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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
37/47

誓われた決意と残る謎

ゼノンが停止してからしばらくして




ーーSIUメンバーは、アイアンエデン幹部「ギガス」、同じくアイアンエデン幹部「カナロア」他、基地に残っていた十数体のバックラー達を逮捕。その後に到着した救援部隊によって、彼らの身柄は拘束され、世界政府直営の特殊収容施設『パンドラ』へ移送された。


ゼノンの遺体も同様に回収され、彼のコアに完全に癒着した超兵器「ロストウェポン・アレス」の研究のため、「ロストウェポン・ヤールングレイプル」、「ロストウェポン・アロン」の残骸と共に、WDO本部へと身を移す運びとなった。


また、アイアンエデンの本拠地はWDO並びに世界政府の特別調査隊によって徹底的に調べられ、特殊移動装置「ロストウェポン・縮地」と、広域信号発信装置「ロストボイス」ほか各設備が回収され、精密調査が行われることとなった。


加えて、世界中で暴動を扇動したアイアンエデン所属のアンドロイドも全員逮捕。幹部らと同様、パンドラへの移送が決定された。また、今回暴動に加わった一般のアンドロイド並びにアイアンエデンの信者たちは、世界政府主導で徹底的な身辺調査を行い、虐待や違法就労などの経歴がある者たちへの刑罰は不問とされた。


さらに、今回の騒動を受け、世界政府は公式声明を発表。独断とはいえ、平和へのメッセージをいち早く伝えたWDOの対応に賛辞を贈るとともに、世界的なアンドロイド待遇に関する調査を行うことを決定した。


そして、世界的に大きな混乱が起こったにもかかわらず、アンドロイド停止後に即座に事態が収束したのは、ひとえに世界の軍隊や、市民の平和的な歩み寄りがあってこそのものとし、市民を代表して、WDOの会見で声を上げた、セキアテックス社製アンドロイド「REX5200(通称レックス)」と、リンバー国境防衛線で、暴徒と化したアンドロイドを一人で止めたという多数の証言の元、ガーデハイト合衆国在住の男性「アラン・テイラー」氏両名に、平和貢献賞を贈呈した。











しかし、この裏で行われていた大規模な捜索の甲斐なく、逃走したアイアンエデン幹部「セイレーン」の行方は、依然として不明のままだったーー










「……以上が、今回の事件に関する報告書です」


ここはWDO本部長官室。電子パットを抱えながら、サムは長官たちに事のあらましを話し終える。


アイアンエデン検挙から一日と少し。帰還したSIUの面々は、前日から受けていた治療と修理を終え、つかの間の休息日をとっていた。

皆が待機室で休む中、サムは今回の事件をまとめ、長官たちに報告を行っていた。


「わかった……本当にご苦労だったな、サム。皆にもねぎらいの言葉を伝えてくれ」


「お心遣い感謝します、源一郎長官。しかし、世界的な事態の早期収束があったのは、皆さんが行った会見のおかげですよ。あの会見の後、コマヌや、『ダー・ラッタ』大僧正様も声明を発表したおかげで、世界的な混乱と戦火の拡大は回避できました。本当に感謝します」


「いえ、我々ではありません。我々の言葉を聞き、世界中の人々が平和のために動いてくれたこと。きっかけは私たちでも、収束に向かわせたのは他でもない、世界の人々ですよ」


「だがもっと面白いことに、その元をたどれば、行きつくのはアナちゃんになるわけだ」


突然話し始めたパーシアスの言葉に、ハンドラーと源一郎は彼に疑問の目を向ける。


「あー…どういうことです?パーシアス」


「事実そうだろう?今回平和貢献賞を授与されたレックスとアラン・テイラー。彼らは、偶然にもアナちゃんとかかわりを持っている。レックスは先の尋問で、アランはアナちゃんを保護し、サムに出会わせた。彼らの行動も、彼女の思想に起因する……そう考えても、不思議はない。だろう?」


