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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第四章 蛇の腹の底
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進め大密林

朝8時




「おはようみんな、準備はどうかな?」


サムの快活な声が、バトルホーク機内に響く。




エリザベスによって、ガイラスが用いた薬品『ベルセルク』の解析が完了してから三日後。


昨日夜間に基地を出立したオリバーが運転するバトルホークは、特段のトラブルに見舞われることもなく、順調にアフリカ大陸へと航路を進めていた。


「おはよ、サム。良い感じだよ」


「しいて言うなら、時差ボケで眠いってとこかな……ふぁ~ぁ……」


ストレッチをするアナの横で、ビルは眠気眼をこすりながらコーヒーをすする。


「ったく、アンドロイドだってのに毎回眠そうだな。目覚まし機能でもつけたほうがいいんじゃねぇか?」


「ボタン一つで止まるようなもんに、俺の眠気は飛ばせねぇよ」


自身の愛銃を手入れするキッドマンの軽口に、ビルはじっとりとした目を向けて答える。


そんなキッドマンの横の部屋で軽い試合を行っているレオンハルトとアレキサンダーは、額に汗をかきつつも、晴れやかな笑顔で対峙していた。


「はっはっは!腕を上げたんじゃないか?アレクよ!」


「そっちこそ、いまだ衰え知らずだな!レオン!」


ひとしきりやり終わったあと、二人は汗をぬぐいながら、大きな水稲に入っている水を一気に飲み干す。


と、二人の向かいの部屋から、パンやソーセージ、目玉焼きののった皿を人数分もって、エリザベスとシェリーが顔を出した。


「朝から元気ねぇ、二人とも」


「今使った分の体力を、しっかり補給してください。もうじき到着なんですから」


話ながら、二人は両手に抱える食事を中央のテーブルに並べる。


皆はそれぞれ活動を終わらせると、二人を手伝いつつ、着席すると、食膳の挨拶もそこそこに、各自で食べ始めた。




「うむ!やはり朝はトーストに限るな!」


「巌流たちの国じゃ、ライスボールを食うらしいぞ」


「違うぞビル。ありゃオニギリってんだ。前に任務で常世に行ったときに食ったんだが、ありゃ美味かったなぁ」


「ほぉ。キッドがそこまで言うなら、食ってみたいものだな」


「うん、私も食べてみたい」


「あら、じゃあ明日のご飯はおにぎりにしようかしら」


「余れば持ち運びもできますし、任務中の食料にできるので良いかもしれませんね」


「今回の任務は森の調査……言ってみれば、少し大変なハイキングだ。確かに持ち歩ける方がいいかもね」


皆は朝食を食べながら、会話を楽しむ。


程よい焼き加減のトーストと塩味の聞いたジューシーなソーセージを、トロリとろける目玉焼きと共に頬張れば、美味しさもひとしおというもの。自然と笑顔がこぼれ、会話も弾んでいった。



