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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
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反撃開始

声を張り上げ、パウロは戦闘態勢をとる。


そんな彼を見て、アナは困惑のあまり尋ねる。


「な、なんで戦うなんて……」


その問いに、パウロは震える声で答える。


「君は正義が何なのか、僕に思い出させてくれた!僕はその正義に従う!!困っている人に……君や、この国の人々に手を伸ばす!!そのために、今ここでこいつを止めたいからさ!!」


そんなパウロの叫び声に反応するように、ガイラスがむくりと起き上がり、アナ達を眼前に据える。


「この死にぞこないの道化が……おとなしく引っ込んでりゃいいものを!!」


と、ガイラスの声を聴いたパウロの目つきが変わる。


「道化で結構!!それで誰かの笑顔が守れるのなら!!僕は本望だ!!」



「あ……?」



ふいに、パウロと目が合う。



その瞬間、ガイラスの体に怖気が走った。



(なんだ……?こいつの目……)


何かが違う。ガイラスはそう直感した。


先ほどまで恐怖で委縮していたパウロとは違う。

何かが吹っ切れたような、はたまた何かがとりついたような。


そして、ガイラスはこの感覚に覚えがあった。



「……ジャスティスマン……」











ーー五年前 パウロをかばったジャスティスマンの体に、自身の鎌を突き刺した直後。


「ギハハハハ!!こいつ!!パンピーかばって刺さりやがった!!ギハハハハハハハハ!!!」


即座に鎌を抜いたガイラスは、ジャスティスマンの体を何度も何度も切りつける。


「哀れなもんだなぁえぇ?おい!!馬鹿なガキ一人守るために自分で死にに行くたぁよぉ!!!ギハハハハ!!!」


笑いながら、ガイラスは何度も何度も切りつける。



何度も何度も。



何度も何度も何度も。



何度も何度も何度も何度も何度も。



笑いながら切りつける。



しかし、当然手が止まった。



パウロをかばうジャスティスマンが、ゆっくりとガイラスを見たとき。

ひびが入ったマスク越しに、ふいに目が合った。



その目から、言いようのない恐怖を感じたのだ。



「あ……?」


ガイラスの手が止まった直後。



「ぉぉぉぉおおおおおおおおおああああああ!!!!!」



野獣のごとき咆哮を上げ、ジャスティスマンはガイラスの胴めがけて拳を突き出す。


咄嗟にガイラスが体の向きを変えてよけようとするが、間に合わない。


ガイラスの胴体左に拳が直撃した瞬間。



ゴジャッ!!



形容しがたい生々しい音が、路地に響く。


「がっ!!があああああ!!!」


と同時に、辺りに淡緑色の液体が飛び散り、ガイラスがその場に崩れ落ちる。

彼の体は、左部分がきれいにえぐれていた。


「ま……まず……い……このままじゃ……」


死を直感したガイラスは、逃げようと羽を広げる。



その直後、一本の腕が伸び羽を掴む。


ガイラスが恐怖の形相で後ろを振り浮く。


羽を握っていたのは、ジャスティスマンだった。


再び、ガイラスは彼と目が合う。


「ひっ」


彼の目には、明確な殺意と、狂気にも似た正義の意志がこもっていた。



「待て……」



ガラガラとうがいをしているときのような音を響かせ、ジャスティスマンは苦し気につぶやく。


背中越しにその言葉を聞いたガイラスに、もう戦意は残っていなかったーー











(あの時だ……あの時と同じ……何かに狂った奴が……覚悟を決めたときの目……)


冷や汗をかきながら、ガイラスの脳裏に五年前の雪辱がよみがえる。


(あの時だけだ……後にも先にも……恐怖を……命の危機を覚えたのは……ただのコスプレだ……ただの真似事をしているだけのパンピーだ!!!……なのに……それなのになぜ……)



