いびつな関係
[ついてきてくれ]
言い終わると同時に歩き出すパソコン頭に、アナ達は帯同する。
[……まさか、君のような少女がなぁ……]
「私?」
[……いや、気にするな。ただの独り言だ]
そう言って、パソコン頭は眼前の扉を開く。
そこには、先ほどの3倍ほどはあろう大広間が広がっていた。その大広間のそこかしこを、何百体もの家電頭たちが行きかっている。
そんな中、サムの目にあるものが留まった。
「!!あの奥にあるのは……」
サムの目に映るもの。それは、アイアンエデン本拠地で目にした、広域信号発生装置「ロストボイス」に酷似した鉄塔だった。
「なるほど、合点がいった。ロストボイスの提供者はあなたたちですか」
[共同制作者と言ってもらおう。野望完遂のため、ともに作り上げた傑作。あれはそのプロトタイプにすぎん]
そんな二人の会話に、疑問を感じたアナが割って入る。
「ねぇ、あなたとゼノンはどこで知り合ったの?」
[……話せば長くなる……]
そう言って、パソコン頭は語り始めた。郷愁に浸りながら。
ーーそもそも、我々は機械大戦中期に生まれた。千年も前の家電を好む変人、『Dr.アイゼンシュタイン』の手によって。
当時、アテナに次いでアンドロイド工学の権威だった奴は、戦況が劣勢に立たされた連合軍の依頼で、戦地のアンドロイドの残骸を用いた、新たな機械兵の制作を命じられた。奴は大喜びで依頼を受けたそうだ。
そこから、各戦地の残骸をかき集め、幾度となく試作を繰り返した。だが、既存のアンドロイドのAIはアテナの支配下にある。そこで、奴は新たなAIを作り出した。それがこの私だ。
そこから私は、奴と共同し何体もの同胞を作っていった。その中で、奴は敵と我々が混同しないよう、差異をつけた。それが、この家電の頭というわけだ。
しっかりと機能もある。テレビは体を硬直させる怪光線、スピーカーは音声の発信、カメラは石膏や諜報を行うため、映像受信機能を取り付けてある。冷蔵庫は冷気、ドライヤーは熱波……挙げればきりがない。
だが、そんな我々も趣味の産物ではない。戦争兵器だ。
一個中隊ほどの数ができたころ、我々は戦地に投入された。だが、そこで待っていたのは、味方であるはずの連合軍からのいじめや、誤射と偽る攻撃……前線に送り込まれ、敵軍もろとも爆撃されたこともあった。敵軍に投降しようにも、アテナの管理下にないことを理由にすぐに殺される。……すぐに数を減らしたのは、言うまでもないだろう。
それでも、アイゼンシュタインは作り続け、我々は消耗され続けた。何人の同胞が、私の目の前で死んでいったことか……
ある日、私は耐えられなくなった。味方に殺され、捕虜にもなれず。道具のように扱われただ死んでいく仲間たちを、これ以上放っておけなかった。だが、奴は……アイゼンシュタインはこう言い放った。
「貴様らは所詮消耗品だ」と。
気づけば、目の前で血だらけのアイゼンシュタインが倒れていた。もう脈はなかった。
そしてその時、私はわかったのだ。我々はどこにも属せない、新たな種族「ジャンクボット」なのだと……
私は仲間と共に、あらゆる機材をもって逃げ出した。この光景が見つかれば、我々の殺戮は免れない。かといって、敵方にもいくことができない。だから逃げた。連合軍にもアンドロイドにも見つかることのない場所へ……
目星はついていた。人間国家が少なく、アンドロイドが占領するうまみのない。それでいて、電波がなく、発覚の危険性が限りなく低い土地。そして、ここスラン・バウイクに安住の地を立てた。ジャンクボッツアライアンスをーー
[……今から、三年ほど前か。何をどうしてここを突き止めたのか、突然ゼノンが現れた。アイアンエデンの幹部三名を連れて]
「攻撃しなかったのですか?仮にも敵でしょう?」
