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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第四章 蛇の腹の底
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自然の洗礼

ズン  ズン


ビルのように高い木々に覆われたの下を、鉄の巨人たちに囲まれた九つの人影が、人の背丈ほどある草花をかき分け歩んでいく。




スラン・バウイク潜入から30分。一行は目的地であるドーピングフラワーの群生地へと、着実に向かっていた。


「あぢぃ~……」


そんななか、身体を手で仰ぎながら、ビルは自身の足元の木の枝を踏み越えていく。


「おいおい、アンドロイドに熱いとかあんのか?」


「なぁキッド。あんたが機械に詳しくねぇのは知ってるが、排熱機能まで知らないとは驚いたぜ」


「私たちアンドロイドも、脳の役割を持つ部分が熱を持ちます。必然、気温にも左右されるんですよ」


「やっぱ精密機械ってのは、そこらへん面倒なもんなんだな」


キッドマンが感心にも似たため息をつくと、背後のエグゾジャイアントから、若い声が響く。


『なんでも気温によりますよ。僕らの乗ってるこれ(エグゾジャイアント)だって、寒すぎると関節が動きづらくなりますし、キッドさんの銃だって、熱いところじゃ銃身が温まりやすくて撃ち続けられない。何でもそんなもんです』


「あぁ……そう言われると納得だ。説明がうまいな。あー……」


『コナー・オブライエンです。お好きに呼んでください』


「そうか。悪いなコナー、この年になると物覚えがな……」




そんな二人の会話を聞き、左に位置するバリトンが申し訳なさそうに声を上げた。


『すみません、うちの若いのが生意気に……』


「はっはっは!気にするな!キッドは気にしておらん!」


「それに、数日一緒に過ごすんですもの。楽な話し方でいいのよ」


『ははは、そういってもらえると、気が楽ですな』




笑いながら話す三人の左側では、エンブラムが不満そうに唸り声をあげていた。


『うーーむ……』


「どうかしたかい?エンヴィー」


『ここのところ、心を燃やし足りんのですよ!これじゃ消化不良だ!!なにかありませんか!!』


「おいおい、放火に走らないでくれよ……」


『何を言いますかアレクさん!!奴らのように新年なく燃やすわけでは無い!!心を!!血潮を熱く燃やしたぎらせてこそ!!生きる活力が生まれるというもの!!』


「だからって自ら燃やしに行くこたないだろう……」


「実戦で灰になってしまったら困るから、すこし抑え目で……ね?」


『うぅ……了解いたしました!!』


「まったく……ただでさえ暑いのに、余計暑苦しいぜ……」




呆れるアレキサンダーを後ろに見ながら、ガストンのエグゾジャイアントの肩に乗るアナは、小さく笑い声をあげる。


「フフ、アレクもう疲れてる」


『そりゃあそうだ。あいつ(エンブラム)はいつもあぁだから、初めて会う奴はしんどいだろう』


身体をよじり、胸部のメインカメラでエンブラムの機体を見ながら、ガストンは笑いながらアレクに不憫さを抱く。


『それより、どうだアナ?そこからの眺めは』


「すごく綺麗!周りの森が全部見える!」


『はっはっは!そうかそうか!』


あかるく笑うガストン。しかし、すぐに笑い声は消え、まじめな声色へと変わる。


『……こんなとこだ、いつ何があるかわからん。楽しめるうちに楽しんで、休めるうちに休んでおくといい』


「……そんなに危険なの?まだ何もないけど……」



「危ないよ。とってもね」



二人が話していると、テリーがガストンのエグゾジャイアントに気を伝って飛び乗ると、アナの隣に腰かけた。


「スラン・バウイク。直訳で”蛇の腹”。ゲノムワンが流出したとき、高濃度のものが当時のコンゴ盆地に流れ込んでできた、巨大森林なんだ。当時の国々の焼却とか、サハラ砂漠の一部が残ったりとかで、蛇の模様みたいにまだらになってることも、この名前になった理由の一つだよ」


「”一つ”?まだ理由があるの?」


テリーは遠く前を見つめながら、言葉を続ける。


『変異したのは、森だけじゃない。動物たちもさ。自然の王国だったアフリカの動植物たちが軒並み変わった。他の場所よりも凶暴に、凶悪に。でも、アフリカの国は壊滅していない。それは、この森にすむ絶対的な”王”が、それを許さないからさ」


