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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
46/47

波乱の最終日

「「え!?」」


突然パウロの口から放たれた衝撃的な一言で、アナと巌流は驚愕の声を漏らす。


そんな二人の反応を見たパウロはハッと我に返ると、うなだれるように再びベンチに腰を下ろした。


「どういうこと?ジャスティスマンを……殺したって……?」


「……そのままの意味だよ、アナ。僕が彼を殺した」


「ちょ、ちょっと待て」


混乱するアナを、そして何より自身を落ち着かせるために、巌流がパウロの言葉を遮る。


「あんたが殺したのなら、なぜこんな真似事をしてる?」


「……確かに、経緯を知らないなら、そう思いますよね……」


そう言ってパウロは深呼吸する。


「……少し、昔の話をしましょうか」


彼は、二人の目を見て話し始めた。





ーーあれは五年前。ガイラスの事件がピークだったころのことです。


ジャスティスマンが、どこかの組織と合同でガイラス検挙に乗り出したというニュースがありました。ベルトリア中が喜んだものです。ついに長年続いた殺傷事件にケリがつくのか……と。


ですが、必死の捜査もむなしく、証拠や足取りがある日突然消えてしまったせいで、捜査は打ち切り。それでもジャスティスマンは皆を安心させようと、パトロールを増やすと言っていたのを、今でも覚えています。



捜査打ち切りのニュースが発表されてから三か月。雪が降り積もる、寒い冬の日でした。当時新聞配達のバイトをしていた僕は、家々を回って新聞を届けていました。


そんな中、ある路地を通りかかったら、怒鳴り声と金属音が聞こえたんです。ビビりのくせに好奇心が強かった僕は、配達バイクもそのままに、暗い夜の路地の奥へと駆け出して行きました。



しばらくして目が慣れて、少し開けた空間が見え始めたとき、僕は目を疑いました。


戦ってたんです。黒い大男とジャスティスマンが。でも、ジャスティスマンは妙にボロボロでした。どんな悪党にも傷をつけられたことがなかったのに。


辺りを見た僕は、すぐに答えがわかりました。ジャスティスマンの後ろに、女の人がいたんです。彼女はおびえきっていて、動けていませんでした。そんな彼女をかばいながら、彼は戦っていたんです。



ふいに、僕の頭にある考えが浮かびました。「彼女を助ければ、ジャスティスマンは勝てるんじゃないか」……って。


随分と浅はかで……馬鹿な考えだったと、今になって思います。それができているなら、彼はここまで苦戦していないと。すぐに勝って、あの女性にいつもみたいに明るい笑顔を見せているはずだと。


でも、昔から彼に……正義の味方にあこがれているだけの、超人でも何でもない……何の力もない馬鹿な僕の頭に、その考えは浮かびませんでした。自分が非力な”人間”であることも忘れて、そのまま路地から飛び出して。まっすぐ女性の元へ走っていきました。



それがいけなかった。



気づいたら、僕の体が血にまみれていました。


でも、僕の血じゃない。


その血は……彼の……ジャスティスマンのでした。


僕に目を付けた大男が、僕めがけて伸ばした剣を、ジャスティスマンは体を張って防いでくれたんです。そのせいで、彼の胸を大きな刃が貫いていました。



その先は、あまりよく覚えていません。気づいたら、血まみれのジャスティスマンが僕の腕の中にいました。女性も、男も、もうどこにもいませんでした。その場にいたのは、僕と彼の二人だけ。


彼は笑ったまま冷たくなっていました。


地面に積もる、雪みたいにーー







「あの時の感触は、今でも手に残っている……忘れられません……」


「……だとして、なぜ君が彼の活動をしている?」


「贖罪です。彼を死なせてしまったことへの。わかってます。僕は力不足で役不足。主役になんてなれやしない、名前のないモブAだってことくらい。でも……それでも……彼が埋めていた穴は、誰かが埋めていなくっちゃいけない。だから、やれることをやっていたんです。彼の格好をして……」


と、パウロが頭を抱える。


「いや……これも言い訳ですね…………怖かったんです。逃げ延びた女性から、『ジャスティスマンを殺した男がいる』って言われたくなくって……社会から批判されたくなくて……それが怖くて、彼のふりをし続けていた……”彼がまだいる”と、周りに思わせたかった……僕はずっと……彼を応援して信じる人たちを、だまし続けていた……とんだクズ野郎なんだ……」



