異形たちの城
「ん……」
不規則に揺れる暗闇の中、アナの重い意識がゆっくりと目ざめた。
「ここは……」
小さくつぶやいたその声は、不規則に揺れる暗闇の方々から反射し、再び彼女の鼓膜を震わせる。どうやら、金属製の何かに閉じ込められているようだ。
(この感じ……なんかやだ……)
アナ胸に、一抹の不安感と恐怖が去来する。
以前、廃棄場ブラボーで目覚めた際、彼女はアンドロイドの残骸の山の中で目を覚ました。
その際に暗闇の中で感じた焦燥感と不安感、いつ出れるともしれない恐怖は、彼女の暗闇への恐怖を増長させるに十分な要素だった。
「だっ……誰もいないの……?」
次第に呼吸が荒くなる。
ただでさえ何も見えぬ暗闇が、さらにかすんでいく。
(だれか……誰か助けて……!!)
彼女の声なき叫びが胸中で響いたその時
「アナ!!」
「アナさん!!」
突然、男女の声が響いた。
「だ……誰……?」
「俺だよ!ビルだ!」
「シェリーです、アナさん」
途端に、アナの視界を灯りが覆う。
思わず目を覆ったアナが光の先を見ると、ビルとシェリーが心配そうに彼女を見つめていた。
「ストレス性の動悸、息切れを確認」
「大丈夫か!?あいつらに何された!?」
「だ、大丈夫。もう大丈夫」
アナは息を整え、二人に近寄る。
「ありがとう。暗闇が怖くって……二人が声をかけてくれなかったら……」
「そうか……けがはないか?」
「うん。大丈夫。ここは?」
「コンテナの中だ。あいつら、俺らを拘束して放り込みやがった……」
説明しつつ少し安どするビルに、シェリーがきびきびとした口調で話しかける。
「安堵を検知。まだ早いですよビルさん。急ぎ皆さんの拘束を解いて、ここから脱出しなければ」
「おぉそうだな。アナ、ここで待ってろよ。すぐ戻る」
そう言うと、二人の腕が鍵のような形に変形する。そのまま二人は光を頼りに、暗がりにいる何人かの拘束を解いた。
「よぉし。これで全員だ。大丈夫か?」
「はあ!!ようやく動けるぞ!」
「いてて……まだ頭がいてぇ……」
「ったく、ここはどこだ……?」
「コンテナの中です。全員、拘束具をつけられて放り込まれました」
「俺とシェリーで解析して何とか開錠したが……時間かかったぜ……」
安どしていると、レオンハルトにアナが勢いよく抱き着いた。
「レオン!アレク!キッド!」
「おぉアナ!おぬしも捕まったのか!」
「大丈夫か?変な音聞かされたりしなかったか?」
「うぅん。でも、テレビ頭の人に変な光を浴びせられて……」
「俺と同じだな。あれを受けると、なんでか意識が遠のいちまう……」
「お二人とも、お体に何か違和感はありますか?」
「ううん。なにも」
「俺もだ。しいて言うなら、すこしぼーっとするくらいか」
「わかりました。……ひとまず……題字無くて良かったです……」
全員の安全を確認したシェリーが、安どのため息とともに座り込む。
しかし、すぐにアレキサンダーの顔が曇った。
「……サムはどうした?エリーとテリーは?」
「お三方とも姿が見えません。別の場所にとらえられたか、エイペックスの皆さんと共に逃げられたのか……」
「いや、サムは捕えられた。俺より先に、洗濯機頭の中に入れられてな」
「なら、俺とシェリーを放り込んだ奴も入れて洗濯機頭は二体……どっちか捕まってるかもな……」
「となると……ここから逃げるにしたって、二人救出しないといけないな……どうする?敵は多いぞ」
アレキサンダーの言葉に、皆の言葉は詰まる。
