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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第四章 蛇の腹の底
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蛇と少女

強烈な威圧感が、アナを襲う。


自身の頭上を、巨大な蛇の頭部が、じっとこちらを見つめている。


しかし、アナは不思議と恐怖を感じていなかった。


「あなたが……テリーの言ってた……」


アナの声に反応することもなく、蛇王は絶えずアナを見つめている。


シィィィ……


すると、蛇王が舌をちらちらとのぞかせながら、様々な角度からアナを見始めた。


「どうしたの……?」


アナは恐る恐る尋ねるが、なおも蛇王は舌を動かし、アナの周囲をぐるぐると回っている。


(敵意はないけど……なんでこんなこと……?)


すると、蛇王が舌をしまったかと思うと、突然顔をアナに擦り付けてきた。


「わ!わわ!どうしたの?」


なおも、蛇王はアナにほほを擦り付ける。


「あはは!くすぐったいよ!」


ザラザラとしたうろこが、アナの体にザリザリとあたる。そのこそばゆさに、アナは思わず声を出して笑ってしまった。


「すごく人懐っこいね。よしよし」


そう言って、アナは自身の腕を目一杯広げ、蛇王のほほをなでる。


すると、蛇王がアナから頭を離し、再びじっと彼女を見つめだした。


「?撫でられるの嫌だった?」



と、蛇王が首を横に振った。



「!?私の言葉分かるの!?」


蛇王は、今度は首を縦に振る。


「すごい……話せるの?」


と、問いを聞いた蛇王が、再び顔を近づける。今度は、額をアナに見せるように近づけてきた。


「?こう?」


アナも真似して、自身の前髪を上げ、額をゆっくりと近づける。


すると、互いの額が淡い黄金色に光り始めた。


「額が光ってる……」


しかし、不思議と恐怖は感じない。アナは止まることなく、額を近づけていく。



両者の額が接触せんとした、まさにその時



「おーーい!!アナーー!!!」



洞窟の方角から、アナを呼ぶ声が聞こえてきた。


すると、その声に反応した蛇王が顔を上げ声のする方向を見ると、アナを一瞥し、すぐに森の中へと消えていった。


「あ!」


アナが、その後ろを追おうと手を伸ばした直後、声の主が姿を現した。


「アナ!!大丈夫かい!?」


「サム!C.CにG.Tも……」


「急に飛び出していくなんて危ないじゃないか!!けがは!?」


「大丈夫。それより今ね」


[話はあとだ。周囲の超獣たちが、今の騒ぎで活発になりだしている。洞窟に戻るぞ]


「……わかった」


C.Cの言葉を聞き、アナ達は洞窟へ戻るため踵を返す。



そんな四人を、蛇王は森の奥から静かに見つめている。



その気配に気づいてか、何とはなしに振り返ったアナの目には、どこまでも続く暗闇が広がっていた。






「「「アナ!!」」」


「ただいま、みんな」


アナ達の無事の帰還に、洞窟に残っていたメンバーたちは安どのため息をつく。


「まったく、急に飛び出していきやがって……危なすぎるぞ」


「私達、すごく心配してたのよ!もうこんなことしないで!わかった!?」


「はい……あ」


と、キッドマンとエリザベスに叱られたアナは、あることを思い出し、周囲を見回す。


「カメラさんと、大きい人たちは!?大丈夫!?」


「それならば問題ない!先ほど、付近の別の洞窟に避難したと連絡があったぞ!」


「そっか……よかった」


レオンハルトの報告を聞いたアナが安どしていると、彼女の頭をアレキサンダーがわしゃわしゃとなでる。


「それはこっちのセリフだ。……無事でよかった」


「この森にいるのは、言葉の通じない獣ばかり。ゼノンやガイラスのようにはいかないのですよ?」


「通じない……」


シェリーの言葉に、アナは疑問のつぶやきを放つ。


「納得できないか?」


「違うのビル。さっき、すごく大きな蛇に会ったの。多分、昼間テリーが言ってた蛇王だと思う」


「「「なんだと!?」」」


その言葉を聞いた皆の血相が、再び変わる。


「蛇王を見たのか!?」


「うん。それにあの子、私の言葉がわかってた。私が何か聞いたら、首を振ってたもの」


[言語が理解できるのか!?そんなデータどこにもないぞ……]


