暴かれた秘密
「な……」
ガイラスの大声が広場に響き渡る。
「ジャ……ジャスティスマンが……死んだ……?」
「そんな……嘘だ……」
群衆から、徐々にうろたえった声が聞こえ始める。
その声を聴いたガイラスの口元はさらに弧を描く。
「嘘じゃねぇよ本当さ!!それぁこいつもよく知ってるはずだぜ!!」
そう言って、ガイラスはパウロに指をさす。
「そうだろ偽物!!あの日てめぇが俺とあいつの戦いに割って入ったせいで、あいつは死んだんだからよぉ!!!」
これ見よがしに、ガイラスは笑いながら声高に叫ぶ。
「そ……れは……」
そんな彼の言葉を、パウロは否定できなかった。
しかし、そんな彼とは裏腹に、群衆からは戸惑いの声が出始めていた。
「ジャスティスマンがいない……?」
「私達、これから何かあったら、どうすればいいの……?」
「いや、それよりもだよ……こいつは俺たちをだましてたのか……?」
「どうして何も言わない!何か理由があるなら言ってくれよ!!」
群衆からどよめきと叫び声が響く。
彼らは信じられなかった。そして、信じたくなかったのだ。
ジャスティスマンの死を。
彼の不在を。
パウロの活動は、ファンの真似事の一環であると。
そして、まだ希望は無くなっていないと。
しかし、パウロの口から出た言葉は、群衆が望むものとは真逆だった。
「……そうだ……あの日……僕が出しゃばらなければ…………」
彼の言葉を聞き、群衆の顔は絶望に変わる。
と、ガイラスの口から唾液が流れ始めた。
「いいねぇ……そろいもそろって絶望の色だ」
ガイラスが垂らした唾液のしずくが、地面に一滴垂れた直後。
ビュン
突然ガイラスが地面に超速で降り立つと、着地地点にいた人々の首を斬り飛ばした。
「き、きゃあああああああ!!!!」
鮮血の雨が降り注ぎ、叫び声が響く。
そんな混沌の中心で、全身を赤黒く濡らしたガイラスは、半月のごとき笑顔で頭をかじりながら、捕食者の眼光を周りに向ける。
「さぁて。次はだれを食おうか?」
その瞬間、群衆の恐怖が限界を超えた。
「うわあああああ!!!」
「誰か助けてくれえええ!!!」
あちこちで人々が叫び、ぶつかり、逃げまどう。
そんな光景を、ガイラスはバラエティー番組でも見るかのように笑いながら、頭をかじっていた。
「ギャハハハハ!!こいつぁいいや!たった一人の死を大ぴらに言っただけでこの混乱!!これぁしばらくはうまい飯にありつけそうだなぁ!?ギャハハハハ!!」
と、笑うガイラスの目に、パウロの姿が入る。
パウロは、恐怖のあまりその場にしりもちをついて、ガイラスを眺めていることしか出来ないでいた。
そんなパウロに、ガイラスはゆっくりと近づいていく。
「情けねぇなぁヒーロー気取り。ジャスティスマンはそんな間抜け面しなかったぜ?」
「あ、あぁあ……」
「はっ。所詮はまがい物。あいつに”アテられた”だけの、ただのパンピーか」
話しながら、ガイラスはパウロの髪を掴み、軽々と持ち上げる。あまりの痛みに、パウロの顔がゆがみ、口から悲鳴が飛び出した。
「がああああ!!」
そんな彼の叫びを無視し、ガイラスは彼に尋ねる。
「おい、お前なんであいつの真似してんだ?贖罪のつもりか?」
「!!」
その言葉に、パウロは一瞬目を見開く。
「!!はっは!!図星かよ!!お前ごときがあいつの真似して罪滅ぼしってか!?笑わせるぜ!!」
笑いながら、ガイラスはパウロを投げ捨てる。
「そうだ、いいことを教えてやる。お前みてぇな奴はな、英雄にはなれねぇんだよ。馬鹿で。非力で!独りよがりで!!誰も助けることのできない!!!てめぇみてぇな奴はなぁ!!!!」
ガイラスはパウロを蹴り飛ばす。
「俺からもいってやるよ!あの日てめぇが英雄気取って首突っ込まなけりゃぁ、少なくともあいつぁ死ななかった!」
その言葉に、パウロの目は涙でにじむ。
「わかるか?てめぇは誰も守れねぇ!どころか、誰かを殺しちまうんだよ!!正義感とエゴがでかいだけの、体の吊りあわねぇ無能なせいでなぁ!!」
叫びながら、ガイラスはパウロの首を掴む。
「がっ!!」
息ができない苦しみで、パウロの顔がゆがむ。
そんな彼を見て、ガイラスは満面の笑みで鎌を構えた。
「あばよ、ヒーロー気取り。何にもなれない無能で哀れな自分を呪って死んで行け」
ガリィイン!!