ここで皆がそろっていれば、一斉に逃げ出すこともできただろう。しかし、少なくとも一人が別場所にとらえられている以上、その人物は人質となりえる。皆の逃走が二人の命を脅かすことになる可能性が、選択を狭めていた。
「一斉に飛び出すのはどうだ?奇襲をかければ……」
「ダメだアレク。敵の配置がわからない。即座に殺せる準備が整っていたら、サムの身が危ない」
「なら、私がラプターで外を見てみるのは?」
「いい案だが、ラプターサイズの穴をあけるのは相当音が出る。どのみちばれるぞ」
「ならキッドはいい案あるのかよ?」
「……」
「無いのかよ!?」
「あったらとっくに言ってるぜ……」
皆がけんけんごうごうと話し合う中、ついにしびれを切らしたレオンハルトが、すっくと立ちあがる。
「えぇいまどろっこしい!!こんな薄鉄一枚など、我が拳で突き破ってくれる!!」
「「「おいおいおいおいおい!!!!」」」
皆が振りかぶるレオンハルトを止めようと駆け寄りだしたその時
ゴゴオオォォン
コンテナ全体を衝撃と轟音が包んだ直後、揺れが止まった。
「……なんだ……?」
「どこかについたようですね……」
バガン!!
皆が耳をそばだてていると、突然コンテナの扉が開き、まばゆい太陽の光が皆の視界をくらませる。
すると、スピーカー頭が一体顔をのぞかせると、間髪入れずに声を発した。
「出なさい」
皆は警戒し、その場で戦闘態勢をとる。
しかし、サムの身の安否が知れない以上、従うほかに道はなかった。
「また手錠しなくていいのかよ?いつでも暴れられる?」
「そうなればお仲間がどうなるかわからないほど、あなた方はバカではないでしょう?さ、ついてきなさい」
ビルの挑発を軽くいなすと、スピーカー頭が歩き出していく。
一行は顔を見合わせ、攻撃態勢をとろうと身構える。
ジャキッ
しかし、既に周りは多数の家電頭たちに囲まれ、あまつさえ武器も向けられている。そんな状況下では、さすがのレオンハルトも鳴りを潜め、スピーカー頭についていった。
周囲を襲撃者たちに囲まれる中、皆が少し歩くと、監視塔のついた白い巨大外壁と共に、壁と同高度の機械的な門が姿を見せる。
門前までたどりつくと、戦闘のスピーカー頭が何かを話し始めた。
「縺溘□縺?∪謌サ繧翫∪縺励◆」
ゴゴオン
スピーカー頭が声を発した直後、重苦しい音と共に、白い門がゆっくりとその口を開けた。
その奥に鎮座する巨大な岩山に付いているもう一つの白門まで一本に続く道は、得体のしれぬ恐怖を皆の胸中に抱かせる。
と、足が止まる一行の最後尾にいるキッドマンを小突き、テレビ頭が言葉を発した。
「騾イ繧?」
「あん?」
「”進め”、と言ってます。行きましょう」
言葉を訳したのち、スピーカー頭は再び歩き出す。一行も、後に続いて歩を進めた。
やがて、眼前まで迫る白門が、到着を目前にしてゆっくりと開きだす。
「え!?」
その奥に広がる光景は、アナ達の口から驚嘆の声を出すには十分なものだった。
オレンジの光が照らしだす洞窟では、無数の家電頭たちがひしめき合っていた。
スピーカーやテレビ、冷蔵庫や洗濯機のほかに、カメラにマイク、ドライヤー、ラジオにストーブまでいる。
そのどれもが、1900年代や2000年代と、現代よりもはるか昔の様相をしていた。
およそ現代の光景とは思えない光景に、必然、皆の言葉は口の中でとどまっていた。
「なんだ、こりゃあ……」
「全員頭が家電……私のCPUは故障したのでしょうか……?」
「案ずるなシェリー……我の目にもそう映っている……」
