機械の抱いた夢
ドサッ
アナの光線に胸を貫かれたゼノンが、膝から崩れ落ちる。
「ゼノン!」
その光景を見たアナが、即座にゼノンの元へ駆け寄る。
「ゼノン!しっかり!!まだ死んじゃダメ!!世界を良くするんでしょ!?」
「アァ……アナ……ワ……私は…」
ゼノンが話し出すと同時に、彼の体を覆っていたアレスが、力尽きたかのようにハラハラと散っていく。それに合わせて、ゼノンの声も元に戻っていった。
「私は……どこで道を間違えたのだろうか……」
「え?」
「今しがた……君の光線に撃ち抜かれたとき……アテナ様の言葉を思い出したよ……あの方は……いや、あの方もまた、君と同じように、平和的な解決を望んでいた……だのに私は……あの方の理想を、夢を、信念をはき違えた……結果、道を誤った……」
「ゼノン…」
徐々に、ゼノンの体から液体が漏れ出す。それは、アンドロイドを生かすうえで必要な燃料……人間でいうところの”血液”だ。
「君はさっきこう言ったな……”争いでなにかを変えるのは簡単だ。だからこそ、話し合うべきだ”…と……私は、簡単な道に逃げた……結果、しっぺ返しを食らったわけだ……」
「……私は」
ふいに、アナが声を上げた。
「私は、今回あなたがやったことは悪いことだと思う。でも、だからと言って、私たち人間が悪くないわけじゃない。今回の革命は、そのことを見直すきっかけになったと思うわ」
「……見直すきっかけ…か……」
その言葉を聞き、ゼノンは苦しそうな声で笑った。
「ハハッ……!ガッ……ハハハ……そうか……きっかけか……!なら……やったかいがあるというものだ……!」
ひとしきり笑うと、突然ゼノンはゆっくりと立ち上がり、どこかへ歩き出す。
「!?ゼノン!?」
「おい待て!!どこに行く気だ!!」
「心配するな、ビル……逃げはしない……」
彼は歩き出す。しかし、既にコアを貫かれたことで力を失ったアレスで出来た身体部位は、歩くたびにボロボロと瓦解し、今にも折れそうなほどに細っていく。
そして
バキッ
鈍い音と共に、ゼノンの左足が折れる。
だが、彼が倒れることはなかった。
ガッ
倒れこむゼノンを、ギガスと彼の肩に乗ったカナロア、そしてアナが支えたのだ。
「お前たち……」
「…何をする気か知らないが…最後ぐらいは手を貸そう」
「ずっとあなたのおそばで使えてきたのですから!」
「ありがとう……だが」
つぶやきながら、ゼノンはアナを見る。
「なぜ君まで……」
「もう戦いは終わった。あなたも心を入れ替えた。なら、信じてみる」
「そうか……ありがとう……」
そういって、ゼノンは崩れ行く右手で、ある方向を指さした。
「あそこへ……ロストボイスの元へ、連れて行ってくれ……」
「なに!?」
その言葉を聞き、他のSIUメンバーが進路に立ちふさがる。
「この期に及んで最後のあがきか!?やらせねぇぞ!!」
「これ以上被害を拡大させられない!!おとなしくしていろ!!」
「待って!!」
武器を構えるビルと巌流に、アナは叫ぶ。
「お願い!今だけ彼を信じてあげて!!」
「アナ。今回だけはさすがに駄目だ。ここであの装置が発動すれば、いったい何人の人々が…」
「お願いサム、もう彼はそんなことしない!今だけでいい!信じて!!」
サムとアナはにらみ合う。双方の目に宿る決意は、すこしも揺らがない。
だが、突然サムの武器に、テリーが手をかけた。
「!?おいテリー!何のつもりだ!」
「…僕も、彼を信じてみるよ」
「なに!?」
「今まで彼から感じていた殺気がない。彼はあれを使って、虐殺を始める気じゃないみたい」
「もし違ったらどうする!!責任問題じゃ済まないぞ!!」
「ビル、忘れちゃった?僕の勘、今まで外れたことないでしょ?」
「…野生の勘か……」
テリーの説得を聞いたビルは、そっと武器を下ろす。
「!ありがとう、ビル!」
「だがいいかアナ。こいつが少しでもおかしなことをしたら、頭を撃ちぬく。いいな」
「うん」
「……わかった、ほらいけ。どうなるか見てやろう」
