140.国を捨てた者4
その気遣うような声色に思わず涙があふれてくる。
「おっ、おい大丈夫か?すまない、飯を流し込みすぎた」
慌てる男に違うと言うように首を振る。
「……こんな俺に……優しく接してくださって、ありがとうございます……」
ろくに話していなかったせいで、掠れたような弱々しい声しか出ない。しかし男はしっかりと聞き取れたようでニカッと笑う。
「気にすんな!俺はゴイルってんだ。
昔の俺だったら見て見ぬふりだったろうが、今の俺は変わったんだ!今のこの国なら皆、そうするかもしれねーけどな!お前、見るからに訳ありそうだけど、奴隷ってわけではなさそうだな?
そもそも、奴隷商人はもうこの国には出入りできねーけど」
そう言うと、正面に座ったゴイルは首をかしげながらこちらを見つめてくる。腹が少し満たされたことで、先程よりも体温が上がったのがわかる。
「……主君を捨て……家族を捨て……国を逃げ出した元騎士です……」
食べ終わった椀をゴイルは横に避けると、驚いた様子も軽蔑した様子もなく、世間話でも聞くような様子で「なるほどなー」と頷くと「なんか嫌になる事でもあったのか?」
その言葉に、その言葉から逃げるように膝を抱えてうずくまる。
「よっぽどのことがあったんだ「あぁー!おじさんが誰か虐めてるー!」」
その言葉にゴイルが横を向けば、荷台を覗き込むように獣人の女の子2人が顔を出して、耳を前に後ろにせわしなく動かしている。
「違う違う!身の上話を聞いてただけだ!」
「悪いことすると怖いタキナ様が来るんだよ!」
「悪いことする人にタキナ様は容赦しないってパパが言ってた!」
「それは身をもってよく知ってるっての!だからそんな事はしてねーって!むしろ、腹すかして困ってたから助けてたんだって!」
大の大人のそれも大男が獣人の女児2人に慌てふためくその様子に、助け船を出すべく顔を上げる。
「……この方の言う通り、助けてもらいました。……何も嫌な事はされてません」
「そうなの?」
「ほんとだー、おじさん凄い痩せてる!ちょっと待ってて!」
そう言うと女児の一人が駆けだすと、もう一人も付いていくように走ってそれについて行ってしまった。
「おじさんだってよ、あんちゃん結構若いだろうに、ダハハハッ!まぁ、あんなちびっこからしたらあんちゃんでもおじさんか」
そう言って笑う男に、笑い返す。あの獣人の子供たちはタキナ様と言っていた。サージの牢に入れられてから何度となく聞いた名前、黒髪の女の名前、サージを救うために反乱軍に手を貸したと聞いた気がする。何故、黒髪の女がサージに来たのか何が目的だったのか、何も聞かされてはいない。話していたのかもしれないが、牢にいた時にはもう何もかもどうでも良くなってしまっていて耳に入っていなかった。
「あんたはタキナ様を知ってるかい?」




