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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
50/50

一人じゃない

皆がパウロを追って駆け出した同時刻。


囮を引き受けたパウロも、街の路地を死に物狂いで走っていた。




「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


息が切れ、汗が噴き出す。だんだんと、足と肺が痛みだしてくる。


それでも彼は走る。


(少しでも……少しでも遠く……!!誰の被害も出ない……人のいないところまで……!!)


身体に重くのしかかる痛みや苦しさを受けてなお、彼の目に宿る爽やかな炎は消えてはいない。



しかし、その輝きを飲み込むかのようなどす黒い殺気が、彼の背後から迫る。



「待てコラァ!!!」


けたたましい羽音をかき消すほどの怒号を上げながら、ガイラスがパウロの背後に迫る。


パウロが室外機やパイプを風のようによけながら走る中、ガイラスはすべての障害物を切り、砕き、壊して進んでいく。

まるで台風のように。


だが、パウロはその気迫に飲まれることなく走る。


(怖い……とんでもなく怖い……でも……)



それでも彼は前を見る。



(不思議と……負けない気がする)



パウロの胸に言いようのない自信が宿った直後。


「お……っと」


彼の眼前。開けた空き地に、六階はあろう雑居ビルが立ちはだかる。



彼が立ち止まったその一瞬。



「捕まえたぁ!!!」


ガイラスの剣のような爪が、うなりをあげてパウロの背に向かう。



あわやその爪が突き立てられんとした直後。



ヒュンッ



突然ガイラスの眼前から、パウロの姿が消える。


「あ!?」


ガイラスが混乱の声を上げたのもつかの間



「ジャスティスパンチ!!」



ガイラスの後ろ首に、パウロの鋭い拳が直撃する。


「がっ」


「まだまだぁ!!ジャスティスクロス!!」


ガイラスの動きが止まったのを見計らい、パウロは間髪入れず、ガイラスの腰にクロスチョップを食らわせる。


「こ……んの野郎がぁ!!!」


怨嗟の叫びをあげるガイラスの肘から、刃のような鎌が音を立てて飛び出すと、勢いそのままにパウロの頭めがけて飛んでいく。


しかし、その鎌をパウロは難なくかがんでよける。


「ジャスティススピア!!」


身を低くしたパウロは、そのままガイラスの膝裏に抜き手を見舞う。


「ぐ……」


体勢を崩し地に膝をつくガイラス。


その時を待っていたかのように、パウロはその場に飛び上がると、量の腕を天高く掲げ、祈るように手のひらを握り合わせた。


「ジャスティス!!ハンマー!!!」



互いを固く握り、鉄のように硬くなった拳が、ガイラスの頭に直撃する。



「がっ……!!」


呻くガイラスを眼前に据え、パウロは飛びのき一歩距離をとる。


「僕がただやみくもに走ってると思ったかい?この路地裏こそ、僕が一番動ける場所だ!!!」



笑いながら、パウロは叫ぶ。その心の臓は、うるさいほど波打っていた。



(動ける……動けるぞ……なんてことはない。腕を。足を。身体の動きをよく見ればよけられる!)



ジャスティスマンが死んでから五年間、死に物狂いで治安維持を行っていたパウロ。


もともと臆病な彼は、正義の味方としての責任と犯罪や事故に立ち向かう恐怖を、ジャスティスマンから受け継いだヘルメットで押し殺していた。


しかし、いくら抑え込もうと、心に重くのしかかるこの二つの感情は決して軽いものではない。その重みは次第に、彼の体にも表れ始め、いつしか彼の動きを鈍重にしていった。



しかし、今の彼は違う。



正義とは何か。なすべきことは何か。なぜヒーローを目指したのか。



心の奥底に眠る原点(オリジン)を思い出したパウロの体は、羽のように軽く、湯水のように力が噴き出してくる。



そんな彼の体は、目の前にどんな凶悪犯がいようと、この五年で培われた経験と知識から、即座に最適解をはじき出すようになっていた。


「どうした!意気込んでいた割に、動きがとろいんじゃないか!?」


作り笑いじゃない、自然と漏れ出た笑顔を顔に浮かべ、パウロは叫ぶ。



その反面、ガイラスの顔は険悪そのものだった。



「ちっ……」


激昂した表情で舌打ちを鳴らすが、ガイラスは先ほどのようにすぐには襲い掛からない。


(この野郎……関節ばっか狙ってきやがる……偽物とはいえ、真似事してたぶん場慣れしてんのか……)


