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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第三章 平和の守護者
40/47

いざ、ベルトリア

午前十時半。


アナたちは最低限の戦闘準備を整えつつバトルホークでベルトリアへと向かっていた。




今回の作戦メンバーは、アナ、サム、ビル、巌流、颯、エリザベス、テリー、オリバーの八人となった。


エリザベスは、アナに体調変化があった際の医療を目的に。オリバーは、監視カメラやセンサーなど、公共機関のシステムを利用した監視のため。颯は周囲の索敵のために動員された。




他のメンバーはというと




「じゃんけんポン!!あいこでしょ!!」


派遣される国がベルトリアであるという理由で、他の面々はバカンス気分。そのため、じゃんけんで勝利したビル、テリー、颯、巌流が来ることとなったのだ。


「いやー、久々に勝ったじゃんけんが、まさかベルトリア派遣とは……ようやく”ツキ”が回ってきたかねぇ」


ビルは椅子に深く腰掛け、自身の手を見つめながらひらひらと宙で踊らせる。その光景を見て、颯は糸が格納されている持ち前のグローブをいじりつつ、ビルに笑いながら話しかけた。


「ビルじゃんけん弱いもんねぇ。勝ったの久々じゃない?」


「最後に勝ったのはたしか……テロリストの本拠地潜入作戦で先陣を切るやつを決めるときだったか?」


「その前は超獣の巣に入るのをだれにするか決めたとき」


「その前はキッドマンの特別訓練を受ける奴がだれか決めたときだったな」


「……思い返してみたら、俺が勝つときって、勝ちたくないときばっかりだな……」


颯と巌流の記憶を聞き、ビルの顔色は徐々に沈んでいく。


「だ、大丈夫よ!今回はなんてったってベルトリアよ?そんな滅多なことないわ!」


落ち込むビルを励ますように、エリザベスは明るい声色で声をかける。


そんなみんなの話を聞き、アナは近くにいたサムの肩を叩く。


「ねぇサム」


「ん?なんだいアナ?」


「なんでベルトリアに行くことがそんなにラッキーなの?それに、さっき言ってた『ジャスティスマン』ってだれ?」


「あ、そうか。アナは彼のこと知らないんだったね」


そんな二人の会話を聞いたテリーが、大きなカバンに服を詰めつつ、話し始めた。


「ジャスティスマンって言うのはね。今から行く国、ベルトリアで活躍する有名な自警活動人(ヴィジランテ)さ。見返りを求めることなく困った人を助け、どんな悪人にも更生の機会を与える……まさに”正義のヒーロー”なんだ!!政府も警察も、活動を認めてはいないけどね……」


「ヒー……ロー?漫画とかアニメに出てくる?」


「そうそう!僕が子供のころから活動しててね、大ファンなんだ!!」


そういってテリーは、一つのフィギュアをアナに見せる。そんな彼の目は、少年のように輝いていた。


「これ見てよ!当時発売してたジャスティスマンのおもちゃ!子供のころ、あまり遊べなかった僕にとって、いつも支えになってくれた!僕の宝物なんだ!」


「おもちゃがあるの?政府も警察も認めていないのに?」


そんなアナの疑問に、今度は巌流が答える。


「国が認めずとも、民衆は彼を認め、受け入れている。ベルトリアで彼を知らない人間はいない。それほどまでに、彼は愛され、そして頼られているのさ」


「おまけに、彼のおかげでベルトリアの犯罪件数は目に見えて減少した。強盗も殺人も、自転車泥棒でさえ、ここ五年は一件も発生していない。おかげで、僕らにとってベルトリア派遣は、休暇と同じなんだよね」


