145.手合わせという名の
サージから出発して2日目、真っ暗な闇の中に、焚火の炎が草原の夜風に当てられゆらゆらと揺れている。たきびAMSR……。そんなどうでも良い事を考えつつ、冷たい夜風に小さく「寒っ」と呟いてしまう。
平原は夜になるとかなり冷え込む、食事の邪魔になるので避けておいたブランケットを手に取ると、反対側に座っていたロメーヌも「今日は一段と冷えますねぇー」と言いながらブランケットにくるまる。
「ロメーヌさんは薄着過ぎるんですよ……」
アレイナがジト目でそれを見ていると、すかさずロメーヌがアレイナに抱き着いて「アレイナちゃん、温めて―」と言いながら頬ずりをしている。そんな姿を苦笑いしながら眺めていると、遠くの方で爆炎が上がる。その音に、アレイナとロメーヌ、ルークスが振り返るが、我関せずと寝こけているグレンと、私の横で無言で炎を眺めているリリーちゃん。
ドラゴン連中は何処に行ったかと言うと……再び平原で爆炎が上がる。
「はぁーーー」
っと、深いため息をつくと、ブランケットを置いて立ち上がる。それを見て、リリーちゃんと薪の世話をしていたルークスも立ち上がろうとするが手で制した。
「リリーちゃんとルークスはここに残って皆を守ってあげてください。
後れを取る面子ではありませんが、何が有るかわかりませんから」
そう言うとルークスは嬉しそうに「ハイッ!」と返事をするのに対してリリーちゃんは一瞬、何か言いたそうな顔をするがすぐにキリっとした顔に切り替える。
「……畏まりました。
仕方ありません、夜の平原は雑魚には危険ですから……有難く思えよ雑魚共」
「ヒッ!」
「リリーさん久々に辛辣ぅー」
「リリーちゃん、ほどほどにね……」
「善処します」
ほんとかな……?そう思いつつ、草原の草を食んでいた馬の方に歩み寄ると馬にまたがり、すぐに爆炎の上がった方向へと馬を進ませる。
そうこうしてるうちに3度目の爆炎が上がった。怯えて足を止めてしまった馬をなだめる。今度は先ほどよりも規模がデカく、かなり離れているのにも関わらず小石が飛んできたのを避ける。
あいつらぁーーー!!!若干キレ気味になりつつも、馬を走らせる。
ドラゴン3人組は深夜の平原で絶賛食料調達の最中、ドラゴンと言うのは本当によく食べる。あの体の何処に収まるのか?と、聞きたくなるくらい食べる。
グレンは成長期で食べているのかと思っていたが、どうやらドラゴンは皆よく食べるらしい。本人たちも、人間の身体の方がよく腹が減ると言っていたし、人の姿は魔力維持のせいなのか燃費が悪いという事なのだろう。
どちらにしろ、狩りをするのにあんな爆炎を上げる必要などなかろうに、今頃、平原で野営している冒険者や商人たちは震えあがっているはずだ。焼けこげた臭いと砂埃の匂いが混じっている中に、微かだが肉の焼ける良い香りが混ざる。
再び溜息を吐きたくなるのを何とか抑えて、月明りに照らしだされている人影の元へと馬を進める。一番最初にこちらを振り返ったのはレイテだった。するとすぐさま、他の面子の方を向くと、他の面々もこちらを見る。
動きを止めた彼らの元に馬を寄せると同時に馬から降りると、自分よりもはるかに背丈の高いドラゴン3人を満面の笑みで見つめれば、3人はびくりと肩を揺らしている。
「狩りをしてよいとは言いましたが、爆炎上げる程の強敵がそんなにおりましたか?」
問うように首を傾げれば、いえ、その、あのっと口ごもる3人、唐突にレイテが挙手をする。
「なんですか?」
「はい!あの爆炎は獲物を狩る為の物ではありません。
ソウジュとザイアスがどちらの魔法の方がよりドラゴンノブレスに近い爆炎を上げられるか勝負していました」
「おい貴様!」
「俺を売るなよ相棒!!」
ザイアスとソウジュが慌てる様子を見て、真実であることは間違いないようだ。男とはいくつになっても子供みたいなものだ。と、70代の人生の大先輩マダムが言っていた言葉が頭をよぎる。
どうやらドラゴンも例外ではないらしい。今更ながら彼らの背後に目を向ければ、大量の魔獣がそこかしこに転がっている。こんなにも多くの魔獣が平原にいることも由々しき事態だが、今はそれよりも……。
「事情は分かりました。よほど暇と見える。
せっかくですから、手合わせしましょうか?
そもそも、そう言う約束でついて来てもらったわけですし」
そう言って笑みを浮かべ、指を鳴らしつつ前へと歩み出ると、慌ててソウジュとザイアスが後ろへ下がった。




