SIU南へ
「やっ!!はっ!!とりゃ!!」
ビュン!!
朝7時
ビルとアレキサンダーが見つめる中、アナの快活な声とエネルギーの発射音が訓練場に響く。
ダー・ラッタの護衛任務から一ヶ月。
アイアンエデンの一件で目覚めた力がガイラスとの戦いで再び発現したアナは、その力を物にするべく当時の感覚を思い出しながら訓練を重ねていた。
結果、光球を手のひらから打ち出すことができるようになったものの、出力は控えめ。拳にグローブのようにまとわせるといった少々複雑な動きは、まだ会得できていなかった。
「お疲れさん。だいぶ慣れて来たんじゃないか?」
「ありがとう、アレク」
アナはアレキサンダーが差し出したタオルを手に取ると、びっしょりとかいた汗をぬぐう。
と、背後から迫る大きな手が、アナの頭をなでる。
「たった四日で随分と成長したではないか!我もその場にいたかったぞ!!」
「わっ!ちょっとレオン!」
「はっはっは!!疲れたろう!我がふいてやるぞ~!」
「ちょっとやめてよ~!」
レオンはタオルごとアナの頭をやさしくつかみ、わしゃわしゃと撫でまわす。アナも口では拒むものの、笑いながらなすがままにされていた。
そんなじゃれあう二人を遠巻きに眺めていたビルの元に、キッドマンが歩み寄ってきた。
「だいぶ元気になったなアナのやつ」
「休暇のおかげさ。……まぁ、ほとんど休みじゃなかったけどな……」
「いいじゃねぇか、あの子の気が晴れたんなら。ベルトリアから帰ってきてから、憑き物が落ちたみたいにすっきりした顔だ」
「同感だ。やっぱジャスティスマンと会ったのが大きかったかな」
話ながら、ビルはハンドパットに映るニュース映像を見る。そこにはでかでかと「ジャスティスマン、大活躍!!」の見出しが映っていた。
その画面をのぞき込みながら、キッドマンは「ほぉ」と声を漏らす。
「反感が多いかと思ったが、意外に受け入れられてるんだな」
「大僧正と外務大臣があの日の会見以降、パウロの功績を各所で語りまくるもんだからなぁ。自然となじんだんだろ」
「しかもそのおかげで、『護衛を派遣しておきながら、対象を厄介ごとに巻き込んだ』……なんてWDOをせっつく奴もほとんどいない。功を見せて罪を薄める……大僧正には感謝しかないね」
突然、二人の会話に割り込む声が、訓練場の入口から聞こえてきた。
皆が見ると、サムがコーヒーカップを片手にドアにもたれかかっていた。
「おはようみんな」
「サム!」
サムに気づいたアナは、わき目も降らず駆け寄っていく。
「あははっ、アナは相変わらず元気だね」
「なんだかあの日から調子がいいの!」
「それはよかった!でも無理したら駄目だよ?」
「もちろん!」
二人の間に流れる和やかな空気が、皆の心を緩やかに温める。
と、サムの背からオリバーがひょこっと顔を出した。
「オツカレサマデスミナサン。朝ゴ飯ニシマショウカ」
「珍しいな、オリバーが呼びに来るなんて」
「フフン!今日ハゴ飯ヲ作ッタノモワタシナンデスヨ!」
「え!本当!?」
「おぉ!すごいではないか!」
アナとレオンハルトの純真なまなざしを受け、オリバーは自慢げに鼻(?)を鳴らす。
しかし、他の皆の顔には、すこし陰りが見えた。
「……ってことは……」
「エリーがご多忙ってわけ……か……」
「こういう時は……決まってろくなことがないんだよなぁ……」
陰鬱な表情に変わるキッドマンとビルとアレキサンダー。そんな三人をしり目に、アナ達はウキウキとしながら待機室に戻っていった。
「ふ~。ごちそうさまでした!」
「アナ、口に食べかすついてるよ」
そう言ってサムは、笑顔で手を合わせるアナの口元をティッシュペーパーで拭う。
「いや美味かった。たまにはオリバーの飯もいいもんだなぁ」
「フフ、ソウ言ッテモラエルト嬉シイデスネ」
満足げな表情で爪楊枝を加えるキッドマンの言葉に、オリバーはレオンハルトとサムと共に食器を片付けながら、照れくさそうに笑った。
「しかし……なんで今日はエリーがいない?任務か?」
「いや、”例の薬品”の検査が良いところなんだと」
「あぁ……流行りの”あれ”か……」
アレキサンダーの問いに対するサムの答えを聞き、ビルは辟易したような声を出し、テレビの電源をつける。
その時、ニュースではちょうどその話題が出ていた。
「続きまして……またも悲惨な事件です。昨日未明、大中華帝国、ガーデハイト合衆国、ベルトリアにて、複数の超人による暴動事案が発生しました。容疑者らは能力を用いた無差別の破壊活動を行い、軍や機動隊、ガーデハイトではWDOが出動するにまで発展しました。彼らの尽力によって、被害は最小限に食い止められたものの、多数の死傷者や、家屋の破壊が確認されました。WDOによりますと、『拘束された犯人たちは全員無関係であり、テロの可能性は極めて低い』とのことです。また、拘束された犯人たちの血中から【狂暴化】反応が検出されたことで、WDOは『昨今で急速に拡大している違法薬物【ベルセルク】によるものである可能性が高い』との見解を示し、世界全体にパトロールの厳格化を指示しました」