「そもそもわからんのだが、なぜアナを襲わなかったのだ?」


「考えられるのは、一、腹が満杯だった。二、エサとしては不十分と見られた。三、特有の器官で何か感じ取った。この三つか」


「どれもあり得ないと思います。それなら、何もせず素通りするはず」


「やはり、言葉を理解するだけの知性があるということか……」


皆が喧々囂々と意見を交わす中、アナは、一人であることを考えていた。


(なんであんなに、私になついてたんだろう……昔会ったことがあるのかな……?それなら……)


考えたアナは再び立ち上がり、洞窟の入口へと歩いていく。


「「アナ!?」」


その後ろ姿を見たビルは、すぐに血相を変えて後を追い、彼女を止める。


「お前何考えてんだ!!外は危ねぇって言ったばっかじゃねぇか!!」


「もしかしたらあの子、私のことを知ってるのかもしれない!会って確かめたいの!」


「だからって、今出ていくのは危険すぎる!!」


「まだ近くにいるかもしれない!もう会えないかも!!お願い、少しだけでいいから!!」



「アナ!!!!」



と、ごねるアナとビルの会話を、サムの怒鳴り声が遮る。


静かになったところで、サムはアナに歩み寄ると、目線を合わせ、優しく、しかし真剣に話し始めた。


「アナ。君の考えはわかる。自分の手がかりを見つけて、焦る気持ちも。でも、さっき君が飛び出していったとき、みんなどれだけ心配したと思う?」


「それは……外にいるカメラさんたちが心配で……」


「そう。アナも、彼らのことが心配だったんだよね?でも、アナも外に出ちゃったら、残っている僕らも心配になる。それは、アナがカメラマンたちを心配している気持ちと同じなんだよ」


「で、でも!私戦えるよ!ラプターだって自由に動かせるし、手からビームだって……」


「確かにアナは戦える。でもまだ未熟だ。そんな君を、危険な超獣がたくさんいるこの森に一人で行かせることはできない。アナの頑張りは、見て来たから理解してる。でも、一人で行かせるにはまだ心配だ。君にけがをしてほしくないんだ。わかるかい?」


「……うん……」


つぶやきながら悲しげにうつむくアナの頭を、サムは優しくなでる。


「蛇王はアナのことを知っているのかもしれない。でも今日は休もう。蛇王は明日から探せばいい。ね?」


「……わかった」


「よし、いい子だ。それじゃあ、もう寝ようか」


「うん……」


シュンとしながら、アナは洞窟奥の寝室へと歩いていった。






そんな彼女の後姿が洞窟の奥に消えていったのを確認し、サムはため息とともに膝を曲げた。


「どうしよう……怒鳴っちゃったよ……」


「しょうがないわよ。サムが一足遅かったら、私が怒鳴ってたと思う」


「それでも、もう少しいいやり方があったんじゃないかなってね……」


「時には怒鳴ることも必要ですよ。駄目なものは駄目と、しっかり教えなければいけません。今回の行動は命にかかわります」


「でも……」


と肩を落とすサムに、キッドマンが優しく声をかける。


「気に病むなサム。俺にも責任がある。以前俺はこう言った。『あの子は、自分をトカゲだと思い込んでいるドラゴンだ』と。入隊してすぐの時よりは”ドラゴン”に近づいたが、出せる力のわりに自信がつきすぎた。悪いことじゃないが、そのせいで最近は少々無鉄砲気味だ。そのことは、今度俺からも言っておく」


「すみませんキッドさん……」


「いいんだ。あの子はまだ幼い。力も、考えも。それを俺たち大人が教え、道を指示していく。それが教育ってもんだ。お前が引き取り、縁あってここに入隊した。なら、みんなでやっていこうじゃねぇか」