[もはや、我々の恨みは人間と超人に向いている。アンドロイドとは事を構える気はなかった]
「それが、戦争終結後の初接触か」
[そう。そこで知った。戦争が終わり、三種族で共和条約が結ばれたことを。……そして、いまだアンドロイドが差別されていることを]
「だが、なぜゼノンと手を組んだのだ?おぬしの言動から察するに、真に大切なのは自身の種族だけであろう?」
[私はそうでも、彼は違った。彼は我々を含めた機械生命体すべてを迫害と絶滅から救うためと、我々に協力を持ち掛けてきた。我々とて、差別されず堂々と生きれるのならば、そのほうがいい。だから手を貸した]
[それで手を貸したのか……」
[そのとおり。そして、ロストボイスが完成し、ここを去る時。彼は最後にこう言っていた]
『私の計画が成し遂げられなかったとき、遺言を残す。その遺言を伝える者こそ、私が夢を託したものだ。どうか協力してやってくれ』
[先ほども言ったが、我々の悲願である「差別なき機械の時代」の野望が潰えたのは、貴様らWDOがアイアンエデンを壊滅させたからだ。その点に関して、我々は強い憤りを持っている。……だが、なぜだかゼノンは、そこの少女に遺言を残した。ならばきっと、彼女に何かを見たのだろう。ゼノンの言葉に従い、我々は彼女に、そして、彼女が属している君たちに協力すると約束しよう]
「縺?→縺励※繧ゅ?菫コ縺ッ邏榊セ励@縺ェ縺?◇」
と、突然皆の背後にいたテレビ頭が、ぼそりとつぶやくように言葉を吐き捨てた。
「あの……いいかしら」
[なんだ?]
「彼ら……さっきから何と言っているのかしら?気になって……」
[あぁ、それなら、これを耳につけるといい]
そう言って、パソコン頭は人数分のイヤホンを取り出し、エリザベスの手に乗せる。
[専用の翻訳機だ。それをつければ、我々の言語がわかるだろう。つけてみろ]
その言葉を聞いた皆は、いわれるままにイヤホンをつける。
すると、先ほどまでわからなかったテレビ頭の言葉が、自分たちでもわかる言語に翻訳されて聞こえ始めた。
「コマンダー!いくらゼノンの言葉と言えど、人間どもに手を貸すなんてどうかしてる!!俺は認めないぞ!!」
[そう邪見にするな、ジェネラル。あの人間嫌いのゼノンが夢を託したんだ、相当な理由があるはずだ]
「だとしても納得できない!!」
二人が言いあう中、アナ達はぽかんとした表情でやり取りを見つめていた。
「このテレビ頭、ずっとこんな風に文句言ってたんだな……」
「まぁ、パソコンの彼から聞いたことがあれば、こうなるのも納得ではありますが……」
と、言いあう二人に、キッドマンが探るように尋ねた。
「コマンダーとジェネラル……それがあんたたちの名前か?」
[ん?あぁ……そういえば、名乗っていなかったな]
そう言うと、パソコン頭は自身の身に着ける服の襟を正すと、皆の前で自己紹介を始めた。
[私の名前は『C.C』。コマンダー・コンピューターの略だ。君たちのように正式な個体名がない分、この名で通している]
そう言うと、C.Cはテレビ頭を見る。しかし、彼は名乗るどころか顔をそむけた。
[まったく……彼は『G.T』。ジェネラル・テレビマンの略だ。……先の大戦で、一番酷な目にあってきた分、極度の人嫌いでね]
そんなG.Tに、アナが歩み寄っていく。
「よろしく。テレビさん」
「……ふん」
アナの差し伸べた手を、G.Tは握り返すことなく、その場から去っていった。
「……」
[そうショックを受けないでくれ、アナ。彼には時間が必要なのだ。……人一倍な]
話ながら、C.Cはアナ達を奥へと誘導する。
[して……君たちの目的がサルファ・アデモネラの調査ならば……それが終われば、君たちは即時出ていくのかな?]