ただ一人を除いて。



「……テリーが見えねぇな」


ビルの一言で、皆の手が止まる。


「……そうね。まだ寝てるのかしら……」


「……寝てるんならいいがな。なにせあそこはなぁ……」


「……私ちょっと呼んでくる」


キッドマンとエリザベスの不安げな声を聴き、アナは立ち上がってテリーの部屋にかけていく。




「テリー。朝ごはんだよー」


ノックをしながら、アナは声をかける。



が、返事はない。



「……テリー?」


アナは、そっとドアの取っ手に手をかける。


すると以外にも、ドアはすんなりと横に開いた。


「テリー……?」


恐る恐るアナがテリーの部屋をのぞき込む。



と、部屋の中央で座禅を組んでいるテリーの姿が目に留まった。



「テリー……」


「ん……おはよ、アナ」


「おはよう。朝ごはん出来たよ」


「わかった、すぐ行くよ」


ぼんやりと虚無を見つめながら、テリーは答える。


その覇気のない言葉が、心ここにあらずといった感覚を雄弁にアナに伝えた。


「……」



と、何を言うでもなく、アナはそっとテリーの隣に座ると、彼と同じポーズをとる。


「なんのポーズ?」


「常世に伝わる精神統一のポーズなんだって」


「……何か、不安なことがあるの?」


「ん……僕って最近暴走気味でしょ?だから常に心を落ち着けていれば、ゲノムワンの暴走も少しはましになるかなって」


「そっか……」



しばしの間、二人の間に静寂が流れる。



再び声をかけたのは、やはりアナだった。



「……何かあったの?あなたの故郷(スラン・バウイク)で……」


「あぁ……まぁね。嫌なことは多かった。幸せなことは……ほとんどなかった」


「……どうして?」


アナの純真な問いに、テリーは一瞬ひるんだように固まるが、一呼吸おいて話し始めた。


「僕の村ではね、”人狼伝説”があったんだ。人の形をした狼が、村を襲った厄災をはねのけ、村に平和と豊穣をもたらした伝説。だから、人の形をした狼を守り神としてあがめてた。そんな村で僕が生まれたんだ、村中大騒ぎさ。僕は現人神としてずっと崇められてきた。……でも……それが理由で、友達を失った」


「遊べなくなったの?」


「……”生贄にされた”んだ」


「えっ!?」


「村の周囲で超獣と野党の襲撃が増えたり、飢餓だったりでね。……人は窮地に陥ったら何でもやる。それが怖くて、生贄が出された次の日、僕は村を抜け出した……それっきり、スラン・バウイクには戻ってないんだ」


「そっか……」


罪悪感から、アナ野口は重くなり、声がしぼんでいく。


二人の間に、再び沈黙が流れる。その静寂は、先ほどとは違って暗いものだった。



次に声を上げたのはテリーだった。



「でもいいのさ。その経験があって、今がある。あの何でもやるようになってしまう人たちを減らすために、僕はここに入ったんだから」


話ながら、テリーはアナにやさしく微笑む。アナはその笑顔に、申し訳なさそうに微笑み返したのだった。




「ふぅ、ごちそうさまでした」


瞑想から数分後。


少し遅れて朝食を食べ終わったテリーは、下で口周りをなめながら、おなかをポンポンと叩く。


「さて、軽いミーティングをしておこうか」


そう言って、サムは食器の下げ終わった食卓を操作する。


途端に食卓は機械音と共にホログラムテーブルへと変形し、水色の光が地形を映し出した。


「今後の予定を軽くおさらいしておこう。まず、サルファ…………ドーピングフラワーと呼ぼうか。ドーピングフラワーは、アフリカ大陸中心部に群生している。なので、一番距離の近い沿岸国『バーリアン』からスラン・バウイクに突入する。途中まで整備計画で作られた道を使うが、それもすぐ終わるだろう。万全の準備をしていくように」