「なぜ……あいつと同じ目をしている……!!」



ガイラスはパウロの目を見つめる。



彼の目に、あの日のジャスティスマンが見えた。



正義のためなら命もなげうつ。狂気にも似た正義を。



と、パウロが口元に笑みを浮かべて答えた。



「僕がジャスティスマンだからだ!!」



瞬間、憤怒の表情に変わったガイラスは羽を広げ、パウロとアナに突っ込んできた。


「ぬかせ雑魚がああああああ!!!!」


豪速でガイラスがこちらに突っ込んでくる。


「パウロ!!あいつあなたを狙ってる!!どうするの!?」


アナが慌てる中、パウロは冷静に深呼吸をすると、ガイラスをその目に見据えた。



「さて……倒すと意気込んだはいいものの、まずは……」



瞬間、パウロは誰もいない方向へ走り出す。



「人命優先!!」



「え!?」


驚くアナをよそに、パウロは走りながらアナに話す。


「アナ!!君の右後ろに一人残ってる!!僕がガイラスの気を引くから、助けてあげてくれ!!」


「あなたはどうするの!?」


「人のいないところを全力で逃げる!!なぁに、普段の走り込みよりは楽なもんさ!!」


そう言って、パウロはあらぬ方向へと駆け出して行く。その間にも、ガイラスはまっすぐアナのほうへ飛んできていた。



アナが迎撃するために身構えるが



「待てコラァ!!!」



そんなアナのことを気にも留めることなく、ガイラスはパウロを追って飛んでいった。


一瞬唖然としたアナだが、すぐにハッと我に返り、右後ろを見る。


そこにいたのは、頭を抱えてうずくまっているレイモンドだった。






「レイモンドさん!」


アナは急いで駆け寄り、レイモンドを起こす。彼の顔には、明確な恐怖が宿っていた。


「あ、アナさん……」


「ここは危ないから、避難して!」


「そ、それができればいいんですが……こ、腰が抜けて……」


「じゃあ、これにつかまって!」


そう言って、アナはラプターを一機浮かばせる。


「行くよ!しっかりつかまってて!」


レイモンドがラプターを掴んだのを確認し、アナは彼の腹に腕を回し、自身も浮かんで持ち上げると、車列が待機している方向へと飛んでいった。




「まさか……ジャスティスマンが……死んでいたなんて……」


運ばれている最中、レイモンドは震えた声でつぶやく。


「……知らなかったの?あなたも」


「えぇ……我々()は彼の仕事の後始末要因でしかありません。直接的な関係はないんです……」


「なんで彼のことを調べなかったの?こんなに動いていたんだから、いろいろできたはずでしょ?」


「それは……彼のプライバシーにかかわりますし……彼の足跡は殆どありませんでした。そもそもそんな暇も時間も、我々政府には……」


と、突然レイモンドの顔が何かをあきらめたような表情に変わる。


「……いえ、ただの言い訳ですね……本当は彼に甘えていたんです。治安が最悪だった当時から今まで、一切の報酬もなく、無償で治安維持を行っている、ヴィジランテ(自警団)である彼に」


「甘え?」


「彼の素性がわかれば、国は援助を行うことになるでしょう。それに、もしかしたら彼の活動で不祥事が起こった場合、国が後始末をしなければならなくなるかもしれない……政治家はとにかく”支出”と”責任”を嫌います。例え必要なものでも。だから、彼のことを調べることもせず、バックアップすることもなく……我々()は、平和の名のもとに、彼に甘え……見捨ててきたんです……」


レイモンドは、あきらめたような笑い声を小さく上げ、うなだれる。


「恩をあだで返していたんですよ……だから、彼の死にも気づかない……国も……守られている国民も……!!」


突然、レイモンドはラプターを手放し、自らの足で立ち上がる。ラプターを話したその拳は、固く握られていた。


「見て見ぬふりなど、最も忌むべき悪だ!!私は、国民を守るために……正義を果たすために政治家になったというのに!!それなのに……いつしか私も、悪に加担していたんです……」


眉をしかめ、怒りをかみ殺すようにレイモンドはつぶやく。


「レイモンドさん」


そんな彼の肩を、アナが優しく叩く。


「……はい……?」


「彼に……パウロとジャスティスマンに悪いと思ってる?」


「……もちろんです。私は一般家庭の出。他の官僚よりも、彼を身近に感じてきましたから」


「それなら、あなたが”見て見ぬふり”をやめればいいじゃない」


「え……?」


アナの言葉に動揺したレイモンドは、彼女の目を見る。


その目は、濁ることなくまっすぐと、彼の目を見つめていた。


「パウロもジャスティスマンも、自分の中の正義を信じて動いてた。私だってそう。サムもエリーも巌流も。颯にテリーにオリバーにビル。ダー・ラッタさんだってそう。みんなみんな、自分の正義を信じて動いてるの。あなたも自分の正義を信じて、一歩前に進んでみて」