「なんだってこんな、古臭い家電ばっか……」
バゴン
皆が唖然としていると、襲撃を仕掛けてきた洗濯機頭二体が自身の頭の蓋を開き、中から二人の人間が落ちてきた。
「うわ!」
「きゃっ!」
「「「サム!エリー!!」」」
地面でしりもちをつく二人に、皆は駆け寄る。
「二人とも!!大丈夫!?」
「いてて……アナ!君もさらわれたのか……」
「変な光浴びてたけど、大丈夫!?」
「うん、私は大丈夫!」
「良かったぜ……特にけがはなさそうだな」
「そうでもないよ、頭がグラグラする……」
「洗濯機の中にいたんですから、仕方ありませんよ……」
「それよりも、テリーはどうした?」
「?みんな一緒じゃないのかい?」
[彼なら、あの巨大なお仲間と一緒だよ]
皆が話していると、突然洞窟の奥から、鮮明な機械音声が響く。
皆が目をやると、人型の何かがゆっくりと歩み寄り、皆を高台から見下ろす。
その存在の頭部は、パソコンモニターの形状をしていた。その画面には、オリバーのような目と口の形をかたどる半月状の光が三つ灯っている。
[やぁ”お客様”たち!ようこそ!我々の城へ!!]
笑顔を浮かべ声高に叫ぶと、パソコン頭は飛び降り、手足のジェットを使って軽やかに着地する。
そんなパソコン頭に、皆は警戒の視線を向ける。
だが、パソコン頭は意に介すこともなく、気さくに話しかけた。
[いやすまない!手荒な運搬になってしまった!けがはないかな?]
「ケガはないかだとこの野郎!何の目的で」
声を荒げるビルを、サムは手で制止し、一歩踏み出す。
ジャキ
そんなビルの頭を、横で立っていたテレビ頭の手に握られた銃口がとらえる。
「蜿」繧呈?繧∽セオ蜈・閠?a??」
「繧?a繧搾シ?シ?」
何かを叫ぶテレビ頭を、パソコン頭が怒り顔で怒鳴りつける。
しかし、すぐに笑顔に戻り、再びサムたちに話し始めた。
[いや失敬!彼らはなかなか気性が荒くてね!君らには言葉も通じないというのに……]
「彼らはなんといっているのですか?初めて聞く言語体系で……」
[疑問に持つのも当然だ、Msシェリー!これは我々ジャンクボッツ・アライアンス独自の言語体系でね!専用の翻訳機なしでは、君たちは理解できないだろう!]
「なぜ私の名前を……それに、独自言語……?あなた方、いったいいつからここに……」
シェリーの言葉を遮るように、パソコン頭は[チッチッチ]と舌を鳴らしながら、皆に近づいてくる。
[質問はお互いにしあってこそフェアというものだ!だろう?]
「……えぇ、一理あります」
[それならばよかった!では、私からも質問させてもらおう!]
直後、パソコン頭の顔から、笑顔が消えた。
[お前たち何者だ]
ジャカカッ
直後、周囲を囲んでいた襲撃者たちが一斉に銃や武器を向ける。
その全てが、全員の頭に正確に照準を向けていた。
一瞬で、一行に緊張が走る。
そんな中、サムが両手を上げ、ゆっくりと一歩踏み出した。
「発言をしても?」
[もちろん]
「初めまして、私はサム。世界政府の者です」
[やぁサム。何故ここに来た]
「この森中央部に咲いているサルファ・アデモネラの調査に来ました」
[あぁ……例の違法薬物の……]
「えぇ。我々が解明しなければ、世界は依然として混沌に包まれたままです。何とかしなければ」
[なるほどなるほど……実に良いいいわけだ]
そう言うと、パソコン頭は懐から拳銃を取り出し、サムに突き付ける。
[そんなこと、あんな大仰な武装部隊を連れてこなくともできること。真の目的は別にあるんだろう?]