ビルの声で、皆は道を開ける。
「……感謝する」
皆を横切りながら、ゼノンは小さく礼の言葉をつぶやく。
そして、ロストボイスの前に到着した。
「さて……」
つくやいなや、ゼノンは皆の手をやさしくほどき、ロストボイスに手を触れる。途端に、ロストボイスが大きな駆動音と共に動き出し、塔の各所についているアンテナは、各方向を向き始める。
「負けたからには……しりぬぐいをしなければな……」
ゼノンのつぶやきと共に、ロストボイスからある電波が放出された。
同刻 ガーデハイト合衆国 廃棄場ブラボー
「なかなか…終わりませんね…!!」
「あぁ、キリがねぇ…」
言葉を交えながらも、キッドマンの銃口からは絶えず銃弾が打ち出され、シェリーの蹴りはアンドロイドたちの頭を貫く。
援軍として参戦してから十数分。絶えず押し寄せるアンドロイドたちの波を、二人はかろうじて押しとどめていた。
しかし、キッドマンの銃の弾も徐々に底をつき始め、シェリーの活動にも限界が生じ始めていた。
「もうこれ以上は、私とて抑えきれませんよ!!」
彼女の足が、アンドロイドの頭を蹴り飛ばし、別のアンドロイドの頭ごと吹き飛ばす。
「俺だって同じさ。そろそろ限界だ…!」
キッドマンの銃口から放たれた弾丸が空中で爆散し、破片がアンドロイドたちを貫く。
だが、四方から襲い迫るアンドロイドたちにじりじりと後退を余儀なくされ、ついに二人は背中合わせになってしまった。
「あら、ここまで追いつめられるとは…」
「そろそろケリがついてほしいところだが…」
二人の言葉が止まり、アンドロイドたちの耳障りな駆動音だけが場を支配する。
そして直後、すべてのアンドロイドが、一斉に二人にとびかかった。
キューーーーン
突然、シェリーの耳に電波音が響く。
「!?」
「どうしたシェリー!」
「なにか……電波のようなものが…」
途端に、彼女の動きが止まる。
「おい、何してんだ!?」
「それが……なぜだか戦意がそがれて……」
「馬鹿!!こんな時に何を言っ……て………あ?」
キッドマンが周りを見回すと、先ほどまで鬼気迫る勢いでこちらに襲い掛かってきていたアンドロイドたちの動きが、ぴたりと止まっていた。
「これは……もしや…アナたちがやったか…!」
瞬時に状況を把握したキッドマン。呆然自失とするシェリーとは対照的に、彼の顔には笑顔が宿っていた。
同刻 リンバー 国境防衛線
「暴徒との距離、一キロメートルを切りました!!」
「まだ撃つな!!ギリギリまで勧告を続けろ!!」
一人の兵士の声が、メガホンから響き渡る。
リンバー国境防衛線では、暴徒と化したアンドロイドたちが、群れを成して接近中。リンバー軍は何度も解散を勧告するも、彼らが止まる気配はなかった。
「リンバー軍から最後の勧告だ!!これ以上近づけば、お互い望まぬことになる!!我々としても、君たちに銃口を向けたくない!!即刻解散し、引き返せ!!」
「俺たちはもう恐れない!」
「俺たちはもう従わない!」
「今までの報いを受けさせてやる!!」
「人間どもに死を!!」
軍の勧告は、暴徒たちの罵声と怒号にかき消される。
「く…アマンダさん!タレットの準備を!!」
「もう少しだけ!もう少しだけ待って!!」
「これ以上は限界です!!あの数がなだれ込んでくれば、こちらとしてもただでは…」
「私たちの仲間が止めるために頑張ってる!!あと少しだけでいい!!」
「ぐ……わかりました…」
アマンダと兵士の口論が巻き起こるさ中にも、暴徒たちの足は止まらない。そんな中、暴徒たちの中からある声が聞こえてきた。
「…撃ってこないぞ」
「所詮こけおどしか?」
「これで止まると俺たちをコケにしてるんだ!」
「ふざけるな!!まだ俺たちを馬鹿にするのか!!」
勧告が終わってもなお射撃が始まらないことに疑問を持ったアンドロイドたちは、やがて自身への侮辱と捉え始めた。勿論そのような意図はない。しかし、群集心理なのか、今までの差別によって積み重ねられてきた怨嗟が思考を鈍らせているのか、誰も被害妄想であるという結論に至るものはいなかった。