【無理をしなくていい】【君のせいじゃない】



ふいに自身の口から出そうになった二つの言葉を、巌流はぐっと押し込める。


これは事実だ。ジャスティスマンが死んだのはガイラスのせいであり、パウロが殺したわけでは無い。


しかし、この言葉がどれほど無責任で、そしてどれだけパウロの覚悟を踏みにじるものなのか。それを知っていた巌流は、言い出せなかった。




巌流が言いどもる中、アナは驚きのあまり言葉を出せずにいた。


と、そんなアナに、パウロが話しかける。


「……正体がばれてしまったから言うけど……アナ。以前君はこう聞いたね。『”正義”って何だと思う?』って。……ごめんね。答えられない。僕は、世間の批判が怖くて……石を投げられるのが怖くてやっているだけの、卑怯なまがい物だ。そんな僕が、正義を語る資格なんてないんだよ……」


そう言って、パウロは立ち上がる。


「それじゃあ、さようなら。助けてくれてありがとうございました。……もう少しで、僕はこの活動をやめにします。……皆さんが今後も頑張っていけることを、願ってます。それでは……」


そう言って、パウロは逃げるようにその場を走り去っていく。


「待って!!


後ろから聞こえたアナの声も、彼の足を止めることはできなかった。






数時間後 朝七時 ホテルロビー


「そんなことが……」


演説会場に向けた出発の準備をしながら、エリザベスは驚きの声を漏らす。


パウロと別れた後、すぐにホテルに戻った二人は、話をしようと皆が起きるのを待っていた。


しかし、ダー・ラッタやレイモンドがいる中で、パウロの話をすることは避けたかった二人は、SIUメンバー全員がいて他の誰もいない出発準備のタイミングで、皆に先ほどの話を打ち明けたのだ。


「五年前……僕らとの合同捜査が中止した後か……やるせないね」


「活動縮小ニ目撃情報ノ減少……人ガ変ワッタトナレバ、辻褄ハアイマスネ……」


「そのパウロって人、相当ショックだったでしょうね……かわいそうに……」


「当然だ。その話聞いたら、ファンならショックでみんな”こう”なるぞ」


皆が各々の視点で話す中、ビルは背後を指さす。


その先では、テリーが地面にうつ伏せに寝そべりながら、涙で床を濡らしていた。


「そんなぁ……ジャスティスマンが……嘘だぁ……」


「いい加減シャキッとしろよ。もう二十分も泣きっぱなしじゃねぇか」


「だってぇ……」


「グズグズ言ってんな!ほら行くぞ!」


ビルに引きずられながら、テリーは車へと運ばれていく。

そんな二人をよそに、サムと颯は深刻な顔をしていた。


「しかし、そのことが外部に漏れたらまずいね」


「どうして?」


「簡単なことだよアナちゃん。この国で犯罪が少なかったのは、ジャスティスマンというある種の”抑止力”があったからなのさ。そんな彼が死んだと知れれば、また犯罪が多発し始める。国中大混乱さ」


「それだけじゃない。ベルトリアは黒海に面する物流要所だ。それに、ソドムスカと中東内陸部の海運物流網にも絡める。そんな国を、裏の組織が掌握しようと動き出さないわけがない……治安の悪化どころじゃ済まないかもしれないね」