颯が合いの手を入れた直後、小さなかばんを持ったビルがアナたちに近づくと、得意の軽口をたたき始める。


「それにしたってよぉテリー。お前、25にもなってまだそんなの持ってんのかよ?」


「い、いいじゃん!僕の宝物なんだから!今回の任務で彼に合うことができたら、これにサインしてもらうんだぁ~」


「おいおい、サッカー選手じゃねぇんだぜ?それに、あいつだってベルトリア中駆け回ってて忙しい。そんな簡単に会えねぇだろ?」


「い、行ってみないとわからないじゃんか~!!」


そんな二人のやり取りに皆が笑っていると、バトルホークが止まり、オリバーのアナウンスの元、着陸態勢に入る。


一分と経たぬうちに地面にたどり着いたバトルホークのハッチが開き、青々とした草原が広がる小高い丘と晴天の青空が、皆の視界に嫌でも映り込む。

そして、緩やかな丘を下った先には、様々な形の高層ビルが立ち並び、活気あふれる大きな町、ベルトリアの首都「ブルケート」が広がっていた。


「いよっしゃあ!ついたぁ!!」


早速ビルが、荷物をほっぽりだして草原へとかけていく。


「すごーい!とってもきれい!!」


「空気がおいしい!ここ最高だね!」


その後を追うように、アナとテリーも目を輝かせながらバトルホークから駆け下りていく。あまりの興奮からか、テリーは本物の狼のように四足歩行になってしまっていた。


「まったくもう……けがするから、はしゃぎすぎちゃダメよ!」


エリザベスの掛け声に反応することなく、三人は楽しそうに草原を駆け回る。


「まったくもう……いつまでも子供ね」


「しょうがないさ。ここ三週間は、アイアンエデンの事件やら特訓やらで大忙しだったんだし。名目上任務とはいえ、たまの休暇。ため込んでたものが一気に爆発したんだろうね」


はしゃぐ二人に呆れ声を出すエリザベスに、サムはバッグ片手に声をかける。そんなサムをしり目に、颯と巌流は自身の荷物を持ち、外に歩みだす。


「確かに空気がうまいな」


「風もさわやか。潮風もいいけど、山の空気っていうのもいいね~」


そんな自然の空気に思いをはせる二人の後ろから、ズルズルと物を引きずる音が聞こえてきた。四人が振り返ると、ほっぽりだされたテリー、ビル、アナの荷物をだそうと、オリバーがドローンに備え付けられた小さなロボットアームで、必死に引きずっていた。


「モウ……アノ三人、ナニヲ入レタラコンナニ重クナルンデスカ……」


「かなり重そうだね、オリバー。手伝おうか?」


「イエイエ。ナンノコレシキ……」


オリバーは笑顔の顔を、ディスプレイに投影する。サムたちは心配そうに見ながらも、、彼に荷物を任せることにした。


しかし、エリザベスはそうはいかなかった。


「あっ!!もう……ちょっと三人とも!!自分の荷物くらい運びなさい!」


ついに、見かねたエリザベスの雷が落ちる。その声を聴いてさすがに落ち着いたのか、三人ははしゃぐのをやめ、オリバーにお礼を言い、彼が運んでいる荷物を受け取る。


その光景を見計らい、サムが皆を集めた。


「さて……はしゃぐ気持ちもわかるけど、一応任務だ。しっかりと気を引き締めてほしい。良いね?」


「はい……」


「うん……」


「おう……」


「よろしい。じゃ、今後の予定の説明だ。まず、ブルケート入り口付近で、今回の護衛対象、デカルサ・ダー・ラッタ大僧正の一行と、ベルトリア外務大臣と落ち合う手はずになっている。その後は、一行と行動を共にする。宿泊所や飲食も同様だ。颯。合流次第、周囲の警戒に当たってほしい。逐一連絡を頼む」


「はいはーい」


「オリバー。ベルトリア政府から正式に、公共監視設備へのアクセス許可がおりた。外務長官が専用の端末を渡してくれるから、それにアクセスして、ダー・ラッタ大僧正の周囲5キロメートルを常時監視してくれ」


「ワカリマシタ」


「テリー。もし異臭や異音を察知したら、すぐに知らせてほしい。爆発物や毒物が投げ込まれるかもしれないからね」


「わかった」


「よし、僕も含めて、あとの皆はダー・ラッタ大僧正の護衛だ。未遂とはいえ、暗殺事件が起きてすぐ。きっと心理的な負担もかなりのはずだ。そこら辺のケアも、しっかりとやれるようにしよう」