「そ、そう簡単にはいきませんよ!世論に諸外国の反応も……何より政府内からもどれだけ反発が起こるか……」


あわてるレイモンドに、アナはそっと言葉をかけた。



「レイモンドさん。一歩踏み出すことは、あなたが思うより難しくないよ」



「え」


話しているうちに、二人は車列に到着していた。


「じゃあレイモンドさん。車の中で待ってて」


そう言って、アナは後ろを向き、再び広場へと走り出した。


「待っててって……あなたは残らないんですか?」


後ろから聞こえたレイモンドの声に、アナは振り返って答えた。


「私も、正義のために動かなきゃ!!」


「あ……」


そう言って駆け出した彼女を、レイモンドが引き留めようと手を伸ばした直後。



「レイモンドさん!!」



サムとビルが、ダー・ラッタと共に姿を現した。


サムはダー・ラッタをビルに任せると、急いでレイモンドの元へ駆け寄っていく。


「ご無事でしたか……お怪我はありませんか?」


「サムさん……えぇ、大丈夫ですよ」


「それならよかった。さ、危険ですから、お車に……」


「わかりました」


サムに促され、レイモンドは車のドアに手をかける。


と、彼の動きが止まった。


「……?どうされました?」


「……サムさん。私……今からでも変われますか……?もう……遅いかもしれませんが……」


その言葉に、サムは一瞬あっけにとられるが、すぐに話し始めた。


「……何があったかはわかりません。でも、人はいつでも変われると思います。その変化に、早いも遅いもないと思いますよ」


「……そう……ですか……」



つぶやきながら車に乗り込むレイモンドの視界に、アナの姿が目に入る。


レイモンドはただ彼女を見つめることしか出来ないでいた。






同刻同所


「ぐ……動かん……」


麻痺毒によって動くことができない巌流とテリーは、その場で膝をついていた。


パウロが介入する前から、何度も体を動かそうと力んでいた二人。しかし、努力むなしく、体に力は入らない。


「ど……どうしよ……早く……助けに……行かないと……」


「わかっている……しかし……」



『もしもし?二人とも聞こえる?』


どうすることもできず、二人がその場でもがいていると、無線から通信が入る。



その声は、エリザベスだった。



「エリー……」


『動けないの?何かされた?』


「麻痺毒……蜘蛛のやつだって……」


『蜘蛛の……ちょっと待ってて』


そう言って、通信は途切れる。その瞬間、二人の顔に安どの表情が浮かんだ。


「もう……安心だな……」


「こういうとき……頼りになるね……『看破』は……」




同刻 広場付近のビル 屋上


片膝をつき、もう片方の立っている肘を置いて、スナイパーライフルを構えるエリザベスは、スコープ越しにテリーと巌流の姿を見つける。


「さて……症状は何かしら?」


そうつぶやいた直後、彼女の糸のような目がゆっくりと見開かれる。その目は、黄金色に輝いていた。


そんな彼女の目が、二人の体を見る。すると、二人とも体全体が赤くなっていた。


それと同時に、炎のような揺らめきと針のようなトゲ、稲光のような線が走っている。


「痛みと発熱、それに筋肉麻痺……セアカゴケグモ種ね」


小さくつぶやいたエリザベスは、すぐにライフルを抱えると、左手首についている機械を、慣れた手つきでいじる。すると、機械が動き出した。



エリザベス・フェローチェ。能力(スキル)型『看破』の超人。視覚内の対象の弱点や負傷を見抜くことができる彼女は、その力を医療に生かしていた。


もともと軍医であった彼女は、長年の経験と”実地テスト”で症状ごとの見え方の違いを学び、その症状に適したワクチンや解毒剤を学習。様々な戦地で、多くの命を救ってきた。


そして、それら薬品を即座に作り出せるようアマンダが開発したのが、現在エリザベスが左手首に身に着けている『メディカルバンド』だ。


と、そのメディカルバンドが機械音を鳴らす。


「待ってました!」


エリザベスはすぐにボタンを押す。すると、バンド内から注射器のような形をした弾丸が二発、白い煙と共に姿を見せる。


彼女はすぐに二発とも掴むと、再びライフルを手に取り、弾をマガジンに装填。薬室の一発をコッキングして取り除くと、素早く巌流とテリーに向かって弾を放った。




「ぐっ……」


「いっ……」


着弾と同時に、二人の体に薬品が注入される。


すると、先ほどまで感じていた発熱と痛み、しびれがたちどころに癒え、体に活力がみなぎり始めた。


「よぉし!!元気になってきた!!」


「すまないエリー。感謝する」


『いいのよ。それよりも、早くパウロ君を助けに行ってあげて!私もすぐ向かうから!』


「もちろん!!」


「わかった」


通信が切れた二人は、すぐにパウロの後を追って駆け出して行く。


と、眼前にアナの姿が見え始めた。


「アナ!!」


「二人とも!!もう大丈夫なの?」


「この通り、ぴんぴんしてるよ!」


「エリーのおかげだ。さ、急ごう。彼を助けなくては」


「うん!」



「それなら、僕もいくよ!」


突然、三人の背後から声が聞こえてくる。


走りながら振り返ると、吹き飛ばされた颯が糸をスイングしながら皆に合流した。


「颯!」


「あいつめ……散々僕を投げ飛ばしてくれちゃってさ……すこしはお返ししないとね!」


「うん!」


と、全体に通信が入る。


『こちらサム。みんな、聞こえているかい?』


「サム!大僧正とレイモンドは!?無事か!?」


『大事ないよ。ただ、護衛がいないと危険だ。だから、僕とビル、オリバーが二人を援護しつつ、安全な場所に避難させる。ガイラスの確保は、みんなに任せたよ!』


サムが言い終わると同時に、オリバーからも通信が入る。


『皆サン、ガイラストパウロサンノ現在位置ヲ、端末ニ送リマシタ!随時更新スルノデ、ソレヲ元ニ向カッテクダサイ!』


「ありがとうオリバー!」


『ワタシハ補助シカデキマセンガ、精一杯ヤラセテイタダキマス!ゴ無事デ!』


二人の通信を聞き、皆の中に活気が戻る。


そして、巌流が皆に呼び掛けた。


「よし!!今度こそガイラスを確保する!!皆行くぞ!!」


「「応!!!」」


to be continued

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