「ふむ…確かにその見立てもできますね…」


「サム。結果論ではあるが、やはり彼女を引き取ったことは、間違いではなかったようだね」


「……そういっていただけると嬉しいです」


パーシアスの言葉に、サムは自分のことでは無いながらも、嬉しさからほほが緩む。

そんな彼の顔を見て、源一郎は活を入れるように、低い声色で話し始めた。


「ここで浮かれてはいかんぞサム。先の戦いで、彼女はまた新たな力を見せたと聞く」


「は…おっしゃる通りです」


「その後、彼女の新しい能力は発現したのですか?」


「それが……」


ゼノンが停止してからすぐ後、アナは突然気を失ってしまった。


本部に戻っても意識は戻ることなく、ソドムスカ連邦から帰還したエリザベスがすぐに容体を見るも、特に異常は無し。日々の疲れや、戦いでのストレスがたたった結果だとして、休養をとっていた。


「そのため、現在まで検証は行われていません」


「そうか……うむ、ご苦労だった。今はひとまず休むといい」


「ありがとうございます。では、失礼します」


源一郎のねぎらいの言葉を受け、サムは深々とお辞儀をすると、長官室を後にした。


そんなサムの背中を見送り、源一郎は椅子に深くもたれかかると、「ふぅ」と小さくため息をついた。


「……これでめでたしめでたしと行かないのが、我々の大変なところだ……」


「ですね……今後どれだけの組織が活発化するやら……」


「今回のことで、新たなコネクションがいくつかできた。それをうまく活用していこう」


「あぁ。……しかし、あの子(アナ)に新たな能力が発言するとは……」


「いよいよ素性特定が急がれるね。サムの報告通りなら、感情の変化がトリガーかな?」


「だとしたら余計に危険ですよ。ふとした拍子に我々に敵対するようなことがあれば……考えただけで恐ろしい……」


「それに、まだ未知の能力を保有している可能性もある。源一郎、今後彼女に関することは慎重に決めなければいけないよ」


「わかっているさ、二人とも。だが……今は休ませてやろう。力や素性はどうあれ、彼女はまだ十代の若者(ティーンエイジャー)だ。サムたちを信じ、見守ろうじゃないか……」






同刻 SIU待機室


「ん……」


「!!おい!!アナが目覚めたぞ!!!」


「オォ!!」


「ほんと!?」


アナのそばで寄り添っていたビルが、アナの目覚めに反応し、大声で伝える。その声を聴いた面々は、嬉しさと焦りの入り混じった面持ちで、彼女の元に駆け寄る。


「アナちゃん!!具合悪くない?大丈夫?」


「ほっとしたよ……僕もう心配で心配で……」


「え……っと……私一体……?」


「困惑するのも無理はない」


「色々あったしね」


テリーやエリザベス、ビルたちに囲まれ困惑するアナに、全身に湿布のようなものを張った巌流と、顔に包帯がまかれた颯が近づき、彼女にあらましを話し始める。


「あの戦いが終わった後、アナちゃん、急に意識を失っちゃってね。僕らで運んでエリーに見てもらったけど、特に体に異常は無し。だからそっとしておこうってなったんだけど……まさか一日ずっと眠ってるとはね……」


「私そんなに……?」


と、突然アナがハッとしたように、皆に問いかける。


「!!そうだ!!ゼノン!!彼はどうなったの!?」


その言葉を聞き、途端に部屋全体が静まり返る。そんな中、巌流が一歩出て、アナに事実を告げた。


「……彼は、研究のためWDO本部(ここ)に運ばれたが……処置の甲斐なく、運ばれてすぐに死亡が確認された」


「!!」


「今、更なる研究と、万が一動き出したときのために、身柄は『パンドラ』という監獄に移送された。現状、もう彼に会うことはできないだろう」


「……そっか…」


「アナ……」


明るい空気から一転、部屋は重苦しいお通夜のような雰囲気に変わる。しかし、そんな空気を……いや、自身の気持ちを変えるためなのかもしれない。アナは、明るい声色で皆に話しかけた。


「……でも大丈夫!!彼は、私に夢を託してくれた。その夢をかなえるためにも、私頑張る!!」


アナは、皆に目いっぱいの笑顔を見せる。しかし、その目に浮かぶ大粒の涙までは、隠すことができなかった。


「だから……私……わ……たし」


「アナ」


そんなアナを見て、キッドマンが彼女にそっと近寄ると、膝をかがめて彼女の肩を叩く。


「がんばることは大切だ。だがな、時には泣いたっていいんだぜ」


その言葉を聞いて、アナの中で何かが吹っ切れた。


「キッド……私……うぅ……うぁあああああああああ……!」


キッドマンの胸の中で涙を流す。


その光景を見て、皆の胸にもある決意が固まった。


(もう彼女が泣くことのないような……そんな世界に……)






