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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
53/55

変わるとき

「ガッ……あぁ……」


二人の拳が青いきらめきを放ち、ガイラスを吹き飛ばす。


あまりの威力に、ガイラスとテリーの力をもってしてもちぎれなかった颯の糸はハラハラとその場に散り落ち、ガイラスの身は、はるか後方へと吹き飛ばされていった。



ドガァアアアン!!!!!



ガイラスの体は、エリザベスがいるビルの一階に、すさまじい勢いで突っ込む。


濛々と煙が立ち込めるビルを、全てを出し尽くしたアナとパウロが、呆然と眺めていると


「颯!テリーを抑えてろ!アナ!パウロ!俺たちは奴だ!」


「うん!!」


「は、はい!」


巌流の呼びかけで、一行は土煙を放つビルへと駆け出して行った。




うずたかく積まれたがれきの山をどかしながら、一行はビルの中へ進んでいく。


「すごい煙……全然前が見えない……」


「油断するな。奴がまだ動けるなら、この煙幕に乗じて奇襲をかけてくるかもしれん」


巌流の忠告に、皆は再度気を張りなおす。





ガシャアン



室内の奥から、何かが崩れるような音が響いた。


「!?奴か!?」


一行が音のする方向へ急いで駆け寄っていく。


そこには、扉が引きちぎられた非常階段への入り口があった。


「非常階段……?逃げたの……?」


「!!まさか!!エリー!!」


巌流の叫びを聞き、皆は焦りながら階段を駆け上がっていく。



ふとよぎった嫌な予感。その予感が現実になっていないことを祈り、皆は10階はあろうビルを駆け上がっていく。


息が切れ始めたそんな折、扉のない屋上の入り口が見えてきた。


飛び込むように、皆は屋上になだれ込む。



その眼前に広がる光景は、まさに道中で祈っていた、”嫌な予感”の光景そのものだった。



「う……動くんじゃねぇぞ……テメェら……」




そこには、エリザベスの首に鎌を突き付ける、ガイラスの姿があった。


「エリー!!」


「ごめんみんな……パワー負けしちゃった……」


「何勝手にしゃべってんだこのアマぁ!!!」


言葉をかけるエリザベスに腹を立て、ガイラスは叫びながら鎌を首に押し当てる。


しかし、いたるところの装甲がはがれ、体も先ほどよりしぼんでいる。目はうつろで、息も絶え絶え。

まさに満身創痍だった。


「貴様……その傷でまだ……」


「いい加減にしろガイラス!!その人を巻き込むな!!」


「うるせぇ!!はぁ……俺の邪魔した挙句……好き放題してくれやがってぇ……俺の計画がめちゃくちゃだ!!」


その言葉に、アナの眉間がピクリと動く。


「何が計画よ……無実の人を殺そうとして、好き勝手暴れて……!目的も信念もない快楽殺人鬼のくせに、なにが計画よ!!」


「黙れクソガキャア!!!元はと言やぁ、テメェが現れてから狂いだしたんだ!!テメェさえいなきゃ!!!」


と、ガイラスが苦しそうにせき込む。


やはり先ほどの戦闘によるダメージが大きいのか、せきには血が混じっていた。


「はぁ……はぁ……まぁいい……前回と同じだ……またやり直しゃいい……」


直後、ガイラスが羽を広げる。


「いいか……追ってくるな……!この女の首が飛ぶぞ……!!」


「そう簡単に逃がすと思うのか!!」


激怒しながら、パウロが一歩前に出ようと身を乗り出す。


そんなパウロを、巌流が止めた。


「いや、行かせてやれ」


「でも!!」


「弱ってるとはいえ、奴の速度は侮れん。俺たちが全速力で動いても、リスクが高すぎる」


「く……」


「わかってんじゃねぇかサムライ!!あばよ!!」


巌流の言葉にガイラスはにやりと笑い、エリザベスを抱えて飛び去って行った。



そんな巌流に、アナは食って掛かる。


「なんで行かせたの!!私のラプターなら、あんなやつすぐ捕まえられた!!」


「言ったろう。奴の速度は侮れん」


「でも!!」


「それになアナ。俺は何も無策で奴を放したわけじゃないぞ?」


「え?」


そう言って、巌流は少し笑いながら無線をかけた。


「そっちに行った。後は頼んだぞ」






同刻 上空


「はぁ……はぁ……クソッ!!体中痛みやがる……」


エリザベスを抱えて飛ぶガイラスは、体中を駆け巡る痛みに思わず顔をしかめる。


(まだ体も再生しねぇ……いつになったら治りやがる……!!)