そう言って、テリーは腰に差していた何かを広げ、アナに見せる。


「それは?」


「さっきそこで拾った、王の”抜け殻”さ。大きいでしょ?」


「すごい……ウロコがびっしり……大きさも布団みたい……」


「これでもかなり小さいほうさ。多分ちぎれたんだろうね」


鱗模様の刻まれた大膜を再び腰にしまい、テリーは続ける。


「『蛇王』。国や村で呼び方は違うけど、この肩書だけは変わらない。この森をあまねく統べる、超巨大大蛇。今だに全体像を見た者はいないって言われてる。尻尾を見るとラッキーとも言われてるね」


「蛇が頂点……だから蛇の腹(スラン・バウイク)……」


『それだけじゃないぞ』


と、二人の会話にガストンが入ってくる。


『この森は滅多に生存者を出さない。迷い込んで生還できたのは、3パーセントぐらいだな』


「そんなに少ないの?!」


『あぁ。なにせ……』



『レーダーに反応あり。何か来ます』



ガサッ



コナーがガストンに警告した直後、右前方から草木を鳴らす音が響く。異音を察知した全員が、だれ言うでもなく足を止め、それぞれに武器を構える。



しかし、テリーは至って平常だった。



「みんな、大丈夫。狂暴な奴じゃないよ」


「……確証がない。危険すぎる」


「大丈夫だよ。なんなら、僕見てくるね」


そう言うと、テリーは軽い身のこなしでエグゾジャイアントを飛び降り、音の下方向へかけていく。


「おい!テリー!!」


「うぅむ……何かあればことだぞ……」


「僕が見てこよう。みんなはそのまま……」


サムが銃を両手に駆け出そうとしたその時。



ガサガサガサッ!!!



草むらをかき分け、巨大な影が飛び出した。


しかし、その正体を見た一行は、唖然とした表情で棒立ちになってしまった。


「な、なんだこりゃ……?」


「大きいわねぇ……」


皆の前に現れたのは、大きな二本の角を携えた、高さだけでもレオンハルトと同等の巨躯を誇る、スイギュウだった。


そんなスイギュウの後ろから、テリーが少し息を切らして顔を出した。


「ギガントバイソン!このあたりじゃめったに見れないよ!」


その後ろから、さらに数体のギガントバイソンがのそのそとこちらに歩いてくる。


「可愛い……」


敵意がないと見るや、ラプターを使って地表に降りたアナの顔に、ギガントバイソンの一匹が頬を擦り付けてくる。


「わ!くすぐったいよ!」


「おぉ!随分なつっこいではないか!」


「おとなしくて可愛いわね!よしよし」


「肉付きもいい。焼いたらうまそうだな……」


「変なこと言わないでください、キッドさん……」


皆はそれぞれ、自陣を横断するバイソンたちを撫で、遠くから見つめてかわいがる。



そんな中、エイペックスプレデターズの面々は、いぶかしむような声で話していた。



『四……いや、七……かなりの数いますね』


『小規模の群れか。内陸部から移動してきたのかな?』


『ここら辺は植生も違う……口に合わないはずだ……いったいなぜ……』



と、テリーが突然顔を上にあげると、しきりに鼻を鳴らす。



「!みんな!戦闘態勢!」


「なに?」


アレキサンダーがテリーに顔を向けた直後。



グオアアア!!!



突如樹上から雄たけびが響いたかと思うと、一つの影が、アレキサンダーの頭上から飛び出した。


それは、まるでムササビのような膜が足についた、バイソンと同じ大きさの虎だった。虎は一行の前に躍り出るや、中心を歩く一匹のバイソンの喉笛にかみついた。



ブモオオオ!!!



他の仲間が逃げ去る中、バイソンは苦しそうな声を上げながら、その場で自信を襲った何かを振り払わんと暴れまわる。

しかし、襲撃者は頑として首からその牙を離さない。

次第にバイソンの動きが鈍重になってきたその刹那。



ゴギ



鈍い音が響いた直後、今まで旺盛に暴れていたバイソンはその巨体を地に伏せ、完全に動きを止めた。


バイソンをしとめた虎は、次は周囲を取り囲むアナ達へ、その鋭い視線を向ける。


「おいおい……今度はバカでかいトラかよ?」


「この巨体でしなやかな身のこなし……厄介ですね……」


『そこに居座られたんじゃあ、皆さんを巻き込む……攻撃もできん……!!』


エンブラムが歯がゆそうな声を上げ、一瞬警戒が緩んだ直後。シェリーめがけ、虎は目もくれず飛びかかった。


「おや、エサではないものを排除する気ですか」


小さくつぶやいた直後、シェリーの足が地を蹴りえぐる。


[アタックステップ・グラン!!]


直後、シェリーの蹴りが虎の胴体に直撃し、その身を大きく吹き飛ばす。



ギャウン!!



