夜が来る
[では、出発するとしよう]
C.Cの掛け声と同時に、背後にたたずむ巨大な白門が重厚な音を立てて閉じていく。それを後目に確認したSIU一行は、既に歩き出していたジャンクボット達の後を追い始めた。
協力の申し出から数分後、メンバーの選出を終えたC.Cは、アナ達と共に、サルファ・アデモネラ捜索に出発したのだった。
しかし、SIUの面々には、不安と警戒の色がにじんでいた。
「よりにもよって俺らを誘拐した奴らを元に起用するとは……」
「そう言うな、キッド。あれだけの力を持つ奴らが味方になるんなら、むしろ心強いじゃねぇか」
「そう楽観的にもとらえられないだろ、ビル」
「どうして」
「私たちを簡単に制圧できるものたちを起用した理由が、だれにも見つからない場所で我々を始末する目的だったらどうするんです?」
「テレビの怪光線に、スピーカーの音波攻撃。何より、冷蔵庫のような巨体が敵対するだけで、我らには手に余るのだぞ?」
「それに……」
サムが見つめる先。
そこには、先ほどの誘拐に関与した者達のほかに、新たなジャンクボット達の姿があった。
「電子レンジにヒーター……大方予想はできるけれど、敵に回したくないわね……」
「手放しに協力するとも思えない。みんな、警戒を緩めないようにね」
「……それはあいつに言えよ……」
そう言って、ビルは目線を使い、サムの視線を誘導する。
「わ~!凄い凄い!!」
二人の視線の先には、冷蔵庫のジャンクボットの肩に乗りはしゃぐ、アナの姿があった。
[ハハハハハ!落ちてケガするんじゃないぞ、アナ]
「うん!」
そう言って笑顔で立ち上がるアナ。
と、
「わ!わわわ!」
言ったそばから、アナは立ち上がった拍子に、バランスを崩す。
「「「アナ!!」」」
皆が焦り駆け寄ろうとするが、距離が遠く間に合わない。
あわや落下せんとしたその時
パシッ
落ちるアナの体を、冷蔵庫のジャンクボットがキャッチし、再び自身の肩に乗せなおした。
「あ、ありがとう」
アナの礼に、冷蔵庫は親指を立てる。
そして、自身の頭を開けると、中に入っていたジュースを巨大な手を巧みに使って摘み取り、アナに手渡した。
「くれるの?ありがとう!」
アナの二度目の礼に、冷蔵庫はまたも親指を立てた。
嬉しそうにジュースの蓋を開け飲み始めるアナに、C.Cは笑いながら話しかけた。
[すまない、『J.F』は話せないんだ。だが大の世話焼きでな。都度礼を言ってやってくれ]
「J.F?」
[ジャンクボット・フリッジマンの略称だ。他の者たちも、ジャンクボット・家電名という風に呼んでいる]
「それぞれの名前はないの?」
[ないな。考えたこともない]
「そっか……」
少し黙ったのち、アナは再び口を開く。
「ねぇC.C。どうして喋れるジャンクボットと喋れないジャンクボットに分かれてるの?」
[家電の性質だ。私やTVマン、スピーカーマンは、元来の音声発生機構で話せる。が、カメラマンやフリッジマンのような、音声機能のない者たちは、言葉はわかっても話すことはできんのだよ]
「そっか……」
そうつぶやいたアナは、J.Fに顔を近づけ、こっそりと尋ねた。
「ねぇ、あなたは話してみたい?」
その問いに、J.Fは小さく首を振った。
そんな彼の返答に、アナは小さく答えを返した。
「私は、あなたとお話してみたいな」
その言葉に、周囲のジャンクボット達がピクリと反応する。
「……?どうしたの?」
[……皆驚いているんだ。今まで我々を見てきた人間は、軒並み敵対的で、会話をしようとするものなどいなかった]
「そうなんだ……私は皆と友達になりたい!」
そんな言葉に、フリッジマンは大きな指で彼女の頭を撫でる。
その光景を見ながら、共に歩いているスピーカーマンはC.Cにささやいた。
「なんとなくわかる気がしますね。ゼノンが彼女に託した理由」
[あぁ。……もっと早く彼女に出会えていれば、我々もゼノンも、少し違っていたのかもしれないな]
皆に和やかな空気が流れる中、ある一人は、依然アナ達を敵対視していた。
G.Tだ。
「まったく……どいつもこいつも……」
少し距離を離して歩くG.Tは、悪態をつぶやきながら、アナ達をにらみつける。
「何か裏がある……この時期にやってきた事には何か……」
「何してんだ?」
ブツブツとつぶやくG.Tの元に、ビルが突然現れ、肩に手を置き話しかけた。