「またか……ここ最近多いな」
「最初は中東で。次にアジア。お次にソドムスカ……この『ベルセルク』とやらのせいで、今や世界中で連日超人犯罪が起こってる。物騒になったもんだ」
アレキサンダーの不安げな言葉に、ビルはあきれたように答える。
そんな二人に、アナから質問が飛んできた。
「ねぇ、『狂暴化』ってなに?」
「あー……体内のゲノムワンが許容量を超えると発症する、ある種の細胞疾患だ。簡単に言やぁ、”超人と超獣限定で起こる暴走状態”だな。少し違うが、テリーの暴走も似たようなもんだ」
「え……みんなあんな風に暴れちゃうの……?」
「そうだ。なにより恐ろしいのは、ガイラスの一件以降、世界中で”手の付けられないテリー”が増え始めていることだ。このベルセルクとやらの薬品のことが分かればいいんだが……」
アレキサンダーの暗い言葉に、アナは恐ろしいものを見るようにテレビの画面を見る。そこでは、ニュースキャスターが被害にあった燃える町の映像を、淡々と説明していた。
と
「わかった!!」
突然待機室のドアが勢いよく開かれ、目にクマのできたエリザベスが、息を切らして入ってきた。
「サルファ・アデモネラよ!」
「お、おはようエリー……」
「サル……なに?」
「サルファ・アデモネラ!アフリカの草花よ!」
「で……その花がどうしたって……?」
キッドマンの少し引いたような疑問の声に、二徹明けでテンションの高いエリザベスは笑顔で答える。
「最近流行ってるベルセルクって薬品と、以前ガイラスが使った薬品!その両方から、サルファ・アデモネラの成分が出てきたのよ!」
「ベルセルク!?どこで手に入れた!?」
「行商人のシモンズから伝手で!大丈夫よ!政府とWDOの認可は降りてるわ!」
「そうか……んで?そのサルなんだかっていうので、なんかわかんのか?」
「もちろんよビル!これで産地、少なくとも薬品の原料が特定できたわ!」
「もうそんなとこまで行ったのかい?」
「当然よ!何を隠そう、サルファ・アデモネラはある場所にしか咲いていないから!」
そう言って、エリザベスは自身の身に着けているハンドパットをいじると、皆に見えるように、地球の3Dモデルを表示する。
そこには、アフリカ大陸が大きな赤丸で囲まれていた。
「生息地は、アフリカの大密林!『スラン・バウイク』の中!ここに何かヒントがあるはずだわ!」
「「「スラン・バウイク!?」」」
と、エリザベスの口にした地名を聞いたとたん、その場にいる全員が驚嘆の声を上げた。
「よりにもよってあそこか……」
「どうするサム……スラン・バウイクとなると調査のしようがないぞ……」
眉間にしわを寄せ、サムとアレキサンダーは唸るように考えこむ。
その二人に同調するように、ビルとオリバーはけげんな表情を浮かべていた。
「あの熱帯雨林かぁ……後のボディケアが面倒なんだよなぁ……」
「湿気デ回路モヤラレカネマセンシネェ……」
4人が陰鬱になる反面、レオンハルトとキッドマンは、どこか楽しげだった。
「スラン・バウイクならば、久々に遠慮なく動けそうだ!」
「あそこの動物は美味いやつがいるからな。今度やるバーベキューの食材調達がてら行ってくるか」
と、それぞれがそれぞれの感想を話していると、巌流と颯、テリーとシェリーが待機室に戻ってきた。
「やけににぎやかだね。何かあったの?」
「おはよう、四人とも。どこに行ってたんだい?」
「テリーの提案で、すこし瞑想をな」
「僕が最近暴走してばかりだったから、心を落ち着けないとと思ってね……」
「私は瞑想の環境整備に。落ち着くには、いい環境がなければ」
「そうか……落ち着いたところ悪いね、例の薬の成分がわかったらしい」
サムの言葉に、四人は瞑想の影響か「そうかぁ」と、非常にたんぱくな反応を見せた。
そして、サムは咳ばらいを一つすると、その場にいる皆に呼び掛けた。
「よし、緊急だが、作戦会議だ。二階に集合してくれ。それとオリバー。アマンダを呼んできてくれるかい?」
「ワカリマシタ!」
サムの招集から数分後
連日の作業で仮眠をとっているボンブをのぞく全員が、待機室の二階に集まった。
「みんな、朝早くにありがとう。今回集まってもらったのは、以前の作戦でガイラスが使用した薬品と、昨今世界中で流行している違法薬物ベルセルクに関してだ」
