ。

 平民出身のはずだが、幼少期より指導を受けていたらしい。

 王太子妃にとなると、更なる教育が必要だとは思うが、素地があるのと無いのとでは雲泥の差だ。

 それに、我が家には、シレーヌと言う打って付けの教師もすぐ傍にいるではないか。


(こんな幸運に包まれて……どうして浮かれないでいられようか!)



 公爵は、貝の料理のお代わりを給仕の者に言い付けた。

 そのとき、公爵の、パンパンに膨らんでいたお腹の上にあった上着のボタンがポーンと弾けてとんだ。


 マリスとシレーヌとリリアーヌで顔を見合わせて、そして公爵の娘三人が笑い出した。


(なんて、なんて、なんて、暖かで幸せな世界なんだ!)

 

 公爵は、嬉しさに涙を滲ませる。

 そこで上品に微笑んだマリスが諭すように公爵に言った。


「エゼルセフ公爵家は今後ますます栄えることでしょう。

 そのためには、公爵閣下が健康を維持することが何より大切ですよね。

 さあ閣下、食後は汗を流しましょう。

 まずは、公爵邸の庭を二十周ぐらい走りますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