「関係ないだろう。その手をどけろ」
「そう邪険にすんなよ。同じアンドロイドだろ?」
「人に与する軟弱物め。貴様のような奴は人間よりも嫌いだ」
「ゼノンにも似たようなこと言われたぜ。そう頑固にならねぇで、仲良くやろうぜ」
そう言って肩を組もうとしたビルの腕を払いのけ、G.Tはビルにつかみかかった。
「仲良くだと?ふざけたことを言うな!!無知蒙昧な愚か者め!!我々がどんな仕打ちを受けてきたと思っている!!もとはと言えば、貴様らアンドロイドが始めた戦争のせいで、我々はこんな仕打ちを受けたんだ!!!消耗品として造られた我々の何がわかる!!!!!」
「わ、悪かったよ……俺はただ……」
「その口を閉じていろ!!貴様の軽薄で一切の思考のない言葉を聞いていると反吐が出る!!!」
「お、おう……」
憤慨しながら、G.Tはつかつかと一人で歩いていく。
そんな後姿をぼんやりと眺めるビルの頭に、サムとシェリーの鉄拳が飛んだ。
「事をややこしくするな!!なんであんなこと言った!!」
「あまりに配慮のない言葉です!!彼らの生い立ちを聞いていなかったのですか!?」
「聞いてたよ!!だからこそ、仲良くしようとだな……」
「もっとやり方ってもんがあんだろ……」
「我でもあのようなことは言わんぞ……」
「なんだよキッドにレオンまで!!こういうのが関係を深める第一歩ってもんだろ!?」
その言葉に、C.Cは冷たい視線を送りながら言い放った。
[確かに、一歩深まったな。……対立へと]
「マジか……」
「もービル!!私仲よくしようって言ったばっかり!!」
「悪い……」
そんな二人のやり取りに、少し緊張が走っていた皆の雰囲気に、再び明るく和やかな色が戻った。
G.Tをのぞいて
「……まだだ……今はまだ……」
一方そのころ
同刻 テリーサイド
『ついたぞ。ここだ』
ガストンの掛け声で歩みを止めたエイペックスの面々。すると、ガストンの肩からテリーが飛び降り、地面のにおいをかぎ始めた。
『どうですかな?なにか匂いますかな?』
「大量の超獣が来たせいで、なかなかにおいがかぎ取れない……」
『奴らの狙いかもしれませんね。狼の超人がいると知って、嗅覚を使った追跡を逃れるために、大量の超獣を呼び寄せたのかも』
『物理的な移動と、嗅覚による追跡を避けたか……相当な切れ者だぞ』
『ではどうするのです!!見つからないんでは、なにも燃やせないではありませんか!!』
『燃やすことが仕事じゃないでしょ、エンヴィーさん……』
『そうではなくてだなぁ!!』
「あった!!」
コナーとエンブラムが口論していると、テリーが嬉しそうに叫ぶ。
『見つけたか!』
「ほんのかすかに、金属と科学燃料系のにおい。北……いや、北東に続いてる!」
『北東……ちょうどサルファ・アデモネラ群生地にも近い。道中で脱走していても、出会える確率は高そうだ』
「それじゃあ、早速」
ガササッ
喜びもつかの間、五人の頭上から、木の枝をかき分ける音が響く。
『!!よけて!!』
コナーが叫んだのもつかの間、五人の頭上に、大量の木の実が降り注ぐ。
『間に合わない!!皆さん!!私の元に!!』
バリトンは全員を呼び寄せると、地面にディスクを投げる。すると、以前教団検挙作戦で使ったようなドームシールドが展開される。しかし、以前使われたものよりもずっと巨大で、五人全員をすっぽりと覆った。
ドームシールドが展開し終わった直後。
ドドドドドオオオォォォン!!!!
降り注ぐ大量の木の実が、一斉に爆発した。
爆発がやんだ直後、一行が頭上を見上げる。
そこには、頬袋をパンパンにした大柄のリスの大群が、木の上から五人をにらみつけていた。
「ボマースクイレル!!なんでこんなに!!」
『ここは爆発性の木の実の植生地……やつらの住処だったのか……超獣が大量に来たせいでピリピリしてんだ』
ガストンが苦い顔をしていると、頭上のボマースクイレルが頬袋から木の実を取り出し、次弾を構えていた。
『まずい、次が来るぞ!』
『ドームシールドも、あの量はもう持ちませんぞ!!』
『それならぁ!!』
と、何やら意気込んだエンブラムが火炎放射器を取り出し、上に向けると、トリガーに手をかけた。
『ここに来るまでに、全て焼き落すだけのことぉ!!!』
キュイイ!!!
ボマースクイレルが木の実を投げ落とした直後
『バーニングカーテン!!!』
ゴアアアアアアア!!!!
