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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
42/47

一日目を終えて

「えーー!?」


ダー・ラッタが公演を終えたその日の夜。


テリーの驚嘆の叫びが、SIU一行が止まるホテルの大部屋に響く。


「ジャスティスマンに会ったの!?」


「うん。轢かれそうな私を助けてくれたの」


「いいなぁ~~!!僕サインほしかったのに……」


「おいおいそんなことよりだ。轢かれかけたって……大丈夫かよ?」


「うん。彼のおかげで傷一つないよ」


「あの時は焦ったわぁ……突然駆け出して行っちゃうんだもの……」


一人掛けのソファに座るエリザベスは、ビルの質問を聞き、ほほに手を当てながらため息をつく。


「危ないから、次からは左右をしっかり確認するんだよ。アナ」


「わかった……ごめんなさい、サム……」


「いいんだ!君にけががないなら!」


「それは、ダー・ラッタ氏にも言えることだ」


サムの言葉に、椅子に腰かける巌流は、酒をあおりながら答える。


「まったく……まさかあんな無茶をなさるとは……」






ーー時はさかのぼり、アナがジャスティスマンと会った同時刻。


「……そして、我々は長い間」


「ふざけんじゃねぇ!!」


ダー・ラッタが演説を行っていた最中、聴衆の間で怒号が起こる。


「おや……」


「?どうしたサム、何があった?」


「軽い喧嘩さ、巌流。ただ、早急に止めないとまずい。暴動になるかも……」


サムがテレパシーインカムで巌流に話した直後。


「やりやがったなこの野郎!!」


先程怒号が発生した地点で、再び怒鳴り声が響く。


サムとテリーが目を向けると、数人のアンドロイドと男たちが、もみ合いの暴力沙汰に発展していた。


「何しやがるこの!!」


「先に手ぇ出したのはてめぇだろうが!!」


次第に、小さかった怒号と恨み言は、聴衆に伝播し、だんだんと規模は拡大していく。サムの危惧していた暴動への発展は、もはや秒読みだった。


「まずいぞこのままじゃ……!」


「テリー、止めに入るよ!ビルと巌流はダー・ラッタ氏の退避を!」


「了か……あ!ダメだ行っちゃ!!」


突然、インカムからビルの叫び声が流れる。サムたちが気をとられていると



「皆さん、おやめなさい!!」



突然、怒号を打ち消すほどの大声が辺りを包む。会場全体の声が一斉に止み、皆の視線が声の方向へ向く。


そこに立っていたのは、ダー・ラッタだった。


「(咳払い)……失礼、大声を出してしまいましたね。いったいどうされたのですか?」


「あ、こ、こいつが急に肘打ちしてきたんです!!」


そう言って男は、一人のアンドロイドを指さす。


「違います!たまたまよろけてぶつかっただけで……」


「ふざけんじゃねぇ!!わざとだろ!そうに決まってる!!」


「違うっつってんだろうが!!もともと足が悪いんだ!それでよろけただけだ!!」


「どうだかな!どうせ、この前の暴動にも参加したんだろ!!」


「なんだとこの野郎!!」


二人が拳を振り上げる。その行為に周りの人々も同調し、再燃しようとした瞬間。


「いけません」


振り上げられた二人の手に、ダー・ラッタはそっと手を添える。

あっけにとられた男たちは、動きを止める。そのタイミングを見計らい、ダー・ラッタは静かに話し出した。


「ぶつかられたとおっしゃるあなた。人はだれしもつまづいてしまうものです。それは人生の起伏の話だけではなく、肉体にも言えたこと。あなただって、足をとられ、何かにぶつかってしまう。そんなことはあるでしょう?」


「え、えぇまぁ……」


「大切なのは、そんな足を躓けた誰かに寄り添い、支えになることです。物理的にも、精神的にも。話を聞くというのも、一つの支えです。あなたはどうでしたか?」


「……して…ませんでした……」


「よろしい。では次に、ぶつかってしまったあなた。確かに、他意のない偶発的なものかもしれません。しかし、自身の意思が及ばずとも、誰かを傷つけてしまうことは、長い年付きの中で誰にしもあることです。ただ、大事なのは謝ること。その気持ちを、あなたは今、お持ちでしたか?」