と、ガイラスの鎌に何かが飛びつく。
それは、テリーだった。
「……ったく、いいとこだったってのに……侍の次は犬っころか」
「この人でなしめ……!これだけ人を殺しておいて、なぜ笑っていられる!!」
ガイラスの鎌を爪で押しながら、テリーは涙目で問う。
「……てめぇはコメディ見て笑いこらえんのか?」
「!!お前ぇ!!」
普段温厚なテリーが、毛を逆立て激昂しながらガイラスに襲い掛かる。
しかし、ガイラスはパウロを投げ飛ばすと、余裕の表情で攻撃をよけていく。テリーの爪は、ガイラスの体をかすめて空を切るのみであった。
「おせぇおせぇ。どいつもこいつものろすぎだ。あくびが出ちまうぜ!!」
ガイラスの蹴りがテリーの腹にクリーンヒットし、彼の体をはるか後方に吹き飛ばす。
「がっ……っは……!」
「はっ。所詮は犬か」
ガイラスはおいてあった人の頭を食べきると、あたりをきょろきょろと見まわす。
「さて……肝心のターゲットはどこに行ったか……」
と
ヒュン
一本の糸が、うなりをあげてガイラスの体に巻き付いてきた。
「あ?」
ガイラスが困惑したその一瞬。凄まじい速度で颯が飛んできた。
「そぉら!!」
糸を使って弓矢のように射出された颯の、超速の蹴りがガイラスの胴に命中する。
「ぐ……」
吹き飛ばされたガイラスは、即座に自身の強靭な足でブレーキをかける。接触すると同時に、コンクリートの地面はえぐれ、がれきが周囲を舞う。
「……今朝ぶりだな、糸野郎」
「随分な暴れっぷりじゃない。思春期か何か?」
「ガキみてぇな見た目のてめぇに言われたかねぇな!」
そう言って、ガイラスは自身の体を縛る糸を、いともたやすく引きちぎる。
「せりゃあ!!」
その一瞬の隙をついて、巌流が再びガイラスに一太刀を浴びせた。
「っち……」
巌流が続けざまに放った二撃三撃を素早い身のこなしでかわし、ガイラスは距離を開ける。
と、目覚めたテリーと颯がすかさずガイラスを囲み、三角形の布陣が完成した。
最大限の警戒と怒りを胸に、三人はじりじりとガイラスに距離を詰めていく。
そんなトライアングルの中心で、ガイラスはまたも不敵に笑っていた。
「けっ。どこまでもしつこい野郎どもだぜ」
「当り前だ。貴様のような極悪人、逃がしてなどなるものか」
「これ以上、犠牲者は出したくないしね」
「なにより……ジャスティスマンの仇……!!」
三人の殺気が強まる。
しかし、ガイラスは笑っていた。
「おぉ……!いいねいいねぇ!その殺意!!たまんねぇぜ!!よぉしテンション上がってきた!!久々に殺し合いと行くかぁ!!!」
ガイラスの叫びと同時に、三人はガイラスへと飛び込んでいくのだった。
「大僧正!こちらです!急いで!」
巌流、颯、テリーがガイラスと戦っている同時刻。
ビルとサムは、SPたちと共に、ダー・ラッタの護衛に当たっていた。
二人がダー・ラッタの身を低くさせ、車へと運んでいる最中。突然ダー・ラッタの足が止まる。
「!?おい何してる!」
「いかがされましたか、大僧正?」
「……酷い」
そう言って、ダー・ラッタは立ち上がる。
「!!危ないです!!かがんで!!」
「私のせいで……こんなにも人々が……」
「あなたのせいじゃありません!さあ早く!」
と、ダー・ラッタがガイラスに向かって歩き出した。
そんな彼を、サムは手を掴んで引き留める。
「何のつもりです大僧正!!」
「私が死ねば……これ以上被害は出ないはず。行かせてください、サム。私が死ぬことで多くが助かるのなら、本望です」
震える声で話すダー・ラッタに、サムは両手で彼の肩をつかみ話す。
「大僧正。あなたのお気持ちもお考えもわかります。しかし、ここであなたが死んでしまっては、奴はまた逃げてしまう!!我々のエージェントが、奴を止めるべく尽力しています。あなたは、自身の身の安全を優先してください!」
「しかし……」
と、ダー・ラッタの服の襟を、ビルが思い切りつかんだ。
「おいメカ坊主。ふざけたこと抜かしてんなよ。あんたが死んだところで状況はよくならねぇ。あいつの”キルリザルト”にあんたの名前が載るだけだ。意味わかるか?無駄死にだ!!奴はあんたを殺しても殺しをやめるわけじゃねぇ!!それどころか、あんたが死ねば、何万人もの人が悲しむ!!後を追う奴もいるかもしれねぇ!!その意味わかるか!!」
叫びながら、ビルはダー・ラッタを自身に引き寄せる。
「いいか?今あんたが死んでも、事態は何も変わらない。悪化するだけだ。それに、俺たちゃ、あんたを守るために来たんだ。それだけ、あんたはすげぇんだ。あんたの死は損失なんだよ。それがわかったら、ごたごた言ってねぇで、さっさと車に乗りやがれ!!」
そう言って、ビルはダー・ラッタから手を離す。
一瞬唖然としていたダー・ラッタだが、すぐに何かを考え直したように、サムとビルの間に戻っていった。
