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河澄のり子のこころ旅~心の闇との戦い~  作者: ここグラ
山形温泉旅館殺人事件
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山形温泉旅館殺人事件⑩(隣を歩ける自分になるために)

 健太が連行されていくのを見届けたのり子は、無言で立ち尽くしていた。優しさが生んだ悲劇……悪人と呼べる人は誰もいなかった。ただただ巡り合わせが悪かった……どう心の整理をつければいいのか分からずにいたのり子のもとに、真鈴がやってきた。


「のり子さん……ごめんなさい!!」

「真鈴さん……」

「私……のり子さんに酷いことばかりしたべ。のり子さんは……真っすぐ物事を見つめていただけなのに」

「……」

「林藤先輩も、誤解されてもただただ優しさを与えていた。二人とも、本当に凄いべ。それにひきかえ、私はただ駄々をこねるだけの……子供だった」


 真鈴は深々と頭を下げ、謝罪すると同時に自分を責めた。本来なら……駄々をこねるような人ではないと思う。健太さんと同じだ、この旅館に対する愛情が……目を曇らせていた。


「本当に大切な存在が危険に晒されている時に……冷静な判断を下すのは難しいです」

「……」

「健太さんは一線を超えてしまいましたが、真鈴さんは踏みとどまった。やり直すことが……出来るんです」

「のり子さん……」

「ですから……また友達としてやり直したいんです、真鈴さんと」

「はいっ!! また……山形に来てください、歓迎するっぺ!!」


 真鈴は笑顔でのり子と握手を交わし、その場を去った。失ったものもあれば、取り戻したものもある……真鈴の存在はのり子の心に間違いなく光を照らしてくれただろう。


「河澄様……ありがとうございました」

「将也さん、絵麻さん」

「今回の事件……すべては、私のせいだべ。現実を見ずに、ただただ旅館を残したいとわがままを言うだけで。他の道を見ようとも、状況を他の人に説明しようともしなかった」

「……」

「賀井さんに一言でも説明や相談をしていれば……神根君も林藤君も殺されずに済んだのに」

「あなた、一人で背負いこまないで。傍にいるだけで何も出来なかった私も……同罪だべ」


 確かに、この人達は強くないのかもしれない。だけど、人生をかけて積み上げてきた宝物を合理的判断だけで手放せるだろうか……


「話が本決まりになるまでは、常連と言えど話すわけにはいかないのは分かります。ただただ、巡り合わせが悪かったんです」

「……あなた様は本当にお強く、立派な方だべ。あなた様のような方に会えたこと、私も絵麻も一生忘れることはないでしょう」

「旅館は……どうするおつもりですか?」

「売却しようと……思います。神根君と林藤君の厚意に応えたいのもありますし、一度違う視点から人生を見つめ直してみたいんだっぺ。絵麻と……一緒に」

「お二人の幸せを……祈っています。それがこの旅館を愛してくれた人達への、最大の恩返しだと思いますので」

「ありがとうございます。主人と一緒に……頑張ってまいります。いつかあなた様にも、恩返しができるように」


 将也と絵麻はのり子に深々と頭を下げ、ゆっくりとその場を去った。旅館はなくなっても、この旅館を愛してくれた人達との輪は残る。この2人の今後の大きな力に……なってくれるだろう。


***


 のり子達が旅館を出て帰還しようとするところを、米沢刑事が引き止めた。パトカーで連れて行ってくれた先は、彼お勧めのステーキ屋だ。そういえば事件を解決してくれた暁には、山形を代表する牛肉のステーキを振る舞ってあげるって言っていたっけ。