と、ガイラスの口角が弧を描く。


(だが……)


同時に、腕から生える鎌がギラリと輝き始めた。


あいつ(ジャスティスマン)とおんなじなら、なんてこたぁねぇ!!」


叫んだガイラスは、同時に羽を広げて飛びかかり、鋭い爪をパウロに向かわせる。


「なんの!!」


パウロはちぎれた室外機の管を使い、ガイラスの腕を伸びきる前に受け止めると、管を回して腕を巻き込み、関節を曲げる。


「ぐ……」


「そぉら!!」


そのままパウロは、管ごとガイラスの体を投げ飛ばした。


「がっ」


ガイラスが激突した壁に、巨大なヒビが入る。


そんなガイラスに間髪入れず、パウロはこぶしを叩きこむ。


「ジャスティススピア!!」



ガシッ



しかし、その拳をガイラスはいともたやすく受け止めた。


「慣れちゃいるようだがなぁ……まだまだすっとれぇ!!」


ガイラスはビルの日々に尾を突き立てると、頭を地に向かわせたままパウロを反対側へと投げ飛ばすと、間髪入れず飛び立ち、再度パウロにとびかかる。


「くっ……」


壁への激突直前、パウロは受け身をとり着地すると、隅に設置されている室外機を使って宙に舞い上がり、向かってくるガイラスの首に、再び狙いを定める。


「ジャスティススピ……」


抜き手が直撃せんとした直後



ギュグッ



パウロの腕に、ガイラスのしっぽが絡みつく。


「!?」


「そぉら!!」


間髪入れず、ガイラスは体をよじると、遠心力でパウロを空中へと投げ飛ばした。


「いくらてめぇだろうが、なんぼ何でも空中で好きには動けねぇだろ!!!」


ガイラスは勢いそのままに空中に飛び上がると、パウロの肩を掴む。


「ぐ……何の真似だ!」


「焦んなよ!!次ぁ、大通りぃぃ!!!」


叫びながら、ガイラスはパウロを掴みながら広場の方へ、超速で飛び戻り始めた。




「く……この!!離っ……せ!!」


その間、パウロは必死に拳を撃ち込む。しかし、ガイラスの熱い装甲の前には歯が立たない。


と、ガイラスが憎たらしそうに唾を吐くと、赤黒い眼をパウロに向けた。


「ケっ。そんなに降りてぇなら、望み通りにしてやるよ!!」


直後、パウロの視界からガイラスが遠のく。豪速で投げ飛ばされたのだ。


「まずっ……!」



ドガアアアン!



即座に受け身をとったパウロは、路上にとまっていた車に激突。車ごと道路の対岸まで吹き飛ぶと、頭を抱えて起き上がった。


「ぐ……」


「まだへばってんじゃねぇぞ!!」


直後、ガイラスがパウロに突っ込み、鋭い牙を彼の胴に食い込ませながら、全力で直進していく。


「がっ!あっ!ああ!!」


ガイラスは車ごと突き進み、家々を破壊しながら直進していく。


その間に挟まれているパウロの体を、鈍い衝撃が走っていた。



「そぉら!!!」



突然、ガイラスが車ごとパウロを宙に投げ飛ばした。


パウロと車は弧を描き、道路に墜落。落ちてきた車にぶつかり、多数の車が同時に事故を起こしたせいで、道路は一瞬にして大事故の現場と化かした。


「うわあああ!!」


「きゃあああ!!」


群衆の悲鳴を聞き、投げ出されたパウロは痛む体にムチ打ちながら、周りを見る。



そこは、ブルケート中央広場の近く。まだ、先ほどの騒ぎで逃げ惑う人々が大勢いる場所だった。



ドゴォオオオン!!



