悪鬼VS勇気
「破天一刀流 炎舞!!大日ノ出!!」
ビュン
「くっ……」
炎をまとった巌流の刀が、あたることなく空を切る。
「馬鹿の一つ覚えか!!てめぇの剣さばきなんざ、もう見飽きたぜ!!」
「だったらこれはどうだい?」
ドガァン!!
中に飛び避けたガイラスめがけ、颯が燃え盛る車を糸で振り回し、勢いそのままに投げつける。
しかし、ガイラスは片手で難なく受け止めた。
「こんの……うっとおしい!!!」
怒号を放ち、ガイラスは自身に投げられた車を颯めがけて投げ返した。
「まずっ……!」
颯は急いで網を作るも、すさまじい速度の前に、網は無残にちぎれる。かろうじてできた隙を見計らい、颯は飛びのけた。
(奴の膂力が高すぎて、糸の強度が持たない……どうすれば……)
思考を巡らしていたその刹那
ヒュッ
ガイラスの尻尾が、獲物をしとめる蛇のように、颯に飛んできた。
「させるかああああ!!!」
疾風のごとき速さで向かう尻尾を、二人の間に飛び込んだテリーがからめとる。
ガガガガガ!!!
すさまじい音を立てながら、テリーの足がコンクリートの道路をえぐる。その光景が、ガイラスの突きの威力がいかにすさまじいかを物語っていた。
「なんのぉおおお!!これしきいいい!!」
尾から嫌でも感じ取れる引力に負けじと、テリーは全力で引っ張る。
ブチッ
突然、テリーの体が後ろにのけぞる。尻尾がちぎれたのだ。
しかし、テリーが引きちぎったわけでは無かった。
「自切だバァカ!!」
体勢を崩したテリーの懐に飛び込み、ガイラスは鎌の鋭い一撃を食らわせた。
「ぐあぁ!!」
赤い鮮血が辺りに飛び散り、テリーが苦悶の表情でうずくまる。
「ぐ……」
「はっ!所詮は哺乳類!虫の前には無力も同然だぁなぁ!!」
ビィィィィィィ!!
恍惚の表情でガイラスが腕を振り上げた直後、背後から照射された五本のレーザーが、ガイラスの背中を焼く。
「がっ!!」
物理的な効果はなくとも、照射面の高熱には耐えられない。
一瞬動きを止めたガイラスの上空から、アナが青く光る手のひらを向けた。
【ブルーホール ラピッド!!】
アナの手のひらから、無数の青い光球が機関銃のように放たれ、ガイラスの頭上に降り注ぐ。
しかし、ガイラスの笑みは崩れない。
「馬鹿がぁ!!」
ガイラスはテリーの足と頭を持つと、天高く掲げた。
「てめぇの手でとどめを刺しやがれ!!」
「そんなこと、するわけない!!」
叫びに感応したかのように、アナの目が青く輝く。
と同時に、降り注がれた光球が突然軌道を変え、テリーを避けて横からガイラスに着弾した。
「なっ!?」
ダメージによって、テリーを掴む手が緩む。その瞬間を待っていたかのように、颯が糸を使ってテリーを自身の元に引き寄せた。
「こんのっ……!!」
ザンッ
「破天一刀流 炎舞 炎竜爪!!」
テリーを掴もうとガイラスが伸ばした手を、巌流の燃える刀が切り落とす。
「これで防げまい」
「防ぐ……だとぉ……!!?」
「彼女の攻撃だ」
にやりと笑い、巌流はガイラスから距離をとる。
直後、ガイラスの頭上がまばゆい青色に輝いた。
【セレストパァァァンチ!!!】
ドゴォオオオオオオオオン!!!