話しながらサムが引いた光の線を目で追いながら、皆はうなずく。


そ、サムが「そうだ」と、何かを思い出したように言葉をつづけた。


「今回挑むのは超獣の巣窟。だから、”対超獣のスペシャリスト”たちを呼んだ。彼らとはスラン・バウイクの入り口で合流するから、そのつもりで」


「スペシャリスト?テリーで十分じゃねぇか?」


「いやいやビル、僕はスラン・バウイク内部に少し詳しいだけ。超獣の性質まではよくわからないよ」


「そうか……ま、なんにせ心強いぜ」


軽く笑うビルにつられ、皆の口から笑いがこぼれる。


「さ!もうじき到着だ!しっかり頼むよ!」


「「了解」」


サムへの返答を合図に、皆は各自の部屋へと戻っていく。



と、アナは隣にいたテリーの服の裾を引っ張り、彼を止める。



「?どうしたの?アナ」


「テリー、何かあったら、無理しなくていいからね。私も戦えるから!」


「アナ……ありがとう、心強いよ」


そう言って、テリーはアナの頭をなでると、再び自分の部屋へと足を進める。


しかし、去り際にアナの目に入ったテリーの顔は、あかるい言葉とは裏腹に、不安がにじんでいたように見えた。




「ついた~!」


着陸して早々、ビルとアナは駆け出し、大きく伸びをして外の空気を吸い込む。


アフリカ特有の熱くじめじめとした空気を、沿岸国の潮風が心地よく吹き飛ばしていく。




ここは、バーリアン国際空港。大密林スラン・バウイクとバーリアンの首都アラゴジャの町々を隔てる境界線にして、他国とバーリアンをつなげる玄関口の一つである。

飛行機が降り立つ滑走路の方面には、大小さまざまな船が行きかう活気づいた港町が広がっており、この国の海運と海産の力の入れ具合が見て取れる。


そんなバーリアン国際空港の一角、プライベートジェットのエリアに降り立ったバトルホークから、皆は調査のための荷物やもろもろの物資を下ろすと、改めてアフリカの息吹をその身で体感する。


「はー……やっぱり変わらないなぁ、アフリカの空気は」


「ほかとは違う空気だな。とりわけ都心部とは」


「同感です。久しぶりに自然部にでると、純度がまるで違うものですね」


「シェリーとキッドは久しぶりだっけか。森だなんだでの任務は」


「言われてみりゃそうかもしれん。教団検挙も結局は建物内だったしなぁ」


「私も最後の任務は、アイアンエデンの一件で行った廃棄場でしたから」


「なら存分に楽しむといい!ここからは、一息つく暇もなくなるであろうからな!」


「楽しめるのは到着の時だけ……世知辛いぜ」


レオンハルトとアレキサンダーは、準備運動をしながらシェリーたちに話す。


そんな皆を見ながらアナが荷下ろしをしていると、彼女の視界の端に、しきりに腕時計を見るサムの姿が映る。


「何してるの、サム?」


「あぁいや、彼らの姿が見えなくて……」


「例のスペシャリストかしら?」


「そう。そろそろ到着してもいいころだとは思うんだけど……」



ガシャン


と、バトルホークの機種側から、足音のような機械音が聞こえてきた。



ガシャシャン ガガンシャン



次第に明瞭になっていく足音は、その音質と共に、やってくるものの数も雄弁に語る。数にして四体はいるだろう。



ガシャア ガシャア ガシャ……ンン……



と、機械音がバトルホークの前面で止まった。そのタイミングで、皆は音の主を確かめるべく、機種側へ向かおうと、後部から顔を出した。



「わぁ!!」



途端に、アナが驚きの声を上げる。


無理もない。眼前に映った音の主は、頭部がなく装甲がいたるところに施された4機の人型兵器だった。


以前アマンダが整備していたエグゾスパルタンより二倍はあろう体高は、見る者を射すくめるに余りあるほどの威圧感を放っている。


それぞれ差異があれど、背部やからだのそこここに取り付けられている過剰ともいえる武装の数々は、捕食者の牙やつめのようにぎらぎらと鈍く光っている。


そんな武装やボディのいたるところに残る様々な爪痕や噛み痕は、歴戦の古強者の風格を感じさせるには十分であった。


「なんだこりゃ!?」


「随分でけぇな。森丸ごと焼き払うつもりか?」


「仰々しいわね……機械化兵団?」


「いやいや違うよ!彼らは……」



「おっとサム。自己紹介は自分でさせてもらうぜ」



バシュン



突然、最前に立つ人型兵器の内部から明るい男性の声が聞こえたかと思うと、胸の部分がゆっくりと開き始める。


すると、一人の大柄な男性がヌゥと顔を出したかと思うと、人型兵器の腕を巧みに伝い、するすると地面に降り立つや、アナ達の前に立ちふさがる。


驚いたアナが、とっさに男の肉体の全体を見る。彼の顔や素肌の見えるいたるところに生傷がうかがえ、人型兵器同様、彼もまた様々な戦場を経験してきたのだろうと、アナは直感した。