「フフッ」


と、エリザベスがくすくすと笑い始めた。


その声を聴き、ガイラスはその場で止まる。


「……何がおかしい」


「だって……あんなに殺してやる~って息巻いてたのに、負けそうになったら尻尾巻いて逃げるんだもの。おかしくって……」



ガッ



笑うエリザベスの襟首を、ガイラスが掴んだ。


「舐めてんじゃねぇぞクソアマ……後ろからチュンチュン撃ちまくってきやがって……お前が変なモン撃ち込まなけりゃ、今頃あいつらの屍むさぼってた頃だったんだ……!!」


「あら、言い訳探しかしら?あなたが変な薬撃ち込んでも、みんなあきらめず戦ってたわ。あなただけよ。逃げたのは」


「テメェ……」


と、ガイラスがエリザベスの首を掴む。ギリギリと締まるガイラスの手に、エリザベスは思わず苦悶の表情を浮かべた。


「もういい。計画変更だ。今ここで食い殺してやる」


「ぐ……あら……ここでも逃げるのね……」


「黙れ!!ここまでくりゃぁ、あいつらもすぐには来れねぇ。元々帰す気もねぇんだ。この体治すためにも、栄養になってもらうぜ」


言い終わると、ガイラスは口を大きく広げ、エリザベスの頭にゆっくりと近づいていく。


無数の歯と巨大な大あごが眼前に迫りくる間も、エリザベスは眉一つ変えない。


おほほいはは(驚いたな)あひごほひほふ(泣き言一つ)あへへぇほは(あげねぇとは)


「当り前じゃない。だって、もう助けが来たんだもの」


「……あい(なに)?」



ビュウン!!



直後、二発のエネルギー弾がいガイラスの肩と羽を貫いた。


「あがっ!!?」


羽が撃たれ、飛行能力を失い落下していくガイラスが、放たれた先を見る。



「着弾確認。コレデモウ飛ベナイデショウ」


「ふぅ……何とか間に合ったね」


「俺らもきっちりやっとかないとな」



そこには、向かい合わせでスコープをのぞくオリバーと、向かい合わせで上空に銃を掲げているサムとビルの姿があった。


「あ……いつら……!!広場の……!!」


恨み言を吐きながら、ガイラスは落下していく。



しかし、エリザベスを離してはいなかった。



肩を打ち抜かれたことで腕の力が入らないガイラスは、尻尾をエリザベスの体に瞬時に巻き付けていたのだ。


「離っ……しなさい……!」


「テメェだけでも……道ずれにしてやる!!」



徐々に地面が近づいてくる。



(これは……まずいかも……!)



ヒュン



と、そんなエリザベスの体を、何かがキャッチする。



それは、一本の糸だった。



「よっ」



突然、何かがガイラスの尻尾の関節を断ち切り、エリザベスをキャッチする。



それは、息を切らした颯だった。


「なっ!?」


「颯!」


「大丈夫エリー?」


話ながら、颯は片手間にビルに糸ひっかけ、遠心力を使ってなだらかに地面に着地する。



「ふざけんじゃねええええええ!!!!!!!」



しかし、ガイラスは尻尾も腕も届かない。叫び声を周囲に響かせるも、すさまじい衝突音で掻き消えていった。



「ごめんね、少し遅れちゃった」


「いいえ、タイミングばっちりよ」


「そ?ならよかった」



ガラッ



と、笑顔で話す二人の背後から、がれきをかき分けガイラスが起き上がってきた。


「ちょっと……まだ動けるの……?」


「タフにもほどがあるでしょ……」


唖然とする二人を前に、ガイラスは息も絶え絶えに二人に近づいてくる。


「殺……してやる……この……クソどもがぁ……!」


戦闘態勢をとりつつ、颯はガイラスに話しかける。


「じっとしたら?もう限界じゃん」


「テメェら殺すぐらい……二秒もいらねぇよ!!!」


叫ぶガイラスが、二人に飛びかかろうと足に力を籠める。



ドガァン!!!