「さあ、遠慮なく食べてけろ!!」

「食欲……ないです」

「まあまあ、まずは食べてみてけろ。辛い時だからこそ、旨いモノを食べるのが大事だべ」

「……!!??」


 目の前に用意された焼きたてのステーキをナイフで切り、口に入れた瞬間……都子の目が輝いた。先程までの悲しみに満ちた表情は、すっかり消えている。


「何これ……超美味しい!! 口の中にほわ~っと幸せが溢れる感じで、ほっぺが落ちちゃいそう♪」

「だろう? 前にも言ったが、山形の牛肉は日本を代表する牛肉の一つだからな」

「美味しい!! 美味しい!! 味付けは塩胡椒だけだけど、むしろ甘味が際立って私は好き♪」

「うむ。牛肉の調理法は色々あるが、本当に良い肉の場合、俺はシンプルに塩胡椒のみの味付けのステーキが一番旨いと思っている。気が合うっぺな、今時っぽいお嬢ちゃん!!」

「ありがとうございまふ米沢刑事、奢って下さって♪」


 口に牛肉を入れたまま米沢刑事に感謝の意を述べる都子は、すっかり笑顔だった。のり子と水羽は安心した表情を浮かべ、都子を見つめている。


「米沢刑事……ありがとうございます」

「ははは、約束だしな。それに……今時っぽいお嬢ちゃんに、悲しい顔は似合わないべ?」

「……そうですね」

「君もだ、河澄さん。今回の事件は……あまりに悲しかった。人生経験が浅い君にとっては、迷いを生むことになるかもしれない」

「……」

「だが……君はそのまま進んで良い。君が言っていた通り、人を救えるのはやはり優しさだと俺も思うからな。探偵が笑顔を失っては……人を救うことは出来ないべ」


 ……やはりこの人は、立派な刑事だ。豪快でおどけているけど、それももしかしたら笑顔を失わないための彼なりの努力なのかもしれない。


「ありがとうございます、米沢刑事。あなたのおかげで……私は前を見て進んでいけます」

「また山形に来ることがあったら……いや、東北に来ることがあったら声をかけてけろ。東北の警察の力を結集させて、君の力になるっぺよ!!」

「あはは……さすがにプレッシャーですね」


 そう言いつつも、いざとなったら彼の力を借りようとのり子は思った。東北の平和は、今後も彼を中心に守られていくだろうから。


***


 米沢刑事と別れた後、のり子は関東地方に戻る新幹線の時刻を確認した。まだ時間に余裕がある、ちょっとお茶する程度は出来そうだ。


「水羽さん、まだ新幹線の時間まで余裕ありますけど、どこかのカフェにでも入ります?」

「……ううん、私はこれで失礼するわ」

「そうですか? 水羽さんがいた方が、都子も喜ぶと思いますけど」

「うーん……そういうところは鈍感なのかな、のり子ちゃんも」


 のり子が首を傾げていると、水羽は都子の傍に行き、のり子に聞こえないようにそっと呟いた。


「都子ちゃん、お邪魔虫は消えるから……頑張って♪」

「え……ええ!!??」

「ふふ、結果報告……期待しているわよ♪」


 水羽は笑顔で手を振りながら、去っていった。何だか都子の顔が赤いけど……何を言ったんだろう?


