平和への道
「今回はありがとうございました」
そう言って、ダー・ラッタはサム、レイモンドと固い握手を交わす。
政府官邸での演説……もとい会見を終えてから一時間後。
答えども答えどもあふれ出てくる記者たちの質問をかいくぐり、ダー・ラッタたちヴァルダーナ寺院の面々は、裏口から自国「パリーナ」への帰路に就こうとしていた。
そんな中、SIU一行とレイモンドが、見送りと例を兼ね、ひっそりと会いに来ていたのだ。
「しかし、本当によろしいのですか?パリーナまで護衛できますが……」
「これ以上皆さんに労力をかけさせるわけにはいきませんよ、サム。それに、今回の事件で我々を守り切ってくれたことだけで十分ですから」
「いえ、至らぬところは多々ありました。我々の不徳の致すところです……」
「何を言いますか。事件の翌日に護衛を申し出てくれただけでも、我々はありがたく感じているのですよ」
「そんな…………え?」
と、ここでSIU一行に疑問が浮かぶ。そして、その疑念を真っ先に口に出したのは巌流だった。
「ちょっと待ってください。”申し出た”?皆様が我々にご依頼したのでは?」
「?……いえ、我々は誰も依頼等は行っておりませんが……」
「おかしいですね……確かに我々は”行脚に同行している寺院関係者からの依頼”ということで来たのですが……」
「はて……誰か、WDOにご依頼しましたか?」
巌流の言葉に疑問を感じたダー・ラッタが付き人達に尋ねるも、首を縦に振る者はいなかった。
「どうやら、何かの行き違いがあったようですね……」
「まぁ……特段不利益があるわけでもないようですし、結果オーライということで」
朗らかに話すダー・ラッタの言葉で、一行は疑念を一度振り払うと、再び別れの挨拶を始める。
と、ダー・ラッタの元にアナが駆け寄ってきた。
「ダー・ラッタさん!」
「おや、アナ!今回は大活躍だったと聞きましたよ?」
「えへへ……ダー・ラッタさんのおかげで、いつもより動けた気がする」
「私の?」
「うん!一日目の夜に教えてくれた、”正義とは何か”。あれのおかげ」
「そうでしたか……私の言葉が助けになれたなら、またとなく嬉しいことですね」
そう言うと、ダー・ラッタはゆっくりとかがみ、アナの頭をそっと撫でた。
「アナ。あなたの思う道を行きなさい。あなたの行いは、きっと人々を笑顔にできるはずです」
「はい。ありがとう、ダー・ラッタさん。お元気で」
「えぇ。またいつか、どこかで会いましょう」
そう言って立ち上がったダー・ラッタは、サムたちやレイモンドに軽く一礼をすると、車に乗り込む。
ダー・ラッタの搭乗を確認した車は、エンジン音と共に彼方へと走り去っていった。
ダー・ラッタ一行を見送ると、今度はレイモンドが口を開いた。
「皆さん、今回は本当にありがとうございました。本来ならば、我が国で完結させなければいけないことであるというのに……」
「気にしないでくださいよ、大臣。突然のことでしたのに様々面倒を見ていただいて、感謝しています」
「我々はせいぜい、宿泊場所を手配しただけですよ……」
「それだけだとしても、我々にとってはありがたいことなんですよ」
「そうそう。久々だぜ、あんないいホテル泊まったの」
「あれぐらい豪華なとこ、滅多にないものねぇ」
ビルとエリザベスが、ホテルのことを思い返しながら話し始めたのをきっかけに、皆も口々に話し始める。
「ほんと!!ご飯おいしかった~」
「運動場もよかった。設備もメンテナンスも行き届いている。訓練にもってこいだ」
「監視でほとんど外にいたけど、係の人が差し入れを持ってきてくれたりしたの、嬉しかったなぁ」
「私、あんなふかふかなベットで寝たの初めて……!」
皆が口々に笑顔で話すさまを見て、レイモンドは笑いをこらえきれず、思わず噴き出した。
「あっははははははは!皆様気に入っていただけたようですな!」
「申し訳ありません大臣……」
「いえいえ!がっかりされるよりはうれしいですよ!」
ひとしきり笑った後、レイモンドは再び手を前に出す。
「改めて皆さん、此度は本当にありがとうございました。今度は任務ではなく、ぜひプライベートでお越しください。我が国一同、心よりお待ちしております」
「こちらこそありがとうございました。またいつか、よろしくお願いします」
サムは皆を代表して固い握手を交わす。
と
「ミナサン、オマタセシマシタ!」
オリバーが運転する送迎車が到着した。
「それじゃあ、みんな行こうか」
「「了解」」
皆はレイモンドに一礼すると、次々車内に乗り込んでいく。
「レイモンドさん」
と、笑顔で見守るレイモンドの元に、アナが駆け寄ってきた。
「アナさん!」
「ありがとう、見て見ぬふりをやめてくれて」
「いえ、功績が認められてのことです。不謹慎ですが……今回の事件がなければ、政府も認めることはなかったでしょう」
「ううん」
レイモンドの言葉を優しく否定し、アナは笑いかける。
「あなたが一歩踏み出したから、みんなが動いたの。あなたのおかげよ」
その言葉を聞いたレイモンドは、照れくさそうにはにかみながら答えた。
「……つい忘れてました。意外と難しくなかったので……ね」
言葉を交わし、互いに笑いあう二人。
そんな二人に、サムは申し訳なさそうに声をかけた。
「アナ。もう行くよ」
「あ、うん」
サムの言葉に簡素な返事を返したアナは、再びレイモンドに向き直り、笑顔で手を伸ばした。