その直後、ガイラスの顔面が地面にたたきつけられ、そのまま動かなくなった。


あっけにとられた二人が前を見ると、暴走したテリーがこぶしを握り締めていた。


「ウオオオオオオォォォ!!」


先ほどまで激闘を繰り広げていた相手を仕留めたことで、テリーは勝利の遠吠えを上げる。



プスッ



そんなテリーに、エリザベスは素早く注射弾を撃ち込む。


睡眠薬と解毒剤、回復薬の混じった液体が注入されたテリーは、そのまま地面に倒れ、眠りについてしまった。


その直後


「おーい!!」


「二人とも大丈夫か!?」


二人を心配し、サムとビルが駆け寄ってきていた。

サムたちの言葉を聞き、二人はゆっくりと顔を見合わせる。


「ひとまず……」


「任務完了ね……」


つぶやいた二人は、そのまま地面にへたへたと腰を下ろした。






その後、追いかけてきたアナ達と合流した四人は、その場でガイラスを確保。颯の糸とアマンダの特性拘束具による入念な捕縛を行ったうえで、ベルトリア当局に身柄を引き渡した。


レイモンドとダー・ラッタは、傷一つなく無事。しかし、機に乗じた新たな刺客の出現を懸念され、本日の公演は中止となった。


テリーは無事解毒。そのほかの面々も目立った重傷はなく、ホテルに戻って早々、全員が倒れこむように眠りについた。




皆が休息につく中、パウロは誰からの称賛を受けることもなく姿を消し、姿を現すことはなかった。









翌日 朝


「さ、行こうか」


「「了解~」」


サムの言葉にけだるげな返事をし、皆は車に乗り込む。




迎えた四日目。


二度の延期を迎えたダー・ラッタの講演は、本人の強い意向をくみ、ベルトリア政府官邸の会見室にて、全国同時生中継という形で行われることとなった。


警備体制は前日の四倍。周辺5kmを完全封鎖しての実施となった。




議事堂へと向かう道中、皆の顔には緊張が張りつめていた。


「……もう誰も来ないよな?」


「油断はできないよビル。結局、懸賞金の有無も判明してないんだから」


「あれだけ騒がれたんだし、警備の厳格化もあるから、何もないとは思うけど……颯、外はどうかしら?」


「こっちは何にも。オリバーは?なんか見つかった?」


「今ノトコロハ特ニ。デスガ、公共ノ監視設備ニモ限界ガアリマス。モシ意図的ニ搔イ潜ラレテイタラ……」


「僕の鼻も、とくには感じないよ。……疲れてマヒしてるのかもしれないけど……」


「……心配……」


皆が心配の色を見せる中、車は官邸に到着する。


皆が下車すると、レイモンドが笑顔で待っていた。


「おはようございます、皆さん」


「ベッケンス大臣!すみません、わざわざ出てきていただいて……」


「我々に変わってガイラスを逮捕してくれたあなた方を出迎えないことほど、失礼なことがありましょうか。皆様も、お疲れの中お越しいただき、ありがとうございます。本来であるならば、我々(ベルトリア)で完結できればよかったのですが……」


「構いませんよ。これが任務ですから」


「……ありがとうございます。さ、こちらです」


レイモンドの案内で、皆は官邸に入っていく。


そんな中、最後尾にいたアナに、レイモンドは小さく耳打ちする。


「やぁ、アナさん」


「こんにちは、レイモンドさん」


「実は……会見前に、あなたにどうしても伝えておきたいことがあって」


「?なぁに?」


「私、一歩踏み出してみることにしました」


そう言って、レイモンドはぱちりとウィンクすると、足早に駆けていった。




同刻 ベルトリア政府官邸 会見用大ホール


既に会見場は数多の記者でごった返しており、カメラやマイクが会見台へ一斉に向いている。


そんな会見場の二階に案内された一行は、どこか落ち着かないような面持ちでいた。


「色々あったけど、今日で最終日か……」


「なんだか、あっという間だったわね」


「色々あったからね~。僕も暴走しちゃったり……」


「お前また暴走したのかよ?前なったばっかじゃねぇか」


「毒を撃たれちゃって……」


「頼むぜまったく……」


皆が口々にしゃべる中、アナはただ一人、満足げな顔をしていた。


「でも……楽しかった。お祭りも、演説も……パウロと会えたことも。全部全部楽しかった」


「……なんだか顔つきが変わったんじゃないかい?アナ」


「そうかな?」


「あぁ。何か憑き物が落ちたような顔だ」


「やっぱそっちの表情のほうがいいぜ。辛気臭くなくて」


笑いながら茶化すビルの頭に、テリーとエリザベスのゲンコツが飛んだ。



と、階下の会見台に、誰かが登壇する。


ダー・ラッタだ。ただ、その服装は今までと違い、落ち着いて質素な黄色をしていた。


その場の全員が静まったのを確認し、ダー・ラッタはゆっくりと話し始めた。



ーー皆さん、本日はこのような場を設けていただき、本当にありがとうございます。また、今回の事件で亡くなった全ての皆様に、心からのお悔やみを申し上げるとともに、被害を受けた方々へ、調和の祈りが届くことを願っております……