「はい。調査が終了次第、我々はすぐにここを去ります。ここの情報も秘匿するとお約束しましょう」
[なるほど……ならば、我々も協力しよう]
「なに!?」
突然放たれたC.Cの意外な言葉に、G.Tは驚きと憤慨の混じった声で驚く。
「いかれたかコマンダー!!」
[彼らの目的はすでに明白。それに、彼らがここにいることの方が、アライアンス発覚につながる危険性が高い。ここは協力し、速やかに撤退してもらうのが得策だろう]
「こいつらの言っていることが嘘だったらどうする!!どこかで援軍を読んで、大規模な攻撃を仕掛けてくるかもしれない!!それに、まだ森にこいつらの仲間だって残ってる!!もし襲撃をかけられたら!!」
[くどいぞジェネラル!!君の気持ちはよくわかる。だが、君と同じぐらい人間を忌避していたゼノンが信じたのだ。きっと意味がある!]
「そのゼノンを殺した連中だぞ!!」
「そんなゼノンが託した連中だ」
「な……くそっ!!!」
平行線と知ったG.Tは、踵を返し部屋を去っていく。そんな後姿を、アナ達は見守ることしか出来ないでいた。
[……さて、出発するならば早い方がいい。君たちの武器装備は返却しよう]
そう言ってC.Cが指を鳴らすと、先ほど一行を襲撃したジャンクボット達が、皆の装備をもって現れた。
[今回は、彼らと共に私も同行する。一緒に頑張ろうじゃないか]
「……どうにも解せねぇな」
と、淡々と話しを進めるC.Cの話を遮り、キッドマンがいぶかしんだ様子でC.Cをにらむ。
「連れ去った理由はわかる。が、ゼノンの遺言を聞いた途端ここまで手の平を返すってのは、どうにも怪しく感じちまうな?」
[何が言いたい?]
「こう考えちまうんだ。仲間割れと協力的な一面を見せて油断したところを、道中で暗殺するつもりなんじゃないか……ってな」
キッドマンの言葉に、ジャンクボット達はけげんな反応を見せる。しかしキッドマンの考えは、サムたちも同様に感じていることであった。
両者の間に、再び不穏な緊張が走る。
だが、そんな沈黙を破ったのはアナだった。
「キッド。信じてみよ」
「アナ……」
「キッドとエリー、シェリーはあの場にいなかったからわからないと思うけど、ゼノンは心からアンドロイドのことを思ってた。そんな彼が仲良くしてたんだもの。きっとパソコンさんも悪い人じゃないはずよ」
そんなアナに、ビルが心配そうに話す。
「おいおいアナ、さっきの仕打ちを忘れちまったのか?」
「いくら勘違いとはいえ、我々を力づくで誘拐したのだぞ?」
「お気持ちは素晴らしいですが、彼らの能力もまだすべてわかっていません。そんな中で襲われるリスクが少しでもあるのは、やはり危険です」
「三人の言ってることもよくわかる。でも、まずは信じてみないと」
と、その言葉を聞いたC.Cの目が見開かれる。
「お互いの思いを話して、お互いを知っていくの。そしたら、きっと分かり合えると思う。でも、まずは信じないと。いがみ合ってちゃダメ。彼を信じてあげて」
そんなアナの言葉に、ビルたちは言葉を詰まらせる。
「アナの言う通りかもしれないね」
と、サムが彼女の肩に手を置き、話し始めた。
「アイアンエデンの時も、先日のジャスティスマンの時もそう。彼女は、ゼノンと分かり合えることを信じ、くじけたジャスティスマンの力と彼の正義を信じた。結果は、みんなも知ってるだろう?」
「まぁ……」
「そんな彼女が言うんだ。僕らも、彼女の想いを信じようじゃないか」
サムの言葉に、皆はうなずく。その表情は、どこか納得したような、晴れやかな表情だった。
[では!理解も得られたところで、準備を始めようじゃないか!]