「い、いえ……たまたまだからと、気にしていませんでした……」


「よろしい。では、次にどうすればいいかは、わかりますね?」


「……はい」


小さくつぶやいたアンドロイドは、男に向き直ると、頭を下げる。


「ぶつかってしまい、申し訳ない」


「いや、俺のほうこそ……あんたの話を聞かないで、ひどい言いがかりを……」


二人の謝罪をきっかけに、周囲に広がっていたいびつな熱は、次第に収まりを見せていく。その光景を見て、ダー・ラッタは再び演説を始めた。


「皆さん。彼らの行いは、先のゼノンによる暴動で高まった不安からくるものです。”人に虐げられる不安”、この気持ちが根底にあります。なので、両者の言い分も私はよくわかる。だからこそ大切なのは、その不安を乗り越え、分かり合うことです。この二人も、互いの胸中を知り、ともに謝罪をすることができました」


ダー・ラッタは、二人の手をやさしく握り、手をつなぎ合わせる。


「皆さん。手を取り合いましょう。人間もアンドロイドも、互いに手を取り、喜びも、不安も、うれしいことも悲しいことも分かち合い、思いやり、真の隣人となりましょう。平和への第一歩は、そこから始まるのですから」


ダー・ラッタの演説が終わった直後、小さな拍手が起こる。その音はだんだんと広がり、やがて割れんばかりの拍手と歓声が会場全体を包んだ。



この時、手を握られている二人は、春初めの涼やかな冷たさが宿る鉄の手のひらの奥に、確かな温かみを感じていたーー






「まさか喧嘩を自分で止めるたぁなぁ……ヒヤヒヤしたぜ……」


「僕らが監視してはいたものの、暗殺未遂の翌日にあんな大胆な行動できるなんてね。さすが僧侶というべき?」


「そう言うな颯。あの方なりの”平和への行動”だ。仮に俺たちが介入しても、ただ引き離すことしかできない。平和的な解決にはならなかったはずだ」


ベッドに寝転がりながら茶化す颯に、巌流はくぎを刺す。


と、サムのハンドパッドに、オリバーから連絡が入ってきた。


「やぁオリバー遅くまでごめんよ」


「イエイエ、コチラコソ夜分ニスミマセン」


「いいんだ。それで、何かあったのかい?」


「現状、直接ノ関係ハアリマセンガ、ミナサンニ知ッテホシイコトガアリマシテ。コレヲ見テクダサイ」


そう言うと、オリバーの目が画面右下に小さく収まり、代わりにいくつかのニュース記事がパッドに映し出された。


「これは?」


「ココ数週間デ発生シテイル、”連続殺人事件”ノヨウデス。ドウヤラ今日モアッタヨウデシテ。詳細ハコノ動画ヲ」


その言葉とともに送られてきた動画は、ベルトリア国営放送のニュース番組だった。




「続いて、またも事件です。昨日未明、ブルケート郊外の路地裏で、欠損した男性の遺体が発見されました。警察によりますと、遺体で見つかったのは、会社員「ラネード・リンキンス」氏であるとのことです。捜査関係者によりますと、リンキンス氏の遺体は、”頭部以外”が行方不明となっているほか、現場に多量の血痕と”被害者の皮膚組織”が飛び散っており、直近で頻発している連続殺人事件の犯行と手口が同様であることから、ブルケート警察は、同一犯の犯行であると見て、捜査を進めています」




「連続殺人……」


ニュースを見、オリバーの話を着たサムの眉間に、深いしわが寄る。


「妙だな……そんな大事件、ジャスティスマンがすぐに捜査に乗り出すはずだ。彼の情報は?」


「ソレガ……ココ直近デノ目撃情報ガ、カナリ少ナインデス。半分近ク減ッテマス」


「半分?ほとんど見られてないじゃないか」


「ソレニ、目撃場所ガブルケートノミナンデス。以前デアレバ、郊外デノ目撃モ多カッタハズナノデスガ……」


「活動規模の大幅縮小……何かわけがあるのか?ヒーロー活動疲れちまったとか?」


「そんなはずない!!」


ビルの軽口に、半ば起こったテリーが勢いよく反論する。


「彼は昔のインタビューで言った!!『いつか死ぬその時まで、私は平和の守護者であり続ける。休むことはない』って!!そんな彼が活動を縮小するなら、何か深い理由があるはず!!きっとなにか……重い病気にかかったとか……」