すさまじい轟音を立て、青い光が周囲を包みこむ。と同時に、衝撃波と土煙が、周辺の通路を覆いつくした。
立ち込める砂埃が収まり始め、目を覆っていた皆が、勝利を確信して爆心地を見る。
しかし、皆の口から出た言葉は、驚きの声だった。
「なっ!?」
「嘘……!」
皆の目に映った光景。
肉体がえぐれるほどの攻撃をもろに食らい、頭の上半分がなくなっていながら、ガイラスは倒れていない。
それどころか、斬られたはずの腕で、アナの首を掴んでいた。
「アナ!!」
「動いてんじゃねぇ!!!」
アナを助けようと動いた巌流と颯をにらみながら、ガイラスは叫ぶ。
「ちょっとでも動いてみろ!!このガキの首へし折るぞ!!」
ガイラスの怒号に、7二人の動きは完全に止まる。
「くそ……人質か……」
「エリー。狙撃できない?」
『……ダメ。アナが近すぎる。それに、奴の外骨格を貫通できる弾がない……下手に刺激したら……』
「そっか……テリー、動ける?」
「う……ごめん……あと少し待って……」
「……打つ手なしか……」
苦悶の表情で、颯はつぶやく。
今、皆は見ていることしか出来ないでいた。
「最初からおとなしくしてりゃいいんだ……ったくよぉ」
「ぐ……は……なせ……!」
苦しそうにうめき声をあげながら、アナが抵抗する。
そんな中、ガイラスの頭が徐々に再生し始めた。
「……毎回毎回俺を吹き飛ばしやがって……ちゃんと痛ぇっつうのによぉ」
「あぁっ……!!」
と、アナを締める力が強まる。
「……やめた。人質にしようと思ったが……今ここで絞め殺してやる」
アナを締める力が、さらに強まる。
「散々邪魔しやがって……お前がいなかったら、今頃もっっっっっと楽に終わってたっつうのによぉ……!!!」
ガイラスの腕に更に力が入る。同時に、赤黒い眼光がぎらぎらと光り始めた。
「くたばれクソガキ。てめぇの死体でアート作ってやるよ……!!!」
ゴキッ
鈍い音が、あたりに響く。
だが、アナは無事だった。
「ジャスティスパンチ!!!」
叫び声と共に見舞われた二発の拳が、アナを掴むガイラスの腕と膝をあらぬ方向へ曲げる。
「がぁっ!!」
苦悶の表情を浮かべ、ガイラスが手を放す。
その直後、アナの身を颯爽と受け止め、巌流たちの元に駆け寄ってきた人物がいた。
「パ……パウロ……」
「ごめんよアナ。遅くなった」
「パウロ!もう動けるの?」
「えぇ颯さん。皆さんのおかげで、ゆっくり休めました!」
笑顔で答えたパウロの顔は、どこか憑き物が落ちたような顔をしていた。
「……短い間しか見ていないが……変わったな、パウロ」
小さく笑いながら、巌流は言葉をかける。
「……みんなのおかげですよ」
「俺たちの?」
「それだけじゃない……文字通り、みんなのおかげです」
つぶやいた直後、パウロは自身のほほを叩く。
「さ!休んだ分は動かないと!テリーさん、代わりに休んでいてください」
「あ……ありがとう……」
「アナ、大丈夫かい?」
「げほっごほっ……うん、もう大丈夫!」
「よし!じゃぁ……決着をつけよう……!」
「「応!!」」
パウロの言葉を合図に、皆は再びガイラスを見、戦闘態勢に入る。
そんな中、眼前に据えられたガイラスは、よろよろと力なく立ち上がる。
先刻から、複腕や頭の再生に尻尾の自切と、かなりの体力を使ってきた。そのうえ、肉体の傷は戻っても、戦闘のダメージまでは回復していない。
満身創痍。今のガイラスは、あと一撃くらえば倒れこむ。それほどまでに疲弊していた。
「こんの……クソどもがぁ……!!う……ぅおえ……」
と、突然ガイラスがえづきはじめる。
だんだんと激しくなり、ついには吐き出した。
バシャバシャバシャ
溶けつつある人の遺体が辺りに散らばる。
と、口の中をもごもごと動かすガイラスが、「ぺっ」と何かを吐き出す。
それは、薬品の入った注射器だった。
「もう遊びは終わりだ……!!」
言い放った直後。ガイラスはためらうことなく注射器を自身の首筋に突き立て、内部の薬品を一機に注入する。
「がっ!!あぐぁ……があああああああああ!!!!!!」
注入直後、ガイラスが叫び声をあげて注射器を握りつぶしながら、その場に膝をつく。
皆が警戒しながらガイラスを見ていると、次第にガイラスの体に変化が起き始めた。
もともと大きかった身体がさらに巨大化し始め、外骨格はより黒く、見るからに固くなっていく。
爪や鎌は鋭さを増し、新たに生えた尻尾の先端は、先鋭さを極めている。
何より、不気味に光るその眼光は、より一層禍々しく輝き、パウロ達をにらみつけていた。
変化が収まると、ガイラスはゆっくりと立ち上がる。
「!!」
その瞬間、彼が放つ異様な殺気が、周囲を包み込んだ。
気圧される皆をよそに、ガイラスは「ハァ……」と息を吐いて話し始める。
「いい気分だ。今なら……何だってできる気がするぜ」
言い放った直後、皆の視界からガイラスが消える。
「ここだ」
背後から、地を這うようなおぞましい声が響く。
「!!」
真っ先に気づいた巌流が振り向く間もなく、鉄塊のような拳で殴りつけられ、大きく吹き飛ぶ。
「!?こいつ……」
颯が素早く糸を指先から出すも、それよりも早く、みぞおちに強烈な蹴りが見舞われた。
「やめ」
テリーが、飛び起きた勢いそのままにとびかかるが、再び生えてきた尻尾が背中を突き刺し、毒液を注入。起き上がり始めた巌流めがけて投げ飛ばした。
「なっ」
「みんな!!」
遅れて反応したパウロとアナの首を、一回り大きくなった手のひらが握り絞める。
「ぐあっ!」
「あっ……!」
ギリギリと音を立て、二人の首が絞まっていく。
「ヒーロー気取りのゴミどもが……散々俺の邪魔しやがって……てめぇらが首突っ込みだしてから、俺の計画が全部パーだ!!」
「お前に……計画なんか……ないだろう……」
「あるんだよ!!!」
パウロの体に、複腕による強烈なパンチが食い込む。
「がっ……」
「腹が減ったら食って!!殺したいときに殺して!!腹の立つ奴ぁみんな切り刻む!!俺の完璧な”計画”にケチつけるつもりかアァ!!!!?」
六本の複腕からマシンガンのように放たれるパンチは、パウロの体力と意識を奪っていく。
「それをてめぇらは!!理由だなんだと御託並べて何度も何度も邪魔しやがって!!!」
バキバキと音を立て、ガイラスの体がさらに大きくなっていく。それに比例し、二人を絞める力も増していった。
最早人が耐えられる限界を超えている。二人首が折れるのも、時間の問題だった。
「たっっっっっっぷりいたぶって、じっっっっっっっっっくりなぶり殺してやる……!!苦しさの中で死んで行け……!!!」
ガイラスの殺気がピークに達した
次の瞬間。
トスッ
「……あ?」
外骨格の間を縫い、ガイラスの首元に何かが刺さる。
おもむろに複腕で取り出すと、注射器のような形をした銃弾が手のひらで転がっていた。
「なんだこ」
ゴッ!!
