141.国を捨てた者5
「あんたはタキナ様を知ってるかい?」
ゴイルの言葉に「黒髪の女の名前」と小さく返せば、ゴイルは腕を組む。
「そうだ。黒髪の女の名前がタキナ様だ。なんでもこの世界に一人しかいない神族っていう種族なんだってよ、強ぇーのも納得だよなー神ってのは、見返りを求めないで困ってる人を助けるんだってよ」
その言葉に思わず何の得もないのに?と驚いたようにゴイルを見る。
「驚くよなー、俺もその話聞いた時はそんなんで腹は膨れねーだろって思ったもんだ。けど、タキナ様はずっとそれを曲げねー。ずっと誰かを助け続けてる。すげーよなー」
ゴイルの言葉が本当なのであれば、サージの民を助けるためにタキナは来たという事なのか……?
「お前、国を捨てて来たって言ってたろ?俺も、世話になってるお頭も、お前さんと似たようなもんさ、戦で国が無くなって、国民が散り散りになってよ奴隷狩りにあってるのに見て見ぬふりして逃げて来た。 挙句、自分達も奴隷狩りに成り下がってたこともあった。
けど、その腐った俺達を叩きなおしてくれたのがタキナ様さ」
目の前のゴイルの話に耳を傾けずにはいられなかった。ゴイルは戦って、そして敗れた結果だ。その兵士が、一般の市民が、国民をどうにかするなんてできるわけでもない。
それでも国を捨て、すべて投げだして逃げて来たと言う言葉に縋りつきたいような気持になった。すると、ゴイルがゴホンっとわざとらしく咳払いをする。
「俺は記憶力が全然ねーんだけどよ、あの時のタキナ様の言葉はしっかりと頭に焼き付いてる。その言葉をアンタにも聞かせてやる。タキナ様はお頭に言ったんだ。
苦しみを乗り越えろとは言わない。存分に泣いて嘆いて、自分を憐れんで落ちるところまで落ちたら、今を変える奇跡を待つな、寝転んでたって奇跡は落ちてこねー。己の足で踏みだせ、その時がきたら!
ってな……なんかちょっと違った気もするが、こんな内容だったのは間違いねー。
あの時、国から逃げてきた奴はタキナ様の言葉に皆泣いてた。今だって、ちっとウルッと来ちまう」
そう言うとゴイルは涙をぬぐっていた。ゴイルの言葉を頭の中で何度も反芻する。
「……ふっ……ハハッハッ……」
泣き笑いとは正にこのことだろう。涙が出ているのに、笑いがこみ上げてくる。
「ナハハッ!わっらっちまう気持ちわかるぜ」
「ハイッ……自分を憐れんで、奇跡を待って……ハハッ」
タキナ様の言っている通りだ。何もない。何もできない。こんなにやってるのに、自分は努力してるのに……。
まるで駄々をこねて道に転がる子供の様じゃないか自分は、思い返せば流されるまま、何かを変えようと自ら動いたのは、王に進言したあの時だけだ。あの時だって、王にもっと強く言えていたら……だからこその反乱軍の対応だろう。今思えば何もかも当然のことだ。
「本当に……私はただ奇跡が落ちてくるのを、なんだかんだと言い訳をして嘆きながらも寝転んで待っていたようなものです……」
その言葉にゴイルがニカリと笑った。