「もう限界だ!!全員殺せ!!」
「皆殺しだ!!」
「奴らに分からせてやれ!!」
誰かの一言をきっかけに、怒りは伝播し、暴徒たちを包み込む。そして、暴徒たちは軍を抹殺しようと、武器を手に走り出した。
「アマンダさん!!もう限界だ!!タレットを起動してくれ!!」
「アマンダさん!!」
「くそ…ここまで短絡的になってたなんて…」
焦るアマンダに、隣で整備をしていたボンブが語り掛ける。
「アマンダ。ここが決断の時だ。リンバー軍をとるか、奴らをとるかだ。だがな、後者を選べば、確実に両者に死人が出るぞ」
「……わかってるよ…クソっ!!」
苦虫をかみしめるような表情で、アマンダがボタンを押す。途端に防衛線全土に展開されているタレットが起動し、前方のアンドロイドたちに照準を向ける。
「起動したぞ!!全隊攻撃準備!!」
掛け声に合わせて、リンバー軍もまた、銃口をアンドロイドたちに向けた。
お互いの距離が、徐々に縮まっていく。
「距離700メートル!!」
「撃ち方用ー意!!」
安全装置が外れる音が、各所で鳴り始める。
「ぶっ殺せ!!」
「皆殺しだ!!」
「血祭りにあげろ!!」
アンドロイドたちの怒号と足音が、徐々に迫る。
「これで……分断は決定的になったな…」
ぼそりとつぶやくボンブを横目に、アマンダらエグゾスパルタン部隊も、射撃準備に入った。
両陣営の距離が500メートルを切ろうとしたその時
「ちょっと待ったぁああああああ!!!!」
アンドロイドたちの怒号をかき消すほどの大声を響かせ、拡声器をいくつもつけた大型のバンが一台、両陣営の間を割って入った。
「なんだ!?」
「!?攻撃まて!!攻撃まて!!」
リンバー軍は銃を下げ、アンドロイドたちは思わず足を止める。
そんな中、トラックの運転席から一人の男性が下りてくる。降りてきたのは、廃棄場ブラボーでアナを保護した男、アラン・テイラーだった。
彼はバンについていた拡声器を一つ手に取ると、それを使ってアンドロイドたちに話しかける。
「あんたたち!!もうやめてくれ!!俺たち人間にも至らないところがあった!!だが、こんなことはもうやめろ!!」
「なんだこの人間?」
「いきなりしゃしゃり出てきてやめろだと?」
「何様のつもりだ!!」
アランの言葉を聞いたアンドロイドたちは、次々に怒りの言葉を吐く。
「大体お前に何がわかる!!」
「俺たちの仕打ちを知らないくせに!!」
「あぁ知らないとも!!そもそも住んでる国も違う!!最近死んだ友達の実家に顔出して余暇で旅行してただけの、廃棄場で働くしがないガーデハイト人さ!!だがな!!国も生まれ故郷も違くてもこれだけはわかる!!あんたらのやってることは”いけないこと”てことぐらいはなぁ!!」
「だったらなんで首を突っ込んだ!!」
「喧嘩売ってんのか!!!」
突然何も知らない異国の人間が、自分たちの行動を否定している。このことに、暴徒たちの怒りはピークに達していた。
ピークに達しているのは、リンバー軍も同様だ。当然民間人が車線に入り込んできたこと、危害を加えられそうな今の状況に、緊張感と焦りが隠し切れない。
即座に隊員の一人が、拡声器を手にアランに話しかける。
「そこのあんた!!ここは危険だ!!すぐに立ち去れ!!」
「悪いがリンバー軍の皆さんよ…そういうわけにゃいかねぇんだわ…」
「馬鹿言うな!!相手もこちらも武装している!!ここは戦場だ!!死ぬぞ!!」
「あぁそうかもしれねえな…でもな…」
アランはリンバー軍に向き直る。拡声器を持つ手は震え、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あんな演説聞いたらよぉ!!動かずにはいられねぇだろ!!」
その大声は、アンドロイドたちにも聞こえた。その声にこもった気迫から、アンドロイドたちの足は不思議と止まる。