「あら、そんな風には見えなかったけど」


泣きそうな声で語るテリーの主張を、エリザベスはあっさりと切り捨てる。


「今日会ってみたけど、呼吸も安定してるし、変な汗もかいていなかった。あの動き方、内傷外傷ともに負っていなかったように見えたわ」


「だとしたら、なおのこと疑問だな。いったい彼に何が……?」


巌流の問いを聞き、皆が考えこむ。




コンコン



部屋のドアが叩かれた。


「はい」


サムが立ち上がり、玄関のドアを開ける。


そこに立っていたのは、ダー・ラッタだった。


「こんばんは」


「大僧正!いかがされましたか?」


「いえ、本日のお礼をと思いましてね」


サムに促され、ダー・ラッタはゆっくりと入室する。


「皆さん、本日はありがとうございました。おかげで様々な方々に、私の声を届けることができました。感謝しています」


「いえいえ。ダー・ラッタ様こそありがとうございました。本来我々が止めるべき喧嘩をお止めになってくださって……申し訳ない……」


「いいのですよサム。私は、世界の人々を”つなぐ”ために生を受けたと思っています。そのために動くことは、私の責務なのですよ」


「そうは言いますがね、大僧正。今後あのような無茶は勘弁してくださいよ?何者かに命を狙われている身だ。喧騒に見せかけた暗殺だってある」


「はっはっは。心得ておきますよ」


失礼な物言いで巌流にゲンコツされるビルの言葉に、ダー・ラッタは笑いながらうなずいた。


「さて、夜分遅くに失礼しましたね。明日の演説は一度だけ、ベルトリア最後の演説ですが、どうかよろしくお願いします」


そう言って、ダー・ラッタは振り返り、ドアへと向かう。



「待って」



と、そんなダー・ラッタを、アナが呼び止める。


「?どうされましたかな?アナ」


「ダー・ラッタ……さん。聞きたいことがあって」


「私に答えられることであればなんでも」


「……ダー・ラッタさんは……正義……って、なんだと思う?」


「……難しい問いですね」


少し言いよどみながら、アナは尋ねる。その問いに、ダー・ラッタは少し考えこんだ後、ゆっくりと口を開いた。


「”手を差し伸べる勇気”……でしょうか」


「手を……?」


「手を差し伸べるということは、平和な道を切り開く第一歩です。しかし、どの”手”を正義とするかは、難しいですね。ゼノンは、虐げられてきたアンドロイドたちを助けるために、”武力”という手を差し伸べた。私は、すべての種族の共存のため、”対話”という手を差し伸べる。この違いがわかりますか?」


「……ほかの人に迷惑をかける……こと?」


「そうです。しかし、どちらもある側から見れば、間違っているものではない。つまるところ、正義のあり方は”人によって変わる”ということです。手を差し伸べるのも、差し伸べられた手を取るのも、個人の意思によるもの。何が正義で何が悪か。それは、個人の境遇と価値観で変わってしまうものです。だからこそ、『これが正義だ』と断言することはできないのです。ゆえに難しい」


話しながら、ダー・ラッタはかがみこみ、アナの頭をやさしくなでる。


「いいですかアナ。迷っているのなら、自分が正しいと思うことをしなさい。それが誰かにとって、”手を差し伸べる”ことになるのですから」


彼から優しく微笑むような雰囲気を感じたアナは、少し照れたように顔をうつむける。そんなアナの肩をダー・ラッタはポンとたたくと同時に立ち上がり、皆に軽く礼をして部屋を去っていった。


部屋のドアが閉まると同時に、皆の視線はアナに向かう。


「アナ……やはりあの一件で……」


「……だんだんわからなくなってきたの……正義って何なのか……私の信念は正義なのか……それがわかればと思って……」


巌流の問いに、アナはうつむきながら答える。その小さい背中に、皆はかける言葉を見つけられないでいた。











翌日 早朝


「ん……」


朝日が昇り始めて間もない時間、ふいにアナは目を覚ます。


周りを見回すと、皆はまだ寝ているようで、ベッドにはふくらみができている。


しかし、巌流のベッドはなぜか空だった。


(あれ……?巌流、どこに行ったんだろ……)


アナがぼんやりと考えていると



ガギンッ



突然、外から金属音が響く。


「!!敵!?」


音を聞いたアナは、矢も楯もたまらず窓を開け、外に飛び出した。


五階の部屋に宿泊していたのもあり、地面までは少し距離がある。その距離を一気に縮めるように、アナは垂直に落下する。


あわや、頭が地面と激突しそうになったその時。



ビュン!!



アナの腰からラプターが二機飛び出し、アナの足と合体する。アナはそれらをサーフボードのように乗りこなし、瞬時に体勢を立て直すと、音のなった方向へ向かった。


(さっきの音……刃物がぶつかるような音……もしかして巌流が誰かと……!)