「ありがとう、またね」
「えぇ、またいつか」
握手を交わすと、アナは手を振りながら車に乗り込む。
搭乗を確認し、車はエンジン音を鳴らして走り出していく。そんな車の後姿を、レイモンドは名残惜しそうに見つめながら、手を振り続けていたのだった。
一行の車が彼方に消え、レイモンドは降っていた手を下ろすと、小さくつぶやきながら官邸に戻っていった。
「まったく……彼も照れ屋なんですから……」
数十分後 ブルケート郊外
「よぉし、到着」
荷物を地面におろしながら、ビルはつぶやく。その眼前には、数日の間停泊していたバトルホークが鎮座していた。
「さ、みんな荷物を積み込んで。直ぐに出発するよ」
「ったく、観光は無しかよ~」
「ビルは二日目にしたからいいじゃん。僕とオリバー、それにサムと巌流は、今回観光無しなんだからね?」
「おかげさまで、楽しかったわよ~」
「ごめんね、僕らだけ楽しんじゃって」
「オ気ニナサラズ。……私ハ監視ツイデニ街ヲ見レマシタカラ……」
「え、ずる~い。僕そんな余裕なかったよ?」
「まぁまぁ。今度また来ればいいさ。その時は、僕らもたっぷり楽しむとしようよ」
「その通り。今回は任務なんだ、しょうがないことだろう」
「僕は君と違って、行く街行く国を楽しみたいの。気を張りすぎて変になっても知らないよ?馬鹿真面目さん」
「まじめで結構。うつつを抜かしてへまをするよりはましだ」
颯と巌流のいつもの言い合いを見て、皆の顔は笑みで満ちた。
そうこうしているうちに荷造りは完了し、オリバーとビルがエンジンをかける。
コオオオォォォ
バトルホークのエンジンが次第にうなりを上げ、プラズマエンジンは青い光を放ち始める。
『さぁ、出発するぞ。全員乗った乗った!』
広大な草原をのんびりと眺めていた皆は、ビルのアナウンスを聞き、ぱっかりと開いた後部ハッチから乗り込んでいく。
「いやぁ、これでおしまいかぁ」
「色々あったけど、なんだか名残惜しいわね」
「これだけのどかなんだ、今度はゆっくりとしたいものだな」
「なんだかんだ言って名残惜しそうじゃん、巌流」
「……少しな」
巌流の言葉に、皆は笑い出す。
と、最後尾のアナの足が、ハッチの一歩手前で止まった。
「……?どうかしたかい?アナ」
「……ううん。なんでもない」
「何かあるなら遠慮せず言っていいのよ?」
「忘れ物しちゃった?僕が取りに行こうか」
「違うの颯。ただ……」
そう言って、彼女は広大な平原へ振りかえる。
「もう一度……彼と話したかったなって……」
「……彼も忙しいのよ、きっと」
「今日から本格的に始動するもんね。二代目ジャスティスマンとして!」
「もう先代はいいのか?テリー」
「世代は変わっても、ジャスティスマンはジャスティスマンだよ!ずっと応援するさ」
「この国に来れば、また彼と会えるかもしれない。次回はそれを楽しみに、また来よう」
「……うん、そうだね」
サムの言葉に笑顔でうなずき、アナは踵を返し、一歩踏みだそうと、足を前に出した。
と
「待った!!!」
後ろから、聞きなじみのある声が響く。
アナが思わず振り返る。
彼女の眼前にいたのは、ジャスティスマンの格好をしたパウロだった。
「!!パウロ!!」
あまりの嬉しさに、機内へと向いていた脚は一気に外へと方向を変え、そのまま一直線に駆け出して行く。
まるでロケットのように、アナはパウロに抱き着いた。
「よかった!もう一回会いたかった!!」
「はははっ!そこまで喜んでくれるなんて……うれしいな!」
パウロは笑顔でアナを抱きしめると、そのままぐるぐるとアナを持ち上げ回転する。
ひとしきり回った後、パウロは笑うアナをそっと着地させ、彼女の目線までしゃがみ込んだ。
「アナ。本当にありがとう。君のおかげで、僕の迷いは晴れた。これで胸を張って、ジャスティスマンと名乗れるよ」
「ううん、あなたはずっとジャスティスマンだった。今までも、これからも。正義と平和のために戦う、平和の守護者だったわ」
「……ありがとう。いつか全ての人にそう思ってもらえるように、頑張るよ」
言葉を交わし、二人は笑いあい、固く手を握る。
数秒の間、心地よい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、パウロのほうだった。
「さ、もう行かなきゃ。君もだろ?アナ」
「……うん」
名残惜しそうに、アナの手はパウロの手を離れていく。
「じゃぁねパウロ。今度は遊びに来るから」
「あぁ、またおいで。待ってるよ」
別れを告げると、アナはバトルホークへと駆けていく。
思い返せば、二人はどこか似通っていた。
互いに誰かの想いを継いだ。
互いに正義に悩み、迷っていた。
そして、互いに夢を持っていた。
そんな二人が出会ったことは、恐らく偶然ではないのだろう。
そんな二人だからこそ、互いに迷いを打ち消し、また夢へとひた走れるようになれたのだろう。
多くのものを得た。アナとパウロは、互いにそう感じていた。
「よぉし!出発するぞ!!」
アナが乗り込んだのを確認し、バトルホークは後部ハッチを閉じ、徐々に地面から離れていく。
「……またね、”ジャスティスマン”……」
「またいつか……”アナ”」
聞こえぬほどの小さなつぶやきが重なった直後、バトルホークは彼方空へと飛びったっていく。
パウロは……いや、ジャスティスマンは、その軌跡をただ眺めていた。
to be continued