ガイラスの気がそれた一瞬。アナが操るラプターが、ガイラスの複腕の一つをへし折った。
「こ……んのクソガキがぁ!!!」
【ブルーホール!!!】
痛みに注意が向いた刹那、アナは手のひらにためていたエネルギーを、ガイラスの顔面に放つ。
ドゴォオオオン!!!
着弾時に一瞬緩んだ隙を見計らい、アナはパウロの腕をつかみ、拘束から逃れる。ガイラスは爆破の衝撃でビルに激突。再び距離が開いた。
「パウロ!」
「大丈夫!アナは!?」
「動けるよ!ほかの皆が心配だけど……」
「大丈夫だ……何とかな」
と、アナの背後から巌流の声が聞こえる。
二人が振り返ると、テリーの応急処置を済ませた颯と巌流が、よろよろと立ち上がった。
「いってて……思い切り蹴り飛ばされたよ」
「俺も殴り飛ばされた。きっちりお返ししないとな」
「二人とも!テリーは?」
「治療薬は投与したが、毒の症状がみられる。今エリーの薬が完成するまでは動けんだろう」
「そっか……」
と、眼前のがれきが崩れ、ガイラスが顔を出す。先ほどの爆発をガードしたのか、複腕は殆どが消し飛んでいた。
「何度も何度も爆破しやがってこの野郎ぉ……一辺倒な攻撃しか出来ねぇのか!!」
そう言って、ガイラスはちぎれた複腕に力を籠め、再生を試みる。
「……ん……?」
しかし、いくら待っても複腕は治らない。ただぼたぼたと、白っぽい液体が流れ出るだけだった。
「……どういうことだ」
初めてガイラスの顔に、焦燥の色が浮かぶ。
と、皆の無線に連絡が入る。
『みんな聞こえる?!』
「「エリー!!」」
『よかった、急ごしらえだけど、何とか効いてるようね!』
「ガイラスに何かしたの?」
『”対超人用再生阻害薬”!即席で調合して撃ち込んだわ!でも完全なものじゃないから、効果はもって”15分”。それに、再生を極端に遅くするだけよ』
「それでも十分!ありがとう!」
『あ、あとね!虫系超人の体内には、特殊な再生液があるの。おまけに外骨格のせいで、外からの攻撃は防がれるか、たちどころに再生するわ。でも、”中からの攻撃”なら、再生液ごとダメージを与えられる!致命傷になるはずよ!』
「内側から……わかった、やってみよう」
『私はテリーの解毒薬を作るわ。完了次第援護に入る。頑張って!』
そう言って通信は切れた。
しかし、有益な情報を聞いた一同の顔には余裕と笑みが生まれる。
「いいことを知れた。頭が吹き飛んでも死なないんで、不死身かと思ったぞ」
「今のところ一番効いてるのは、アナちゃんの攻撃だよね」
「では、僕が気を引きます。その間に、颯さんが彼の動きを止めて、巌流さんが殻を砕き、アナが一撃を見舞う……というのは……どうでしょう……」
真剣な表情で提案するも、恥ずかしくなったのか、パウロの声は徐々に小さくなる。
皆は一瞬あっけにとられたが、すぐに笑いだした。
「はっはっはっはっは!!いい案だ!それで行こう!!」
「何かあったらすぐ援護するから、お願いね、パウロくん」
「!っはい!頑張ります!」
と、意気込むパウロの肩に、アナが優しく手を置く。
「!アナ」
「パウロ。絶対勝とうね」
「……うん。ジャスティスマンとして、勝たなくっちゃ」
「ううん」
なんと、アナはパウロの言葉を否定する。
「う、ううん?」
「あなたは、ジャスティスマンじゃなくていい。無理に彼になろうとしなくていい。あなたはあなた。この戦いは、『パウロ・ボーズマン』として勝つの」
「……僕として……」
「そう。新しいヒーローとして、最初の一歩。頑張ろうね」
「……うん!」
励まされ、支えられ、原点に立ち返り、手を差し伸べられた。
パウロの胸を、暖かい何かが包み込む。
その思いをかみしめながら、パウロは叫ぶ。
「よし!行こう!!」
「「応!!」」
to be continued