エンブラムの持つ火炎放射器のノズルが扇形に変形し、一面に炎の膜を作る。
バガアアアアン!!
すると、炎膜に触れた木の実が次々と爆発し、爆風が樹上のボマースクイレル達を直撃する。
『ひるんだぞぉ!!』
『今だ!!北東に向けて出発!!』
『『『「おう!!」』』』
樹上のボマースクイレルたちを振り切り、五人は北東へと駆け出して行く。
そんな後姿を、じっと見る者がいた。
それは、頭がカメラのジャンクボット、カメラマンだった。
同刻 アナサイド
「よけろ!」
[言われなくとも!]
ビルの掛け声に、C.Cは素早く身をひるがえす。
そのC.Cのいた地点に、巨大なつるが突っ込んできた。
ビルとG.Tとの一件から数分後、着実に目的地に向かっていた一行の前に、巨大食獣植物が立ちはだかった。
「ウシトリグサ……こんな巨大なの初めてだ……」
「よりにもよって急いでいるときに!」
シァアアアアア!!!
アレキサンダーとサムが苦い顔をする中、ウシトリグサはつるをしならせ、一行に狙いを定める。
「困りましたね……じき日暮れだというのに……」
「夜行性の超獣も多い……早くかたずけないと面倒だな……」
サムが考えていると、ウシトリグサの弦による一撃が、再びサムへと向かっていく。
「危ない!!」
レオンハルトが間に入り込みシールドを構えるが、鞭のような一撃に二人は吹き飛ばされる。
「ぐおぁ!!」
「まずッ!!」
ガシッ!!
そんな二人を、アナとフリッジマンが受け止める。
「サム!」
「ありがとう!」
「すまない!助かったぞ!」
レオンハルトのお礼に、フリッジマンは親指を立てて返した。
その直後、C.Cが遠巻きに話しかける。
[あらかた行動は読めた。あとは我々に任せてもらおう]
「え?」
アナが疑問に思った直後、ウシトリグサの追撃が向かってきた。
「まず!!」
つるが四人の元へ向かってきたその瞬間
ガッ
そのつるごと、電子レンジ頭のジャンクボットがつかみ巻き取ると、ウシトリグサの動きを完全に止める。
シァアアアアア!!!
ウシトリグサが呻きながら電子レンジのジャンクボットにつるを巻き付け締め上げるが、当の本人はまるで意に介すことなく、動きを止め続ける。
と、ヒーター頭のジャンクボットがウシトリグサの口に当たる部分を掴むと、自身の頭から強力な熱波を浴びせる。
ジャアアアアアア!!!!
ウシトリグサの断末魔のごときうめき声を聞いてなお、ヒーターのジャンクボットは手を緩めることなく熱波を浴びせ続ける。
すると、ウシトリグサが火に包まれ、轟音と共に地に伏せた。
ウシトリグサが動かなくなったのを確認し、電子レンジとヒーターの二人は距離をとり、自身の身についた火の粉を払い落した。
[苦労をかけたな、レンジマン、ヒーターマン]
C.Cねぎらいの言葉に、レンジマンはオッケーマークで、ヒーターマンは小さくうなずきこたえた。
一方、一連の動きを見ていたビルとサムが、唖然としながらつぶやく。
「あっという間だな……」
「長く浴びれば発火するほどの熱波……凄まじいね……」
と、そのつぶやきを聞いたC.Cが、目を細めながら話し始めた。
[彼らは一世紀前の家電の頭にされた分、その家電の能力を極限まで高められている。発覚を恐れてつなげていないが、私もインターネットにつながれば、あらゆる知識を得ることができる。……情報の抜き取りも可能だ]
「どういった仕組みでそんな……」
[我々にもわからん。ここにきてから新たな仲間を増やすべく、設計図や同胞の死体を解析したが、なぜこの構造で動いているのかがわからない。アイゼンシュタインの珍妙奇天烈な産物だよ……]
「いつの時代もいるんだな、マッドサイエンティストってやつは」
「C.C、皆さん」
皆が話していると、スピーカーマンが駆け寄ってきた。
「じき日が暮れます。近くにいい洞窟がありますから、そこで夜を明かしましょう」
[そうだな……今日はここまでだ。一度休むぞ」
「まだ夕方だ、できれば行けるところまで行きたいのですが……」
サムの提案に、C.Cは少しあざけるような視線を送りながら答える。
[どうやらこの森に入るのは初心者のようだな?サム]
「え、えぇ」
[ならばよく覚えておくといい。この森が真に牙をむくのは、日が沈んでからだ]
そう言うと、C.Cは[行くぞ]と声をかけ、再び歩き出していく。
少し息を整え、サムたちも後に続く。
そんな一行を、沈みゆく陽の光が怪しく照らしていた
to be continued