「……ありがとうございます」


と、真剣な話をしている傍らで、レオンハルトは何やら得意げに鼻を鳴らす。


「やはり、我々SIUの人間だ!一度決めれば猪突猛進!我が隊ならではないか!」


「あんまり甘やかすなよ、レオン。あんたを見て悪化したらどうする」


「アレクの言うとおりだ。子供は大人を見て育つんだからな」


「なんだキッドまで!我が教育に悪いみたいではないか!」


「ある意味そうだろ?」


緊張が解けてか、皆の間で笑いと共に、話の花が咲き始めた。




そんな傍らで微笑むサムに、C.Cが近寄る。


[相当気に病んでいるな]


「一般的な教育法に疎いものですから……」


[教育とは難しいものだ。私も、他の仲間たちに物を教えるときは苦労する]


「そうなんですか……」


[一つアドバイスだ。教育に必要なものは、”対話”だ。なぜそうしたのか、なぜこうなったのかを本人が知り、どこが間違いなのかを知り、改善策を考えてこそ、教育というもの。時には必要だが、むやみやたらに怒鳴りつけ、否定すればいいというものではない。その点、疎いにしては、君はよくできていた。そう肩を落とすこともないと思うがね]


「ありがとうございます。そう言ってもらえると、なんだかほっとしますね」


[事実を言ったまでだ。それに、物事を深く理解させることは、その者の根幹をなすものになる。教育なり、体験なり。そこで得た価値観を覆すことは難しいものだ。我々が排他的なのも、戦争を経験し、様々な要因を理解したからこそ。いつか彼女も、今日の君たちの気持ちをわかることだろう]


「……僕の教育が、そうなることを祈ります」


そう答えたサムの肩を、C.Cは優しく手を置き立ち上がる。


[そういえば]


と、何かを思い出したC.Cが振り返る。


その顔には、笑顔が浮かんでいた。


[今の彼女のおかげで、価値観が少し変わった者がいてな]


「G.Tですか?」


[そうだ。あいつめ、彼女がカメラマンたちを気にかけて飛び出したと知って、「心配だ。俺もいく」とついてきた。カメラマンたちを気にかけての行動かもしれんが、初めてだよ。口だけでも、我が種族以外の者の身を案じたのは]


「そうだったんですか……」


[いいかねサム。あいつの心を少し動かしたのは、紛れもなく彼女だ。その点は、褒めてやってくれ]


笑って話しながら、C.Cは薪のほうへと向かっていく。


そんな彼の言葉を、サムはゆっくりかみしめるのだった。






翌日 朝


身支度を整え洞窟を出発した一行は、目的地へと再び進んでいった。


しかし、道のりは昨日よりも険しいものとなっていた。



ゴギャアアアアア!!



「なんだこいつら!!」


[アシッドヴァルチャーだ!吐き出す酸に気をつけろ!金属も溶かすぞ!!]




数分後



ゴオオオオ!!



「タンクライノ!?なぜこんなところに!」


[角弾と突進に気をつけろ!当たればひとたまりもない!


「力比べなら我に任せろぉ!!!」




数分後



ギジジジジジジジジ!!!



「トラップセンチピード!!」


[誰だ!奴の足に触れたのは!?]




数分後


「あぁ……疲れた……」


度重なる襲撃で疲弊した一行は、思慮を巡らせつつ足を止め、体力の回復を図る。


「なんだって今日は、こんなに超獣が襲ってくるんだ……」


[いくらアンドロイドとはいえ、我々も限界に近い……ヒーターも焼き切れそうだし、スピーカーも声が出ん]


「何か、私達に引き寄せる原因があるのかしら……?」


「もしや、昨日来た蛇王が原因なんじゃ……」


そう。サムの予測通り、昨夜の蛇王襲来により、スラン・バウイクの各地で、超獣の動きが活発化していた。


災厄のごとき破壊力と存在感を持つ蛇王。それが出現した時点で、生物の生存本能は一気に刺激される。だからこそ、蛇王が来てから数日は、その地点の超獣たちが攻撃的になるのだ。