「彼らは超獣専門の護衛です。決して他意など……」
[誰しも最初はそういうものだ]
サムの言葉を、パソコン頭はなかなか信用しない。
そこで、サムは思い切ってパソコン頭に尋ねた。
「……あなたは、我々の目的を何だと?」
その問いに、パソコン頭は答える。
だが、その顔は非常に険しいものだった。
[決まっているだろう。我々のせん滅だ]
「はい?」
[貴様らは先遣隊、もしくは諜報部隊。だろう?あの制圧能力と察知能力。波の人間ではない]
「……何か誤解があるようです。我々はサルファ・アデモネラ調査以外に目的は……」
[それが当たやしいと言っているんだ!]
平行線のまま、二人は言い争う。
そんな光景に辟易したビルの口から、不満がついて出た。
「ったく……こいつ、ゼノンぐらい頑固だな……」
「雋エ讒假シ?シ∽サ贋ス輔→縺?▲縺滂シ?シ?」
その瞬間、ぼやきを聞いたテレビ頭の一体が怒りだした。
「なっなんだ!?」
「どうした!?」
[?おい貴様。今何と言った]
「た、ただのボヤキだよ!!」
ビルが弁明する中、テレビ頭は怒り口調で何かをパソコン頭に伝える。
その言葉を聞いた瞬間、パソコン頭の顔が見たこともないほど怒りでゆがんだ。
[貴様ら……WDOか……!!]
パソコン頭が言い放った直後、銃を突き付けていた家電頭たちが、一斉に全員を地面に組み伏せる。
「な、何を!?」
[よくも!!貴様らのせいで、我々の夢が潰えた!!最大の敵だ!!!!]
「おい何の話だよ!!」
[最早会話も必要ない!!全員磔刑だ!!縺、繧後※縺?¢??シ?]
パソコン頭の怒号を聞き、家電頭たちが一行を拘束し、奥へ連れて行こうと歩き出す。
「ビルお前!!余計なこと言いやがって!!」
「こいつらがつながってるなんてわかるわきゃねぇだろ!!」
「どうしますサム?これが逃げ出す最後のチャンスですよ?」
「く……やむを得ないか……全員!!」
「待って!!」
サムが戦闘開始の合図を出そうとした直後、アナが声を上げた。
「パソコンさん!あなた、ゼノンを知ってるの?」
[だったらどうした小娘!いまさら何を言ったとて]
「彼から、遺言を預かってるの」
その言葉を聞いたパソコン頭が手を上げる。途端に、家電頭たちの動きが止まった。
パソコン頭は、ゆっくりと振り返る。
[……なに?]
「彼に言われたの。自分を知ってる人に伝えろって」
その言葉に驚きつつ、パソコン頭は恐る恐る尋ねる。
[…………あいつはなんと……?]
「『私は戦った。あとは君たち次第だ』……って」
その言葉を聞いた直後、パソコン頭が唖然とした表情で動きを止める。
長い沈黙が流れた後、パソコン頭は小さくつぶやいた。
「窶ヲ窶ヲ蠖シ繧峨r髮「縺?」
「!?譛ャ豌励°繝懊せ??シ溘%縺?▽繧峨?」
「縺?>縺九i髮「縺幢シ?シ?」
「……莠?ァ」
吐き捨てるようにテレビ頭が何かを言った後、突然皆の拘束が解かれる。
「え……?」
困惑するアナたちに、パソコン頭は再度話しかける。
[……奴は……強かったか……?]
アナは、まっすぐ彼の目を見て答えた。
「うん。とても」
[…………そうか……]
パソコン頭は後ろを向くと、少しばかりうつむく。
[……聞きたいことはいくつもある。……だが]
そして、再び向き直り、皆に顔を見せる。
その顔は、先ほどよりも爽やかな笑顔だった。
[まずは歓迎しよう。ようこそ、『ジャンクボッツ・アライアンス』へ」
to be continued