ガストンを飛び越え、その身を大木に大きく打ち付けた虎は、痛む体を無理やり起こし、鋭い相貌を依然としてアナ達に向け続ける。


しかし、先ほどとは状況が違った。



ダダダダダン!!!



鋭い銃声が、ガストンのエグゾジャイアントが持つ銃から鳴り響く。


虎は一瞬ひるむが、即座に目線をガストンに据える。しかし、その目は怯え切っていた。


『行け』


鉄の巨人から発せられた二文字は、意味が分からずとも、その覇気で虎の戦意を完全にそぐ。虎はグルグルと喉を鳴らしながらも襲い掛かることはなく、再び森の奥へと消えていった。


「なんだったんだ、今のでかい虎は……」


『アサシネートタイガー。カメレオンみたいなカモフラージュ能力を持った、樹上性の虎だ』


『特殊な皮膚構造なせいで、レーダーにも映らない。厄介な捕食者です。……この虎も、本来はここら辺にはいないはずなんですが……』



バガン



と、アサシネートタイガーが去っていった方向から鈍い音が聞こえると同時に、何かが降ってきた。



ボドッ



それは、半分かじられたアサシネートタイガーの頭だった。


「今度はなんだ!!」


アレキサンダーの言葉に呼応するように、周囲の草花をなぎ倒し、新たな巨獣が姿を現す。


巨大なはさみと先端が鋭い尾を携えた、10メートルはあろう黒光りする大サソリが、はさみをガチガチと鳴らし、小さな木をなぎ倒しながら現れる。その口は、アサシネートタイガーの地で赤黒く染まっていた。


「巨大サソリ!?」


『ランドスコルピオン!!ここらの土壌動物のトップだ!!』



ギシェエエエ!!!



耳障りな鳴き声を響かせ、ランドスコルピオンは一向に猛進してくる。


『させんよ!!!』


と、一行の前にバリトンが立ち、盾を構える要領で腕をランドスコルピオンに向ける。瞬間、エグゾジャイアントの腕から巨大なエネルギーバリアが発生。追突してきたランドスコルピオンをものともせず、動きをその場で封じた。


『それしきのタックルで、ここは通れんぞお!!』


瞬間、バリトンは盾の角度を巧みに変え、スコルピオンの体を傾けると、そのまま頭を掴み持ち上げる。突然前足が地につかなくなり、スコルピオンは焦って暴れるも、バリトンのエグゾジャイアントはピクリとも動かない。


と、バリトンのエグゾジャイアントの肩からミサイルランチャーが四門姿を見せる。


『吹き飛びな、ベイビー』


四門のランチャーから放たれたミサイルは、正確にスコルピオンの腹に命中する。しかし、爆発が起きることはない。だが、スコルピオンの動きは徐々に止まり、やがてだらりと力なくはさみを地に垂らした。