しばらくして


「乾杯!!」


今回の作戦が無事終了したことを祝し、SIUの面々で祝勝会が行われていた。

豪華なごちそうと様々な種類の酒が並ぶ中、部屋のいたるところで各々がその場を楽しんでいた。


「ほらほらもっと飲めアナ!!今回の一番の功労者なんだからよ!!」


「うん!」


「あんまり変な煽り方すんなよ親父……酔っぱらうとすぐこれだ……」


「アマンダ、介抱は頼んだぞ……」


巌流とアマンダがあきれながら日本酒とワインを煽る中、ボンブの勢いに乗って、アナはグラスのジュースを一気に飲み干す。その姿を見て、レオンハルトとキッドマンの盛り上がりは、一気に最高潮に達した。


「おーいったいった!!やるなぁアナ!!」


「はっはっはっはっは!!やはり肝が据わっておるわ!!我の見立て通り!!」


「こいつぁ、将来俺と並ぶ酒飲みになるのも夢じゃねぇな!!」


「ハハハハハ!!」



ゴン!!



はしゃぐ最年長組に、エリザベスとアマンダのゲンコツが飛ぶ。


「あなたたち!子供に変なこと言うんじゃありません!!」


「親父!!アナのこと急き立てんな!!」


「いでっ!!」


「う……すまぬ……」


「はっは……わりぃわりぃ……」


叱られてしょんぼりとする四人を見て、明るい笑い声が部屋に響く。


「新しい人が入っても、年長組の酒癖は変わんないね……」


「私たちより長く生きてますから。その分、楽しい飲み方というものをご存じなのでしょうね」


少し離れた居間のソファで、テリーとシェリーはグラスを酌み交わす。


「でもうらやましいなぁ、みんなお酒が飲めて」


「試しに飲んでみますか?カクテルですが」


「いやいや大丈夫!僕、狼の超人だから、アルコールが分解できないんだ…」


「あぁなるほど。それはもう点でした」


「でも、みんなで飲めるなら、何でもおいしいよ!」


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃん?」


仲睦まじくしている二人の後ろから、颯が日本酒を片手にゆっくりと顔をのぞかせる。


「颯!うわお酒臭っ!」


「呼気からかなりのアルコールを検知……相当飲みましたね……」


「だぁって楽し~んだもん!いっぱい飲んじゃうに決まってんじゃん!!」


「お!!ここにも俺たちと同じ酔っ払いがいるぞ!!捕まえろ!!」


「コンナトコロニイナイデ、私達ト一緒ニ飲ミマショウヨォ~」


「うわ、見つかった!」


そんな颯を、バーボンをもったビルとオリバーが見つけ追い回す。


明るい空気とまぶしいほどの笑顔が満ちる部屋を見て、アナはにこにこと笑いながらチキンをほおばる。そんな彼女を見て、エリザベスは優しく声をかけた。


「楽しい?アナちゃん」


「うん!とっても楽しい!」


「それならよかったわ!これからもまた忙しくなるでしょうから、たくさん食べて元気にならないとね!」


「ありがとう、エリー!」


ふと、アナの目が真剣なまなざしに変わる。


「ねぇ、エリー」


「ん?なぁに?」


「私、がんばる」


「頑張る?」


「こんなにぎやかで楽しいことが、種族も、人種も、生まれも育ちも年齢も、何も気にしなくてもできるような……そんな平和で楽しい世界にできるように……!」


「アナちゃん……」


そんなアナを見て、エリザベスはシャンパンの入ったグラスを置き、彼女を思いっきり抱きしめる。


「よく言えましたぁ~!!」


「んぅ!エ、エリー…苦しぃ……」


エリザベスのたわわな胸が、アナの顔を覆う。アナの訴えを聞いてもエリザベスは抱きしめるのをやめない。それは、彼女を励ますためでもあったが、自身の涙を彼女に見せないためでもあった。


