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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第四章 蛇の腹の底
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森の主

身体が動かない。


というより、動けない。


巨大な何かが首をもたげ、月明かりを背にこちらをにらんでいる。


その目は冷淡で、殺気もなければ慈愛もない。


テリーたちの背筋に走る氷のような感覚と同じ、無機質で冷徹な視線が、一行のはるか上から送られていた。


『これが……蛇王……』


皆凍り付いたように動けなくなっている中、ガストンが絞り出すように声を発した。


『長くここにきてるが……初めて見たぜ……』


『言ってる場合ですか……!どうするんです!このままじゃ……』


『この巨体で暴れられちゃ、エネルギードームも持ちませんぞ……』


『まさに蛇ににらまれた蛙……か……』


と、テリーの顔つきが変わる。


「蛇……そうだ……!」


小さくつぶやくと、テリーはエンブラムに無線をつなぎ、小声で話し始める。


「エンヴィーさん、周囲に焼夷弾をまいてください!それを合図に、一斉に逃げます!」


『しかしぃ……この巨体では、いくら炎でも効果が出るか……』


「お願いします!」


『ッ~……わかりましたぁ!!』


覚悟を決めたように返事をすると、エンブラムのエグゾジャイアント肩部から、複数のグレネードが音を立てて発射され、地面に転がる。


自分たちから少し遠くに転がったのを確認し、エンブラムは起爆スイッチに手をかけた。


『点火ぁ!!』



ドドドドドオオオォォォン!!!



直後、激しい轟音を立て、グレネードが爆発。周囲に大量の火の粉をまき散らし、火の幕を作り出した。


爆発におののいたか、蛇王はすぐさま炎から距離をとる。


「今だ!!」


その隙を逃さず、テリーが叫ぶ。その叫び声を待たずして、エイペックスの一行は走り出していた。


『ちょうどいい!目的地まで距離稼ぐぞ!!全体!スピードフォーム!』


『『『了解!!』』』


全員が返事をした直後、エグゾジャイアントの足が変形し、車輪が出現。そのまま全速力で進みだした。


『コナー!追ってくるかもしれん!後ろに警戒!』


『言われずともですよ!!』


一行は、背後から迫りくるであろう巨蛇を警戒し、全ての武装の安全装置を解除する。



しかし、いくら待っても蛇王はその姿を見せない。


『……あきらめたか……?』


「いえ、恐らく動けないだけです」


ガストンの問いに、テリーは荒い息を整えながら答える。


「蛇には”ピット器官”……温度や赤外線を探知できる部位があります。120年前のゲノムワン流出事件の時、高濃度のゲノムワンが流れ込んで出来たこの森(スラン・バウイク)の主なら、そういった特殊器官の発達も顕著……ナパーム弾の炎なんて、フラッシュバンと同じくらいの衝撃でしょうね……」


『なるほど、それでフリーズしてるわけか……あんな状況でよく思い出したな』


『しかし、これで安全というわけですな。また野営場所を探さねば……』


「いえ、恐らく一時しのぎです。こんな経験、何度もしてきているはず。すぐに……」



バギバギバギ



と、テリーの声をかき消すように、一行の右……岸壁の上から、木々をなぎ倒すような音が鳴り始めた。


『巨影確認!距離、2km!さっきより何倍も速い!!』


「もう追ってくるなんて……!」


『クソっ!エンヴィー!もう一度ナパームを!』


「無駄です!ピット機関が使えないと知って、振動で追ってきています!もう通用しません!」


『どうします!?迎え撃ちますか!?』


『無駄ですぞコナー……一なぎで我々を肉塊にできるような相手、逃げる以外に方法は……』



バギバギバギバギバギ



音はゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。



『距離1㎞!!』


『テリー!ほかにないか!』


「恐らくにおいも覚えられている……これ以上はどうしようも……」


と、コナーが興奮したように叫ぶ。


『いえ、一つあります!打開策!』


『なんだ!』


『この先600m、巨大な渓谷があります!飛び越えれば撒けるかも!』


『問題は……奴が追い付くまでに飛び越えられるか……』


『距離800!』


『それ以外に方法はない!最大出力!!渓谷に向かうぞ!!』


ガストンの掛け声で、一行のエグゾジャイアントは一斉にブースターを点火。渓谷へと一直線に向かう。



バギバギバギバギバギバギバギバギ!!