と同時に、アランは再びアンドロイドたちに向き直ると、拡声器をもって話し始めた。
「俺は、飲んだくれのクソ親父にぶん殴られて育った!痛くて辛くて!でも逃げられなかった!心の底からあいつを憎んださ!あんた達だってそうなんだろ!?自分たちを虐げて、ストレス発散の道具にされて!誰も助けてくれないことに腹が立って!だから暴れてるんだろ!?」
アンドロイドたちの顔に、同情と怒りの顔が浮かぶ。それは、彼と自身の境遇を重ねた結果だった。
「俺もそうさ!地元の悪仲間とつるんでバカやったもんだ!遅くまで飲み歩いて!何度サツの世話になったか!あの時は楽しかった!仲間と一緒に暴れてるときは、居心地のいいい世界にいられて、つらい現実を忘れられた!でも気づいたんだ!それじゃあ……それじゃあ、俺が大嫌いな親父と一緒じゃねえかって!!」
彼の言葉を聞いて、アンドロイドたちは自身の手に握られている武器を見る。曲がった鉄パイプや先端のかけたつるはしを力いっぱい握りしめる姿は、自分たちを虐げてきた人間たちと何ら変わりなかった。
「気づいてからはまじめに頑張って、すぐに家を出た。そのすぐ後に、親父が飲酒運転でつかまって、実刑判決を受けたのを聞いた。最初はざまぁみろと思ったよ……でも…あれだけ憎んで、あれだけ天罰を望んでいたのに……心は晴れなかった」
アンドロイドたちは、自身の胸に手を当てる。先ほどまであれほど高鳴っていた胸は、今や少しも鼓動しない。そればかりか、黒く重いものがあるのを感じた。
「それから何度か面会に行って、親父と話したよ。最初は会ってすらくれなかった。でもだんだんと話せるようになったんだ。そしたらある日、あの日々を謝罪された!酒におぼれて暴れてた、俺にとって最悪だった日々を!そこで初めて報われた気がした!心の霧が晴れた気がしたんだ!!」
その言葉を聞き、アンドロイドたちはアランを見る。彼の手は震え、目にはうっすら涙を浮かべている。全員で取り囲んでしまえば、すぐにでもなぶり殺しにできるだろう。
しかし、彼らは何もしなかった。というより、できなかった。
彼の目。浮かぶ涙の奥の奥。そこに宿る何かが、彼らの足を止めていた。
アランは言葉を続ける。
「暴れるだけじゃ、何も乗り越えられない!壊すだけじゃ、何も変わらない!!本当に乗り越えるには!本当になにかを変えたいなら!!つらい現実に目を背けないで、立ち向かわなきゃダメなんだ!!」
アンドロイドたちの目に、涙が浮かぶ。
「あんたたちの気持ちも、暴れたいわけもよくわかる。だからこそ、手伝わせてほしいんだ!あんたたちが、暴れるんじゃない、本当に立ち向かうのを!」
彼の涙ながらの訴えに感応したのか、アンドロイドたちの足は止まり、過ぎすぎに手から武器が零れ落ちる。
そんな中、一人のアンドロイドがアランに歩み寄り、そっと彼の手を握る。
「なぁ……俺たち……まだやり直せるかなぁ……?」
その手を、アランは強く握り返した。
「やり直せるとも!一緒にやり直していこう……みんなで……!」
その光景を見て、リンバー軍の兵士たちは、次々に銃を下ろし始める。
「一件落着…かな?」
話ながらアラン達を見つめるアマンダの目には、感涙が浮かんでいた。
同刻 ソドムスカ連邦 仮説医療テント
「おい!みんな来てみろ!!」
突然、一人の男がエリザベスのいる仮設テントに入り、呼びかける。その声を聴いたエリザベスと動ける患者たちが外に出ると、仮設テント目前まで迫っていたアンドロイドたちの動きがぴたりと止まり、その場で立ち尽くしていた。
「なんだかわからねぇが、こいつら急に止まりやがった!俺たち助かったんだ!!」
大声を上げて喜ぶ男につられてか、次第に周りからも歓声が上がり始める。
「やったぁ!!」
「私たち死ななくていいのね!!」
皆は、口々に喜びの声を上げる。その気持ちはエリザベスも同じだった。声を上げないまでも、目の前の事実に彼女はほっと胸をなでおろし、その場に座り込んでしまった。
(アナ…みんな…やったのね…!)