「「了解」」


「よし!では出発!」


こうして、草の匂いが香るさわやかな風を背に、SIU一行は、首都ブルケートへと歩き出したのだった。






十数分後



「ついたー……」


疲れきった声を上げ、ビルはその場に座り込む。


出発してから休むことなく歩き続けた一行は、ようやくブルケート入口へと到着する。しかし、道中のなだらかながら大量にあった坂によって、皆の体には、程よさを少し超えた疲れがたまりつつあった。


「しっかりしろビル……アンドロイドがいの一番に疲れるなんて、もってのほかだぞ」


「おいよせ巌流……ここで説教すんのは……気までめいっちまうよ……」


「少し体力おちたんじゃない?普段訓練さぼり気味だから」


「颯の言う通り。私のほうがちゃんとやってるよ?」


「おいおいアナまで……手厳しいぜ」


その言葉に、皆が笑い声をあげる。


「しかし……当然のことだが、最高レベルの警備態勢だな……」


話ながらビルが見つめる先には、ブルケートと外を結ぶ国道に設置された、大掛かりなゲートと検問施設があった。

ゲートの手前では複数人の武装した警官が、車を一台一台止め、探知犬を動員しながら手荷物検査を行っている。


「暗殺未遂デスカラ、コレグライノ警備体制ニモナリマスヨネ……」


「しかも、ヴァルダーナ寺院のトップなんだし、国賓と言っても過言じゃないわ。これでもまだぬるいほうかもしれないわね?」


「おや、その評価はなかなか手厳しいですな」


皆が話していると、検問所の中から、金髪で細身のスーツを着た中年男性が、声をかけてきた。


「これでも、我が国最高峰の検問体制を実施しているのですよ。ブルケートにつながる主要道路全てで休まず……ね」


「?あなたは?」


アナの疑問に、男は一度身だしなみを整えると、丁寧に答えた。


「あぁ失礼、申し遅れましたな。私、ベルトリア外務大臣の『レイモンド・ベッケンス』と申します。皆さんは、今回ダー・ラッタ氏の護衛を行われる、WDOのエージェントですね?」


「はい。特別護衛部隊隊長の、サム・フランシスと申します。このアンドロイドはビル、狼の超人はテリー。甲冑を着た彼は本宮巌流。軽装の彼は月影颯。ドローンの彼はオリバー。この子はアナです。今回はこのメンバーで警護に当たりますので、よろしくお願いします」


レイモンドの自己紹介を受け、サムは一歩前に出、皆を代表し握手を交わす。その直後、レイモンドの顔に疲労の色が一気に出てきた。


「随分とお疲れのようですね、レイモンドさん」


「あぁ、顔に出ていましたか。失礼しました……ダー・ラッタ氏の暗殺未遂があってからというもの、国内外での警察や軍の質を問う風当たりが強くなりましてね……そんな折、WDOの皆さんに手伝っていただけるとは、こちらとしてもありがたい限りです」


「これが我々の仕事ですから」


サムの笑顔につられ、レイモンドの顔にも笑顔が浮かぶ。しかし、すぐにまじめな顔に戻り、咳ばらいを一つすると、手帳を片手に話し始めた。


「では、あいさつも済んだところで、今後の予定ですが……この後すぐ、ダー・ラッタ氏がこちらに参られますので、その後はダー・ラッタ氏と行動を共にしていただきます。私も同行しますので、よろしくお願いします」


「大臣も同行を?」


「今回のベルトリア行脚の責任者ですので……ご迷惑はおかけしませんので」


「わかりました。ではその想定で動きます」


「ありがとうございます。……っと。どうやらご到着のようですね」


一言お礼を述べたレイモンドが、一行の背後を見てスーツの襟を正す。皆が視線を追って振り返ると、黒いリムジン型の専用車と、それを守るように数台の警護車両が現れた。

車列は一行の少し前で停止すると、中から黒いスーツを着たSPが十数人顔を出し、専用車のドアを開ける。


すると、チベット仏教の僧侶のような服装の、白いアンドロイドがゆっくりと姿を現した。ビルやゼノンとは違い、顔には目のようなくぼみと、口の部分に大きな突起があるだけの、簡素な作りだった。