と、木々をなぎ倒す音が途端に早くなっていく


『蛇王、速度増加!!距離500!!』


『ブースターの熱にひかれたか……』


『ひるむな!!渓谷までもう少しだ!!』


次第にエグゾジャイアントの車輪が、耳障りな音と共に白い煙を上げ始める。


『これ以上は車輪が持ちませんぞ!!』


『言ってる場合かぁ!!』


と、森が終わりを迎え、巨大な渓谷が現れる。


しかし、対岸との間は新幹線の車両数台分ほど空いており、一行の足は思わず止まってしまった。


「こ、こんなに幅が!?」


『さすがにこれは……』


『距離250!もうすぐそこまで来てます!!』


と、うろたえる面々に喝を入れるように、ガストンは大声でエンブラムに指示を出した。


『エンヴィー!!グレネードを一点にありったけ出せ!!』


『な!?それでは我々が!!』


『早くしろ!!』


『り、了解!!』


エンヴィーがグレネードを出す間、ガストンはバリトンに指示を出す。


『バリー!最後尾でエネルギードーム展開!持ってろよ!!』


『了解!!』


言われた通り、バリトンがエネルギードームを展開すると同時に、エンブラムがグレネードを設置し終える。


『よぉし!!全員集まれ!!合図と同時にブースター最大点火!エンヴィーは起爆しろ!!』


『距離100!!』


『行くぞテリー!!しっかり捕まってろ!!3!2!1!』


ガストンがカウントダウンを始めた瞬間、蛇王がその姿を現した。


蛇王が目と鼻の先まで迫ってきた、その直後。



『今ぁ!!!』



ドゴオオオオン!!!



バリトンのエネルギードームで包まれる一行を、地形を変えるほどの爆発が対岸へと吹き飛ばす。



シアアアアア!!!



一点集中の高威力爆発はさすがの蛇王もひるませ、両者との間を大きく広げた。


次第に勢いが消え始め、一行の到達点が最高値に達したその瞬間。


『点火ぁ!!!』


ガストンの掛け声で、一塊となっているエグゾジャイアント、その全てのブースターが点火し、すさまじい推進力を生み出す。


止まりかけた一行は再び加速し、一気に対岸へと吹き飛んでいく。



ガシャアアアアアアア!



土煙をたて、地面の石と土塊を周囲にまき散らしながら、一行は不時着する。


しかし、その場でとどまる暇もない。


更なる追撃を警戒し、一行は即座に起き上がると、武器を構え対岸ににらみを利かせる。



しかし、蛇王の姿はいつまでたっても見えなかった。



『……コナー、蛇王は』


『距離800……900……離れていきます……』


コナーの言葉を聞き、一行は安堵からその場に座り込んだ。


「あぶなかったぁ……一時はどうなることかと……」


『ひやひやしましたな……』


『まさか砲台の容量で距離を稼ぐとは……さすが隊長ぉ!!』


『ほとんど賭けだったがな……ともかく、もう一度野営地を探そう』


『もうぐったりですぞ……』


『少しでも寝ないとですね。こんなに襲撃を受けていては、体がもたない……』


話しながら、一行はゆっくりと歩を進めていく。



そんな中、テリーは一人、けげんな表情で対岸を見つめていた。



(250mまで来たとき、明らかに蛇王の速度が落ちた……僕たちを殺す気がなかった……?それとも……何かに気がそれた?)