「一緒に頑張っていきましょ!!」


そんな二人を見て、周りの皆はぞろぞろと集まってくる。


「なんだなんだ?おしくらまんじゅうか?」


「我らも混ぜろ!!ちょうど体を動かしたかったところだ!!」


「そう言うのじゃないですよ、レオンさん……それに散々飲んだ後だ、ぶっ倒れますよ?」


「まぁいいじゃねぇか巌流!俺たち年長組も楽しみてぇってもんだぁなあ!?」


「ミナサン、ホドホドニシテクダサイヨォ?」


「そういうあんたが一番酔っぱらってるじゃないか!オリバー!!」


「「「ハハハハハ!!」」」






皆の笑い声が部屋に響く中。


ベランダでは、サムが一人、神妙な面持ちでウイスキーを飲んでいた。


そんな彼の元に、アレキサンダーがゆっくりと歩み寄る。


「何か考え事か?サム」


「あぁ、アレク。うん……少し気になることがあってね……」


「気になること?」


「あぁ……」


サムは一気にグラスのウイスキーを飲み干すと、月明かりに輝く海を眺めながら話し始めた。


「今回の事件、いくつか疑問が残るんだ」


「ほぉ?」


「一つはロストボイスと縮地の”入手先”。ギガスとカナロアの聴取で、あの二つはゼノンが外部から入手したものだと聞いた。具体的な取引もゼノンが行っていたため、二人ですら素性はわからないようだけどね」


「……考えられるのは、協力者の存在か……同じ思想を持つ者の手引きか、単に世界を壊したいだけの反体制派か」


「後者はあり得ないだろうね。ロストウェポンなんて大それた秘密兵器を、一介の反体制勢力が持っているとは思えない」


「なんにせよ、まだ調査が必要だな。で?まだあるんだろ?」


「あぁ。もう一つは、”ガーデハイトのカルテルに違法売買を焚きつけた奴”だ」


「確かオリバーの話だと、『数年前に大柄のアンドロイドにビジネスを持ちかけられた』…だったか?」


「そう。ただ、それがどうにも引っかかる」


「どうして?勢力拡大のための行為なら納得だろ?」


「今回の戦いでわかったろう?君が戦ったギガスも、もう一人の幹部カナロアも、トップのゼノンも。真にアンドロイドの未来を憂いていた。僕の経験上、そういう奴らは、どんな理由があっても自分たちの主義主張に反することは絶対にしない。バックラー達も、自立志向できるとはいえ、幹部やゼノンの命令なしに独断で動くことはないとギガスから聞いた。そう考えると、不自然じゃないかい?」


「そう考えると、確かに……」


改めて考えを巡らせるアレキサンダーを横目で見つめた後、再びサムは海に向き直り、言葉をつづけた。


「これが最後だ。逃走したセイレーンのことなんだけど……」


「あぁ、ビルが取り逃がしたって嘆いてたな」


「彼女、どこかの工作員なんじゃないだろうか」


「なに!?」


「アイアンエデンに属していた信者以外のアンドロイドたち……その全員が、今回の作戦に命を懸けていたと、逮捕した者たちの証言で出ている。”一体の例外なく”……ね」


「だが、奴は結成直後に加わったやつだろ?アンドロイド軍上がりの奴らとは違う。一般人だ。わが身惜しさに逃げ出すなんてこともあり得るだろう」


「一般人……それにしては妙な点が多すぎる。明らかに戦闘向けの兵器、卓越した身体能力、形勢不利と見ての逃走という、迅速な状況判断能力……軍やどこかの諜報機関の出身なのは確定だと思うんだ」


「仮にそうだとして、なぜ潜入してた?俺たちと同じ目的なら、あの場で協力したはずだ」


「そこがわからないんだ……一体どこの組織が、何のために送り込んだのか……」


二人の間に沈黙が走る。その静寂をかき消すように、サムのグラスの中の氷が音を立てて割れた。


「……ともあれ。今後も調査を進めよう。裏で別の何者かが動いているのは確実だ」


「あぁ。だがな……」


ひとしきり話を終えたのを見て、アレキサンダーはサムの肩に腕を回す。


「今はこのパーティーを楽しめ!!そんな辛気臭い考察と仕事の話はあとだ!!」


アレキサンダーの言葉を聞いて、サムは一瞬きょとんとしながらも、すぐにふきだし笑顔になる。


「ハハッ、確かにそうだね、ごめんごめん!」


「よし!早速戻るぞ~!年長組がまたバカやってるんだ!」


「お、久々にボンブのメカニカルクイズが聞けるかな?」


笑いながら、二人は居間に戻っていく。しかし、サムの胸中に眠る不安と緊張感だけは、どうしてもぬぐえなかった。


to be continued

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