さて。私の目的である世界行脚も、本日が最終日となりました。先の動乱(アイアンエデン)によってもたらされた不安と恐怖は、今だ世界に暗い影を落としており、まだ傷の癒えていない方々もいることと思います。そんな皆様の、ほんの少しでも支えとなることを願い、私は今回の行脚を始めました。


しかしながら、現実とはとかく厳しく、冷徹なものであります。今回この国(ベルトリア)で起きた、ギリアン・ガイラスによる連続殺傷事件により、多くの方が友を、家族を、恋人を失いました。彼は私を狙っていました。何者かが、私の行動をよく思わなかったための行動でしょう。


屈したくなかった。真なる正義が。正しき行いが。不当な暴力に苦しめられることはないと。そう示したかった。その思いから、私はこの国での演説を中止することはしたくありませんでした。


ですが、それにより多くの方々にご迷惑を掛けました。多くの方々を傷つける結果となりました。この場を借りて謝罪いたします。申し訳ない……ーー




そう言って深々と頭を下げるダー・ラッタを、国中の、世界各国の報道カメラが写す。


無論その光景は、アナ達の目にも映っていた。


「なんで……ダー・ラッタさんは悪くないのに……」


「しょうがないことだ……事実彼が演説の早期中止を発表していれば、今回の事件はここまで大規模になかったかもしれん。結果論にすぎないがな……」


「でも!!襲ってきたガイラスが悪いじゃない!!」


「いいかアナ。世論ってのは、そんなに甘いもんじゃない。終わり良ければ総て良し……ってわけにはいかねぇのさ」


ビルの言葉に、アナは悲しみと怒りの混ざった表情で、壇上のダー・ラッタを見つめていた。



「しかし」



と、壇上のダー・ラッタが、再び口を開く。


「しかし、私が講演をやり遂げようと……いえ、やり遂げられると思ったのは、彼の存在があったからです。さ、こちらへ」


そう言って、ダー・ラッタは舞台袖の誰かに手招きをする。



彼に招かれ、姿を現した人物。



それは、緊張したようにはにかむ、パウロだった。



「パウロ!!」


思わずアナがあげた大声が、会場の注目を引く。


そんな全員の視線を再び壇上に戻すように、ダー・ラッタは咳ばらいを一つすると、再び話し始めた。


「彼の名は、パウロ・ボーズマン。今回の事件解決に、最も尽力してくれた人物の一人です。彼はこの五年間、ジャスティスマンという名のもとに、活動を行ってきました」


その言葉に、会場全体がどよめく。


ダー・ラッタは続ける。


「詳しいことは彼が話しますが……先代のジャスティスマンは、五年ほど前に殺害されました。そんな中で、彼はジャスティスマンの名と思いを受け継ぎ、今日まで誰に明かすこともなく活動を続けて来たそうです。たった一人で……」