「のり子……ちょっとお願いがあるの」

「?」

「駅を出て……静かな場所に行きたい」


 都子の言う通り、のり子は2人で駅の外の人気のない場所に向かった。都子は足を止めると、のり子と向かい合った。その表情は……真剣そのものだ。


「のり子……私って、弱いよね」

「え?」

「福島の事件の時もただガタガタ震えているだけで……今回もそう。のり子に……守られてばかりだった」

「私は……探偵だから慣れているだけ。殺人事件が怖いなんて……普通だよ」

「ありがとう。でも……のり子の周りにいる子達は、そうじゃない」


 都子の表情から感じるモノ、それは……劣等感だろうか。普段跳ねっ返りな都子には……珍しい表情。


「詩乃もすみれも織絵ちゃんも……辛い目に遭ってもめげない。立ち上がって、のり子を支えている」

「……」

「このままじゃ勝てない……だから今回、のり子を旅行に誘ったっていうのもあるの。強さで勝てないなら……他のことでアピールしたいなって」

「都子……」

「でも……のり子の勇姿を見て、思ったの。もう……小細工はやめようって。それじゃ……いつまで経ってもみんなには勝てないって、分かったから」


 都子はそう呟くと、両手を胸に当てて決意に満ちた表情を浮かべた。しばし静寂が訪れた後……都子は一つ深呼吸をしてから、口を開いた。


「私は……のり子のことが好き、大好き!! 友達としてじゃなく、恋愛対象として」

「!!??」

「女の子同士はどうなのかって、悩んだこともあったよ。でも……自分の気持ちに嘘は付けないし、止められないから」

「私は……男だからとか女だからとかは、気にしない。男女関係なく、相手をどれだけ好きと思えるか、大切に思えるかが……大事なんじゃないかな」

「……ありがとう。のり子のどこまでも優しくて、頼りになって、人のために頑張れるところが……たまらなく好き!!」


 本当にこの子は……誰よりも乙女なんだな。飾らない真っすぐな好意が心地いい……今越都子という女の子の真骨頂と言えるかもしれない。


「告白してくれてありがとう、都子。だけど私は……まだ決めきれてない、情けない話だけど」

「ううん、それだけのり子が魅力的ってことよ。だから私……決めたの」

「?」

「高校を卒業したら……東北の大学に行く!!」

「!!??」


 都子の瞳は、決意に満ちていた。都子と東北が相性がいいことはのり子も感じていたが、それだけではなさそうな雰囲気をのり子は感じた。


「のり子と一緒の大学に行くことも考えた、一緒に……いたいから。でもそれじゃ私は……弱いまま、ずっと守られてばかり」

「都子……」

「みんなに負けないためにも……何よりのり子の隣を胸を張って歩ける自分になるためにも、私は……一人で頑張ってみる!! その地として東北は自分に合っていて、良いなって思ったの」

「そっか……応援してるよ、都子」

「うん……自信が持てるようになったら、またのり子に会いに行くから!!」


 そう呟いた都子の表情はとても輝いていて……素敵だとのり子は思った。そして、心の中で……東北の地に向かって、お辞儀をした。この子を……よろしくね。


***


 翌日、教室でのり子が自分の席で考え事をしていると、都子がやってきた。表情は笑顔で、事件の後遺症もなさそうだ。


「ねえねえのり子、聞いて。水羽さんね、山形支店に異動願を出したんだって」

「へえ!! それじゃ都子が東北の大学に行ったら、会いやすくなるね」

「うんっ。もし異動願が通ったら住所教えるって言ってくれたし、その……昨日のことも、伝えたから」

「そ、そうなんだ」


 まあ、結果報告期待しているって言っていたし……予想通りだけど。水羽さんのニヤニヤした表情が想像できるなあ。


「でも……ちょっと安心したかな。都子が東北に行っても、心強い支えが出来そうで」

「うん……水羽さんLISEで言ってたの。これからも都子ちゃんの傍にいたいからって」

「そっか……」


 一人で頑張ると都子は言っていたものの、どうしても一人の力では厳しい時はある。水羽さんなら、そんな時に都子を支えてくれる……のり子は心の中で水羽に感謝した。


「それじゃのり子、私勉強してくるね。東北の大学に行くためにも、頑張らないと」

「あはは、今までサボっていた分、気合入れないとね」

「う……すみれに教えてもらおうかな」

「良いわよ、色々聞きたいこともあるしねえ。今回の旅行のこととか♪」

「完全に面白がってるじゃない!!」

「織絵にも聞いてくるよう頼まれたしねえ♪ それじゃ、お勉強しましょ」

「の……のり子ぉ~~!!」


 すみれに引きずられていく都子を見て、のり子は笑顔を浮かべると同時に、また一人友人が進路を決めたのだと感じた。私は……探偵として、どういう道に進むべきなんだろう?


            ~『山形温泉旅館殺人事件』 完~




~あとがき~


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


これにて『山形温泉旅館殺人事件』は完結です。


今後ののり子の活躍も見守ってくださると幸いです。

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