その姿を見るや否や、レイモンドは一歩前に出ると、笑顔で話しかける。


「お待ちしておりました、ダー・ラッタ大僧正」


「ミスターレイモンド。ここまでご足労いただき、ありがとうございます」


「何をおっしゃいます。大僧正こそ、あのようなことがあってさぞ大変でしたでしょう」


「えぇ……私のせいで誰かが傷ついてしまったのではないかと思うと……心痛は絶えません」


「けが人はいませんでした。不幸中の幸いと言ったところですかね……」


「それならばよかった。して、この方たちが、私の護衛をしてくださる方々ですかな?」


ひとしきりレイモンドと話した後、ダー・ラッタはアナたちに目を向ける。それに気づいたサムが、彼に近寄り話し始めた。


「お久しぶりです。ダー・ラッタ大僧正」


「おや、その声……サムではありませんか!」


嬉々とした声で、ダー・ラッタはサムと固く握手を交わす。


「随分と久しぶりだ。お父上は息災ですかな?」


「えぇ、おかげさまで」


「そうですか。今このご時世、大事になってくるのはよりどころです。どうぞよろしくとお伝えください」


「お気遣い感謝します」


和気あいあいと話す二人を見て、他のメンバーたちは顔を見合わせる。


「なぁ……なんであの二人あんなに仲いいんだ?」


「さぁねぇ……家族ぐるみの中なのかしら?」


「チベット仏教の最高位の人と?いったいどんな家族なのさ……」


エリザベスとビル、颯が不思議そうに話していると、巌流が何かを思い出し、会話に混じる。


「そういえば、だれもサムの家族事情を知らないな」


「そうなの?」


「あぁ。アナが入る前から、奴は身の上話をあまり話したがらない。何か事情があるのだろうと突っ込んでいないが……なにか理由がありそうだな」


「ふぅん……」


巌流の言葉を聞き、アナは笑顔で話すサムの顔を見る。


(サムの家族……きっと良い人なんだろうな)


と、アナが考えていると、ふいにダー・ラッタと目が合った。


「おや?その子は?」


「あぁ。彼女は新メンバーです。アイアンエデンの事件を解決に導いたのも、彼女なんですよ」


「それはそれは……」


サムの言葉を聞いたダー・ラッタは、ゆっくりとアナに歩み寄る。


「お嬢さん、名前は?」


「アナ」


「アナ。良い名前だ……年齢は?」


「わかんない」


「彼女、記憶がないんです。アナというのも、私がつけた名前で……」


すかさず、サムがダー・ラッタに耳打ちし、修正を行う。


「そうでしたか……アナ。この度の事件、本当にお疲れさまでした。お若いながら、大変だったでしょう」


「……うん、ありがとう。……あ」


と、ふとアナがあることを思い出し、ダー・ラッタに問いた。


「ねぇ、ダー・ラッタさん」


「なんです?」


「ダー・ラッタさんは、ゼノンのこと知ってる?」


その言葉を聞き、途端にダー・ラッタの動きが止まる。


「……なぜ?」


「彼が言ってたの。『自分を知ってるものがいたら、伝えてくれ』って」


「……彼はなんと?」


「『私は戦った。あとは君たち次第だ』……って」


「……そうですか……」


と、ダー・ラッタの目のようなくぼみから、一縷の涙が流れる。


「!?ど、どうしたの?」


「失礼……彼とは、古い知り合いでして。機械大戦からのね」


「え!?」


「当時は私もアンドロイド軍として、銃を握っていました。しかし、アンドロイド軍のやり方に疑念を感じて、仲間たちと共にパリーナで離反し、仏教の教えと出会いました。その後、戦争終結から数年後に彼と出会いましてね。平和の道を模索するために、何度話し合ったことか……」