事故を起こした一台の車が爆発し、辺りは炎に包まれる。


その轟音と熱で、再び群衆がパニックになり始めた。


「き、来たぞぉおお!!」


「逃げろ!!」


「誰か助けてぇぇぇ!!」



叫び、呻き、逃げ惑う人々。



「み……みんな……逃げろ……」



そんな人々を見て、パウロは助けようと体に力を籠める。



しかし、体はピクリとも動かない。





「だ……誰か……助けて……」



背後から、声が聞こえる。



パウロが振り返ると、小さな女の子が、目に涙を浮かべてしゃがみ込んでいた。



「待っ……てろ……今……行くから……」



地面に横たわるパウロは、ずるずると彼女の方へ向かう。



「ギハハハハ!!」



しかし、そんな彼をあざ笑いながら、空を覆わんと昇る黒煙をかき分け、赤黒い眼が現れた。


「ギハハハハ!!言ったろヒーロー気取り!!お前は誰も救えねぇ!!お前がいるだけで人が死ぬ!!疫病神なのさお前はぁ!!」


眼前の燃え盛る車を殴り飛ばし、ガイラスはゆっくりと近寄る。


「周りを見てみろ。だ~れもお前をヒーローだなんて思っちゃいねぇ。所詮偽物だからな!誰も求めちゃいねぇんだ!!お前の行動は自己満足でしかねぇんだよ!!ギハハハハハハハハ!!!」



「確かに……お前と同じ……自己満足かも……しれないな……」



と、ガイラスの笑い声を聞いたパウロは、歯を食いしばりながら立ち上がる。



「……それでも立ち上がって助けるのが……ヒーローってものなのさ……!!」



体中に痛みが走る。



ガイラスの殺意が突き刺さる。



それでも、パウロは笑っていた。



「!!」


と、ガイラスに怖気が走る。


「また……その目……」


再びガイラスに向けられた、パウロの視線。


ガイラスはその奥に、またもジャスティスマンと同じ狂気を感じ取った。


「……なんだっててめぇらはそんな気色悪い目ぇしやがる……!!」


その言葉に、パウロは笑いながら返した



「……例え、自分を犠牲にしてでも……守りたいものがあるからだ!!!」



その言葉に、ガイラスは激怒した。



「綺麗ごとほざいてんじゃねぇぞクソガキがぁあああああああ!!!!!!」



ガイラスの鋭い尻尾が、爪が、鎌が、牙が。周りの群衆に目もくれず、全てがパウロに襲い掛かる。



立っているだけでもやっとのパウロに、それらを避ける力は残っていなかった。



パウロはガイラスに背を向けると、泣いている女の子に、笑顔で笑いかけた。




「大丈夫。僕が絶対守るからね」






ザシュッ






肉を切り裂き突く音が、あたりに響く。






だが、それはパウロから出たものではなかった。




【ブルーホール・マキシマ!!!】




突然、ガイラスの顔面を、青い光をまとった拳が殴りつける。


接触と同時に衝撃波が発生し、ガイラスは後方へ吹き飛ばされた。



あまりの勢いに、パウロは女の子を気遣いながら、後ろを振り向く。



「パウロ!!助けに来たよ!!」



そこに立っていたのは、頬と腕に切り傷を負ったアナだった。



「ア、アナ!?なんでここが……そ、それに傷……」


「空から降ってくるのが見えたの!傷は大丈夫!」


そう言うとアナは顔をギュッとして力み始める。



すると、顔と腕の切り傷が青く光りだし、たちどころに消えてしまった。



「ほら!」


「な、なん……え!?」


あかるい笑顔でパウロに傷があった場所を見せるアナ。しかし、その顔はすぐに心配の色に変わった。


「それより、パウロのほうこそ傷が!」


「ぼ、僕はいいんだ……うっ……」


「全然よくない!早く手当てしないと……」



ドガァアアアン!!