『ふぅ……なんとかなりましたな』


「な、何をしたんだ……?」


『高電圧を流す、制圧用のミサイルを使ったまでのことです』


「死んじゃったの……?」


『いや、一時的な麻痺程度ですぞ。しばらくすれば、また動き出すでしょうな』


皆が唖然としていると、ガストンが武装を改めて整え、皆に呼び掛けた。


『さ、今のうちに移動しよう。目覚めて追いかけられたら厄介だ』


「そうだね……よし、先に進もう」


皆が進む中、アナは再度後ろを振り返り、巨大サソリの体を見つめる。


そんなアナに、ガストンは再び語り掛けた。


『アナ。なぜ生存者が少ないのか……こうやって絶えず捕食者たちが襲ってくるからだ……』


この森の洗礼を肌身で感じ、アナは皆と同じく、歩を進めるのであった。






スラン・バウイク潜入から2時間経過。




幾度となく襲い来る超獣たちの猛攻をかいくぐりつつ、一行は先へ進んでいく。


しかし、絶え間ない自然の脅威にさらされ、その歩みは鈍重なものとなっていた。


つい数分前に食獣植物の襲撃を受けた一行に、ついに限界の二文字がよぎり始めた。


「ふぅ……何とか退けたな……」


「やだ……蜜で体中べたべた……」


アレキサンダーとエリザベスがよどんだ顔色で歩く中、バリトンは自身の肩に乗るテリーを気に掛ける。


『ご気分はいかがですかな?』


「まったく……良くない……」


『解毒剤を打ったとはいえ、麻痺花粉を直に吸い込んだんだ。しばらくは治らんだろう』


そんなガストンの言葉を聞き、キッドマンは呆れ声で話す。


「まったく……考えなしに木の実をとろうとするからだぞ、ビル」


「そういうあんただって乗り気だったじゃねぇかよキッド……」


「気持ちはわかるぞ……我も菓子を口にしたい気分だ……」



そんな疲労困憊の皆を見、サムはすぐに立ち止まった。



「よし、少し休憩しようか」


「「「やったー!」」」


休憩の二文字を聞いたとたん、ビルとキッドマンはその場に座り込む。


「ふぅ~……足腰にきついぜ……」


「ともかく休みだ!飯にしようぜ飯に!」


「はいはい、今準備するから待っててね。テリーは?食欲ある?」


「ない……」


「今は安静にしているといい!おぬしのぶんはちゃんと取っておくからな!」


そう言って豪快に笑うレオンハルトに、皆もつられて笑顔がこぼれる。



しかし、シェリーは一人険しい顔をしていた。


「?どうかしたかいシェリー?」


サムの声を聴いたシェリーは彼を一瞥すると、突然皆に呼び掛けた。


「皆さん。急でなんですが、テレパシーインカムをオンにしてください。プレデターズの皆さんも、通信回線を私に」


「?どうした急に?」


「お願いします」


「お、おう、わかった」


言われるがまま、皆はテレパシーインカムを起動し、耳に着ける。


それを確認してから、シェリーは話し始めた。


「先刻から、何者かにつけられています」


「数は?」


「2……いえ、3人です。先ほどから隠密が雑になってきているところを見るに、長いこと監視しているようです。恐らくランドスコルピオン襲撃時……もっと前からかもしれません」


「だれが何のために、こんなとこまでついてきてる……?」


「……ベルセルクをばらまいてるところかもしれんな」


レオンハルトの言葉に、皆の緊張が高まる。


「ともかくです。何としてもとらえなければ」


「とらえるったって、どうやって?」


「ご安心を。私に作戦が……」






「火起こし用の薪をとってきます。ビル、手伝いを頼みます」


「あいよ」


数分後、二人は薪拾いのため、一行の輪から外れていく。


そんな二人を、ひそかに追跡者が追っていく。


草木をかき分け、一定の距離を保ちながら、追跡者は二人を追う。


と、突然強大な葉が上からたれ、追跡者の視界を覆った。


慌てて追跡者は葉を払い、二人がいた方向へと視線を移す。



しかし、二人の姿は忽然と消えていた。



「よぉ」


突然、背後から短い声が聞こえたかと思うと、追跡者の体が突き飛ばされ、地面へと倒れこむ。その隙逃さず、ビルは銃を向け、シェリーは足で追跡者の体を踏み、身動きを封じた。


「こんなとこまでついてくるたぁ、なかなか根性あるじゃねぇの」


「何者ですか?どこの差し金ですか?お答えいただくまで、身柄を預からせていただきます」


そう言って、二人は追跡者の顔を見る。


しかし、眼前にいる者の顔は、およそ”顔”と呼べるものではなかった。


「!?な、なんじゃこりゃ!?」


「カメラ型の……頭?」


二人がとらえた追跡者。その頭は、取り付け型の監視カメラと同じ形をしていた。


二人が唖然としていると、テレパシーインカムに通信が入る。


「こちらサム。二人とも、大丈夫かい?」


「え、えぇ。問題なく拘束しました。ただ……」


「?ただ?」


「頭が……カメラの形した奴なんだ」


「カメラァ?何言ってんだ?」


「新手のアンドロイドかしら……?」


「さぁなぁ……詳しく調べないことにゃなんとも……そっちはどうだ?」


「おおよその位置はつかんだ。これから拘束に」



ザーーーーー



「あっつ!!なんだ!?」


突然、インカムの通信が途切れ、砂嵐のような雑音が流れる。


「テレパシーインカムが通信不良……?んなことあるか……?」


考えこみながら、ビルはあたりを見回す。特段通信の邪魔になりそうな障害物はなく、ただうっそうと木々が茂っているだけであった。


「俺の奴の故障か……?なぁシェリー。インカムで通信できねぇかやってみてくれ」


ビルは何度か耳の部分をいじりながら、シェリーに声をかける。




しかし、返事がない。




「……?シェリー?」


不審に思ったビルが振り返ると、シェリーの首元に光るものが見える。


ナイフだ。何者かが、後ろからナイフを首にあてているのだ。


「!!シェリ……」



ガチャ



ビルが駆け寄ろうと足を一歩出したその瞬間。横から銃が向けられる。


抵抗の目をつぶされたビルが両手を上げ、銃を向けた何者かを見ようと、体を動かす。


「!!?こいつぁ、どういうことだ……?」


ビルの目に入ってきた人物。


その者の頭は、ブラウン管テレビのような形状をしていた。


to be continued

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