思考を巡らすが、答えはわからない。


テリーは、野営場所を探し始めた。






一方そのころ


アナサイド


「ん……」


レオンハルトやキッドマンのいびきが洞窟にこだまする中、ふいにアナが目を覚ます。


「トイレ……」


ふらふらとおぼつかない足取りで、アナは眠気眼をこすりつつ、外へ続く道を歩いていく。


すると、彼女の視界、洞窟の入り口に、二つの人影が見えた。


「あ、カメラさん……と……」


アナの口が閉じる。


そこには、カメラマンとG.Tが、夜空を眺めながら立っていた。


「なんだ貴様か……」


「こんな夜中にどうしたの?」


「監視だ」


G.Tがそっけなく答える中、カメラマンは気さくに親指を立て、アナの返答に答える。


「ごめんね、私達寝ちゃって……」


「何を勘違いしている。お前たちのためじゃない。C.Cと仲間たちのためだ」


「大好きなんだね、仲間のことが」


「当然だ。貴様らと違って、我々は今いる者たちだけですべてだ。その命の価値が、どれだけ重く尊いことか……」


「ちがうよ」


と、G.Tの言葉をアナは否定する。


「……なに?」


「あなたたちだけじゃない。どの種族の、どの命も同じ。みんな重くて、みんな尊いの」


「綺麗ごとを……」


「そんな綺麗ごとをかなえるために、私達は頑張ってる。あなたと同じね、G.T」


「一緒にするな!!!」


突然、G.Tは声を張り上げる。


「我々は貴様らの都合で勝手に生み落とし、貴様らの都合で死んでいった!!そんな忌むべき所業をしておいて、一緒だと!?ふざけたことを抜かすんじゃない!!!」


「ご、ごめんなさい……」


「まったく……ただでさえ貴様がゼノンの後継者とされているだけでも不愉快だというのに……」


「……あなたも、ゼノンのことが好きだったの?」


そんなアナの問いに、G.Tの動きが一瞬止まる。


「……利害が一致していた。それだけだ」


「あなたの言葉、ゼノンと同じものを感じる。信念も。だから、仲良かったのかなって」


「確かに話は合った。お互い、自身の種族を第一に考えていた。……そういう意味では……まぁ……好きだったのかもな」


「うふふ」


「何がおかしい」


「うぅん。少し安心しただけ。あなたも、話せばわかってくれる人なんだなって」


そう言って、アナは振り返る。


「あなたの……あなたたちのつらさは、全部はわからない。でも、いつか話してくれたら、きっと助けられると思う。あなたの心の整理がついたら、話してね」


そう言って、アナは歩いていく。


そんな後姿を見、G.Tはため息をつきながら声をかけた。


「……トイレはいいのか」


「あっ」


その言葉に、アナは少し照れくさそうにしながら、再び外へ歩いていった。



ガザ……ザザ……



と、遥か遠方から木々をかき分ける音が響き始めた。


「?」


「カメラマン。何か見えるか」


音を聞き即座に身構えたG.Tは、傍らのカメラマンに小声で話しかける。


しかしG.Tの問いに、カメラマンは首を横に振った。


「まだ距離は開いているか……カメラマン。外の連中、全員起こしてこい」


カメラマンは即座にうなずき、洞窟の外へ走っていく。


その間、アナはラプターを周囲に浮かばせ、周囲の挙動に耳をそばだてていた。


「なにかな」


「わからん。敵対的じゃないことを祈るが」



ガザザザザザ



途切れ途切れだった音は次第に断続的に、そして、大きくなっていく



「……かなりでかいな……」


「でも、まだ姿見えないよ」



と、サムとビル、C.Cが、警戒した表情で起きてきた。


「二人とも!」


「C.C、起きたのか」


[こんな地鳴りを聞いては、おちおち寝ていられんよ……]


「相当でかいぞ……何が来た?」


「アナ、何か見えたかい?」


「まだ何も……」



ガザザザザザザザザザザ



走している間にも、音は大きくなっていく。



「いやな音だぜ……這いずり回ってるみてぇだ……」


[這いずり……?……!!まさか!!]


と、ビルの何の気なしに放った言葉が、C.Cの脳裏に嫌な記憶を思い起こさせた。


[まずい!洞窟の奥へ!!戦ってかなう相手じゃない!!]


「急にどうしたんです?」


[巨大な這いずる音……恐らく蛇王だ!隠れて耐え忍ぶしかない!]


C.Cの言葉を聞いた皆は、急いで洞窟の奥へと退避する。


その最中、妙に焦るC.Cを見、アナは疑問の声を上げた。


「大丈夫C.C?すごく震えてる……」


[この森にきてすぐのころ、奴に拠点を破壊されたことがある……仲間も大勢失った……そのときのトラウマがな……]


「仲間……あ!!」


その時、アナはあることを思い出す。


「カメラさんと、おっきなみんながまだ外にいる!」


途端に、アナは矢も楯もたまらず走り出す。


「あ!おいアナ!!」


「外に出ちゃだめだ!危険すぎる!!」


「今外にいるみんなのほうがもっと危険だよ!!探しに行かないと!!」


サムとビルの制止を吹っ切り、アナは洞窟を飛び出していった。






「カメラさん!みんな!いたらこっち来て!」


声を上げながら、アナは周囲を飛び回る。


しかし、彼らの姿は見えない。


(どこ行ったんだろう……まさか、襲われた……!?)


焦燥感が、アナを包み込む。


(どこ……どこにいるの……)


ラプターが周囲を飛び回るが、めぼしい影は見つからない。


「そんな……どこにもいない……」


絶望に暮れ、アナは地面に着地する。



すると、そんなアナの頭上から、生暖かい息が吹きかけられた。



「わっ!」


驚いたアナが、反射で上を見上げる。


そこには、アナのことをじっと見つめる蛇王の姿があった


to be continued

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