会場の記者たちのどよめきは最高潮に達し、シャッター音が絶えずなり続ける。


「……そんな彼から、少しお言葉をいただくとしましょう。では……」


そう言って、ダー・ラッタは壇上から一歩下がり、パウロに席を明け渡す。


パウロは驚きながらも、ゆっくりと登壇し、マイクに顔を近づけた。


「ど……どうも……皆さん……」


しかし、そんなパウロの言葉を聞くこともなく、記者たちは一斉にマイクを向け、カメラのシャッターを切る。


「パウロさん!どうして今まで隠していたのですか!」


「今のお気持ちは!?なぜ活動を引き継いだのですか!?」


「先代の死に目には立ち会ったんですか!?」


「なぜ今回の件を未然に防がなかったのですか!詳しくお聞かせください!」


「え……っと……その……」


記者たちの無遠慮な勢いと心無い質問は、今の疲弊したパウロの心を容赦なくえぐっていく。



彼のだんだんと姿勢が前のめりになり、疲れと恐怖で濁った目には、涙が浮かび始めていた。



最早限界を迎えそうになっていた。



その時



「ちょっと!!!!」



突然、二階から声が響く。皆が声のする方向を見ると、そこには怒り心頭のアナが、手すりに身を乗り出し、息を荒げていた。


「今からパウロがしゃべるの!!!!おとなしくしてなさい!!!!」



彼女の怒鳴り声に、会場全体が静まり返る。



「……ぷっ!あはははは!!」



しかし、噴き出すような笑い声が静寂を切り裂いた。


その声の主は、パウロであった。


ひとしきり笑ったのち、パウロは目に浮かぶ涙をぬぐい、アナの目を見る。



そんな彼の目は、清い水面のように澄み切っていた。



パウロは深呼吸を一つすると、改めてマイクの前に立ち、ゆっくりと話し始めた。




ーー皆さん、初めまして。パウロ・ボーズマンです。今は、自警活動を行っています。


僕はこの五年……亡くなった彼に変わり、活動を続けてきました。それは皆に褒められた勝ったからでも、名声を得たかったからでもありません。ひとえに、彼の思いに答えたかったからです。


それでも、僕は迷っていました。本当に自分でいいのだろうか……もっといい人がいるのではないかって……


でも……ある人と出会って、迷いは吹っ切れました。なぜなら、その人がジャスティスマンと同じことを言っていたからです。


『正義とは、誰かに手を差し伸べることである』と……二人とも、まっすぐな目で言っていました。だからこそ、僕の霧のような迷いは晴れました。この言葉が、僕の心の原点だから……ーー



パウロは、深く息を吸うと、改めて話し出す。



「今この場を借りて言わせてください。ベルトリアの皆さん、隠していてすみませんでした。これからも私は、ジャスティスマンとして活動していきます。皆さんに手を差し伸べられるように。誰かの支えになれるように」


そう言って、パウロはまっすぐ前を見つめる。


彼の相貌に宿る言い知れぬ気迫は、先ほどまで騒ぎ立てていた記者たちの口をつぐませるのには十分だった。



と、舞台袖からレイモンドがそそくさと現れた。


「はい、ちょっとすみませんね……」


「レイモンドさん!どうかなされましたか?」


「いえね、パウロさん。あなたの働きを見て、我々も決めたことがあるんですよ」


「決めたこと……?」


「えぇ。(咳払い)お集まりの皆さん。お時間もなんですから、端的に申し上げます」


そう言って、レイモンドはネクタイを締めなおした後、はっきりと告げた。


「ベルトリア政府は、ジャスティスマンことパウロ・ボーズマン氏への全面的な支援を行うことを、本日決定いたしました。これは政府の公式見解であります」



「「「えぇ!!!!?」」」



レイモンドの突然の発表に、会場中が今までになくどよめきに包まれる。


しかし、壇上のレイモンドは気にも留めることなく、言葉をつづけた。



同刻 ベルトリア ある車のラジオ



「皆さん。我々は、今までどれだけ彼らに助けられていたでしょう。この混迷の時代において、今までどれだけ、無償の平和を享受していたのでしょう。そして……どれだけ甘えてしまっていたのでしょう……」



同刻同所 ある飲食店のテレビ



「甘えていたからこそ。この平和を日常と思っていたからこそ、我々はジャスティスマンの死に気づきませんでした。パウロ氏の苦しみに寄り添えませんでした。そして……彼に孤独な戦いを強いてしまいました」



同刻同所 ブルケート中央広場の電光掲示板



「もうそんなことはしたくない。平和の守護者という重責を、彼だけに任せきりにしていいわけがない。国が。政府が。国民が。我々が、彼を支えていかなければならない。これは、当然のことであります」



同刻同所 ある人の携帯



「皆さん。変わる時です。助けられてきた我々が、今度は助ける番なのです。ベルトリア政府は、彼のバックアップ体制を整えました。本日より、随時稼働していきます。しかし何より大切なのは、皆さんの理解と、暖かな声援なのです」



同刻同所 政府会見場



「我々は、彼と共にあります。その思いが、国民である皆様の胸に宿っていることを祈って、私の話を締めさせていただきます」



その言葉を合図に、壇上の三人は一例をすると、舞台上へとはけていく。



と、パウロの足が突然止まったかと思うと、再びマイクを持ち、笑顔で口を開いた。



二階のアナを見ながら。




「ありがとう」




一言を残し去っていくパウロの後姿を追うように、記者たちはマイクとカメラを向け追っていく。



他の一行が唖然としている中、誰の注目もない中で、アナはニコリとほほ笑み、つぶやいた。



「頑張ってね。ヒーロー」


to be continued

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