そんなアナの警戒を感じてか、男は笑顔を見せながら口を開いた。


「よぉお嬢ちゃん。俺はガストン。『ガストン・ゴドリック』。中尉だ。対超獣、超人専門部隊『エイペックスプレデターズ』のリーダーをやらせてもらってる。……怖がらせちまったかな?」


そう言って、ガストンはそっと手を差し出す。その手をアナは、そっと握り返した。


「初めまして、アナって言います。よろしく、ガストンさん」


「礼儀がなってるな!さすがサムんとこの子だ!よろしくな!アナ!」


互いに手を握り合う二人を見、皆の間にどこか暖かな空気が流れ始める。


「ほらお前ら!こんな子でもできることなんだ!とっとと降りてあいさつしねぇか!!」


ひとしきり握手した後、ガストンは振り返り大声で叫ぶ。


すると、その叫び声に反応したかのように、人型兵器が先ほどと同様開き、それぞれから三人の男たちが顔を出した。


「ははは!隊長久々に張り切ってるじゃない!」


熊のような巨体を持ちながらどこか朗らかな黒髪短髪の男は、つぶっているのか開いているのかわからない細い目を、笑みでたゆませる。


「小さい子好きだからなぁ、隊長は」


続いて口を開いた金髪マッシュの若者は、「フフッ」と軽く笑いながら、下半月型の目で二人を見ていた。


「んな挨拶いいからよぉ!とっとと終わらせちまいましょうや!!」


そんな和やかな空気が流れるなか、大きな一本傷のついたスキンヘッドを光らせ、片目が白い男は悪態をつく。



「全員!整列!!」



そんな色濃い三人が、ガストンの一声で横一列に並び立つ。


「すまない、自己紹介もなしに騒がしくしたな」


そう言って、ガストンは大男に手をやる。


「この熊みてぇな男は『バリトン・ロックスリー』曹長。うちの前衛防御……レオンさんみたいなもんだ」


「よろしくね、アナちゃん」


「この金髪の若いのは『コナー・オブライエン』伍長。通信兵と狙撃担当だ。立場で言うなら、エリーさんとオリバーの立ち位置だな」


「ども、よろしく」


「この禿げ頭は……」


と、ガストンの声をスキンヘッドの男が遮る。


「『エンブラム・ニトロリクセン』!!曹長であります!」


とてつもない大声に、皆は一瞬気圧される。それを感じてか、ガストンはあきれ顔でエンブラムの頭をひっぱたいた。


「馬鹿!みなさんびっくりすんだろうが!!」


「あてっ!すいません……」


「まぁ、今こいつが大声で叫んだ通り……エンブラム・ニトロリクセン曹長。前方兵だ。ビルやサム、キッドさんと同じだな」


ざっと紹介したところで、ガストンは腰から携帯を取り出す。


「それと……もう一人」


その画面には、一人の女性が映っていた。


「や、初めまして」


タンクトップとズボンの身を身に着けた、ポニーテールの茶髪の女性は、アナの顔を見るなり、笑顔で手を振る。


「彼女は『リプリー・シェスカント』。後方支援を担当してる」


「後方支援?」


「俺たちはこのでかい機械、『エグゾジャイアント』ってロボットで戦うからな。必然、専用の平気だ武装だが、臨機応変に必要になってくる。そのための後方支援だ」


「あんまり話さないかもしれないけど、よろしくね~」


そう言って、リプリーはひらひらと手を振る。その画面を見届け、ガストンは携帯をしまうと、再び話し始めた。


「さて!エイペックスプレデターズ、総勢五名!超獣の巣窟スラン・バウイクにて、SIUの護衛を務めさせてもらう!短い間だろうが、よろしく頼む!」


ガストンの宣誓と共に、エイペックスプレデターズの面々は足をそろえ、見事な敬礼を見せる。

その様相に、SIUの面々も、敬礼をせずにはいられなかった。


数秒が立ったのち、サムは皆に伝えるように再び声を上げた。


「目指すはスラン・バウイク中心部!ドーピングフラワーの群生地へ出発する!!」


「「「了解!!」」」


to be continued

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