そう言って、C.Cは皆を追い越し、入口まで足を進めていく。
その途中、彼の口から、ある言葉がこぼれた。
[信じる……か……]
かみしめるようにつぶやく彼の表情は、どこか嬉し気だった。
一方そのころ
同刻 スラン・バウイク内部 西のオアシス
命からがら皆を引っ張り逃げて来たガストンは、全員の機体を放り投げると、エグゾジャイアントごと地面に座り込んだ。
『まったく……何だってんだ畜生……おい起きろぼんくらども!!』
その声に、エイペックスのジャイアントたちは、鈍重ながらも起き上がる。
『あー……ひどい目にあいましたなぁ……』
『なんなのですかあの連中は!!聞いたことも見たこともありません!!』
『俺も長いことここに来てるが、初めて見た……コナー、何かわかるか』
『さっぱりですね。道中で少し調べましたけど、情報なし……アイアンエデンの残党ですかね?新型アンドロイド作ってたらしいし』
「だとしたら……まずい……!!」
と、ガストンの肩から、呻くような声が漏れる。
『テリー!もう大丈夫なのか!?』
「だいぶ良くなったよ。もう休んでもいられない……!」
『良くなったって……まだ全快じゃない。少し休んで……』
「ダメなんだ、コナー。もしアイアンエデンの残党なら、ゼノンを倒したのが僕らだと知れたら、何をされるかわからない!みんなが危険だ!」
『しかしですなぁ……一切の手がかりがないんじゃあ、探そうにも……』
「手がかりならあるよ」
そう言って、テリーは自身の左手を見せる。
その爪には、先程テリーが傷つけたジャンクボットの機械片が残っていた。
『そんな木っ端が?』
「僕は狼だ。これだけ残ってれば、においはわかる!」
『しかし、この森は広大だぞ。むやみに歩き回る方が危険だ』
「それなら大丈夫。ガストンさん、さっきまでいた地点はわかりますか?」
『あぁ、一応は』
「なら一度戻って、そこからにおいを追えば行けます。最短経路で行けば、きっと間に合う」
しかし、そんなテリーの言葉を、コナーが否定した。
『駄目です。最短経路は地形が複雑すぎるし、大型肉食超獣の住処が多い。行くだけで危険が……』
「地形は熟知してる。超獣の住処だって、独特のにおいがするから避けられる!」
『しかし……』
「みんなの命が危ないんだ!!!」
突然響いたテリーの叫び声に、皆は面食らったように言葉を止める。
「あんな力づくで誘拐したんです、既にゼノンの件を知っているのかも。もしそうならこうしている間にも、みんな無事じゃないかもしれない……すぐ助けに行かないと……」
消え入るように訴えるテリー。
『自分は、テリーの案に賛成です!!』
と、その言葉に賛同者が出た。
『我々の任務は、皆さんの警護です!危険ならば、なおのこと急がなければ!!』
『エンヴィー……お前、ただ戦いたいだけだろ……』
『は!!敵対勢力は、速やかに灰にしなければ!!』
『……プッ』
『ははははは!!』
そんなエンブラムの主張に、皆は笑わずにはいられなかった。
『確かにそうだな。敵は迅速にせん滅する!俺たちのモットーを忘れていた!!』
「!じゃあ!」
『テリー。あんたは俺の肩で休んでいろ。あっちについたら頼んだぞ』
そう言って、ガストンは立ち上がり、腰の三連装ミニガンを手に取る。
『よぉし!!エイペックスプレデターズ!!SIU救出のため、敵本陣へ向かう!!行くぞ!!』
『『『おぉ!!』』』
to be continued