二人が話していると、対岸から車が吹き飛んできた。アナはラプターを使って車を受け止め、そっと地面に置く。



車があった場所。燃え盛る炎の中から、顔半分が欠損したガイラスが姿を現した。



しかし、その傷もすぐに治り始め、あっという間に塞がった。



治って早々、ガイラスはすさまじい剣幕で怒鳴り始めた。



「このクソガキャァ!!何度も何度も邪魔しやがって!!!!」



「邪魔?それなら、私だけじゃないよ!」


「あぁ!!?」



「破天一刀流 王鹿突!!」


「セイバーエッジ!!」



突然、ガイラスとアナの間に巌流とテリーが飛び入り、あらんばかりの力を込めて、爪撃と斬撃を浴びせる。


「がっ!!」


数多の戦場を潜り抜けてきた二人の力はすさまじく、ガイラスの鋼鉄のような外骨格に、鋭い斬り傷をつけた。


ガイラスが勢いに負け、体制を後方に崩す。


その機を待っていたかのように、数本の糸がガイラスの体に絡みついた。



「如月流糸術 大独楽投げ!!」



ガイラスの体は遠心力で加速し、燃える車列に投げ飛ばされた。


「がぁああ!!!」


傷に炎が入り込み、全身に文字通り燃えるような痛みが走る。


痛みを消さんと暴れ狂うガイラスをアナたちが見ていると、音もなく颯が着地する。


「パウロくん、無事……じゃないみたいだね」


「颯!彼の傷治してあげて!」


「いや、僕のは重症限定。確かに傷してるけど、これぐらいなら、”彼女”の管轄さ」



ヒュンッ



颯が話した直後、どこからともなく一発の銃弾が飛んで来、パウロの肩に命中する。


その銃弾は、注射器の形をしていた。


「いっ……」


パウロが痛みを感じる前に、内部の薬品がパウロの体に注入される。すると、体の痛みがだんだんと引いていった。


と、皆の無線に通信が入る。


『パウロ君!!大丈夫!?』


「その声……エリー……さん?」


『あ、良かった!無事ね!今撃たせてもらった薬品ね、ゲノムワンを活用した修復薬なの!しばらくしたら、体の傷治ると思うから、安静にしてて!』


「ありがとうございます……でも、奴の相手は……」


「大丈夫!私たちに任せて!」


「もう一人で頑張らなくていい」


「僕たちだって、正義の味方だからね」


「そこで休んでて!ジャスティスマン!!」


四者四様に笑いかけながら、アナ達はガイラスに向かっていった。



そんな皆の後ろ姿を眺めているパウロの胸に、不思議な思いが渦巻いていた。



「……一人じゃない……任せて……」


改めて口に出した言葉は、生きていれば誰しもが聞き、口にするであろうもの。



しかし、平和を守り続け、勇敢に戦っていた孤高の自警団(ヒーロー)の名を借りたパウロにとって、その言葉は使いこそすれ、誰かに言われるものではなかった。


と、唖然とする彼の肩に、誰かが手を置く。


「え……」


パウロが振り返ると、先ほど彼の後ろで泣いていた女の子が、小さな手を彼の肩に乗せていた。


「ジャスティスマン……だいじょうぶ?」


「え……あ、うん。大丈夫だよ。さ、君は安全なところに逃げるんだ」


「うん」


そう言って、女の子は後ろを向く。



だが、すぐに振り返って、あるものをパウロに手渡した。



「……これ、あげる」


「え……」



パウロは、手のひらに置かれたものを見る。



それは、小さな絆創膏だった。



手渡した直後、女の子はパウロのすぐ後ろの道を駆け出して行く。


去り際に、小さなエールを残して。


「がんばって。ジャスティスマン」


「あ……」


パウロが声をかける前に、少女は道を曲がり、その姿を消す。



「お、あんちゃん!」



そんな彼女と入れ替わるように、一人のアンドロイドが近寄ってくる。


それは、昨日広場で暴漢にからまれていた、射的屋の店主だった。


「大丈夫か、あんちゃん!ひでぇけがして……」


「昨日の……あ、危ないですよ……早く逃げて」


「あんた置いておめおめ逃げられねぇよ!」


「僕は大丈夫……だから、あなたは安全なところに……」


「……なら、一つだけ、何かさせてくれ」


話しながら、店主は背負っていたカバンから一本のチョコレートバーを取り出すと、パウロに手渡す。


「俺にゃこれぐらいしか出来ねぇけど……これ食って、元気出してくれ。……頑張れよ。ジャスティスマン」


店主は、パウロの手を固く握りしめ、足早に去っていった。



「頑張れ」



そんな言葉と共に渡されたチョコバーと絆創膏を見て、パウロの目からなぜだか涙が零れ落ちる。



パウロはすぐに涙をぬぐうと、チョコバーを二口で食べ、しっかりとかみしめて飲み込んだ。



そして、頬に絆創膏を張り付け、何度か軽快な音を鳴らして頬を叩く。


「……よし」


小さくつぶやき、パウロは立ち上がる。


彼の体に、もう痛みは残っていなかった。


to be continued

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