144.帝国の捜索部隊
タキナ達がサージから脱出する少し前
帝国領土を守る為の大壁と呼ばれる長い長い灰色の国境壁、その赤黒い大門がゆっくりと開いてく、扉がわずかばかり開いた瞬間に、そこから数十人の騎士が扉が開ききる時間も惜しいと言わんばかりに馬を走らせ平原へ出ると、3~5名程に分かれてそれぞれの方角へと向かっていく。
そんな中、1つの部隊が早々に馬を止めていた。その部隊の頭上を浮かんでいる白い雲が、上空の風によりゆっくりと流されていく、なだらかな丘の上から見下ろした平原には我が物顔でくつろいでいるサーベルウルフが6頭、見下ろしていた1人の騎士は双眼鏡を覗きながらその光景に顔を歪ませていた。
この小部隊の隊長であり帝国騎士の副団長であるオリハイトは、この光景を見て苛立ちを抱えていた。帝国首都から出発してまだ2日しか経っていないこの距離に、それも平原の、真昼間に、身を隠すような場所がないというのに堂々としている。本当に奴らは自分達が知っている魔獣なのかと疑いたくなる。
第一王子であるリンデバルトの命により、黒髪の女であるタキナを帝国に引き入れる為に選ばれた騎士の一行のうちの1チーム、副団長であるオリハイト、部下のデリス、ガリオン、ゾルテ、そして新たに加わったばかりの騎士見習いのルイス、他の部隊を合わせても50人程でこの広大な平原と各国を巡り、たった一人を探さねばならない。
「オリハイト副団長、あのサーベルウルフどうします?」
そう言いながら防具と、腰につけた剣をガチャガチャと騒がしい音を立てながらこの中でも古参のデリスが真横へと馬をつける。デリスは騎士らしからぬ無精ひげの生えた顎を撫でながら、困ったように眉を寄せてサーベルウルフを見つめている。
同じ方向の他チームとは先ほど分かれたばかり、早々に呼び戻すわけにもいかない。オリハイトは苦虫を噛み潰したような顔をすると
「呼び戻すわけにもいくまい。
冒険者連中に連絡しろ、魔獣狩りは奴らの仕事だ」
その言葉を聞くとデリスはポリポリと頭をかく。
「やれやれ、さっそく連絡用の鳥を使わにゃならんとはね」
「帝国の民を危険にさらすわけにはいかない。
冒険者には魔獣を決して帝国に近づけるなと伝えておけ」
「ハイハイ」
デリスがやれやれと言わんばかりの返事をするも、オリハイトは気にもならない様子でサーベルウルフを見つめている。
「ルイス、ちょっといいか」
デリスに呼ばれ、その様子を見守っていたルイスが素早くデリスの元へと馬を寄せる。
「はい!
伝える内容はこちらでよろしいでしょうか?」
「えっ!?おぉーお前凄いなー」
鳥の足に括り付けるための小さな紙には、既にルイスがオリハイトの話を端的にまとめて記入していた。
「ありがとうございます。これも自分の役目ですので」
デリスにそう返しているルイスの姿を見て、後方から溜息を吐いている人物がいる。それを振り返れば
「将来有望だが、頑張りすぎると潰れるぜ」
周囲を警戒しながら双眼鏡で辺りを見回していたガリオンが若干呆れたような顔をしながら、双眼鏡をサイドバッグにしまっている。
「無駄話をしてないでさっさと鳥を飛ばせルイス!
ガリオン、ゾルテ、他はどうだ?」
オリハイトの声にルイスが慌てて馬の後方につけていた鳥かごから、中型の猛禽類を取り出す。そして、ガリオンとゾルテは馬をオリハイトの方へと近づける。
「ここから見える限りの魔獣はあのサーベルウルフだけのようです」
「ゾルテ、上空はどうだ」
「上空にも特にドラゴンなどの気配はありません」
その言葉にデリスが「ふーむ」と声を出す。
「何だデリス?言いたいことがあるなら言え」
オリハイトの言葉にデリスは首をかしげる。
「ドラゴンの目撃例が1週間前から急激に上がっている。
がっ、被害報告はない。ドラゴンの動きが活発になっているのにもかかわらず何故か?……思い当たる理由は一人だが……」
「だがなんだ」
ゾルテがめんどくさそうに言い放つ。
「その張本人に会いに行くと思うと、俺らは果たして五体満足で帰ってこれるのだろうかと思ってなー」
「縁起でもないこというな」
ガリオンは心底嫌そうな声をだし、連絡用の鳥を飛ばしながらルイスは苦笑いした。そして、オリハイトはデリスの言葉を特に咎めることなく、馬を歩かせ始めながら口を開く
「殿下のお考えでは、黒髪の女はこちらが敵対行動をしなければ話を聞く人物だと話しておられた。
殿下の仰る言葉に間違いなど無い。そして、その殿下がその黒髪の女との交渉を望んでおられる。
余計な考えを持たず命令に従え」
そう言い切ると馬を走らせ始めるオリハイトに、皆は返事もする間もなくついていくために馬を走らせ始めた。遅れたルイスに合わせるように、デリスが歩調を合わせる。
「申し訳ありませんデリスさん」
「気にするな……弟と違ってお前は大丈夫だろうが、黒髪の女には決して敵対行動をとるなよ」
「はい。
殿下からの命にもありましたので必ず従います」
「なら安心だ。うちのチーム含めて、今回は殿下の命は忠実に遂行する。
もしくは社交的な面々が選ばれている。
戦争を控えているこの状況で騎士を大量投入するんだ。よっぽどだな」
「よっぽど……とは、次の戦争で黒髪の女が魔獣から救ったミッドラスに加勢する可能性があるからですか?」
「……。
いや、まぁ、一方的にミッドラスを襲ったらそうなるかもな、まぁ、いろんな意味で面倒ごとの種は摘んでおきたいし、戦力は多い方がいいってな、まぁ、頑張れよ新人!」
そう言ってルイスの肩を軽くたたくと、デリスはオリハイトの斜め後方まで馬を進めていってしまった。
デリスさんはいったい何が言いたかったのか、自頭と経験の足りない自分ではその真意が読み取れなかった。黒髪の女、果たして帝国側についてくれるのだろうか?ドラゴノイドが助けを求めるほどの人物で、ミッドラスをも救った英雄、しかしそのミッドラスからも逃亡したと言う。
真意がまるで分らない。
一体何処から来て、何を目的として、何を考えているのか……。頭を振ると、皆から遅れぬようにと馬の速度を上げた。