「……そうですね……死んだところで、状況は好転しない……失礼しました。気が動転して……」
「……わかりゃいいんだ」
「いいんです。お気持ちはわかりますから。さ、急ぎましょう」
落ち着いて話すと、サムは再びダー・ラッタの姿勢を低くさせる。
と、ダー・ラッタがあることに気づいた。
「そういえば……あの子……アナはどこに?」
「え?!」
ダー・ラッタの言葉を聞いた二人は、急いで辺りを見回す。
先ほどまで一緒だったアナがいない。
「アナ!!おいどこだアナ!!」
「こんな時に……!!ビル!!大僧正を安全な場所へ!!僕はアナを探す!!」
「わかった!!さ、行くぞ!!」
命令を聞いたビルは、急いで大僧正と共に避難する。
そんな中、サムはエリザベスとオリバーに無線をかけていた。
「二人とも!アナを見てないかい!?」
「アナちゃん?!どこかに行っちゃったの!?」
「コノ人混ミノ中ニ紛レテイルノナラ、スグニハ見ツカリマセンヨ!」
「くそっ!!いったいどこに……」
と、サムの眼が一点を見つめる。
アナを見つけたのだ。
彼女の前にはうずくまるパウロがいた。
「パウロ!ねぇパウロ!」
アナの呼びかけに、パウロはほんの少し反応する。
「……アナ……」
「!よかった、生きてた!怪我してない?大丈夫?」
パウロが生きていたことに、アナは安どのため息を漏らす。
だが、パウロは顔を地面に向け、うつむいたままだった。
「……?どうしたの?」
「……アナ……僕……僕は何で生きているんだろう……」
「……え……?」
アナがパウロの顔を覗き込む。
その顔は、涙でにじんでいた。
「だってそうじゃないか!……英雄を殺して、それがばれたくないから彼の真似をして……なのに……それなのに……誰も助けず、守れない……あいつの言うとおりだ。ただの真似事……自己満足のクズ野郎さ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほら立って!安全なところまで逃げよ!」
アナがパウロの腕を掴んだ途端、彼はその手を振り払った。
「放してくれ」
「なんで!」
「僕はここで死ぬべきなんだ!そうじゃなきゃ、さっき殺された人々に……今まで奴に殺されていった人々に合わせる顔がない!!」
パウロは地面を殴りつける。
血がにじむ拳で、何度も何度も。
「……あの日…………僕が死ねばよかったんだ……」
パウロのか細い声は、悲鳴と戦闘音にかき消されていく。
群衆は逃げまどい、ガイラスは戦闘に明け暮れている。SIUの面々も、各々の役目に心血を注いでいる。
彼の言葉を聞く者はいない。
ただ一人を除いて。
パチンッ
突然、パウロのほほをアナが叩く。
「そんなこと言わないで……!」
「え……」
「この世に死んだほうがいい人間なんていない!!二度とそんなこと言わないで!!」
この日、初めてパウロはアナの目を見た。
彼女の目は、パウロと同じく涙がにじんでいる。
しかし、その奥底に何かが燃えていた。
パウロがアナの目にくぎ付けになっていると、彼女はくるりと背を向ける。
「……私、みんなの援護に行ってくる。ここは危ないから、パウロは逃げて」
「な、なんで!君も危険じゃないか!!行っちゃだめだ!!」
「行かなきゃいけないの。私も、守りたいものがあるから」
そう言って、アナは歩き出していく。
「アナ!!」
パウロはアナの腕を掴もうと、精一杯手を伸ばす。
しかし、彼女の腕は彼の手をするりと抜け、前へと進んでいった。
と、アナが立ち止まり、くるりと振り向く。
「パウロ。あなたは卑怯者じゃないし、無力じゃない。受け売りだけど、正義は手を差し伸べることだって。それなら、あなたは誰よりも正義を知ってるし、そのために動ける人だもの」
「な……そんなこと……」
「前に会ったとき、私を車から助けてくれた。お祭りの時も、お店を襲おうとしてる人たちを止めた。それに、さっきから守れなかったことを……手が届かなかったことを悔やんで泣いている。今だって、私を守るために手を伸ばしたじゃない」
「……でも……」
再びうつむいたパウロの肩を、アナはポンと優しく叩いた。
「パウロ。誰が何と言っても、あなたは私のヒーローよ。正義の道を示してくれた、すごい人。だからお願い。死なないで」
アナはニコリとほほ笑みかけると、再び背を向け、ガイラスに向かって走っていく。
「あ……」
パウロは、無意識に手を伸ばす。
しかし、その手はアナには遠く届かない。
「……正義……」
パウロは、伸ばした自分の手を見つめる。
先程地面を殴りつけたせいで、彼の拳からにじむ血が手のひらにたまり、小さな水たまりを作り出す。
その表面に映る自身の顔は、先ほどとは何か違う気がした。
to be continued