「そんな……!」


颯とビルの話を聞いたアナの顔が青ざめる。


「あ!ごめん、そういうこと言いたいんじゃなくって……」


アナを見て慌て始める颯をよそに、サムは落ち着いた表情でアナの肩に手を置くと、目線を彼女に合わせる。


「いいかいアナ。そうならないためには、徹底的な情報統制……簡単に言えば、『誰にも言わないこと』が大切だよ。僕ら以外に、この話をしちゃいけない。わかった?」


「……うん。わかった」


「よし!それじゃあ時間だ。行くとしようか」


「「了解」」


サムの掛け声で、皆はダー・ラッタと共に車に乗り込む。


今日はベルトリアでの演説三日目。向かう先は、昨日アナたちが行った祭り会場、ブルケート中央広場である。






「ふぁ~あ……ねみぃ……」


大きなあくびをしながら、ビルは目をこすると、小声で愚痴を始めた。


「ていうか、ジャスティスマンがいないんじゃ、いよいよ本腰いれなきゃか……休暇って聞いて来たってのに、ついてねぇぜ……」


「馬鹿を言うなビル。どんなところででも任務は任務。気を抜くなと言ったろう」


「今回は結果論じゃねぇか。ジャスティスマンが別人なんて、誰が予測できるよ……」


コソコソ言いあう二人を笑いながら見つめつつ、サムはオリバーと颯に通信をかける。


「どうだい?外の方は」


「車列の周囲3㎞は異常なし。ガイラスの姿も見えないよ」


「中央広場モ異常アリマセン。ガ、人混ミガ多クナッテキテイマス。ガイラス以外ニモ、襲撃ヲ企テテイル者ガイルカモシレマセン。到着ノ際ハゴ注意ヲ」


「了解。二人とも、頼んだよ」


そう言ってサムは通信を切り、車内を見回す。


一日目に漂っていた明るくにぎやかな雰囲気は消え、皆の間には、緊張と不安が漂っていた。


と、その空気を察知してか、同乗していたダー・ラッタが優しい声色で皆に話しかける。


「皆さん、三日間ありがとうございました。長いようで短かったですが、皆さんと旅ができたこと、私はうれしく思います」


「もったいないお言葉です、大僧正。こちらの力不足で本来の日程を変更してしまい、申し訳ありませんでした」


「いいのです。おかげで、多くの方々に演説ができるよう、私も言葉を考える時間ができましたから」


そう言って、ダー・ラッタはゆっくりとうなずく。心なしか、皆は彼が微笑んでいるように感じた。






と、車が停車する。


「到着か。みんな、プラン通りに行くぞ!」


「「応!!」」


サムの掛け声で、ビルとテリー、エリザベスが先に降車し、車の入り口を守るように立つ。


ブルケート中央広場にある特設舞台の裏側に停車した車列を、何人ものSPが取り囲む中、エリザベスは背後に立つ高層ビルの中に入っていった。


と同時に、颯とオリバーから通信が入る。


「こちら颯。周囲異常なし」


「コチラオリバー。不審ナ人物ハ確認デキマセン」


「こちらビル。サーモセンサー、特殊ソナーともに異常なし」


「こちらテリー。不審物のにおい、異音ともになし。降車OKです!」


四人の通信を聞いたサムは、ダー・ラッタに降車の合図を送る。


そして、車から降りたダー・ラッタの周りをSIUのメンバーが取り囲み、待機室に入室した。ダー・ラッタを見届け、即座にサムは通信をいれる。


「第一段階クリア。エリー。所定の場所には?」


「今到着したわ。こっちも準備する。サムは皆をお願いね」


「了解。頼んだよ」


笑顔で通信を終えたサムに、アナは心配そうに声をかける。


「サム。エリーを一人にして大丈夫?もしガイラスが来たら……」


「大丈夫。軍医になる前、彼女は優秀な狙撃兵だったんだ。接近されても、颯の援護が入る。心配いらないよ」


今回、エリザベスはSPたちとともに、スナイパーとして全体が見渡せる高層ビルの屋上に配置された。これは、前日の会議でサムが決定したことであった。


絶好の監視体制が構築され、レイモンドやSPたちに少しの安どが生まれる。


だが、今のベルトリアにジャスティスマンがいない。唯一其のことを知っているSIUのメンバーたちに、緊張が走っていた。


と、壇上から声がかかる。


「それでは登場していただきましょう!デカルサ・ダー・ラッタ大僧正です!」


「それでは、大僧正」


「えぇ。よろしく」


巌流とビル、SP複数人を連れ、ダー・ラッタはステージの端から姿を現す。最初は警護に戸惑っていたが、すぐに観衆からは喜びと歓迎の歓声が上がった。


自身を笑顔で迎える人々にゆっくりと手を振りながら、ダー・ラッタは壇上へ続く階段を上っていく。


そして、壇上に上がった彼は、自身の目の前にあるマイクを手に取ると、深呼吸をして話し始めた。


「皆さん。本日はお集まりいただき、心から感謝します」


ダー・ラッタの演説を、観衆は静かに聞いている。彼の話す言葉の一つ一つが、皆を勇気づけ、明日への希望を見出してくれている。


そんな演説に、思わずサムたちも聞き入っていた。



ピリリッ



と、突然サムの無線に通信が入る。通話の主は、オリバーだった。急いでサムは応答する。


「オリバー、何かあった……」



「大変デス!!奴デス!!ガイラスガ出マシタ!!!」


「な!?」


サムが驚きの声を上げた、次の瞬間。



ビュン



一つの影が群衆の頭上を飛び越え、壇上のダー・ラッタの元へ一直線に向かってくる。



ガイラスだ。



ガイラスはわき目も降らずダー・ラッタへ狙いをすませ、腕の鎌を振り下ろした。



「死ね。クズ鉄」



ガギィイン!