はやる気持ちを抑え、アナは全速力で進む。



と、ある路地裏に差し掛かったその時。



ガギィン!!



先程の何倍も大きい音が、アナの耳に入る。


(!!ここ!!)


アナは急停止して方向転換すると、すぐに中に飛び込んでいく。


迷路のような裏路地を、アナは右に曲がり、左に曲がり。その道中でも、金属音は断続的に響いていた。


そして、八回目の角を右に曲がったとき。


「ぐ……!」


「どうしたぁ侍。常世の刀さばきはこんなもんかぁ?」


所々に切り傷を負った巌流が、刀を抜き、誰かと戦っていた。



そんな二人の眼前。巌流が相対するその”誰か”。



クワガタムシのような大あごに、触覚を携えたアリのような頭。ぎょろぎょろと動く鮮血のように赤い目には、トンボのように複眼がびっしりと敷き詰められている。


2mを超すであろう巨体には、鋼鉄のような光沢を見せる外骨格から突き出すように、いたるところにトゲが生えていた。背中にはヤンマのような羽が四つ生えており、尾にはサソリのような尻尾が生えているうえ、足はバッタのようにたくましく、ノミのように「く」の字に曲がっている。


そして、巌流に向けている腕。そのゴツゴツとした膝まで伸びる腕には、刀のように光る鎌が生えていた。


紛れもない「虫」の超人。先日、路地裏でラネードを殺害した男だった。



「!!巌流!!」


そんな男と巌流を見たアナは、思わず叫ぶ。その声に、二人が反応しないはずもない。


「!!アナ!!来ちゃだめだ!!」


「ん?なんだお仲間か?随分と小せぇな。まだガキか」


不気味なほどじっとりとしたオーラをまといながら、眼前の巌流を飛び越え、男の視線はアナに向く。その視線にひるむことなく、アナはラプターを展開し、男に勧告する。


「あなた!!今すぐ彼から離れて!!でないと撃つ!!」


「あん?あぁ……”こいつから離れりゃ”いいんだな?」


そう言った直後



ヒュンッ



疾風のごとき速度で、男はアナの背後に回る。その速度は、アレスを取り込んだゼノンよりもはるかに素早かった。


「!!速……」


「獲物変更。まずはお前からだ」


地を這うようなおどろおどろしい声で言い放つと同時に、男は腕を振り上げる。腕から生える鎌と同じぐらい鋭い五本の爪が、アナめがけて振り下ろされた。



ガギィイン!!



と、金属音と共に、男の目の前からアナが消える。代わりに立っていたのは、自身の腕を刀で受け止める巌流の姿だった。


「あん……?いつの間に変わった?そういう”能力”か?」


「貴様の攻撃をかわすことなぞ、能力を使わずともできる!そうだろう!」


巌流が、首を少し傾け後ろに声をかける。


そこにいたのは、アナを抱えたテリーだった。


「テリー!?なんでここに!?」


腕の中で抱きかかえられているアナは、驚きのあまり声をあげる。


「外からの音で目が覚めて、目を開けたらアナが窓から飛び出して行っちゃうんだもん……心配で、においをたどって追いかけてきたんだ。みんなも起こしたから、じきにここに来るよ!」


「それは心強い!」


テリーの言葉を聞いた巌流は、男の腕をはじき、後ろに飛びのいて体制を立て直す。


「さぁ観念しろ!逃げ場はないぞ!!」


巌流の言葉を聞き、男は背後をちらりと見る。そこには、行く手を阻むようにアナのラプターが浮遊し、銃口を男に向けていた。


「……ちっ。めんどくせぇ」


途端に、男は鎌を腕の中にひっこめ、ガリガリと首をかく。


「今日はもうやめだ。興が覚めちまったぜ」


「逃げられるとでも?」


「あぁ思うね」


「何なら試してみるか!!」


三人が一斉にとびかかったその直後。


男が地面に液体を吐き出した。



ジュゴァアア



途端に、地面から溶解音と共に、白い煙が立ち込める。


「!?」


「なんだ!?」


「ゲホッゴホッ!!な、なにこれ!?すごい臭い!!」


三人が動きを止め混乱していると、頭上から声が響く。


「あばよ!二度と会わねぇことを祈ってるぜ!!」


声に反応したアナが、ラプターのビームを使ってすぐに煙を晴らす。


しかし、声の主である男の姿は、煙に溶けるように消えていた。


去り際の不気味な笑い声を残して。


to be continued

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