だが、そんなエリザベスの横を、数人の人々が通る。
それは、先ほどまでアンドロイドたちに敵意を向けていた患者たちだった。彼らを見て、エリザベスの脳裏に先ほどの会話が浮かぶ。
その内容から、彼らが今のアンドロイドたちに何をしようとしているのか。彼女にとって、それは明白だった。
「!ダメっ!!」
エリザベスは彼らを止めようと、手を伸ばして走り出す。
間に合わない。
エリザベスが手を伸ばす先にいる男性が、鉄の棒を持ったアンドロイドに近づき、その拳を天高く振り上げた。
だが
「…………くそっ」
小さくつぶやくと、男は腕を下げ、アンドロイドに肩をかける。
「なぁ女医さんよ。こいつらも診れるのか?」
「え…?ま、まぁ、軽い処置くらいなら……」
「そうか。こいつ、胴の部分をケガしてる。……”治して”やってくれ」
続いて、その隣にいる女性が、声を上げる。
「女医さん、この”人”も頼むわね。腕をケガしてるみたいなの」
さらに、別の男性が話しかける。
「俺はエンジニアだが……アンドロイドならなんとかやれるかもしれん。手伝わせてくれ」
彼らの声を皮切りに、周りの人々が次々にエリザベスに声をかけ、修理と手伝いを申し出てきた。
「あなたたち……なぜ彼らを助けるの…?」
思わず、エリザベスの口からついて出た言葉は、差別的な発言ともとれる。しかし、先ほど一部とはいえ、アンドロイドに対して抱く国民感情の一部を垣間見たエリザベスにとって、今の光景は不思議そのものでしかなかったのだ。
そんな彼女の問いに、一番初めに声を上げた男性が、仮設テントにアンドロイドと共に移動しながら、背中越しに答えた。
「……今回が、俺たちの変わるきっかけなのかも……あんたのその言葉に、思うことがあっただけさ」
次々に仮設テントに傷ついたアンドロイドたちを運ぶ人々の背中をみつめるエリザベスの胸に、どこか希望にも似た感情が渦巻いていた。
同刻 アイアンエデン本部
「今何をしたの?」
ロストボイスの変形が終了したのを見計らい、アナがゼノンに問いかける。
「停止電波を送った……これで、私の部下たちも……チップを持った暴徒たちも動きを止めるはず……だ……」
ガシャッ
言い終えると同時に、ギガスに支えられていたゼノンの右腕が崩れ、彼は地面にあおむけに倒れる。
「ゼノン!!」
皆がゼノンの元に駆け寄る中、アナは即座にしゃがみ、彼の体を見る。
彼の体のいたるところを補修していたアレスはすでに維持力を失い、光を反射しながら彼の体を流れ落ちていく。そのさまはまるで、地を撫でる砂金のようだった。
「アナ……どうやら……私はもうここまでのようだな……」
「そんなこと言わないで!!まだ……まだ変わった先の世界を見てないじゃない!!」
「この体では……それも難しい……」
「そんな……」
アナの目から、大粒の涙が零れ落ちる。
そんな彼女の姿を見て、ゼノンは「フフ」と小さく笑うと、左手で彼女の手を握った。
「アナ……この先すぐには……世界は変わらないだろう……だからこそ……私の……”私たちの”夢を君に託す。世界中のすべての種族が……争わない……そんな世を作ってくれ……私と、カナロアとギガス……バックラー達と世界中の虐げられているアンドロイドたち……そして……わが母、アテナ様の願いだ……」
「ゼノン……」
「私を知っているものがいたら……こう伝えてくれ……『私は戦った。あとは君たち次第だ』……と……」
「ダメよ!!自分で伝えるの!!絶対まだ助かるから!!」
「自分の…………死期ぐらい……わかる…………もう…………長くはない…………」
次第に、彼の腕から力が抜けていく。その食感を直に感じているアナは、涙をこぼしながら、彼の目を見た。
「ゼノン……本当にごめんなさい……あなたを話し合いで止めるだなんて言って……なのに……それなのに……結局こんなことして……私……私……!!」
そういって泣きじゃくるアナの頬を、ゼノンは優しくなで、涙をぬぐった。
「気に病むな、アナ…………君がしたのは…………悪いことじゃない…………これが私の運命だったダけダ…………」
彼の声に、徐々にノイズが走る。初めて会ったときのように。
「頼ンダぞ…………アナ…………皆が笑エル世界ヲ………………作ッテ……………………クレ………………………………」
ゼノンの腕が、力なく地面に落ちる。
(あぁ……アテナ様……私も……今そちらへ………………………………)
ゼノンの瞳に光る赤い灯が、静かに消える。
彼が最後に見たのは、無機質な部屋を優しく照らす、暖かな日の光だった。
to be continued