鈍い金属音と共に、ガイラスの鎌がダー・ラッタの頭上で止まる。ガイラスが見ると、一本の刀が、彼の腕を止めていた。


「やはり来たか、ガイラス!!」


「てめぇ、何度邪魔すりゃ気が済むんだ!!」


巌流とガイラスが鍔迫り合う中、一瞬のことで理解が及ばなかった群衆に、ガイラス出現の恐怖とダー・ラッタ暗殺未遂の衝撃が広がる。


「な、なんだあいつ!?」


「ガイラスだ!!」


「逃げろ!!」


各所で叫び声が出始めたのを皮切りに、群衆は蜘蛛の子を散らすように、我先にと逃げ始めた。


しかし、混乱した市民がスムーズに逃げられるわけもない。


「おいどけよ!!」


「私が先よ!!」


「いってぇ踏むな!!」


「お母さーん!!」


会場の各所で、怒号と泣き叫ぶ声が出始める。


会場全体が混乱に陥っていた。



その時



「待て!!」



叫び声が響く会場の中心から、ひときわ大きな声が響いた。


皆の視線が声の方向へと向く。


そこに立っていたのは



「もう大丈夫!!ジャスティスマン、参上!!」



壊れたはずのヘルメットをかぶったジャスティスマンだった。


「な!?なんで!?」


「おいなんで出しゃばってきた!!」


アナとビルが驚きの声を上げる。


しかし、事情を知らない観衆からは、大歓声が響いた。


「ジャスティスマンだ!!」


「もう安心だ、俺たち助かったんだ!!」


「ジャスティスマーン!!そんなやつぶっ倒せ!!」


群衆から声援を浴びるジャスティスマン。



しかし、彼がとった行動は、戦うことではなかった。



「皆さん!私が誘導する!早くここから逃げるんだ!」


「……え?」


途端に、観衆からの声援はやみ、疑問の声が上がり始める。


「な、何言ってんだよ。はやくあいつを倒してくれよ……」


「あんたはいつも先に悪党を倒して、俺たちを安全にしてくれてたじゃないか」


「逃がすより先に倒してくれよ!いつもみたいに!」


群衆に困惑が広がる中、ジャスティスマンは急いで弁明する。


「ここにいれば、みんなにも被害が出るかもしれない!そんなことにならないために、先に避難を……」


「そうならないよう、あんたはいつも立ち回るだろ!いつもみたいにやってくれよ!」


「私たちに、彼を倒すとこ見せてよ!」


ジャスティスマンの言葉を、群衆は聞き入れようとしない。



「ククク……ギヤハハハハハハハハ!!!」



突然、ガイラスが不敵に笑う。


「俺を倒すだ?そいつにか?できるわけねぇだろうが!!ギャハハハハ!!」


「な、どういう意味だ!」


「あんたなんか、彼がすぐに倒してくれるわよ!!」


ガイラスは巌流の刀をはじき飛び上がると、空中で制止し、群衆の方へ向き直った。


「いいや無理だね」


言い放った刹那、ガイラスがジャスティスマンの元へ瞬時に移動すると、彼のヘルメットを取り去った。



途端に、彼の素顔があらわになる。



しかしその顔は、皆の知る顔ではなかった。



「だってこいつぁ、ジャスティスマンじゃねぇからな」


「……え?」


ジャスティスマンのヘルメットが脱ぎ去られ、パウロの顔があらわになる。


彼の顔を見た群衆の顔色は、一気に青ざめた。


「だ、誰だこいつ……」


「ジャスティスマン……じゃない?」


「ほ、本物はどこ行ったんだよ!!」


不安が伝播し始め、混乱が広がる。


そんな人々を見て、ガイラスはゆがむほどの笑顔で言い放った。



「本物は死んだ。五年前に、俺が殺したからなぁ!!」



to be continued

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