話ながら、ダー・ラッタは手で涙をぬぐう。


「彼は、やり方を間違えてしまった。だからこそ、共である私が、彼の思いを消さず、歩いていかなければならない。今回の行脚を決めたのも、それが理由です」


「そうだったの……」


皆の間に、静寂と物悲しい空気が流れる。


そんな空気を換えるように、ダー・ラッタは明るい声色で話し始めた。


「さて!そのためにも、行脚の足を止めるわけにはいかない。さっそく向かいましょうか」


「え、ええ。では皆さん、大僧正と同じ車に乗ってください。之より出発します」


「「了解」」


レイモンドの案内に促され、一行が乗車すると同時に、車列は再び発信する。


こうして、二泊三日のベルトリアの任務が幕を開けたのだった。
















そんなころ



ベルトリア どこかの路地裏


「う~くそっ……飲みすぎた……」


一人の男が、酒瓶を片手にふらふらと路地裏に入り込む。そして、入り込んで早々、道端に嘔吐してしまった。


「うぇ……クソったれがぁ!!」


怒りの声を上げながら、男は近場においてあったごみ箱を蹴り飛ばす。


「俺のことリストラしやがってあのクソ会社……絶対復讐してやる……」


悪態をつきながら、男は路地裏を進んでいく。

高層ビル同士の間ということもあり、大通りから離れるたび、光はどんどんと遠ざかっていく。男を包む光は、次第にか細く、弱くなっていった。その光の後を見て、男は社会からの疎外感を感じる。

言い表しようのない孤独感に、いつの間にか男の足は止まっていた。


「俺も……こうやって見捨てられていくのかな……」




と、突然男の背中を照らしていた光が消える。




「ん……?」


異変を感じた男が振り返ると、身長三メートルほどの大柄な人物が、音もなくそこにたたずんでいた。蛹のように自身の身を包みながら。


「な、なんだお前!俺になんか用かぁ!!」


精一杯見えを張って張り上げた男の罵声に大柄の人物はピクリと反応し、ゆっくりと頭をこちらに向ける。

その頭には虫のような触覚が生え、黒く光る顔にはアリの顎のような牙がついていた。



その瞬間、男の顔色が、一気に青ざめる。



「あ……あんた……まさか……」



恐怖のあまりその場にへたり込む男に、虫の超人はゆっくりと歩み寄る。



「指名手配犯の……!な、なんでこんなところに!」



男は地面にへたり込みながらも、ずるずると後ろに逃げていく。




しかし、すぐに突き当りに来てしまった。




絶望した表情で背中の壁を見つめる男に、超人はゆっくりと歩み寄ると、男に話しかけた。



「うまそうだな」


「へ……?」


「お前、うまそうだ。恐怖と悲しみのにおいがする。そういう奴ぁ、うまいんだ」



超人は、一歩一歩近づいてくる。



「か、金ならある!頼む見逃してくれ!妻と二歳になる娘がいるんだ!!」


「恐怖でこわばって肉が固くなって、それが”うまみ”を閉じ込める。そのうまみが、殺した後の弛緩で一気に全身に回るんだ。エンドルフィンも回って刺激も増す。俺様好みの肉だ」



超人は歩みを止めない。



「頼むぅうううう……見逃して、見逃してくれぇええええ」



あまりの恐怖に、男は泣き出してしまった。


と、超人がその場にかがみ、男の涙を指で拭う。


その手は、ごつごつとしたトゲと甲羅のような外骨格に覆われていた。


「おいおい泣くなよ。そんなに泣かれたら……」


と、超人の高角が弧を描く。



「うまみが逃げちまうじゃねぇか」



この瞬間、男は悟った。



”言葉は通じても、話は通じないのだ”と。



超人が腕を振り上げる。その腕に付いている鎌のように鋭い刃が、路地を照らすか細い光に照らされていた。



「安心しろ。頭は残しといてやる。奥さんと娘っ子に会えるぜ」



男の叫び声は、路地の奥の闇に消えていった。



to be continued

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