そう話すサムは、エリザベスに視線を送る。その視線を受け取ったエリザベスは、様々な画像が映る自身のハンドパットをいじると、皆の中央に坐するホログラムテーブルに画像を圧縮し、スライドさせる。
すると、先ほどまでエリザベスのハンドパットに映っていた画像がホログラムテーブルから投影され、皆の目に入る大きさへと変わる。
しかし、あまりにも大量の画像と資料があるため、皆はけげんな表情で首を傾げた。
「あっ……ごめんなさい、解析ばかりで整理してなくって……」
照れくさそうに笑いながら、エリザベスはホログラムをいじり、画像と資料群を整理していく。
ある程度整理が完了すると、エリザベスは咳ばらいを一つした後、皆に説明を始めた。
「改めて……さっき私が大声で言った通り、ガイラスが使用した薬品とベルセルクの成分が、ほとんど一致していることが分かったの。正確には79%ね。この違いは、ガイラスの使った薬品が改良されたものとみていいでしょう。つまり、あれは試作品ってわけね」
その言葉に、巌流は苦い表情を見せる。
「販売プロモーション……予想的中……か」
そんな巌流を気遣ってか、エリザベスは明るい声色で彼に話す。
「確かにそうかもしれないけど、あなたの一言がなければ二つを比較しようなんて考え、すぐには出なかったわ!ありがとうね!」
端的な感謝を述べた後、エリザベスは再びホログラムをいじりながら話を続ける。
「それで、二つの薬品はいろいろ足されているけど、原薬の主要成分が全く同じだったの。そこで!合間合間でオリバーに手伝ってもらいながら、成分の解析をしたところ!完全に一致するものを見つけたの!それがこれよ!」
そう言って、エリザベスは一つの画像を拡大する。そこには、淡くピンクがかったヒトデのような花が映し出されていた。
「これはサルファ・アデモネラ。強い強心剤作用とゲノムワン活性化作用から、ドーピングフラワーなんて呼ばれたりしてるわね。この花は、アフリカ大陸の大密林、スラン・バウイクの一角にのみ生えている花なんだけど、すごくデリケートな花だから、そのままでの運搬はほぼ不可能なの!だから、必ず現地で何かしら加工しなきゃいけないはず!なので、これから現地調査を行いたいと思うわ!やる人!!」
「あー……ありがとうエリー……少し休むといいよ。あとは僕がやっておくから……」
「そう?じゃあお言葉に甘えて!おやすみなさい!」
優しくなだめるサムの言葉に、ほぼ限界を迎えていたエリザベスは笑顔で答えると、わき目も降らずベッドルームに直行していった。
そんなエリザベスを唖然とした表情で見送ったのち、皆は再びサムに目をやる。
「あー……(咳払い)さて、エリーが言ってくれたように、花の性質上、加工工場とはいかないまでも、現地には何かしらの”証拠”があるはずだ。それは恐らく……というより十中八九、いま世界で起きている一件と、ダー・ラッタ暗殺未遂事件に何らかの形で関わっている組織だ。何が待ち受けているかわからない。なので、万全の準備で行こうと思う。それは、メンバーも同じだ」
話ながら、サムはホログラムテーブルの電源を落とし、全員の顔を見る。
「今回はスラン・バウイク……超獣はびこる人類未踏の地の調査だ。殲滅力と現場応用力の高い面々で行こうと思う。メンバーは、アナ、僕、ビル、レオンハルト、アレキサンダー、シェリー、エリザベス、キッドマンで行く。異論はあるかい?」
「だいじょうぶ」
「最近は連日駆り出されるな……」
「そう言うな!森林浴を楽しもうではないか!なぁアレクよ!」
「そんなに暢気なものでもないだろう……」
「久方ぶりの調査任務ですね。精一杯頑張ります」
「よぉし、少しばかり狩りの準備をしていくか」
皆の返答を聞き、サムは軽くうなずくと、皆に呼び掛けた。
「万全の態勢で臨むため、出発は二日後の夜とする。みんなしっかり準備するように。それじゃあ……」
「待って!」
サムが会議を締めようとしたとき、テリーが声を上げた。
「何かあるかい?テリー」
「今期の任務、僕もいきたい!」
「……僕らは構わないけど……大丈夫なのかい?あそこは……」
「いいんだ。あそこのことは、僕が一番よく知ってるからね。ガイドが必要でしょ?」
「……わかった。じゃあ、テリーも一緒に来てもらう。それじゃあ今度こそ!解散!」
サムの掛け声で、皆はたがいに話しながら戻っていく。
そんな中、アナがテリーにこっそりと声をかけた。
「ねぇテリー。ガイドってことは、その……スラン……なんとかってところに行ったことあるの?」
「あ、そっか。アナは知らないか」
テリーは膝を曲げると、アナの目を見ながら話す。
「あそこはね、僕の故郷なんだよ」
「え!?」
驚くアナの目に、立ち上がるテリーの顔が映る。
その顔は、どこか物悲しいような顔をしていた。
to be continued