「困りましたね……このペースで襲撃を受けていると、目的地到着は想定より遅延しますよ……」


「テリーたちとの合流も危ういかもしれん……うぅむ、どうしたものか……」


一行が今後を憂いていると、アレキサンダーがあることに気づく。


「……どうしたアナ、森の奥をじっと見て」


「何か来る……」


と、アナの言葉を聞き取ったかのように、つぶやきの直後、アナの視線の先から木々をなぎ倒す音が鳴り始めた。


「またか……全員警戒態勢!!何か来るぞ!!」


「待って!この感じ……」


皆が警戒色を強める中、アナは一人、音のする方へと歩み寄っていく。


「アナ!!」


「大丈夫。もう危ないことはしない」


近づいてくる倒木の音を警戒する皆の制止を背に、アナは前で音の主を待つ。



次第に大きくなっていく音は、皆の胸に焦りと恐怖を抱かせる。


その感情は、姿を見せ始めた音の主を見、より一層高まることとなる。


「蛇王!?」


「また来やがったのかよ!!」


[なぜここまで我々に執着する……]


「逃げますか?」


「間に合わん……迎え撃つほかあるまい……」


緊張が走る。



そんな一行の前に、ついに蛇王がその全貌を現した。



銀白色の鱗は、天高くそびえる木々の木漏れ日を反射し、宝石のような輝きを放つ。

反対に、光なくともらんらんと煌めく黄金色の相貌は、眼下で居竦む矮小な存在達を見据え、恐怖で包む。


蛇王は独特な音を鳴らしながら、下をチロチロとのぞかせ、何かを探すように頭を動かしていた。



「蛇さん!」



と、蛇王の視界の外から声が響く。


声の主は、すぐに自身の目の前にやってきた。


アナだ。ラプターを使い、蛇王の目前に飛んできたのだ。


「昨日ぶりね!蛇さん!」


と、アナを見つけた蛇王は、再び昨夜のようにほほをこすりつけ、アナとじゃれあい始めた。


「あはは!くすぐったいってば!」


アナも笑顔で蛇王をなでる。まるで、久々に再開した飼い主とペットのように、二人は楽しみながら触れ合っていた。



そんな中、じゃれつくアナと蛇王を見て、眼下の一行は、唖然としながらその光景を見ていた。


「な……なんだこりゃ……」


「蛇王が見れただけでもすごいのに、その蛇王が誰かになついてるなんて……」


[我々は……歴史に刻まれるワンシーンを見ているのかもしれないな……]


皆が感嘆していると、蛇王がアナから顔を離し、再び額をアナに向けた。


「あ、昨日の続き」


その光景を見、アナもすぐに自身の額を露出させ、ゆっくり近づけていく。と、再び額が光り始めた。


しかし、もう止める者はいない。


黄金に輝く額どうしが合わさった、その直後。


「わっ!」


二人の額から黄金に輝く粒子が流れ出し交わると、アナの周りを加工用に螺旋を描く。


螺旋がアナの全身を包んだ直後、まばゆい光と共に、螺旋は宙に消えていった。


「?何が起きたの……?」



「ヨシ。コレデ ハナセル」



すると突然、アナの脳内に老年の女性の声が響いた。


「わ!?なに!?」


「どうしたアナ!!大丈夫か!」


「今声が!」


「声?何も聞こえなかったわよ?」


「え?」


驚くアナをよそに、再び声は響く。


「ハナシタノハ ワタシダ」


「まさか……蛇さん!?」


アナの驚きの声に、蛇王は静かにうなずく。


「あなたしゃべれるのね!すごい!」


「モチロン。ダガ コノコエハ キミニシカ キコエナイ」


「私にしか……?どうして?」


「キミガ トクベツ ダカラダ」


「特別?」


今だ現状を把握できないアナに、蛇王は淡々と言葉を紡いだ。


「ソウトモ。カンゲイシヨウ ワガトモノムスメ。ジュウオウノ ケツゾクヨ」


to be continued

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